2022/12/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 【お約束待機】
ヴァン > 王城の小礼拝堂。
王侯貴族が利用する荘厳な大礼拝堂とは対照的に、質素な造りの小礼拝堂は使用人や平民身分の者が主に訪れる。
夕方前の礼拝の時間が近いからか、人が集まってきていた。

そんな中、黒い詰襟の上下を来た銀髪オールバックの男が一人。
通行人の邪魔にならぬよう入口付近の壁際に立ち、周囲を見渡して誰かを探しているようだった。
左肩に縫い付けられた紋章と服の素材、そしてなにより腰に打刀を差していることから、貴族階級の軍人にみえる。
他の利用者達は物珍しそうに男を一瞥するが、厄介事を避けるためかすぐに視線を外し、祈りのために長椅子へと向かう。

ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > かすかな騒めき。
いつものそれを耳にしながら、他の同僚とともに礼拝堂にむかう。
伏し目がちの視線が、礼拝堂の入り口に差し掛かって静かに上向く。そこまではいつもの、日常の些細な仕草のはずだった。

────そのまま緩く瞬きを繰り返したろうか。
驚いたような表情を僅かに浮かべ、それらを隠すように小さく面を下げた。
そのままゆるりと進む歩は程なく入り口までたどり着いて。
今はまだ無言のままに頭を垂れる。

ヴァン > 「……やぁ、マーシュ。ただいま」

友人の修道女を見つけ、軽く手を挙げる。
普段この男が名前だけで呼ぶ時は口調にどこか艶めいたものがこもるが、今日は朗らかさすら感じさせる。
近づくと流れるような動きで右の膝を地につけ、右手を胸にあてた。騎士が敬意を示す仕草。
礼拝に来た者達は不思議そうに見遣るのみだが、傍らにいる他の修道女――つまり、マーシュの同僚達は反応が違った。
一般的に人目や上下関係を気にする貴族の、しかも男性が衆人環視の中で膝をつくとは、彼女は一体何をしたのかと表情が物語っている。
修道女たちは一様に二人へ好奇の目を向けるが、礼拝の時間が近づいているので抑えているようだ。
礼拝の準備へとそそくさと移動していく。礼拝が終わった後は質問攻めに遭う事だろう。

男は立ち上がると周囲を見遣る。すぐに礼拝が始まる、という訳ではなさそうだ。今の仕草を説明しようと言葉を紡ぐ。
普段の男とは別人のような姿は、しばらく違和感を与えるだろう。同じに見えるのは声と髪の色、そして聖印くらいか。

「色々と報告したいことはあるが……親父と和解した。君の言葉がなければありえなかったことだ。
今日こんな格好をしているのは、ラインメタルに近しい人達に……俺が王都での窓口になると挨拶してきたんだ。
……本当に、ありがとう。君は恩人だ……たぶん、親父もそう思っている」

マーシュ > 「────、………お帰りなさいませ」

己の呼び名から継承が消えていることに軽く眉を上げるものの、その場でそれについて問うことはない。
声音に篭る色の違いにも何となくは気づいているからだが、それよりも───彼が己の前に跪いたことに少々挙動が固まった。

同僚がそんな己に気が付いて、それから、差し迫った時間との狭間の間で物静かではあるが、様々に揺れているのを空気で察しつつ、けれどひとまずは己を置いていくことを選択したようではなれていくのを視界の端に留めながら。

「…………それは、ようございました。………ですが、その。私は礼にふさわしい人間ではございませんので……」

彼が家族と和解したことについては、純粋に喜ばしい。
目許を和ませ、穏やかな笑みを向けたものの、だからと言って己がああいった礼を受け取る人間にふさわしいとは言えないのだから、と少しだけ困ったような声を上げる。

進言も、ごく当たり前のこととして行っただけなのだから、と首を横に振った。

ヴァン > 謙遜するだろうことは想定していたのか、笑顔で頭を横に振る。

「君はそう言うが……俺の人生の懸案事項の一つが片付いたからね。あれでも物足りないくらいさ」

とはいえ、それが彼女を困らせるのは本末転倒だ。入口側の壁の端、礼拝堂の後部から正面を眺める。
時折遅刻を恐れたのか、入口から慌てて入ってくる人たちがいるので、彼らの邪魔にならぬように。

「君からすると、当たり前のことかもしれないな。ただ、俺にとってはそうではなかった。
……君も知っての通り、俺はどちらかというと天邪鬼というか、頑固者でね。助言を素直に受けられない性質なんだ」

男が助言を素直に受け入れられる関係を築けたことにも感謝をしているようだった。
司祭がまだ来ていないからか、周囲はざわざわとしている。ふと正面から視線を移すと、すぐ近くに告解室があることに気付いた。

マーシュ > 自然と通行人の邪魔にならないように、扉の傍、柱の陰になるような位置で会話が続く。
己一人が侍さずとも、問題はない。
司祭の到着を待って、儀礼の開始は告げられる。

「────私にとっては、それだけでも十分すぎるほどです。」

男が、そんな己に対して、ふざけたように振舞う言葉には眉尻を下げて応じるほかはない。

「それは、……ヴァン様の問題であって。なるべく助言には耳を傾けたほうがよろしいと存じます」

感謝の言葉、とは思うけれど、つい苦言めいたものを交えてしまうのは職掌柄と言えばそうなのかもしれない。

「…どうかなさいましたか?」

相手の視線を追いかけると、信徒席や祭壇を見ているわけではないらしいと気づく。
何が関心をとらえたのか問うように言葉を向けた。

ヴァン > 「耳が痛い話だ……とはいえ、大抵の助言には打算が入っていてね。
マーシュのように、親身に慮って助言をしてくれる人はいなかったんだ」

仲間というか、味方を作るのが苦手なのか、つい苦笑してしまう。
問われると指で告解室を示した。礼拝が近いから当然なのだが、カーテンはかかっておらず、無人の室内が見える。
顎に手を当てて少し考える素振りをして、周囲を見渡すと手を差し出す。先導するように歩き出し、告解室の司祭席へと連れ立って入る。
礼拝参加者からの視線が遮られる場所に入るや否や、女を抱き寄せると、会いたかった、とだけ呟いた。
男といえど、多くの人がいる中で修道女を抱きしめることに抵抗を感じたらしい。自分が良くても彼女に迷惑がかかると考えたのだろう。
女の存在を感じ取るように目を閉じて、手は背中と、腰のやや下あたりに添えられている。

「手紙で書いた通りの格好で出迎えてくれてありがとう。私服もいいけど、マーシュはこの格好が似合う」

柔らかく笑ったのは、日常に戻ってきた実感がわいてきたから。顔を近づけ、唇を軽く重ね、すぐに離す。

「……あまり引き留めるのも悪いか。夕方の礼拝は時間は短いんだっけ。マーシュがお勤めの間、後ろの席で大人しく待っているよ。
それとも……どうせ短時間だから、ここでさぼるかい?」

悪童のように笑って見せる。男としては後者を望んでいるようだったが、同僚と連れ立って礼拝堂に入ってきたことから、
不審がられるのもよくないだろうと考えたようだ。返事を待たずに、礼拝堂後部の長椅子に視線を向けている。
さぼる間に何をするか。先日の会話から、予想はつくだろう。

マーシュ > 「そう……ですか?でも、そのような方もいらっしゃったでしょう」

直近ではないかもしれないが、と思いはするが口にはしない。
それに、彼の職場の上司などは──、彼の味方なのではないかな、とも思うし。

示された先は、当然ながら今は無人の告解室。
それと差し出された手を見比べて、少々ためらってから手を重ねた。
足を踏み入れた司祭席は多少スペースがあるとはいえ、二人も入れば少々手狭だ。
抱き寄せられることに僅かに息をのんだもののそれ以上の抵抗はせずに。

「………それは、まあ仕事の時間ですし」

巻きつくような腕に応じて、ぎこちなく腕を上げると抱きしめ返し。

素早く触れて離れた温もりに、僅かに吐息が跳ねた。
気恥しそうに瞼を伏せて、唇を僅かに戦慄かせ。

「───っ、と、その、さぼりません」

短いとはいえ、礼拝は礼拝。すぐそこで大勢の人がいるし、二人がここに入ったのを見ているものもいるだろう。
流石に看過してもらえるわけではないから、と首を横に振った、が───

「……でも、礼拝の時間が終わりましたら、本日はお暇を戴こうと思います」

己にできる最大の譲歩を紡いで、気恥しそうにしたまま口許を笑みに象り。

ヴァン > 「昔は、な……」

曖昧な微笑み。人と込み入った話をすることを男が避けてきたこともある。

歩く途中、握る手の力を強める。抱き寄せた身体の柔らかさ、布越しに感じる体温。久しぶりの感覚。
さぼらない、という言葉に軽く頷く。

「じゃあ、後ろの座席で待っていよう。礼拝に参加するなんて久しぶりだな……」

およそ神殿騎士とは思えぬ台詞を呟くと、するりと小部屋から抜け出すと最後部の長椅子に収まった。
ぴしっと背筋を伸ばして礼拝を待つ格好だけ見せて、告解室の相手だけに見えるように手を振って見せた。

マーシュ > 「───作ろうと思えばいつだって、いまでも作れます」

己は、彼の過去については少し知っている程度。
深くはしらない、それ故にだからこそ、希望的観測を紡ぐことにしている。

触れあった温もりに、じわり、じくりと感じる熱はあれども──、今は己の責務を果たすべきだと理解している。

素直に己の言に従ってくれるのには、安堵というべきかなんというか、な感情を抱きながら。
今はひとたび、人の波に戻る相手を見送って、それから己もまた、礼拝の列へと加わっていくことだろう───。

ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」からマーシュさんが去りました。