2021/05/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にハイディさんが現れました。
ハイディ > 「――――――あの方です。あの方の後ろに、黒い影が見えるわ」

真っ直ぐに差し伸ばした人差し指の先、寝台に微睡んでいた男は、
事態を察知して蒼褪め、半裸の侭でバルコニーの方へと飛び出した。
昨晩、其の男と熱い一夜を過ごしたのか、其れとも無理矢理手籠めにされたのか、
寝台に残された令嬢は未だ、状況を把握出来ていない様で。

逃げ出した男を追って、数人の衛兵がバルコニーへ向かう。
彼等の上官であるらしき青年貴族が、気遣わしげに己の方を振り返ったが、

「……私は大丈夫、御用はもうお済みでしょう?
 でしたら、私、一人で帰れますわ。
 どうぞ、貴方は貴方の御仕事をなさって」

元通り目を伏せて、首肯とも、辞去の挨拶ともとれる一礼を。
愚図愚図口籠りながらも、部下たちの後について出て行った青年貴族の背を、
見えぬ「目」で一瞥し、溜め息を吐いて廊下へ出た。

一人でも帰れる、と言ったのは嘘ではない。
ただ、仕事が終わったと言って良いものかどうか、未だ、判断がつきかねていた。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にルヴィエラさんが現れました。
ルヴィエラ > (其れが、果たして如何なる正体であったのか
魔物か悪意か、あるいは何らかの呪い、魔力、そう言ったモノの集合体
其れが「影」と言うカタチを為して、娘の盲いた目に映ったのか
いずれにしても、其れは実に有用なる力なのだろう
脅威を察知し、示す事が出来るのならば、引く手数多であろう事は想像に難く無い

王城とは、言うならば悪意の巣窟でもある
様々な思惑が交差する中で、人や、人でないモノすらもが暗躍する
安心なぞ出来ようはずもない。 些細な違和を払った所で、根源を絶った訳では無いのだ。

例えば――廊下の向こうから、ゆっくりと歩いて来る一人の姿に
強烈な――暗闇、其の物の気配を感じられる…見えてしまう、事も。)

「―――――………おや、ごきげんよう。」

(互いに、避けては通れぬだろう一本道の廊下で、響く挨拶
誰も違和なぞ持たぬだろう、娘以外は)。

ハイディ > 窓というものが無い所為か、此の時刻、廊下に出た方がひどく暗い。
盲いた目には何の関係も無いことだが、だからこそ感じるものもある。

昼下がりの公園を歩いていて、不意に頭上へ雲が差し掛かった様な。
通り雨の予感、此の場合はつまり、不意に暗がりの中へ飛び込んでしまった様な、
声を掛けられるより幾許か早く、反射めいて視線を向けてしまったのは、
果たして、得策と言えただろうか。

「――――御機嫌よう、……」

無難な挨拶を口にしたつもりだったが、恐らく、少しばかり間が空いていただろう。
振り返った時には眸を開いていた、瞳に相手の姿が映り込んでいた。
直ぐに目を伏せ、緩く頭を垂れたけれども、蒼褪めた面を隠し切れたかどうか。

先刻まで引き連れていた衛兵たちも居ない、其の上官たる貴族の姿も無い。
ならば、此処は遣り過ごすより無いだろう、と、見えるだけの小娘に過ぎない己は考える。
相手の行く手を塞がぬ様、一歩、廊下の端に寄って、通り過ぎるのを待とうと。

ルヴィエラ > (目に見えた、察知出来た忠告に従い全ての人員を遣った事で
辺りを包むのは、王城らしからぬ静寂。
目を伏せた娘が挨拶を返すなら、柔和な微笑が向けられ
人影が、ゆっくりと娘に近づき、道を開けた其の目前へと差し掛かる
――其の儘、通り過ぎたなら、娘にとっては何よりの僥倖であったろう
されど緊張の中、不意に気配は娘の目前で立ち止まった

ゆるり、影が、暗闇が、そう言った本質でしか表現し得ないモノが、動く
伏せた娘の其の頭上から、其の姿を暫し眺めた後、ふ、と微笑が微かに零れ。)

「―――――――……見えているね?」

(――その、一言が零れたと同時。
娘の修道服、其の裾から内へと入り込む、何かの気配が
両脚を這い上がり、胎へと触れて――其の身に、ずるりと、這入り込む
一瞬の出来事に過ぎぬ、されど、娘にしてみれば、何かをされた、其れだけは確か
下手に助けを呼び、暴れ騒ぐという手に打って出るよりも前に
其れを、防がれたのだろう、と言う事を。)

「――――――……少し、共に散歩でも如何かな?
何、命を脅かしたりはしない。 ―――余り、騒いで欲しくないだけでね。」

(此処は王城の中――迂闊な事なぞ出来はしないのは、お互いに。
その背中に、振れる掌の感触は、移動を促す――出て来たばかりの部屋の中へ
否――本質はきっと違う。 盲いた其の瞳には見えている筈だ
入口であるはずの場所へと開く、影のような裂け目が)。

ハイディ > 瞼を伏せて、視覚から齎される情報の全てを遮断する。
此れ以上見てはならないと思った、見ればどうしても反応してしまう、
見えはしても、抗する術を持たない己には、其れが唯一無二の防御の手。
しかし、果たして、―――――影は、目の前で立ち止まる。
息詰まる沈黙の時間は、恐らくほんの数秒であったのだろうが。

「ぁ、――――――ぁ、っ………!」

反射的に頭を振った、其れは彼の言葉に対する否定というより、
不意にからだのずっと奥深く、触れられぬ筈の深みへと、
何かが侵蝕する気配を感じたことへの、無意識の拒絶、怯えの様なもの。

一拍措いて、震える背に触れた彼の掌を、其の提案を、
己は拒むことが出来なかった。
手の届く範囲内に、視線の届く範囲内に、誰の姿も見えないとしても。
声を張り上げたなら、此の窮地を脱することは叶ったと思うのだが、
――――――何故か、声が出ない。唇が、動かなかった。

促されて身体の向きを変えさせられた、其の先に口を開けているのは、
もう、有り触れた居室のひとつなどではなかった。

其処はあまりにも深く昏い、ほんものの闇の淵。
足を踏み入れてしまえば、容易には逃げ出せぬ場所だと悟りながら、
導かれて、柔く背を押されて、一歩、踏み出してしまう。
飾り気の無い靴を履いた、白く小さな足を受け止めるのは、きっともう――――――――。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からルヴィエラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からハイディさんが去りました。