2018/09/04 のログ
■マルグリット > (あるいは、学習能力の欠如、と言えるかも知れない。
言い訳をさせてもらえるのなら、今、己の身体も、心も、普通の状態とは言い難く、
だから、たとえ相手が普通に物音を立てて近づいて来たとしても、
こうして抱き竦められるまで、気づかずにいたかも知れなかった。
まして、相手が音を立てず近づく術を心得ているのなら、尚更、である。
己よりもずっと大きな掌で口許を覆われ、背後から抱き込まれた腕の中で、
常に無く熱い身体は、それでも不意打ちの恐怖に震え強張った。
ひゅ、と喉を鳴らし、ぎこちなく身動ぎながら声を、上げようとしたけれど。)
っ―――――っ、っ………
(黙っていれば―――それでは、声を立てれば危害を加えられる、ということか。
そのひと言でぴたりと動きを止め、物陰へ引き摺り込まれるままに。
そうする間にも、口許を覆う掌に伝わるのは、尋常ならざる熱であろう、と。)
………あ、つい、のです……。
からだ、が、熱くて、ぞくぞく、して……、
わた、し……おかしく、なりそうなの、です……。
(ぼんやりと、訥々と、助けを求めるというのではなく、
ただ、事実を伝えるだけの空虚な口調で。
それから、両手をそっと浮かせて、己の口を押さえた相手の手を捉えようとしながら)
……すみ、ません。
熱い、ので……変に、なりそう、なので、
……もし、よろしければ、ですけれど……離して、いただけません、か……?
■ルシアン > どのような相手か分からなかった故に、手荒な方法を取っては見たものの。
抵抗もなく、それどころか感じられるのは抱きとめた少女から伝わる、明らかに異常と思えるほどの熱。
かといって、病であるともまた違う気配。怪訝そうに眉をしかめて。
「…手荒な真似をしたことは謝る。大声を出したり、逃げたりしないなら、安全は保障する。
……こっちへ」
近くにあった扉の向こうの気配を探る。人気は無いと推測すれば、其処へと少女を引きずり込む。
力が抜けてしまっていたり抵抗が無いならば、少女一人分を連れ込むのに分けは無いのだけど。
「…………何をされた。曲がりなりにも此処は王城の中だろう。
それから…良ければ、これを」
其処は暫く使われていない客間か何かなのだろう。ドアにカギを内側からかけ、離すよう言う通りに壁へもたれさせる。
黒づくめで目元だけを出した姿のまま、少女にそんな事を問いかける。好奇心と、若干のお節介な性質。
熱い、というなら腰に付けた小さな水筒を差し出してやる。
■マルグリット > (己にも、背後に居る人物が誰なのか、どんなひとなのか、
勿論、まるでわかりはしない。
言葉が通じるひとではあるようだ、けれど、本人も言う通り、
いきなりひとの口を塞いで動きを封じるようなひとでもある。
相手の言葉にこくこくと機械的に頷きながらも、身体の強張りが解けないのは、
致し方のないことだと言えるだろう。
怯えている。
相手を、怖がっている。
それでも、大人しく何処かの部屋まで連れ込まれてしまったのは、
身体に力が入らない所為、そして、何よりも恐怖の所為だった。
だから、施錠された部屋の中で、相手の腕の中から解放されて。
ようやく、ほっと息を吐くことが出来た。)
……逃げても、捕まってしまいますの。
捕まったら、逃げた分だけ酷いことをされますの。
それに、……叫んでも、きっと、誰も助けてくれませんの。
(ぼんやりとした表情のまま、けれど物言いは何処か、諦めたように冷やかで。
壁に背中を預け、己が身を庇うように抱き締めて、叶う限り身を縮めようとしているように。
相手の風体はいささか以上に怪しく見えたが、それよりも、差し出された水筒に、
ずっと胡乱げな眼差しを向けて。)
………お水、ですの?
(手を出して良いものかどうか、水筒の中身が己に害のあるものではないのか、
そんなことさえ疑ってしまうほどに―――――今宵の娘は、すっかり疲弊しきっていた。
翠玉の瞳はやや上目に相手を映していたけれど、やはり、正気を失っているようにも見えるか、と。)
■ルシアン > 勿論、今の自分の立場は、無法者であり侵入者であり。
今も少女をかどわかす犯罪者だ。衛兵にでも見つかれば、牢にぶち込まれるなら良い方。その場で斬り捨てられても文句は言えない。
怯えられるのは、当たり前の話。
それでも、一度係わってしまった以上、首を突っ込むのは人の性。
損な性分だと自覚はあるのだけど。
「……………改めて、根腐れにも程が有るなこの国は。肥溜めの方がまだマシな匂いがしそうだ」
少女の言葉。虚ろな瞳。正気とも思えないような雰囲気。
具体的な事は勿論分からないが、察する事くらいはできる。
そのような事が行われている事実も知ってはいたけれど、いざその相手を目の当たりにすれば吐き捨てる様な言葉。
「ただの水だ。少しはマシになるだろ。…少し動くなよ?」
見も知らぬ、不審な相手から差し出されたもの。そのままで手を出さないのも道理。
一つ息を付けば、筒の口を開けてそのまま少女の口へと当て、ゆっくり注ぎ込む。冷たい水の感覚が伝わっていくはず。
そのまま、手を伸ばして少女の額や、首筋へとそっと触れる。
熱や脈拍なんかを感じ取るため…なのだけど。そっと触れる感覚が、少女にどんな刺激を与えるか――
■マルグリット > (昨日までの娘なら、目の前の相手を見て悲鳴を上げたかも知れない。
あるいは出会いかたによっては、人懐こく言葉を交わすこともあった、かも知れない。
けれど―――――出会ってしまったのは、今夜、である。
焦点の曖昧な瞳に、茫洋と相手の姿を映すまま。
恐らくは己の身に起こったことを想像したのだろう相手の言葉を、
眉ひとつ動かさずに聞いて――――ただの水だと聞いても、こちらからは手を伸ばせず。
それでも、くちびるへ宛がわれた水筒の飲み口から、冷たい水が静かに流れ込んでくると、
緩く瞼を伏せてくちびるを開き、―――――こくん、こくん、喉を鳴らして)
ん、―――――ん、く、……んっ…―――――ぁ、
(額、は未だ良かった、けれど、首筋は。
柔らかく触れられた、大きな掌の、あたたかさを感じた。
その瞬間、壁に預けた背筋が戦慄き、白い肌がざわりと粟立つ。
閉じていた瞳を大きく見開いて、震える右手を伸ばし。
相手の胸元を、―――――とん、と、力無く叩こうと。)
や、………さわ、っちゃ、や、ですっ……
(弱々しく消え入りそうな声で訴え、濡れたくちびるを噛み締める。
ともすれば零れてしまいそうな熱い吐息を、必死に押し殺して俯き)
■ルシアン > ゆっくりと水を飲ませて、それでもどうも状況は改善しない様子。
多少はマシになったのかもしれないが…それでもなお、少女の瞳に光が戻った気配もない。
さて、どうしたものか。体調を見ようと、少女の肌に指を滑らせたが、その反応は…。
「……薬、か?……良い趣味してるな。反吐が出る」
僅かに首筋に触れた程度で過敏な反応が返る。こんなことは大半が魔術か、さもなくば。
どちらにしても、こんな子に施すとは。皮肉めかして呟きながら、
トン、と胸元を叩かれるのだけど…その力は弱くて、此方の動きを妨げる事も無く。
そのまま、もう少し。ゆっくりと、指先で首筋から、うなじへと撫でる様に触れてみて。
「……辛いか?」
声を必死にこらえる様な仕草。そんな少女の様子が扇情的で、少しずつ巻き込まれそうになる感情を堪えながら。
少女の元へとかがみこんで、耳元でそんな事を尋ねてみる。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルシアンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からマルグリットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にスイさんが現れました。
■スイ > 夜会の給仕役に駆り出された以上、持ち場を離れることは許されない筈だった。
けれど、広間に居る客人の中に、己の見知った顔を認めてしまっては、
留まって素知らぬ顔で給仕を続けることなど、出来る筈も無く。
銀盆を抱えて広間を抜け出し、今宵は月明かりも無い庭園へ飛び出すと、
其処からはもう、全力で走り抜けるばかりだった。
辿り着いたのは、暗がりにも仄白く浮かび上がる、瀟洒なつくりの四阿。
時ならぬ雨嵐の中、此処まで来ればきっと、誰の目にも止まるまい――――
石造りのベンチへ崩れ落ちるように腰を下ろし、銀盆を胸元へ抱き締めて、
忙しなく肩を上下させて、何とか呼吸を整えようと試みる。
給仕の仕事だから、と緩く纏めてあった髪がすっかり解れて、
蒼褪めた頬に、首筋に、肩に、ばらばらと流れ落ちていた。
裾の長いお仕着せのメイド服も、湿気を含んで着心地が悪く―――。
■スイ > ―――――呼吸が整えば、頭も次第に冷えてくる。
決して身許を知られる訳には行かないが、だからと言って、
任された仕事を放り出して、こんな所でぼんやりしても居られない。
しかし、其れでも―――
「……もう、少しだけ。
もう少ししたら、戻りましょう」
己に言い聞かせるように、そっと呟く。
其の前に、一旦着替える必要があるかも知れない。
ぐっしょりと水気を吸ったお仕着せの生地を軽く摘み上げ、溜め息をひとつ。
数分後には、四阿から人影は消え失せていることだろう。
其処に逃げ込んでいたメイドの存在を知る者は、きっと誰も居らず―――――。
ご案内:「王都マグメール 王城」からスイさんが去りました。