2019/08/17 のログ
ご案内:「中庭(桃園)」にベルモットさんが現れました。
■ベルモット > 魔術研究所。なんて場所に居るのは誰か? 魔術師だ。
魔術研究所。なんて場所に居るのは誰か? 研究者だ。
ある者は書を開いてああでもないこうでもないと首を捻り、
ある者は怪し気な魔導機械の前でああでもないこうでもないと首を捻っている。
皆、己の目指すものの為に研鑽を堆くする勤勉なる者だ。
「づがれだ……」
──つまり、己の目指すもの以外はどうでもいい者達だ。
例えば実験に使う機材や備品の在庫の数であるとか、お腹が減った時に食べるおやつの備蓄であるとか、
気付いた者が対処すれば宜しかろう。はたまた最後の一つを引いた者が補充すれば宜しかろう。
とでも思うのかとかく無頓着だ。
いえ、実際は違うのかもしれないけど、久しぶりに王城を訪れたあたしを見るやに
『や、ちょうどいい所に』なんて瞳を輝かせた研究員の事をあたしは忘れないでしょう。
「あたしは納入業者じゃないってのに……まったくもう。ま、必要な事だから仕方ないけど……。
転移魔術とかを何とかこう、上手く設置して稼働させれるようになれば楽になるのかなあ」
備品補充作業を終えたあたしが今居るのは王城内に幾つも設えられた中庭の一つ。
本来ならば真夏の炎天下だろう場所は、しかして真夏ならず穏やかな春の空気に満ち、
彼処に咲き誇るのは時期外れの筈な桃の花だ。何でもシェンヤンでは桃が人気なのだと街中で聞いた憶えがある。
きっと国交を和やかにする為にマグメール側が配慮しただろう事は想像に難くない。
庭園内に置かれた緋毛氈の敷かれた長椅子の上で、独り愚痴を述べたり利便性の口上についての意見を述べながらに
あたしは文化の大きく異なる異国に心を馳せる。
■ベルモット > 「それにしても桃園かあ。何だか素敵ね、こういう場所も。
シェンヤンとの国交に配慮してこういう場所を設えるくらいなんだし、きっと本場の桃園が彼方にはあるのかな?」
シェンヤン。
この国より北方に位置して、その文化形態はこの国とも、あたしの故郷とも異なる。
皇帝が治める帝国であって、仙人と呼ばれる魔術師が跳梁跋扈する不思議の国。
但し、妖怪と呼ばれる怪異も存在する場所であって、決して安全な処では無いのだと物の本には記されている。
「ま、何時か機会があれば訪れる事も……あるかな?……言葉の勉強をしないとだけど。
流石に言葉の壁ばかりは、錬金術じゃあどうしようもないものね」
御行儀悪く長椅子上に横となり、切り取られたような空を見上げると青い空と白い雲が良く視得た。
遮蔽物も無いのに、如何な原理で常春が如き空気を保っているのか気にもなったのだけど。
散々に運搬業者の真似事をした後の身体は休息を求めるもので、春の陽気に誘われるように瞳が閉じかかる。
「ふが……っ。いや、こんなところで寝てたら笑われちゃうわ。
でも何だか丁度いい感じなのよね、この長椅子が……なんていうの?敢えてのこの硬さが余計に眠気を誘うというか
図書館で眠くなる感じに近いというか……よもや何か仕掛けが?」
けれども寸前で理性が踏み止まる。
すっくと立ちあがり屈伸運動で眠気を追い出そうと画策しながらに口が忙しなく動き、
くるりと背面の長椅子に向き直った。そしてしゃがみこんで緋毛氈を試しにと捲ってみるのだけど──
「──あるわけないか」
当然何かがある訳も無かった。
■ベルモット > 暫く桃園を彼方此方と彷徨っていると、何処かで誰かが──というかさっきあたしに声をかけた研究員が名前を呼んでいる事に気付く。
「……む、今度は一体何かしら?ま、いいけど。はいはーい!天才錬金術師のあたしが今行くわー!」
一体何事が出来したものか。判らずとも必要とされた事は解るのだから、あたしは足早に桃園を後にする。
ご案内:「中庭(桃園)」からベルモットさんが去りました。