2018/10/23 のログ
ご案内:「王都マグメール王城 地下尋問室」にラキアさんが現れました。
■ラキア > 外の喧騒も夜会の賑わいも、月明かりすら届かぬ地下の石造りの部屋。
魔族の疑いあり、として己が捕縛されたのは、未だ日の高い頃であったと思う。
襟ぐりの深くあいた、踝まで隠れる長さの粗末なローブ一枚の姿で後ろ手に縄を打たれ、
黒い布で目隠しを施されて、天井から下がる太い鎖に繋がれた己の背には小さな蝙蝠羽根が萎れ、
細い尾が尾てい骨辺りから左腿へ螺旋に絡みついている。
誰が見ても明らかに、人ならざるもの、の外見を晒している己に対し、
もはや尋問も拷問も必要無い、と、真っ当な人間なら言うだろう。
けれど残念ながら、己を捕らえたのは真っ当な人間ではなかった様子。
どんな目に遭わされるのか、何を喋れば良いのか、何も分からない己は、
ただ、目隠しに覆われた暗闇の中、ぎこちなく首を巡らせては、
心細さに啜り泣くことしか出来ずにいた。
「おね、が…い、しま、す……誰か、だれ、か、いません、か……。
こ、こ、寒い、です……や、です、……腕、痛いです、ぅ……」
ご案内:「王都マグメール王城 地下尋問室」にブレイドさんが現れました。
■ブレイド > カツン…と、石の上を歩く音。
正確には石段を下る音。
部屋の外であっても、静かな地下ではその音は響く。
その音の主は、黒い鎧をまとった少年。鎧には第五師団の紋章。
なぜここに現れたかと言えば…ようは小間使いのようなものである。
何でも昼間に魔族を捕らえたが、夜は夜会だの何だのでその人物は忙しいらしく
自分はその見張りを頼まれたのだ。
見回り、夜会、警備、などで普通の兵士が捕まらなかったのだろう。
師団の中でも客分、冒険者でもある自分にお鉢が回ったのだった。
「…魔族、ねぇ…」
扉の中には入らず、見張りとして配置につく。
地下はジメジメしていて薄暗く、正直暇ではあるのだが…。
■ラキア > ―――靴音が聞こえた、気がした。
寂しい、心細い、と嘆き続けた結果の幻聴だろうか―――否。
確かに誰かの気配が近づいている、それはもうきっと、
扉一枚隔てた直ぐ向こう側まで。
虜囚にまともな思考を巡らす頭があれば、尋問されると怯えるところかも知れない。
けれど己には、ただ、―――誰かが来てくれた、というだけのこと。
だからこそ、扉の向こうからこちらへは来てくれないことが、不満で仕方ない。
相手が誰なのか、どんな人間なのか、何も考えずに声をかけてしまう。
「ねぇ、……そこに、いるんでしょ、う……?
寒いの、ラキア、寒くて、寒くて……おかしく、なりそう、なの……。
ねぇ……こっちに、来て、……お願い……」
語尾に小さく、嗚咽が混じった。
■ブレイド > 「んえ?」
少女の声が聞こえた。
扉の奥…話では魔族と聞いたが、女の魔族であったか。
むろん、囚われの魔族が呼んでいるのだから怪しくはある。
胸を刺激するような少女の嗚咽も作ったものかもしれない。
そう考えれば不用意応えることはできるわけもないのだが…。
「あんたが捕まった魔族ってやつか…お気の毒だな。
オレは見張りを頼まれててよ、滅多なことはできねぇんだ」
覗き窓でもあるのだろうか?
扉の方に振り返りつつ、返事はする。
中も覗けるのならば覗くだろうが…。
■ラキア > 壁も天井も床も、冷たく分厚い石造り。
かたい金属製の扉は本来防音性も高い筈だが、大人の目の高さにあいた小窓が、
辛うじて、互いの声を、物音を届けているらしい。
疑われるとか、警戒されるとか、そんなことを考えもしないまま。
返ってきた声の、その中身を子供の頭が噛み砕くまで、暫し、間が空いた。
「みは、り……ラキア、なんにも、してない、よ……?
ねぇ……お願い、ここ、暗いの……暗くて、寒くて、
………寂しい、よぅ………」
結局、理解は出来なかった様子。
わがままな子供そのものの物言いで、もっと近くに、と訴える。
小窓から相手が中を覗くなら、縛られ吊るされた小柄な女が、
幼子のようにしゃくりあげる様が見て取れた、かと。
■ブレイド > 小窓から中を覗けば、目に入るのは…
灯りも殆ど見られない部屋の中、吊るされたその姿。
子供のように泣きじゃくる姿はまるで害意を感じない。
目隠しをされて、拘束されて…
吊るされた体は、その細腕や肩には大きな負担になるだろう。
「あー…くそ……
んじゃ、中に入ればいいのか?
外に出してやることはできねぇけど…」
依頼主の誤算は少年の甘さ…というか、種族に対しての嫌悪感の無さだろう。
自身がミレーであるだけあって、どうもこの国の差別基準は気に入らないのだ。
だから、魔族と伝えられた少女にも同情の念が湧く。
持たされた鍵で扉を開けて、恐る恐ると中にはいってみるのだった。
■ラキア > 己の身体を吊るす鎖の長さは、己が四肢を伸ばして立って、
やっと足の裏がつく程度に調節されている。
少しでもふらつけば彼方此方に負担がかかるだろうし、
そうなればきっと、己はもっと泣いてしまうだろう。
けれどそんな危惧も己の頭には無く、ただ、寂しさを埋めたい一心で、
見えているかどうかも分からないのに、こくこくと頷いてみせた。
「うん、……うん、傍に、居て……?
ラキアの、傍に、来て、……寂しいの、やだぁ……」
ひ、っく。
そこでまた、小さくしゃくり上げる。
施錠の解ける音、扉の開く音―――そして、彼が部屋に入れば。
彼がもしも、そうしたものに敏感な性質であるなら、
不自然な程に甘い、蠱惑的な香りが、室内に漂っていると気づくかも知れない。
あるいは、その香りの源が、己自身であることさえも。
「……あり、がとぉ……ねぇ、こっちに、来て?
ラキアと、もっと、お話、しよ……?」
あくまでも無邪気に、己はそんな言葉で相手を誘う。
そこに他意は無いけれど―――。
■ブレイド > むずがるようにしゃくりあげる少女。
その声だけを聞けば、まるで幼い…それこそ童女のようだ。
声の調子だけで判断するのは良くはない。それはわかる。
だが、それを放って置くことはできなかった。
鎖の長さも、だいぶいやらしいものだ。
まったく、捕らえた人間の正確の悪さが伺える。
「わーったから、泣くなよ。
えーっと、傍にいりゃいいんだな?」
部屋に踏み込む。
そこで感じた違和感。それは香り。
甘い…強いて言うならばそう、少女の香り。
思わず頬を赤らめてしまうほどに。
「お、おう。あー…目隠しされてんのか
鎖も…辛くねーか?
てか、お前何したんだ?」
先程は何もしていないと言っていたが…厳重な様子に少し気になってしまう。
■ラキア > 己には知る由もないことであるが、猿轡をされていないのも、
悲鳴や泣き声が聞きたい、という、下衆な意図があってのこと。
勿論、何かしてしまった後の魔族なら、そんな扱いも当然かも知れないが。
「ふ、ぅ……だって、寂しかった、んだもの……。
暗くて、寒くて、静かで……怖かったん、だもの。
―――腕、痛い、けど……でも、それより、冷たく、て」
己が振り撒く香りに、己自身は気づかない。
気づかないままに、相手が男性であるというだけで、
その香りは更に甘く、濃厚に漂い始める。
自由の利かない身体を、わずかにくねらせた拍子、
―――じわ、と身体の奥深く、熾火のような熱が灯るのも無意識のうちに。
かくん、と子供じみた仕草で首を傾げる。
「ラキア、なんにも、してない、わ……?」
■ブレイド > 覗き窓から彼女を眺め、攻め立て、泣き声や悲鳴を聞くのであれば
この状況はとても適しているだろう。
無論、男たちに弄ばせその様子を眺めたり聴くにも。
少し顔をしかめつつ、彼女を捕らえた人間に苛立ちをつのらせつつも
吊るされた彼女に歩み寄る。
「ほんとに何もしてねーのかよ…。
まぁ、なにかしてるとかはあんまカンケーなかったかもな。
それこそ気の毒なこった」
少し強くなった香り。
彼女のこの香りが魔族たる証左なのだろうか?
男を狂わせる…と言うにはまだほんのり薄いが、それでも鼓動が早くなる。
「で、冷たいって…そうだな…
あんたも災難でこうなってるんだってなら邪険にする必要もねぇし。
ラキア、でいいのか?えーと…そうだな」
冷たいと聞けば、少し悩んだ挙げ句にガントレットを外し、少女の頬に触れてみる。
腕に触れると、体勢を崩したときに負荷がかかりそうだったから。
■ラキア > 理不尽なことだと憤るだけの頭も、残念ながら己は持ち合わせていない。
己にあるのはもっと単純な、それこそ幼子のような感情ばかり。
誰も居ないから寂しい、目隠しをされているから暗い、
薄着で暖炉ひとつ無い場所に放り出されているから、寒い。
そして今、名前も顔も知らぬ相手であっても、人が傍に来てくれれば、
寂しさはそれだけで、じわりと和らぐのだ。
「して、ないわ、だってラキア、なんにも、知らないもの……。
ここがどこなのかも、さっきの人が、誰なのかも、
………あなたは、さっきの人とは違う、わよね?」
声が違う、足音が違う。
つまるところ己に分かるのは、その程度のことだった。
ふ、と頬に暖かいものが触れて、その瞬間こそびくりと肩を震わせたものの、
それが相手の掌であると気づくと、泣いてばかりいた唇が僅かに綻ぶ。
熱を奪われていた頬を、その掌へ甘えるように擦り寄せて。
「あったかい……あなたの手、とってもあったかいわ。
あったかい手と、優しい声のひと。
ねぇ、……名前を、きいても良い……?」
■ブレイド > 「そっか、ホントは逃してやりてーけど
逃しちまうとお叱りじゃ済まされねーからな…」
何もしていない。
それが本当であるならば、魔族と言うだけで捕まったことになる。
理不尽に怒ることもできず、泣きじゃくるだけの彼女
いや、泣くだけの少女であったからこそこのような目に合わせているのだろう。
胸糞悪いとは思うが、何もできないのもまた事実。
もどかしい。
「オレはブレイドだ。
まぁ、一応今は冒険者…なんだけど、兵士も副業でやっててよ。
まったく、あんたみてーなのはいるならこんな仕事受けるんじゃなかったぜ」
苦笑しつつ、頬をなでてやった後に少女の目隠しを外す。
戻るときに再度つければいいだけのことだ。
幼く聞こえるその言葉。暗闇はつらかろうと。
■ラキア > 頬を包み込む温もりに、縋りつくように瞼を伏せた。
暖かくて、嬉しくて、それだけでまた泣きたくなったけれど、
今回はぐっと堪えることにした。
小刻みに震える唇をそっと開いて、教えられた名を呟く。
「ブレイ、ド……ブレイド、……ここには、お仕事で、きたのね?
ブレイドは、ラキアを……見張るのが、お仕事なの、ね。
………ん、………」
与えられた言葉をパズルのように繋ぎ合わせて、ようやく、それだけ理解した。
目許を覆っていたものが取り去られる気配がして、
おずおずと腫れぼったい瞼を持ち上げ、瞬きを幾度か。
間近にある彼の、金色の瞳を見つめて。
「……ブレイドの目は、お日さまの色なのね。
きらきらしてて、とてもきれい……」
うふ、とまた嬉しそうに、頬をゆるませた。
■ブレイド > 「そういうこった。わりーけど…ラキアの言ってた『さっきの人』?
そいつに雇われてるから、敵ってことになるかもな。
オレとしてはこんな事するやつよりは、あんたに味方してやりてーんだけどさ」
少女の仕草から、安心させることができたようだと感じる。
欲情を掻き立てるような香りはするが
少女の頬や唇に触れるに今はとどまる。
そして開かれた瞳に自身の姿が映れば
心苦しそうにも微笑んで見せて
「そんないいもんじゃねーよ。
あんたの目は宝石みたいだな。なんてよ。
何かしてほしいこととかあるか?寒いなら…こうすることくらいならな」
少女の頬や首筋、掌で触れて温める。
しかし、この香りは少しよろしくないか。
逃がせばもちろん立場は悪くなるどころではないだろうが
手を出してもまた同じだろう。