2018/11/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 貴族時代の知り合いに会う為、登城してきたが、どうやら今日に限って彼が急用で、王都に居ないとの事だった。
屋敷は勝手に使っていいから、偶には貴族気分を満喫するが良いとの置き手紙があったので、ありがたく王城の中で1日過ごすことにした。

そんな訳で、城に行く度に行っている、花が咲き乱れる庭園のテラスで一人、本を読んでいる。
今日の本は、割とピュアな恋愛小説だ。
表紙も花と蔦で縁取られた可愛らしいもので、女向けのデザインだが、しかしそれにかまう様子もなく。

「……」

大衆向けで、描写は然程緻密でもないが、解りやすいストーリーラインで話も面白い。貴族と平民の恋愛を書いた、ラブロマンスだ。貴族の青年がやや不良じみてるのもあって、感情移入がしやすいのも良い。

「とはいえ、俺にこんな恋愛はなあ……」

ため息をつきつつ、ページを進めていく。

ご案内:「王都マグメール 王城」にエフルさんが現れました。
エフル > テラスをトコトコと足早に横切る、いつぞやあなたの訪れたカフェの制服を着、その上から薄手のコートを羽織った少女。
そんな少女があなたの前を通り過ぎ、それから後ろ歩きで数歩戻ってあなたを二度見して。

「あれ? クレスさん……?」

ことりと首を傾げて、読書に没頭する青年に恐る恐る声を掛けてみる。

クレス・ローベルク > 声を掛けられると、あれ?とそちらを見た。
ぱちぱちと目を瞬かせると、首を少し傾げ、

「あれ、エフルちゃん?何でこんな所に居るの。此処、王城だよ?え、幾ら何でもカフェと勘違いしたとか、そんなんじゃないよね?」

流石にそれは冗談の類だが、思わぬ場所での思わぬ出会いだ。
困惑の表情で、エフルを見る。

エフル > 「ちーがーいーまーすぅっ!」

あなたの驚いた顔と、あんまりな冗談に頬をぷぅっと膨らませる少女。
店の名前が書かれたバスケットを掲げ、くるっと回してあなたにその中が空なのを見せる。

「今日はお貴族さまに宅配だったんです。たまには下々の下賤な軽食も味わい深いーとか」

べーだ、と来た方向に舌を出して、不敬罪一歩手前の威嚇をして。
それからあなたの隣にすとんと腰を下ろす。

「でもクレスさんに会えて嬉しいです。
 なんとなく配達担当に立候補したんですけど。えへへ、役得でしたっ」

にこにこと笑顔であなたとの再会を喜びながら、少女は脚をぷらぷらと揺らしている。

「ところで何を読んでるんですか? また魔法のお勉強です?」

不意にあなたの手の中の本を覗き込み、それから視線だけを動かして流し読み。

「……あっ、これちょっと前に流行ったやつですよね! わたしも読んでました!
 この主人公がクレ……んんっ、かっこいいんですよね。すごく面白くって、夜更かしして一気読みしたんですよー」

クレス・ローベルク > 「あはは、ごめんごめん。でも、成程ね。確かにあそこのカフェのご飯美味しいもんねえ。……エロ貴族に連れ込まれたとかじゃなくてよかった」

最後は聞こえないように口の中で呟きつつ、笑顔で謝罪する。
隣に座ってきた彼女のスペースを開けるために少し逆方向によりつつ、本を覗き込んできた彼女に本の内容が見えるようにする。

「いや、今回は遊び。仕事ばっかじゃ息詰まるし……ってお、君もこれ読んだのか。俺も読み終わって、今は再読の途中だよ。でも、格好いいかなあ。確かに戦闘描写は結構強いんだけど」

奴隷狩りに参加してたり、悪事に手を染めていたとは言え、他の貴族を容赦なく陥れたり、結構残酷な事もしている主人公だ。勿論、陰のある主人公は人気が高いのも解るが、実際にやっている自分からすると、どうにも同族嫌悪の方が強く出てしまう。

「それよりも、このヒロインの子の方が俺は好きだなあ。可愛いのもそうなんだけど、健気で、感情豊かで、でも芯があって。うん、ちょっと君を思い出したかな」

自分に似てる、という言葉が聞こえたわけではないが、ただなんとなく。性格の描写などが、エフルに似ていたりしたので、そんな事を言ってみる。

エフル > 「ふふん、マスターに伝えておきますねっ」

職場のことを褒められれば、我が事のように頬を染めて喜びながらきゅっと拳を握る。
あなたの空けてくれたせっかくのスペースだというのに、少女はあえて肩が触れ合いそうなほど詰めて座った。

「へーっ。剣闘士さんだからもっと遊ぶなら狩りに行くぞーっ、とかそういう感じかなあって思ってました。
 えーっ、格好いいですよ。悪い貴族ですけど、ヒロインに会ってからは悪事もヒロインのため、って感じじゃないですかぁ」

あんなふうに想ってもらえるの、憧れるなー。
少女はそんなふうに呟きながら、主人公のかっこいいところを挙げていく。
終盤、今までの悪事が伏線になっててなりふり構わずヒロインを助ける為に必死で頑張るところがいいんじゃないですか、と。
架空のキャラクターに憧れるさまは、少女の素性を知るあなたから見ればあるいは不思議な光景かも知れない。

「えっ!? ……そ、そんなことないですよ。わたしかわいくないですし、健気でもないですし。
 感情……はちょっと豊かかも知れませんけど、あんなに気丈でもないですもん!」

ひゃーっ、と顔を真赤にして首をぶんぶんと横に振る少女。
あなたに似ている、と評した主人公と結ばれるヒロインが自分に似ている、なんて。
小説の場面になぞらえた妄想が炸裂して、思わぬ恥ずかしさに顔を両手で覆い隠す。

クレス・ローベルク > 「ああそうしてくれ……っておっと」

まさか、詰めて座るとは思っていなかったのか、ちょっと驚いて。
文字通り距離感が近い子だなあ。でも、自分が望んだ性格なんだとしたら、これもそうなのか、ともしかしたら自分の理想を反映しているかも知れない彼女に複雑な思いをいだきつつ。

「君の中の剣闘士のイメージ、結構な狂戦士だね!?そういう人も居ないではないけど、大抵酒か賭博だよ。……まあ、確かに、そういう所は認めてやらんでもないけど」

確かに、ヒロインの娘に出会った後、彼は少なくとも自分ひとりのために悪事はしなくなってはいるし、寧ろヒロインを助けた事が結果的に民衆のためになっているというストーリーラインでもあるのだけれど。

「でも、信じてくれる娘の信頼を裏切ってるのは、ちょっと俺は頂けないかな。せめてちゃんと身を引いて、真っ当な人に任せるべきだろうに。ってええ?そう?前に添い寝までしてくれてたじゃん。ただのお客さんである俺にそこまで出来るんだったら、十分健気じゃない?」

彼は、確かにエフルのことを「自分の理想の女性になる」という事を知ってはいるが、しかし彼女が自分のことを懸想してくれているとまでは気付いては居ない。
単に「子供の頃に、自分の味方になってくれる存在」として顕現したのだと思っている。
今の彼女の思いが、"人"としてのそれなのか、"餌"としてのそれなのかは、恐らく本人しか預かり知らぬ事なのだろうが。

エフル > 「観に行った人からお話聞いてると大体の人はふんがーって感じの狂戦士じゃないですかー。
 クレスさんはそんな戦い方じゃないって聞きましたけど……」

あなたの特徴的な戦闘スタイルには言及せず、もごもごと言葉を濁す少女。
距離感の近さを気にする様子もなく、あなたが嫌がらないのであればそのまま密着して文章を指差す。

「……でもあのラストだったら、きっと主人公はもう悪いことをしないと思います。
 ヒロインが側にいるんですもん、だから幸せになるんですよっ!
 何より、これってお話ですし! わざわざ悪い想像しないでも、ヒロインと主人公が幸せだなって思えてたらそれでいいんですっ」

胸を張って、それからあなたの爆弾発言に沈黙する。

「……そ、添い寝だってクレスさんが言い出したことですし、ただのお客さんにはしませんもん……」

ぶつぶつと口内で呟き、あなたの腕にきゅっとしがみ付く。
それから、袖に顔を埋めるように寄せて表情を隠しながら、

「あんなこと、好きな人にしかしません……」

緊張に震え、今にも掻き消えそうな蚊の鳴くような声で告げる。

クレス・ローベルク > 「そりゃそうだけど、常時ふんがーな訳でもないからなあ……。まあ、俺はほら。色々な意味で、観客のニーズを計算した結果というか……っていうかちょっと待って。俺の戦い方について聞いたの!?物理戦闘の方だけだよね!?」

もう一つのスタイルについて知られたら、罪悪感で死ぬかも知れない。焦った表情で、エフルを問いただす。その後、今度は指さされた文章を読み、

「うん、まあ確かにお話なんだけどね。色々とこいつと自分の立場が似ててねえ……。俺も人に胸を張れるような事だけしている訳ではないし……って」

ただのお客さんにはしないという発言を聞いて、驚く。
そして、腕にしがみつき、袖に顔を埋められると、尚更狼狽する。

「俺が……好き……?」

驚いた表情で、彼女のつむじを見る。
勿論そこから表情を読み取ることはできない。しかし、それでも少女の決意はわかったようで

「……エフル。俺は、正直、君が思っているほど、良い人間じゃない。闘技場では奴隷を痛めつけて、犯すし、ミレー族の奴隷狩りにも、加担している。剣闘士って言うけど、俺は闘技場の戦士だ。……物語のように、改心する事は、できない」

腕は貸しているが、エフルの肩を抱いたりする事はなく。
寧ろ、言い聞かせるように、彼女に言う。

「君は、良い子だ。俺みたいな奴と一緒になったら、きっと不幸になるよ。だから……。だから……俺は君と一緒には、なれないよ」

最後、だからを二度言ったのは、躊躇と未練。
それでも、クレスははっきりと言った。
もし、彼女が本当に自分の思いから産まれたのなら。
だからこそ、彼女をこれ以上、自分みたいな人間に付き合わせるわけにはいかない、と。