2019/09/02 のログ
クロニア > 是もまた指先で掴んで何とか引き抜こうと四苦八苦である。
仕方なし、寝ている状態が悪いのだと今更気がつくと、
ベンチの背もたれに肘をかけて、上半身をむくりと起き上がらせ極普通の座り方へと戻す。

「……ハァ……いい加減、諦めてくれないものかネぇ……。」

父親の事である。
何かある度にこうやって顔を見せに誘うのは本当に止めて欲しい。
貴族として考えれば当たり前の事なのであるが、こちらはその心算はまったくなく、
腹の探りあいの場に引き出され、あわよくば何て事を考えている世界に浸かるのはごめん被りたい。

座りなおしたことで、するりとマッチ箱がポケットより取り出せて、箱から一本だけマッチを取り出すと、側面で擦ってポっと火をともし、
それを咥えている煙草に見える似た何かの先に火を移すと、
マッチを振って火を消して……このマッチをどうするか、燃え消えたマッチをしかめっ面で睨みつけるのだった。

すぅと喉に通るあれの香りとじんわりと生まれ始める高揚感に身を浸しながら。

クロニア > 暫くは吸い続けるが感触か段々と薄くなると舌打ちし、
ベンチから立ち上がると仕方なしに帰宅することにする。

帰宅したら帰宅したで小言が待っているが、腹の探りあいよりは幾分かマシと思えるので、
甘んじてそれを受けようと……。

握り潰すマッチ。
それを捨てる事無く、歩き出すのであった。

ご案内:「王都マグメール 王城:庭園」からクロニアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にマリナさんが現れました。
マリナ > ―――王城で育った少女が王城を出て、かなり経つ。
けれども最近はお仕事として王城に出入りする機会も増え、今宵もそれだった。
人見知りがあり、子供っぽい少女に王侯貴族の駆け引きは難しく、
お知り合いに会っては恥ずかしげに笑いながらおはなしをして、人脈を作る。
その程度ではあるけれど。

アルコールも飲んでいないのに頬が熱くなってきたのは、人が増えてきたせいだろう。
少女は知人と別れたタイミングで広間から続くバルコニーに出て、夜風に当たることにした。
日中は夏の名残を感じることもあるけれど、夜はすっかり秋の気配。
火照った頬も首筋も冷やしてくれて、心地良さそうに唇を笑ませながら空を見上げる。
ちょうど雲間から月が覗いて、その輪郭が輝いて見え。

「わあ…今日は綺麗な夜空ぁ」

嬉しそうに呟く少女の足は柵に近付き、背伸びする。
広さが充分にありながら窮屈に感じる大広間に帰るのが、なんだかとても億劫に感じてしまう。
たぶん自身が感じるよりお疲れモードなんだろう。
大勢の人と接するというのは、気力がすり減る。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にヴィクトールさんが現れました。
ヴィクトール > 戦仕事を終えて、集落に戻ると愛妾のお出迎えがない。
最近は王城へ仕事へ出ることが増えたとは聞いていたが、喜ばしくも寂しいものだ。
貴族や王族と綺羅びやかな場で接するのも、自分達の存在主張にもなるが、彼女に求めた目的はまた別。
副次要素もしっかりと熟している話は、兄の部下から聞いてはいるが……少し不安でもある。
直されて間もない軍服を片手に自室を飛び出すと、王城へたどり着く頃には空は紺色に染まっていた。

「俺からすりゃ、マリナの方が綺麗なモンだけどな?」

不意に彼女の背後から響く声。
相変わらず着ているというよりは、着せられたといえそうなかっちりとした格好。
太い首を覆う立て襟は開かれており、宴も賑わい乱れた空気に乗じて少しは楽な状態になっていた。
間延びした可愛らしい声に挨拶代わりの言葉をかけると、軽く手を振ってご挨拶をしながら傍へと歩み寄る。
そして、ぽふっと柔らかな金糸の上へ掌を下ろすと、あまり髪型が崩れないようにと加減しながら撫でていく。

「そういう格好もまた可愛いな」

夜の宴を彩るドレス姿は普段とは異なる。
前にもみた時は、じっくりと記憶の中に留めるような余裕はなかった。
それもあってか、上から下へ舐めるように視線を這わせた後、ちらりと背後のガラス戸を一瞥する。
こちらへ向かう視線がないのを確かめれば、少しかがんで顔を近づけていく。
白い顔の顎先へ浅黒くなった太い指を引っ掛ければ、軽く上向きに傾けさせての口吻を。
それがさも当たり前のように、薄紅色の唇を奪うだろう。

マリナ > 申し訳ないことに職務放棄さながら、今夜は宴が終わるまでここで過ごしてしまいたい。
なんて思惑が夜空に夢中な背中に映っていたかもしれない。
ぽやぁと見上げていた少女の後ろで聞こえた声に、ぱっと振り向く。

「…ヴィクトール様?」

ここはどこだったっけ。
一瞬呆けてしまうのも無理はない、彼の姿。
一緒に出席することはあるものの、今日はお仕事があるので無理ですと聞いていただけに。
まだぼんやりとした様子の少女の頭にいつもの掌が触れ、ようやく現実なのだと理解したように表情が明るくなってきた。
ここでは誰に褒められても照れて首を振るしかなかったのだけれど、彼に褒められると嬉しい。
苦しくて早く緩めてしまいたいなんて思っていたコルセットも、もうちょっと身に着けていられそう。
『お仕事終わったのですか。お怪我は?』そんな発言が、口づけがなければ少女のくちびるよりこぼれ出たはずなのだけれど――

触れた唇にきょとんとして、外に出てきた時より顔を赤くするも思わず瞼を閉じてしまった。
ここがいつものお部屋であったなら、ついでに抱き着こうとしたりしただろうけれど、さすがに人前でそういったことはできない。

「――――… 今日は…そのお洋服、傷つかないように怪我しないでください」

唇が離れた隙間で、少女はぽつりと囁く。
以前格好良いと騒いだのに、それどころではなくなった騒ぎを思い出してしまった。