2022/12/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にファラさんが現れました。
ファラ > それは女にとって、まさしく、青天の霹靂だった。
主の言いつけで王城へ、城内に暮らす主の甥御への届け物を持参し、
城門を守る衛兵たちに用向きを伝え、主に持たされた身分証明書を提示し、
頭のひとつも下げて城内に入る―――――入れる、筈だったのだが。

『あの女だ、間違いない!
 あの女は人間ではない、我らを惑わす術を使っているぞ!』

詰め所に控えていた黒いローブ姿の男が、節くれ立った指をこちらへ突きつけ、
声高に女を詰り始めた。
単なる人間であると、心から信じ込んでいる女にとっては、
まるで身に覚えのない糾弾である。
けれど兵士たちは色めき立ち、通りすがりの人々もこちらを注視し、
女は棒立ちになって、戸惑う視線をあちらへ、こちらへ。

「あの、……私、違い、ます、人違いです、
 そんな、魔術、だなんて……誤解です、どなたかと、お間違いなのですわ」

震える声で言い募るも、聞く耳を持つ者は現れるか、否か。
兵士たちの手が、女を捕らえる方が先だろうか。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にセリアスさんが現れました。
セリアス > 付き合いも広がっていけば、王城での商機もそれなりに起こるもので。
その日も馴染みとなった王城勤めの貴族相手に取引をして、上々の結果に満足し。

あとは特に予定もなければ、たまの王城を怪しまれない程度に散策して回っていた。
そうして、城門近くまでくれば、聞こえる怒声。

どうやら衛兵の声らしく。
腐敗が進み、まともに仕事をするものも減ったのに珍しい事と思ってみてみれば、
糾弾されているのはどうやらそこに佇む、色気の塊のような侍女を見つければ得心が行った。

確かに、どこか妖しげな雰囲気の女であるが、そのことそのもの、よりも。
侍女程度ならどうにでも誤魔化せると、捕まえてしまって、尋問と称したお楽しみを期待しているのだろう。
実際、彼女はそうやって捉えてしまいたくなるような見目と気配を湛えている。

よくよく見れば、先日取引のあった貴族の邸宅で雇われていた者だと気付き。
声を張り上げる衛兵に聞こえるよう、そちらに歩み寄りながら。

「……ファラさん、少し遅かったのですね。此方ですよ」

頭の隅に残っていた彼女の名を思い起こし、呼びながら。
こちらに来るようにと手招きをし、衛兵たちに牽制するような視線を向けて。

ファラ >  
無骨な兵士の手が、女の肩を掴み寄せようとした、まさにその瞬間。
名を呼ぶ声が聞こえて、女は反射的にそちらを振り返る。
半拍遅れて、女の視線を鷹揚に、兵士たちの顔もそちらへ向かい。

「ぁ、………あ、の、私…――――― 」

明らかに、女は彼の顔を憶えていない。
双眸をまるく見開き、小首を傾げて、逡巡するように口籠もる。
けれどその時、兵士の一人が『どこを見ている』と苛立たしげに問うてきたので、
考えるよりも先に、女は身を翻した。

「も、申し訳、御座いませ、ん…… あの、
 お待たせ、致しました、……… ぇ、と」

相手の名がわからないから、呼び返すことはできなかったが。
兎に角も駆け寄って、息を弾ませ、紅く上気した頬をぎこちなく弛ませて、
ぺこりと頭を下げ、微笑んで、知己であることを装おうと。
背後では兵士たちが、そして、女を糾弾した黒衣の男が、
商人と思しき男の顔を、憎々しげに睨みつけていた。

セリアス > 数度、貴族の邸宅に取引に行ったときに見かけた侍女。
その程度の顔見知りであれば、流石に覚えていないかと思うも、表情には出さず。
慌てたように駆け寄ってきた彼女へ、さも親し気なふうに笑んで見せ。
衛兵には譲らないというよう、彼女の腰元に手を添え、城門から遠ざけるようにその身体を寄せて。

「……セリアス、です。フロンス子爵のところでお見掛けしたことがありまして。
 お困りの用でしたので、差し出口かとは思いましたが……」

衛兵には聞こえないよう、彼女の耳元に唇を寄せて囁きかける。

ちらりと、彼らのほうを見遣り、瞳を細めてみせるのは、どのように映るものか。
兵士と、黒衣の男を交互に見遣り、いっそう親し気に見えるように彼女に笑みかけて見せて。

「お勤めご苦労様ですねぇ? 彼女は私がご案内いたしますから、ご心配なく」

己も、城門を超える際にはきちんと貴族の御用商人である証も見せているから。
少なくとも衛兵のほうは、手出ししてこないだろうけれど。

それでも彼女をなにがしかの目的でかどわかそうというのなら、諦めも悪いかもしれない。
ともあれ、一旦この場を離れようと、彼女を城内にと連れて移動していこうとする。

ファラ >  
間近に駆け寄って見ても、やはり、女の記憶は刺激されない。
名前を知っているのだから、面識が皆無、ということは無さそうだが―――――
そんな女の内心の疑問は、次の瞬間、呆気無く氷解した。

「―――――… ぁ、ああ、そう、そうでしたか…!
 失礼致しました、セリアス様、―――――― えぇ、あ、の、」

主の客人であったのか、と、遅ればせながら。
こちらも小声で、囁くように詫びを口に。

振り返ってみれば、兵士たちも、黒衣の男も、未だこちらを睨んではいる。
しかし、この男はどうやら、ひとかどの人物であるらしく。
それ以上近づいてこようとはしない、ならば女としては、有難く、
救世主の役を果たしてくれた男に、付き従ってゆくだけだ。
口を噤み、控えめな微笑を浮かべたままに。
親しげに女の腰を抱く男と、腰に回された腕を諾として受け容れている女、
二人の関係を邪推する周囲の目が、並んだ背中を追いかけてきていたが―――――。

セリアス > 小声でのやり取りは、二人の間では認識調整と、打ち合わせのようなものだが。
彼女が息を弾ませながら駆け寄った様子も、男がそれを丁寧に招き入れて寄せる様子と。
そうして、すぐ耳元だけで、笑みを見せながらに話す様子と。
周囲から見れば、親し気な雰囲気にも見えてとれるかもしれず。
実際そう見えるように振舞いながら――彼女の纏う、不思議と淫靡な雰囲気に、悪戯心も浮かび。

連れだって城内にと進んでゆきながらに、彼女の腰を抱いた手でそろりと、触れた場所を撫でながら。

衛兵や、黒衣の男はしつこく追い縋ってきそうなほど、視線を向けてくるから。
それを言い訳にしつつ、少し、彼女との時間を得ようとも画策して。

「……慌てる御用でなければ、何処かで時間を潰しましょう。まだ、見られています」

恨みがましい視線と、好奇の視線とに晒されているのは事実だから。
取引相手の貴族に、適当なメイドなら引き込んで構わない、などと冗談めかして与えられた貴賓室にと、
彼女を伴って移動してゆく。

はたして、衛兵たちに捉えられるのと、男に捉えられるのと。
どちらが彼女にとっては幸いとなったかは、わからないまま――……

ファラ >  
渡りに舟、の気持ちで付き従い歩き出したものの。
男の掌が腰の辺りでそろりと蠢けば、ぴくん、と女の肩は跳ねる。
ほんの一瞬、男の不躾を咎めるような眼差しを向けるも、
『見られている』と囁かれれば、はっと気づいて背後を振り返り。

果たして、そこには未だ憎々しげに、こちらを睨み据える男たちの姿。
逃げるように顔を背け、半ば無意識に傍らの男へ、こちらから身を寄せて。

「ご迷惑で、なければ…… はい、お願い、致します」

男の親切を、一瞬でも疑ったことを心の中で詫びながら、
女は男の厚意に甘え、この場から逃げ出すことを第一とする。
―――――そうして逃げ込んだ先が、女にとっての安寧の地と成り得るかは、男の気持ち次第であろう。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からセリアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からファラさんが去りました。