2020/11/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にイヴリールさんが現れました。
■イヴリール >
王城の廊下を白いドレスの少女が歩く
少女…と呼ぶに相応しい華奢な体躯の姫はやや困ったような表情を浮かべている
少女の軽やかな足音にまじり、重苦しい甲冑を着込んだ騎士達の足音が混ざっている
少し"部屋から外出したい"と口にしてみれば、そうやって彼らがついてきた
「……あの」
足を止め、恐る恐ると振り返える
その言葉を口にするだけでも少女にとっては、大きな勇気、大きな試練なのだが
「…お城の中を歩くだけ、なので…その、ついてきていただかなくても…」
折角、あの鳥籠のような部屋から出て自分の足で歩いているのに
ほんの僅かに感じられる自由の欠片が、彼らの重苦しい足音に閉ざされているように感じてしまう
「日が落ちる時間までには、戻りますから」
騎士達はやや困惑と葛藤の表情を見せるものの、そう仰られるならば…と折れてくれた
それくらい、少女がそうやって自分から意思表示をするのは珍しいことだった
■イヴリール >
「ふう……」
ほんの一欠片の勇気を振り絞った
それだけでなんだか疲れたように、階段の手摺に手をあて、項垂れてしまう
彼らも好きこのんでついてきたわけではない
王位継承権もないお飾りの姫など、守るに値しないというのが本音なのだろう
一言、言われただけで引き下がってくれたのはそういうことだ
「たまには、気分転換になるかと思ったのに」
階段から見下ろす王城のエントランス
まだ日の沈む時間でもないそこは、謁見を求める商人や、王城からの依頼を受けた冒険者など
様々な人の姿が見て取れた
あそこまで降りてゆければ、門扉一つを越えるだけで城下へと出ることができる…
そう考えて、小さく頭を振った
そんなことをすれば、自分を子飼いにしている者達からどんな仕打ちを受けるかわからない
■イヴリール >
この城から抜け出そうと思ったこともあった
そうやって働きかけてくれようとした人もいたけれど
結局その一歩を自分自身が踏み出せず、此処に因われることを自ら選んだ
外に出れば自分は"王位継承権を持たない姫"ですらなくなる
餌を貰うことでしか生きてこなかった
飼われる以外の生きる術を知らない少女にはその勇気が持てなかった
そんなうちに、少女には別の首輪がかけられていた
「………」
姫の装いにしては簡素で装飾にもやや欠ける自らの首元へと手をやる
そこに何かがあるわけでもなかった。…見えない首輪は少女の身体の中に在る
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」に弾正さんが現れました。
■弾正 >
「────かくして、籠の鳥は井の中の蛙を知る。天照も、是には笑い種で在ろうよ。」
低い男の声音が、波紋を広げた。
少女の後ろに、其れは佇んでいた。
宵闇の羽織に花咲かせ、悠然と佇む一人の男。
此の国でも見慣れぬ雰囲気で在ろう。
草鞋は音を立てる事は無く、曲がらぬ体幹の優雅さ成れば、男は少女の向こう側を指差した。
「随分と悩んでいるようだね……如何かしたかな?
見ての通り、往来は止まらない。如何にして動こうと、君を気に掛けるものはいない。」
「……先程の兵のように、ね。違うかね?何を躊躇っている?」
唯、問いかける。
何を見て来たのか分からぬ翡翠の双眸が細く、静かに少女を見据えていた。
■イヴリール >
「わっ…」
突然背後から聞こえてきた声に少女は小さな肩を跳ね上げた
慌てた様子の振り返る蒼玉の瞳には驚きと狼狽の色が明らかに見て取れる──
少女からすると見上げるような男性の姿
それも、あまりこのお城の中では見かけないような風貌の…
やや萎縮するように、身を縮めて視線を上向きに見るその姿は怯える小動物もかくやといったもので…
「いえ、あの…悩み……と言いますか……貴方は…?」
歯切れ悪く、言葉にも覇気はなく、声も小さい、少女の弁
言葉を返しつつも男の指差す方へと視線を流せば…続く言葉には少しだけ顔を暗くする
流れる時間、止まらぬ往来、そして誰も自分を気にかける者はいない──
「……生きる価値のない者は、誰かの為に生きるべきだと思いますか?」
ぽつりとそう零していた
なぜ突然現れたこの男性にこんな答えを返してしまったのか、少女には自分でもわかっていなかった
ただ、男の持つ…この国ではあまり見ないその雰囲気に、呑まれてしまっていたのかもしれない…
■弾正 >
往来する人々の中で、唯独り静止する男の姿は何故か異質。
さも、当たり前のように佇む其の姿は別世界に住んだような居住まい。
「弾正(だんじょう)。私のいた世界ではそう呼ばれていた。」
誰と問われれば、素直に答えた。
低い声音に嘘は無く、嫌に耳朶に染みわたる。
まだ日も沈まぬ時間だと言うのに、何故か弾正のいるそこだけは日陰のように暗い。
さながら、日落ちの訪れ。逢魔々刻が、少女の前に忽然と在る。
曖昧な境界に立つ男は、少女の問いかけに苦い笑みを浮かべ、首を振る。
「是は是は……多少の藪蛇は覚悟していたが……私が思うよりも追い詰められていたかな?」
無論、問答を仕掛けたのは己だ。
狼藉者と呼ばれようと、無視されようと、如何様にする権利は彼女には在る。
其れが、"形だけ"の肩書で在ろうと、一声で兵は集うだろう。
だが、如何だ。身の丈を吐かれるとは思いもよらなかった。
いやはや、実に笑い種と言わんばかりに喉はくつくつ、嗤っていた。
「……嗚呼、失礼。君にとっては、真面目な問いだったかね。
如何様に問いかけも応えよう。意味の有無は、己で嚥下し給え。」
問いかけを始めた者の責務。
さて、と一呼吸を置いた。
「君がそう在りたいと思うなら、誰かの為に生きれば良い。
かつて、私も国を治める身。肩身の狭さは理解しよう。
……尤も、一つ訂正するのであれば……。」
一足。逢魔から、男が目前に迫った。
長躯が目の前に立ちふさがり、少女の口元に人差し指を立てる。
「────"価値"を決めつけてはいけない。生きている以上は、気づかぬ内に其の意味が在ると言う事だ。」
静かに、男は囁いた。
胡乱な翡翠が、まさに"品定め"する様に見据えている。
■イヴリール >
「ダン…ジョウ……」
繰り返すように口にする様子は、狭き世界で生きる少女には聞き慣れない名前だということを示す
「…申し遅れました。
私はイヴリール……イヴリール・ヴォン・ラヴァエラ・イ・ソレス・カルネテル
…と、申します」
言葉は小さく、名乗りもまた小さい
カルネテル…という名はこの王国を統べる王家の名
それを名乗るには余りにも少女はおどおどと、覇気も尊厳も感じられない名乗りだ
「ま、真面目、です…」
「……すみません。ずっと、そんなことばかりを考えていて…」
胸元に手を当て、訴えるような表情で問いを返す少女
そんな思いが、男…弾正に声をかけられたことによって溢れ出してしまった
言葉を交わす相手…眼の前の男性が何者であるかなど…この際はどうでも良かったのだろう
なにせ、少女の言葉をまともに聞いてくれる人間などこの城には殆どいなかったのだ
こうやって、時折鳥籠の外へ出て…冒険者の人間などに本当に稀に声をかけられる程度──
「死んでさえいなければ、生きてさえいれば価値が生まれるのなら…」
「(…それでいいのかな)」
自分の選択を、選んだつもりの生き方を認められたようで、少し心が軽くなる…
不安に彩られた少女の表情が少しだけ、軽くなれば、改めて男を見上げるように…
「…あの、それで弾正さんはどうして此処…王城に……お城の人では、ありませんよね…?」
■弾正 >
「私の国では、律を意味する言葉だ。尤も、私は其れと遠くかけ離れた人間でね。
"意味"を求めるので在れば、是ほどの茶番も在るまい。……君と同じく、ね……。」
かくも、男に"弾正"などと言う名は不釣り合いだった。
国を治める事はしても、行動理念は己さえ律する事も出来ぬ欲で在る。
他人の模範など以ての外。到底上に立つ器では無い事を理解した上で、弾正は名乗っている。
其れこそ、形だけの名への当てつけのように、言ってのけた。
「嗚呼……気にしないでくれ給え。唯の、言葉遊びだ。」
言うに事欠いて、そう言ってのけた。
真面目だと言う少女へと、嘲りを重ねていく。
然もありなんと、其の無礼を崩す事は無い。
「然れど、"価値"とは磨いて生まれるものだ。
埃を被ったままでは、玉石の輝きも鈍ると言うもの。」
即ち、停滞に意味は無く、輝かぬ宝に興味は無い。
其れこそ弾正は、呆れたように肩を竦め、少女の問いにふむ、と頷いた。
「謂わば旅人と見て構わないよ。番兵へは……そうだな。
"快く"通してくれたとも。何をしにきた、か。」
言葉の裏には確実な含みが在った。
葉の裏に隠されたのは澱み、滲む、さながら邪気とも言えるもの。
其れを、仮にも一国の君主に述べる意味を知らぬ男では無い。
だからこそ、宣う。欲に従う男は、実に従順に言葉を紡ぐ。
「"価値在るもの"を探しに来た、とでも答えよう。
物か、者か。何で在れ、蒐集が私の趣味で在ってね。
こうして足を向けているのだが……さて、小さな君主よ。」
「君は、私に価値を問うた。君は、己の価値を如何見る?
籠さえ出られぬ臆病者だと、己を嗤うかね?」
■イヴリール >
「………」
自身の名を不釣り合いであると笑いに付す、弾正と名乗る男
そう、まるで茶番。名乗ることが許されるから名乗るだけ、その名は自分にとって意味のないもの──
「国外からの、冒険者の方…でしたか」
その名や装い、雰囲気も含め、異国といった感じの風貌
冒険者であるならば、この王城に理由があれば入ることもできる
そこに不審…というよりも、危機感の薄い少女は違和感を抱くこともなく
「…価値、あるもの…。──あ、その、私は……君主、などでは…」
妾の子である故に王位の継承権を持たない
ただの温情で、王女の末席に座らされているだけの少女はその言葉にも狼狽する
今にも消え入りそうな、そんな雰囲気のままに少女は再び口を静かに開いて
「…驚きました。まるで私の今の居場所を知っているみたい…」
籠の中の鳥は、愛でられることこそが価値
どこか諦めを感じさせる小さな笑みを口元に浮かべ、少女はそう応える
ゆっくりと、自分の首元に手をあてて
「居心地は悪くても、居場所があるなら…と、甘えているんです。
それを失えば、本当に何もなくなってしまうような気がして…」
■弾正 >
「"国外"……外と言う意味では、間違いでは無いだろうね。
此の世に、私の故郷は恐らく無い。異界の者と言えど、此の世界では珍しくも無かろう。」
此処は客人の国。如何なるものも誘われる涅槃の先。
故に、物珍しさだは無いだろう。如何なる経緯で誘われようと、客人で在れば、然もありなん。
己の首筋を軽く撫でれば、弾正は口角を吊り上げた。得も知れぬ、笑い。
「持たざる君主よ。」
か細い声をかき消す低い声。
弾正は"敢えて"、そう呼んでいる。
より、其の滑稽さを際立たせるためか、或いは……──────。
「満足かね?」
唯、一言問うた。
自然と、ゆるりと、談笑のような気軽さで問いかける。
黒髪の向こう側、瞬きもしない翡翠が其の在り様を見定めていた。
■イヴリール >
「異界…──?」
繰り返すように言葉を呟き、はっとしたように大きく眼を開く
冒険者のお話や、部屋の本などで見聞した程度の存在でしかない…
「! まれびと……」
はじめてその目にする存在に、やや胸が高鳴る
この国では珍しくないとは言えど、こうやって眼にし、言葉を交わすともなれば少女にとっては完全に未知の存在だった
けれどそんな僅かな高揚は、すぐに男の低い声に抑えられる
君主の資格など持ち合わせてもいない自分を、あえて男はそう呼ぶ…
「………」
満足か、と男は問いかけた
小さな姫は、一瞬の呆けたような表情の後…見てとれる程に、悲しげな笑みを浮かべた
それは、今にも泣き出しそうな、脆い笑み
「…私は、生きる苦労を知りません」
「衣服にも、食事にも、上等なものを与えられています…」
視線を階下…王城へのエントランスへと向ける
日が落ちかけた今では冒険者や商人の姿もまばらだったが、そんな往来を眺めて
「自分で何もできないくせに、"満足していない"…なんて、ただの我儘です」
■弾正 >
「結構結構。」
其の言葉を否定などしない。
然も其れを認めるように頷いた。
「我儘で十分では無いかな?君は現状に満足等していない。
欲するものは此処に無いと、宣うので在れば、手を伸ばすべきだ。
国、土地、人、物、肩書……。欲するままに求めると良い。其処に立場は関係無い。」
「……其れが人の、在るべき姿。」
我儘で結構。欲界は其処に在り、欲するままに求めんとする。
其処に大小は問わず、有体の聞こえ良く言えば目標とも成り得る。
我慢は体に毒だ、と人は説く。成れば、目の前の男程毒を知らぬ者はおらず。
例え、形だけで在ろうと君主足る女に説く、律の名を持ち、欲に従い続ける男。
仰々しく両腕を広げて見せた。門に憚られし、外の広さを体で表現するように。
「"冒険者"……だったかな?彼等とて、そうであろうに。
地位、名声、宝……己の欲を満たさんとし、危険を冒す。
……そも、斯様な世界に、律を求めるのも難しい話で在ろうに。」
斜陽の国、客人の国。
国を治めたと言う男とはかけ離れた言葉では在ったが、節穴では無い。
欲望渦巻くと言う言葉は、まさに此の国の在り様其の物では無いか。
故に、国と言う体制を保つ為に、縁の下で支える者もいるだろう。
だが、何時まで持つか……弾正には、其れこそ茶番としか思えない。
「持たざる君主。」
ふと、徐に広げた手を彼女へと差し出した。
「さぁ、君は如何するかね?飽く迄、籠に縋るのか。
其れとも、己の欲に従うか……何、許されるとも。
君の行いは、許される。少なくとも……私は許そう。」
其れは、間違いなく甘言で在ろう。
謂わば、毒だ。だが、嘘では無く、選択によっては彼女を"認める"事もしように。
■イヴリール >
欲するならば手を伸ばす
それが人の在るべき姿──
『許される』
再び、胸が高揚する
「私、は──」
ふらりと歩みを一歩前に進め、恐る恐る、差し伸べられたその大きな手へと、自らの小さな手を伸ばして──
「……!」
そしてその指先が振れると、慌ててばっとその手を引いてしまった
「…ありがとう。でも…」
指先が『自由』に触れた瞬間、少女の脳裏に浮かんだのは自分が定刻に戻ると告げた騎士達の姿
もし、自分が部屋に戻らなければ……彼らは王国貴族から罰せられるだろう
「今日のところは鳥籠に帰ります。
…ひとかけら、勇気を頂きました。感謝致します。弾正様」
そういって、少女は精一杯…陰りのない笑みを作った
「…よろしければ、また会って頂けますか…?」
■弾正 >
互いの指先が触れた。
男の指先は、枯れた指先だった。
老人とは違った煤けた指先。但し、焔のように熱を持った朗らかな体温。
「…………」
が、其れもつかの間。
焔に触れた手は、既に退けた。
男は溜息を吐き、首を振った。
「勇気、か。まぁ、君がそう言うので在れば勇気であろうに。」
如何せん、拐した心算では在ったが、"勇気"と来たか。
是は如何せん範疇の外。弾正の表情も、何とも言えず、呆れの色は強い。
「何を気遣う必要が在るのか……鳥籠を作った連中も、欲のままの結果だろうに。」
籠に収まる体の良さを思い知った。
そうで無ければ、持たざる者に成り得まい。
些か、彼女を侮っていたと言えばそうだ。
唯、そう。収穫は在った。期待の外では在ったものの、其の笑顔の意味を心得ていた。
彼女を見下ろす胡乱な翡翠は、心底を見透かす他、仄かな"興味"の色を帯びる。
「さて、そう言われると弱いな。私も大層気まぐれでは在るが……出直す理由は出来た。」
ゆるりと顔を近づける。
枯れた指先が、其の白い頬に触れようとする。
焔の熱が、純白を焼くように絡みつこうとしていた。
「君に興味が出来た。私は蒐集が趣味でね……欲しいと思ったものは、必ず手に入れる。
此の世界でも、変わりない。私の在り様とは、其れだ。……君が期待するように、其の一欠けらに期待しよう。"イヴリール"。」
彼女にしか聞こえないような、底冷えするような囁く声。
一見、甘言と変わらずだが……。
「……段取りは踏むが、私は手順を選ばない。
覚えておき給え……全てが灰と成る前に、在り様を決めて置く事だ。
私の気は、長くは無い。心して置き給え……。」
逢魔々刻から訪れた漆の男。
如何様に邪悪な存在で在るかは、忘れてはいけない。
其の欠片を手放し、鳥籠に戻るか。
其の欠片を育て、欲の侭に外に出るか。
魔に見定められた先もまた、地の獄と知るべきだろう。
実に、愉悦だと男の口角は釣り上がった───────。
■イヴリール >
触れた指先に残る熱を感じながら、笑顔を精一杯に作っていた、けれど
「…え?」
誘われるように手を伸ばしたのは、許されるのだと知ったから
自ら何かを求めてもよいという欲を顕にするのは…少女にとって勇気の要るものだったからだ
鳥籠を作った者達に気遣う必要などはないと男は言う、しかし‥
「……いえ、仕事として仕方なく…という者もいます」
「彼らに迷惑をかけるわけには、いきませんから」
実際のところは、騎士達も少女…イヴリールに対して仕事以上の忠誠心を持ってはいない
ただただ上の命令に従い、こうやって散歩に出る折に監視と警護をしているだけである
もちろん事情を知る以上、その心中には穏やかでない劣情を抱いていないとも限らないが
それを疑うことができないほど、イヴリールの心は従順に仕上げられていた
「え…、あ……あの…?」
顔を近づけられれば一歩後ろに下がろうとし、階段の手摺に背を預けてしまう
指先が頬に触れると、それから逃げるようなことはできず、ただ男を見上げて…
「(…興味……こんな私に?)」
王位を継ぐこともできない、飾りだけの王女
他の王女に比べれば明らかに格としても劣る、娶る意味すらもない自分に、興味があると男は言った
「………」
紡がれる言葉とその声に、身体が自然にぞくりと震える
己の在り方を決めること…それに心せよと言う男の顔は…これまで見た人間の顔の中でも──
「…わ」
「わかり、ました…」
従順を絵に描いたように萎縮する少女は、口をつくようにしてそんな言葉を返してしまう
心を揺さぶられ、自分がどう考えそれを口にしたのかもわかっていなさそうな表情で…ただ、呆気にとられていた
■弾正 >
確かに、返事をした。
口約束だろうと、言の葉には言霊が宿る。
釣り上がった口角は邪気を笑顔に、瞳の興味は未だ失せない。
「其の言葉、期待の外とはしないでくれ給え……。」
聞き届けた以上、忘れはしない。
此処に契りは成された。誰にも聞かれていない。二人だけの秘密。
ゆるりと指先も体も離れ、悠然と少女を見下ろしている。
その佇まいは如何様に変わらず、僅かなそよ風に漆を靡かせる優雅さ其処に在る。
「其れでは、また来るとしよう。……私が渡した欠片が、如何様に育つか……。」
「愉しみだよ。」
其の手に在るのは本当に勇気か。
或いは、其れは──────……。
如何様に転ぼうとも、弾正の興味が有るのは己の欲を満たす事のみ。
気づけば、日も傾いていた。文字通り、逢魔々刻。
斜陽の国に訪れた、曖昧の境界に消えるように。
すれ違うように、弾正も往来に紛れて消えていく。
■イヴリール >
すれ違うように雑踏へと消えていった弾正
手摺にすがるようによろめき、視線だけでその背を追うも、その姿はすぐにわからなくなってしまった
「………」
全て諦めていたはずの少女の心、その檻に亀裂を入れられた
感情も、精神もまだ少し混乱している中で、階段の手摺にしがみつくようにして崩折れた飾りの王女は、しばらくの間、その往来を眺めて
「…許される……本当に…?」
小さく零した自らの言葉
ゆっくりと姿勢をなおして、まだあまりおぼつかない足取りで鳥籠へと帰る、その廊下は…少しだけ、色が違って見えていた
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」から弾正さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からイヴリールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にフォティアさんが現れました。
■フォティア > 夜ともなれば、木枯らしにも近い冷たい風が流れ、頬を撫で過ぎていく。
吹き乱されて流れる髪を指先で押さえ、丁寧に油紙に包んだ数冊の本を胸に抱くようにして抱えた少女は、物慣れなさを滲ませながら王城の正門をくぐり、登城許可を得て広すぎるフロアで困惑して佇んでいた。
「────……えー、と…?」
細っこい指で今来た廊下方面を、指さし確認。
「今来た方向。……で。……お届け先の、図書館は…あ、ちがう。書庫、だっけ?」
いささか自信無げに、首が斜めに傾ぐ。
修復依頼された稀少本を期限通りに仕上げて、届けに来たのだが。
恐縮して迎えをいらないと断ってしまったことに、若干の後悔が胸を過る。
案内板はないものかと、周囲を首を巡らせて見回し、人気のなさに困惑する。
森閑と、静寂に包まれた石造りの王城の廊下。己の足音だけが木霊のように響く。
誰か、この城をよく知る人はいないものかと、銀の髪の少女は薄緑の瞳を周囲へと巡らせた。
城の奥から、かすかな悲鳴のような声が聞こえてきた気がして、ビクっと身体を小さく跳ねさせるが、風の音だったのだろうか?
ともあれ──迷子。
端的に表現すれば、二文字で表せてしまう、少々情けない現状である。
■フォティア > (足音は長い廊下に響き、やがて消えていく──)
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」からフォティアさんが去りました。