2019/05/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にキンバリーさんが現れました。
キンバリー > 他の人物は仕事を終える時間、静寂を携えた城内執務室。
文官の制服を纏った小柄な女が、時折眼鏡を上げながら黙々とペンを走らせる音を奏でている。
同室に居た文官らしき人物が机の上を整えて帰り支度を始めているが、そんな事はお構いなしである。

『明日の朝までには出来るだろう?それじゃあ後はよろしく。』

予備役として時折こうして執務を手伝う女は、他の文官からしてみれば所謂使い勝手の良い存在であり…
こうして仕事を押し付けられているのだった。
だからだろう、憎たらしい言葉を発した文官がそそくさと執務室を後にしても、女からのお疲れ様の一言は無い。
代わりに大きな大きな溜息が女から漏れた。

「……今日もまた女の所。昨日も一昨日もその前も同じ匂い。
ずっと気持ち悪い顔で鼻の下を伸ばして、仕事なんてそっちのけ。ああもう本当にうんざり。
なんとかなりませんか、お偉い様。」

部屋に掲げられた数々の肖像画は、歴代の文官の長だろうか。全く見覚え無い人物であるが、
肖像になっておりこうして掲げられているのであれば、間違いなくお偉い様であろう。
眼鏡を下げ、その肖像画を上目で恨めしそうに見ながら愚痴を零す。

そんな非生産的な行為も刹那、再びペンが紙を引っ掻く音が響きだした。
それでもお偉い様に零す愚痴は終っておらず…

何かを書きながら誰も居ない執務室で肖像画とお話をしている小柄な女。
数日後に変な噂になっていそうな案件である。

キンバリー > 何を書いているのか、有体に言えば清書である。
あげられた数々の報告書の読めない字を翻訳し、細かな間違いを添削し、纏める。
時間の限られたお偉い様の読む時間を減らして負担を軽くする作業、と言えば聞えも良く仕事に対する情熱も沸くだろうが、
生憎と予備役(と言う名のアルバイト)である女にそんな情熱は無い。お金さえ貰えれば良いのである。
そしてそれは、時給でなく出来高。机の上に積まれているこの書類が、どれだけ纏められたか。
だから女は只管にペンを走らせる。

カリカリカリカリ…

ペンを握る手に力が入る。
「(明日の朝?冗談じゃない、早く終らせて帰る。ご飯食べて寝る。明日も図書館あるんだから。)」
そんな言葉の断片をぼそぼそと呟きながら、時折肖像画を睨みながら。

ガリガリガリガリ…

音に怒りが乗った。
「(あの野郎、普通これだけ残して帰る?後は宜しく?ふ・ざ・け・る・な。)」
先程の文官を思い出したのか、更にペンに力が篭る。軋むペン先、太くなる文字。

ガリガリ…バキ!

あ、折れた。

「……――――――――――――――――――――……」

女のこの魂の抜けたような顔で分かる事実がある。
ペンが一本しかない。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にステファンさんが現れました。
ステファン > シェンヤンから多くの公主たちがやって来ればそれだけ仕事が増えていく
勤続幾日目だったか、もう数えるのも嫌になってしまっていたが率いる隊の今後の事だとか、
自分に変わる新たな指揮官を招聘するだとか、余分な事を考える暇がないのは精神的には助かっている
そういった面では忙しさに感けていられる時間はありがたいが、何分、王国軍兵士として体力面では
及第点ぎりぎりのラインにいる身としては如何せん体がついてこなくなる
精神的平穏と肉体的平穏、此方を立てればあちらが成り行かず、儘ならない日々であった

体力的に疲弊すれば注意力が散漫となり、今日も昼間、文官達を交えた報告会を行ったが、
彼らの執務室に忘れ物をしてしまい、今更になってそれに気が付き応接室にまでやってきたのである
流石にこの時間であれば残っているものもいないであろう、と扉をノックもせずに開いたのが間違いだった
執務室の中には机に座ったまま、何やら呆然としている小柄な女性の姿が見えて、
状況を飲み込めず唖然としてしまった…その一方で、遅くまで働いている人物が自分以外にもいるのだ、
という事実は幾らか自分にとっての慰めにもなったのだけど…

「職務中に失礼、十八師団『指揮官代理』ステファン・リュングです
 昼間、会合の際に此方に忘れ物をしたのですが………捜索しても構いませんか?」

呆然としている彼女に聞こえるかどうか、定かではないが自分の官姓名を名乗る
扉は開いたままだけれど律儀に扉の前で立ち止まって返事を待つ
注意力散漫なせいか、ノックもせずにドアを開いた非礼を詫びるのをすっかり忘れてしまったけれども

キンバリー > ほんの数分、時が止まった。こんな時色々と考えを巡らせてしまうのは仕方の無い事だろう。

これだけ報告書を残したままどうすれば良いのだろう。
明日は朝から図書館での仕事があるのだし、もう、このまま逃げてしまおうか。
それこそ先程自分を置いて帰ったヤツの机の上に『後は宜しく』とメモを残して…
あ、ペンが折れたのだった…メモなんて残せない…

悔しさとか情けなさとか、色々なものが綯い交ぜになったのか、じわりと涙が浮かんだ。
でも、泣いていても仕事は終らない。帰れない。眠れない。

そんな時、扉の開く音が聞えた。女は眼鏡を上げ、目を擦って涙を拭き、鼻を啜り。
先程のアイツが忘れ物でも取りに来たのだろう、そう思った女は何も無かった様に取り繕い、
さも仕事をしているかのように山になっている報告書に目を向けた。
が、どうやら訪れた人物はアイツでは無かった様子。

「…?」

一時期であろうとも公の仕事をしていた女は、その名を知っていた。
子爵であり指揮官の代理…いや、実質指揮官の様な人物であり、
上からの評判はあまり良くないが下や国民からの評判は良い、そんな人物。
掲げられている知らないお偉い様達ではなく、紛うことなき知っているお偉い様なのである。
慌てて振り向き、その顔を見るや席を立ち、椅子の横で一礼。

「は、はい、お忘れ物ですか?どうぞご遠慮なく。」

彼がその忘れ物を捜し始めるまで直立不動なのは、兵、侍衛をしていた過去があるからであろう。
教え込まれた体質はそうそう抜けるものでは無い様だ。

ステファン > 扉を開けて一瞬、彼女と眼があった際に彼女の目元がキラリと涙に濡れて見えたが気の所為だったろうか?
見間違いだとしたら自分はだいぶ参っているような気もするし、
事実であったなら彼女は遅くまで嫌々仕事をさせられてでもいるのだろうか?

様々な思考が脳裏をよぎるが彼女から許可を貰えば、夜分に申し訳ない、と断りを入れてから室内へ入りドアを閉じ
昼間、文官や部下達と囲んでいた机や椅子の周りを丁寧に忘れ物を捜索しはじめた

「………どうぞ、お仕事を続けてください
 お互い、忙しい身の上のようですが精励しましょう」

自分が探しものを始めるまで姿勢を正す彼女に何かやりにくさを感じてしまう一方、
机仕事を行う事が多い文官にしては何か姿勢が良いと言うか、軍人っぽさを感じぬではない
何と言うか、自分が言うと酷く烏滸がましく感じてしまうのだが、訓練された者の気配を感じる
しゃがみ込み手探りに机の下や椅子の上なんかを探しつつ、視線を向けずに問うてみる

「詮索をするようで大変失礼ですが、元は軍務経験がお有りはございませんか?
 …何と言うか、その…着こなしや姿勢が良いのでもしかして…と思ったのですが……ああ、見つかった」

椅子の下できらり、と光る細工の施されたペンを手に取る
自分が騎士となり、夢であった宮廷詩人の夢を諦めた際、亡くなった兄から皮肉交じりにもらったプレゼントである
あの時は少々、頭にきたがまさか遺品となるとは思わなかった
立ち上がってペンを制服の胸ポケットへと戻すと佇まいと正して彼女に向き合う

キンバリー > お互い忙しいと言われても、彼の仕事と自分の仕事は雲泥の差があり、受けるストレスも全く違う。
そんな彼の言葉に救われたのだろう、また瞳が潤む。
それを隠すように慌てて席に座り、忘れ物を捜す彼を尻目に、人差指でこっそりと溢れた涙を拭いた。

しかし、仕事は出来ない。ペンが無いから。
仕方なく報告書を捲り、難易度の高い、所謂ミミズが這った様な字のものとそうでないものに分け始める。
もし仕事に復帰できるのなら最大限効率良く、そんな配慮なのだろう。
そんな仕分けを行いながら、彼の質問に答える。

「はい。2年程前まで侍衛を。今は予備役です。ですのでリュング様の事は存じ上げております。」

お偉い様との話はやはり緊張するのだろう、当たり障りのない返答、造られる笑顔。
そんな中彼が忘れ物を見つけたようだ。
それを胸に差し、こちらを向いてくる彼…その胸に差されているのは、今、自分が一番求めているものだった。
しかしそれを貸せ、なんて言える立場でもなく。

「…あー…姿勢が良いですか?有難う御座います。」

そんな生返事をしながら、自分が先程折ったペンをこっそりと重ねられた報告書の中に隠そうと。

ステファン > 彼女が瞳を潤ませている事など気がつくこともなく、彼女の仕事の邪魔をしてしまい申し訳なく思う
それでも、捜し物はすぐに見つかったからホッと胸をなでおろした

彼女の返事を聞けばなるほど、と合点がいった
彼女の身のこなしや姿勢の良さは侍衛で培われたものであるらしい
王族、貴人の身辺に付く職種であるから余程、有能なのだろうがどうしてこんな所で机に向かっているのだろう?
続けて、自分を知っている、と聞けば何やら渋い顔を浮かべてみせた

「…名前だけは周知されていますから
 敗残の身でありながら栄誉を賜ったのですから、軍人としても貴族としても失格でしょうね」

作られた彼女の笑顔に此方は渋い顔で肩を竦ませて見せる
上層部や王族、貴族たちの思惑通りとはいえ、子爵となり、代理とは言え一軍を預かるとなると肩身は狭い
自分がそう感じているのだから、周りがどう思っていようと力不足も甚だしい

不平や不満、思いの丈をぶちまけてスッキリしてしまいたいそんな衝動に駆られたが、
予備役で面識もない彼女にそんな事をしたら彼女も困ってしまうだろう
目的は果たしたし、部屋を後にする前に何か気分を少しでも変えようと目線を机の上に向けると、
偶然、彼女が報告書の間にペンを隠す所を見てしまった…見つけてしまった

「よろしければお使いください
 書類仕事にペンがなければ難儀するでしょう。眼前の敵に裸で向かうようなものですから
 代わりと言ってはなんですが、少し資料を拝見させてもらってもよろしいですか?」

胸ポケットへしまったペンを机の上にそっと置く
王侯貴族が贈り物にする筆記用具であるから、見た目はもちろんの事、書き味も良いはずである
彼女の緊張を察してか、見る必要もそれ程ない資料の閲覧を条件に出してみる
交換条件であれば彼女も多少は遠慮控えめに差し出したペンを使えるだろうと

キンバリー > 知っている事を伝えれば、渋い顔をする彼。
凡そ何故、そんな顔をするのかは大体分かる。彼がどういう経緯で今の地位に立ち、周囲からどういう目で見られているのか…
それは城に従事しているものならば大体知っている事実。事実で無い事まで付け加えられている事もある。
その事を彼の口から聞けば、やはり彼の様な立場の人でも、いや、彼の様な立場の人だからこそ、
ストレスを受けているのだろうと感じ。
そんな中、彼が現在の自分の窮地を察し、ペンを机の上に置いた。
渡りに船とはこの事であるが、見れば自分の使っている安物のそれとは違う、手を出しにくい一品。
暫く躊躇をし、困り顔を晒していたが、彼の出してくる交換条件に顔を緩ませる。
そんなあって無いような条件は、単純に自分の事を考えてくれての方便だ。
それを察すれば軽く頭を下げ、彼の差し出してくれたペンを手に取り、報告書の纏めに戻る。

「…お言葉ですが、経緯はどうあれ現在のリュング様はその経緯あってこそだと。
そして現在のリュング様は慕われてらっしゃる。民からも部下からも。上はまあ…この際無しで。
ですので自ら卑下される理由はどこにも存在しません。
――謙遜は決して美徳では御座いませんので、それは本音と解釈致しましたが。」

滑らかな書き心地に押されたのか、口まで滑らかになってしまい、先程の彼の言葉に反論してしまった女。
性格とは難儀なもので、こんな事だから疎まれるのだが…そして本人もそれを知っているのだろう、
その言葉の後にはしまったとばかりに顔を顰め。

「…申し訳御座いません、言い過ぎました…」

小さな小さな謝罪の声が、彼のペンから織り成される音にかき消されていた。

ステファン > はじめの内、困り顔をしていた彼女。此方の提示した交換条件のお陰かどうかは怪しい所に思えたが、
彼女が納得してペンを手に取り、仕事に取り掛かれば自分もくるり、と踵を返して報告書や資料がまとめられた棚の前に
棚から適当なものを1つ手に取れば、その文字と数字の羅列を眼で追っていく

軽やかにペンが走り出し、しばらくすれば彼女の言葉もまた軽やかに
言い返したい事も幾つかあれど、黙って彼女の言葉を聞きつつ資料に目を落とす
初めのうち、渋い顔で彼女の説教のような、反論を耳にしていたが、いつしか口元を緩めて
何やら楽しげな様子で彼女の言葉を聞いていた。身分が高くなると直言してくる者が減ってくるからか、
亡くなった父や兄に叱られているような気分を久方ぶりに味わっているような気分であった

「確かに期待してくれる民や部下を裏切るような事を口にしてしまいましたね、申し訳ない
 けれども、それなら尚の事、民や部下の期待に応えられる優秀な人物が部隊を率いるべきだとも思いませんか?
 私のような若輩者では周囲との軋轢もありますし、寄せられる期待に応えるにも限度がありますから」

自分の力の程は自分が誰よりもよく理解しているつもりである
上層部との折り合いも良いとはいえず、進言も却下されることは多い
それだから不甲斐なく思うことも多々ある

「…結局、また愚痴を零してしまいました
 ですが、少しスッキリしました…久々にお説教されたような気分ですね
 いえ、謝らないでください。むしろ少し楽になりました…失礼ですが、貴官のお名前をお伺いしても?」

走るペンに乗せられてか、それでも臆すること無く自分に意見してくる彼女に興味が湧いたらしい
名前を訪ねつつ、書類仕事も熟せ、元侍衛とも慣れば手元に置いておきたい、なんて欲も少しあったかもしれない
なんせ、自分の部隊は前評判や噂もあって士官の絶対数が足りていないのだから