2018/04/19 のログ
アーヴァイン > そうだというように小さく頷く。
見た目といい、あまり軍属のような固い口調は似合わないのもあり、それなら上品に愛らしさもある振る舞いが出来れば、最適だろう。
自分が教えるとは思っていなかったようで、言葉がどもる様子に、薄っすらと微笑みが浮かぶ。

「したことがないから、やってほしい。本当はレナーテか、エルフリーデにやらせたほうがいいのかもしれないが……礼儀作法は、目上のものから習ったほうが飲み込みやすいと思う。それに、今後店を広げていくなら、店員にも教えていく必要もある」

秘書の娘は、流石に秘書役に抜擢されるだけあり、礼儀作法もそうだが、気配りもよく聞くほうだ。
指南役の娘はティルヒアの貴族の娘であり、ノブリス・オブリージュを胸に抱く、気高さも持ち合わす。
どちらも適任だが、敢えて彼女にお願いしたい理由に添えたのは、今後の展開故だった。
書類がこれだけ増えたのも、集落での収入と共に集落外への出店も増えたからである。
被服店、もとからある娼婦宿、近々は劇場に軽食の売店に乗り出す計画も書類に流れ込んでいた。
金の巡りは、総じて国の血液と同様。
そして、それを司るのは最強にして最凶の盾ともなる。
自分達が死に絶え、ノウハウの全てが抹消されたなら……この国の血液は回らなくなることになるのだから。
とはいえ、そんな戦略的要素に彼女が教えることが必須かと言えば、確定はできないだろう。
だからか、苦笑いを浮かべながら耳元に囁く。

「妾狙いの女が立候補して、入り込まれるのはルークとしても嫌だろう?」

礼儀作法は王族だろうが貴族だろうが、必ず習得すべきこと。
ミレー族に偏見を抱かず、丁寧に教えられるなら、その指南役になる間口は広い。
祟り神に使えながら妾にできるならと、親は挙って娘を差し出しかねない。
激しい嫉妬の炎を見せてくれた彼女にとって、誰かが入り込むのは好ましくないだろうという気遣いでもあった。

「だが、それを楽しんでいる様子を感じる、いいことだ。なるほど……そういう事なら、大人しくしてほしいとはあまり言えないな?」

それなら尚の事、礼儀作法の指南役は丁度いい刺激になるだろう。
それに、子供に何かを教える時までの予行練習にもなるという考えもあった。
そんな事を語りながらカップにお湯を注いでいくと、中身が解けるように溶けていく。
ちらりと彼女の方を見やれば、固まったまま言葉無く驚いているのが見える。
クスッと思わず笑ってしまい、中身が綺麗に混ざりあったカップを彼女に差し出す。

「味も作った時と変わらない、飲んでみてくれ」

王城で振る舞われるような上級の味わいとまでは行かないが、集落や平民地区で出されるようなごく普通のスープと変わらない味と香りが楽しめるだろう。
もう一方のカップにも同じ様にお湯を注いでいけば、先ほどと同じ光景が広がる。
お湯を吸って膨らむキューブが解け、増えていくお湯に溶けていき、スプーンでかき混ぜれば完全に混じり合う。
さも当たり前のような所作で、手品じみた光景が繰り広げられる。

ルクレース > 「…そうですか…。分かりやすく教える、ということができるかどうか、わかりませんが…。確かに、店員にも教えれば上流階級向けの商品を扱う店を展開することも視野に入りますし、娼館などでは高級娼婦のように振舞うことも可能になりますね。」

ルーク自身、見て聞いて、体で覚えろと親切丁寧に教えられた経験がないために教えるというのがどういうものか、理解しているとは言い難い。
更には今後の展開の可能性を語られると、益々責任重大になってしまって不安を覚えるところではあった。
けれど、彼は信頼してこの提案をしてくれているのも分かるため、出来ませんという言葉は出てこない。
そして、苦笑いを浮かべながら耳元に囁かれた言葉は更にルークにやる気を出させる効果的なものだった。

「……それは…はい…。」

将を射るにはまず馬から――と、ミレー族への偏見をもたない貴族というのは少ないだろうが、それでも将来有望な王族の妾になるためなら、そんな偏見を土返ししてでも教育係に立候補する貴族は現れるだろうことは、想像に難くない。
だから、彼の言葉には素直に嫌だという肯定の言葉と頷きが返った。

「生まれるまでは、言葉の通じない赤子に対応できるのかと思いましたが、毎日が新しいことの発見があって、楽しくて嬉しいがたくさんあります。はい、出来ることは減りましたが、出来る限りはと…。」

我が子との時間で感じる喜びを語る表情は、母親らしい穏やかなものだっただろう。
彼に仕えた時のことを思えば、彼が望まなかったこともありできることは減ったが、自分ができる限り彼を支えればという想いは仕えた当時よりも強い。

「…料理というものも、様々な工程を積みかさねて出来上がっていくのは、手品のように感じましたが…。お湯を注いだだけでその出来上がった料理ができるというのは、ほんとうに魔法のようです…。」

手渡されたカップからは、湯気が立ち上りとうもろこしの甘いクリーミーな香りが鼻腔を擽る。
いただきます、と小さく告げて息を吹きかけ軽く冷ますとカップに口をつけていく。
すりつぶして裏ごしされたクリーミーさと、噛めば甘いとうもろこしの食感とが口の中に広がって、それは普通に作られたそれを遜色ない味だった。

「おいしいです。」

ほう、と暖かいものを喉に通した心地よさに吐息を零しながら告げた感想は、シンプルながらも最上のものだった。

アーヴァイン > 「試行錯誤して、大変だと知った人の方が教えるのも優しくなる。勿論、あの二人のどちらかはサポートにつけるから安心して欲しい」

期待を寄せる様な言葉になってしまうと、どうにもプレッシャーを与えてしまったらしい。
表情には出てこないが、雰囲気や言葉の抑揚から読み取っていけば、一人ではないというように言葉を重ねる。
彼女の見解も正にそのとおりで、同意するように頷く。
劇場への展開は主に富裕層を狙っていくもの、飲食物の提供だけであれば、まだマシだが商店や娼館となれば別物。

「ありがとう。それに教えてきたことは、今度セラスに教えるときにも役立つだろう」

性別の差というところか、無礼を働かない限りは少女達を見ても舌打ちもしない女性貴族も少なくはない。
それこそ、丹念に大切に育てられた娘となると、外気に晒されなかったことで偏見の世界を見ていないケースもある。
こちらに向けるには最適な娘となるが、想定したとおり数は少ないだろう。
勿論、立場を勝ち得るために心を捨てる者もいるだろうが、入れ替わるか仮面を張り続けられるか…後者は決して彼が選ばない。
そんな想像を煽ると、すんなりと頷く姿に微笑みながら励ますように軽く背中を撫でた。

「自分の子供を見れば変わるというが、ルークの場合はいい刺激となったみたいだな」

揺りかごに眠る娘へ近づく姿は、こちらから見ても感情を更に露わにしていく様子が見え、母子の姿を嬉しく見つめていた。
駒から人へ、出来ることが変わり、出来ないことも増えたが、その分沢山の幸せを与えられたと嬉しそうな声に実感を噛みしめる。

「あぁ、今回は正に魔法というべきか……だが、面白いのはこれを最初にやっていたのは、あのスノウフルーフ達だ」

キッチンで茹でたとうもろこしをひたすらに裏ごしし、触感を楽しむために粒を入れたり、深みを増すために牛乳を混ぜたりと、寒い日の執務の際、一緒にキッチンで作る所を見せたこともあっただろう。
それと変わらぬものを一瞬で作り上げたわけだが、思い出すかのように表情を崩して笑うと、その理由を告げる。
寒いところで丸まるのが大好きなエナガ達、接点のすくなそうな彼等こそが鍵だったと。

ルクレース > 「それなら、安心です…。サポートについてもらった少女に、任せきりにならないように努力します。」

あまり表に出づらい感情、不安を感じ取ってのフォローの言葉に肩の力が少し抜けたのがわかっただろう。
しかし、サポートについてもらうからといって、サポート役の少女に任せきりにならないように、と決意を呟く。

「確かに、そうかもしれませんね。」

少女たちの教育から娘の教育につながっていなかったルークは、娘に礼儀作法を教える時に役立つという言葉に、納得したように頷いた。
嫉妬の感情を思い起こさせる言葉に、頷いてしまうあたり、自分も現金になったものだと思いながらも、励ますように背中に触れる彼の手に嬉しくなってしまい、頬を微かに染めて小さく笑みが浮かんでいた。

「はい…。」

いい刺激となったとの言葉に、迷わずに返事がかえるとゆりかごで今も眠っているであろう娘を思い出して、笑みが深くなっていくのが分かる。

「スノウフルーフが、コーンスープを作っていたのですか?」

コーンスープの作り方も、彼から教わった。
飲むのはあっという間だが、口当たりをよくするための裏ごしはわりと手間の掛かる作業だった。
お湯を注げばいいだけのこれがあれば、夜食を軽く胃に入れたいときでも手軽に作ることができそうだ。
しかし、彼から聞かされたのはまったくこういったものと関わりがなさそうな、冬の眷属のかわいらしい鳥の名前だった。
鳥だからとうもろこしは食べるだろうが、人間のように料理する姿を思い浮かべて思わず首をかしげていた。

アーヴァイン > 「あぁ、とはいえそんなに固くならなくていい。あの二人もルークのことは良くわかってるみたいだからな」

邂逅した回数は少ないだろうが、それぞれその時の彼女の反応から感じたのは、表情変化は少ないが不器用ながらにいい人という印象。
それを伝え聞いた時の事を思い出しながら微笑み、背中を撫でていく。
娘の教育にも役立つのも納得がいけば、原動力も一入つよまるだろうか。
それよりも今は、嬉しそうに頬を赤らめる様子に愛らしさを覚え、両腕で細い腰を抱き寄せるようにして後ろから抱きすくめていく。

「ふふっ、そっちじゃない。さっきの塊のほうだ。秋から冬にかけて活動し、夏は一切外に出ない。その合間の彼等の食料は、秋や渋々飛び出した春で獲った魚や動物だが、自身の冷気と風の力で乾燥冷凍させていたんだ。尤も彼等は……カラカラに凍ったまま、鮭を貪っていたが」

夏の時も氷室から一切出たがらず、自ら溜め込んだ雪の上で真っ白な体を丸めていたエナガ達。
彼等のもともとの食料の保存方法が、これの精製方法になったと語りながら一度離れると、箱の中から幾つかパッケージを取って戻る。
ドラゴンフィートの大食堂で完売必至のピラフ、トマトソースのマカロニ、そして今回のコーンスープ。
どれも同じベージュ色のパッケージに、若干薄い黒色で中身が記載されていた。
盛り付ければそれなりに嵩張るだろうが、こちらも張り付くようなパッケージに圧縮されているのをテーブルにならべる。

「とりあえず成功したのはこの3種だ。今年生産したものは主に組合と集落に、来年以降は糧食分を一般へ払い下げていく。魔術で経年劣化の実験もしたが、3年は確実に持つ。払い下げても2年は保存は効くわけだ」

兵站や携帯食として流通していけば、それこそ大きな需要に変わる。
理屈はある程度解明してきたが、わからない部分も多々あるため、品数も限られる。
それでもビンや樽詰の保存食に比べれば、格段の進化だろう。

ルクレース > 「はい。理解していただけているのは、とても心強い限りです。」

駒としてあった時に比べれば、彼が与えてくれる刺激のおかげで表情に出やすくなったとは言え、傍から見れば微細な変化でしかない。
集落には、そんなルークを怖がらずに屈託なく話しかけてくる少女も多いが、やはり初対面では怖がられることもあった。
それが分かっているから、鏡の前で表情をかえる練習もこっそりしているが、自分で変わったと思うほど傍からはやはり変化としては少ない。
サポートに回ってくれる少女たちが、そんなルークのことをわかってくれているというのは、やはり有難い。
腰を抱き寄せるようにして腕が回されるのに、前に回った彼の手にそっと手を重ねると少し重心を後ろへと移動させて背中を彼の胸に触れさせていく。

「冬篭りならぬ夏籠もりですね。確かに、夏のほうが溜め込んだ食料も傷みやすいでしょうし合理的なのでしょうね。」

氷室のなかで、暑い暑いとつぶやいていたエナガの姿を思い出す。
乾燥して凍ったままの食材というのは、人間からしてみれば美味しくはなさそうだが彼らからしてみれば、問題はないのだろう。
それがヒントになったのだと、彼の言葉を聞いていると一度離れた彼が三つほど異なる大きさのパッケージを持ってもどってくる。
中身の記された文字は、ピラフ、トマトソースのマカロニ、コーンスープとあった。

「随分と長く持つものですね。冷たくはないので、保冷の必要もなさそうですし。」

パッケージのひとつを手に持ってみるが、水分がない分重さはそれほど感じられない。
携帯の上で重要な、軽量といった点でも優れていて保存もきくとなると、確かに需要は大きくなりそうだ。
しげしげとパッケージを見たり、光に透かすようにしてみたり、ピラフとマカロニの重さを比べてみたりと観察しては、感心したような様子が見えるだろう。

アーヴァイン > 「皆、大分ルークに懐いてきたと思うがな。結構遠慮がないだろう?」

最初の頃は表情の変化と雰囲気の冷たさに、近寄りがたい雰囲気を覚えていた娘も多いが、今はだいぶ違う。
お嫁さんだの、奥さんだのと声をかけてくる娘もいれば、そのままルークさんと呼びかけてくる娘もいる。
くっついても嫌がられないとわかれば、愛情に飢えた子供の様に近づいてきて抱きつく娘も居ただろう。
プラスして、女性特有のネットワークで情報はすぐに広まり、彼と同じかそれ以上に不器用に真面目ないい人だと知れ渡ったのも早かったはず。
背中と胸板が重なる中、一度は離れたものの、再び同じ様に抱きすくめながら肩越しに彼女の耳元へ囁いていく。

「確かに夏篭りだな…。それに東洋では凍り豆腐という、大豆食品の感想冷凍を行っているものもあった。最初はその手法を試したが、どうも水に戻しても元通りとは行かないことが多かった」

眷属とは言え動物に近い体なのもあり、味蕾の発達もそれほどでもないのかもしれない。
何処と無く実験結果を語る声は情熱を帯び、子供が冒険譚を語るような楽しげな声色になっていく。
隣に見える顔も、楽しそうに目尻を下げているのが見えるだろう。

「俺も驚いた…だが、恐らくだが、腐敗の要因は水分と空気ではないかと思う。その塊をそのまま放っておいたら、僅かに湿気った部分が傷んでしまったんだ。だから包みも空気と水を通さないものを新たに作ったんだが……お湯に触れると溶けるのが難点だ」

彼女の気分転換にと言っていた話は、徐々に長い年月を掛けた実験の発表のようになっていく。
輸入品の凍り豆腐の発見から試作にいたり、別品への転用と失敗。
偶然見つけたスノウフルーフの保存食と、その作り方から食料の乾燥冷凍。
密閉できる包みの作成に輸入品漁りと実験を繰り返した最近と、自身の成果を語る姿は父や夫というよりは、少年のようだったかも知れない。
きっと部屋に変える時は、疲れただろう彼女の手を引き、何時もと変わらぬ寝床と腕の中に包んで眠るのだろう。

ルクレース > 「そうですね。最初に比べれば、少女たちに触れられる機会も増えたようにおもいます。」

集落に長く在籍している少女などは、挨拶とともにじゃれるように抱きついてきたりと初めに比べると、ボディタッチも増えてルークが戸惑うことも少なくなった。
主に怖がられるのは、集落に来たばかりだったりする初対面の少女たちだが、その少女たちも時間とともに打ち解けてくれているのは、きっと女性特有の情報網故なのだろう。
肩ごしに耳元に囁かれると、吐息が耳にかかってくすぐったくて思わず首を竦めてしまいながら、彼の言葉に頷く。

「凍り豆腐、ですか。乾燥したもの、というくらいしか想像できませんが、これとは違う感じのものというのは分かりました。」

パッケージを手にもちながら、彼の声が次第に弾んでいくのを感じる。
こういうとき、普段落ち着いている彼が少年のように見えて微笑ましい気持ちになる。

「なるほど。確かに水気の多いものほど傷みやすい、らしいですね。湯煎、というのでしたっけ。それができないとなると、水分をあまり含まないようなものは適さないということでしょうか。」

生の果物や野菜など、あまり日持ちのしないものは含む水分が多いように思われて、彼の言葉を聞きながら頷く。
例えば、パンのような水をあまり含まないものはお湯をいれて戻すのは難しそうだと、お湯の触れると溶けるというパッケージに触れながら質問で返したりして、彼の話に興味を向ける。
こうやって出来上がるまでに、何度も何度も試行錯誤をして、失敗した話なども沢山聞いた。
語る彼は、とても楽しそうでいつもよりも生き生きしているように見えて、自然と口元には笑みが浮かんでいたことだろう。
夜も更けて、部屋へと二人で戻れば娘におやすみのキスをして、揃って眠りへと落ちていった。

ご案内:「王都マグメール 王城」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルクレースさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にゼロさんが現れました。
ゼロ > 何時もと同じように、少年は王城の回廊を進んでいく。
 警邏の仕事は、何時何処に何が起きるかは分からないからこそ、普段からの警戒を厳にする必要がある。
 今、ここで一人なのは近くに別の人間がいるから、部屋の前で固定で立ち尽くす二人組と、その中を見回るように歩く一人。
 そんな体制なのだと聞かされた、そして、少年は今宵も一人で歩く方に回されていた。
 夜になり、昼間よりもある意味煩くなっている城の中、コツン、カツン、と少年のグリーブが地面を踏みしめる音が響く。
 今のところ異常はないのは喜ばしいし、そのまま終わってしまいたいとも思う。
 そんなことを考えながら、回廊を、部屋を、歩く人を、見回ることにする。

ゼロ > しかしまあ、なんというかお盛んですねとしか言えない。
 其処此処で、甘い声が聞こえるのだ、部屋の中で、廊下で、外で。
 こう、タナール砦とは違う精神的な披露が募ってくるのを感じる。
 向こうは前線故の生き死にに関した精神的疲労であるが、コチラはこう言うモノを聞き流すための精神的疲労。
 危険がない証拠なのだから、良いと思うのだけれども……もっと節操というものが欲しくなる今日この頃。
 羨ましいかどうかで言えば羨ましい、そんな事を考えること自体なんか違うような気もしなくもない。

 気を取り直すために、一度立ち止まり、深呼吸をする。

 さて、気を取り直した。
 という事で、少年は勇気を持って、エロいことをしている貴族を軽く眺める。
 エロいことはともかく、不穏な事……魔族による篭絡があるかないか。
 そういうのを確かめる必要はあるから。
 近づけば、仮面が魔力を認識できるだろうからわかるところもある。
 実際に見なければわからないこともある。
 例えば、どちらが魔族なのか、とか。
 それに、魔法で変身してのシチュエーションプレイとかする奴もいるやもしれない。
 いろいろ想定すると頭が痛くなる。
 それでも想定しながら少年は歩くしかないのだ。

ゼロ > 薄く暗い通路は、それでも見えづらいというわけでも、見えないというわけではない。
 仮面が少年の視覚を補い、強化されている聴覚が、嗅覚がまるで犬のように周囲の状況を把握させている。
 目を瞑っていても呼吸の音、衣擦れの音、アエギ声が、どこから何人ぐらいでと聞き分けることができるし、どぎついぐらいの香水の匂い、汗の臭い、性の匂いがわかる。

 正直男の精の匂いもわかるのがつらたん。

 そこかしこで、おっさん達が腰を振っているのが分かる。
 ゲンナリしたくもなるから、ゲンナリする。
 もう今更という気にもなるのだけども、仕方がないことなのである。
 先程から、魔力の痕跡や、魔族の気配がしていないのが救いといえば救いだ。
 かつん、かつん、と靴音鳴らして少年は進む。

 現在この場所に異常は無し。

ご案内:「王都マグメール 王城」にローザさんが現れました。
ローザ > 結局、城の事も分かるとの事で巡回の手伝いを引き受けた。

正規の騎士に指示を受けつつ業務を進めよとの内容。

少女は全身鎧の騎士の後姿を見かけると、駆け寄って声をかける。

「お疲れ様です。 ギルドより手伝いでやってきました。
ローザと言います。 本日は宜しくお願いします。」

騎士になったことがない少女は見よう見まねの敬礼をする。

身に着けている鎧も皮、剣も申し訳程度のものだ。
いかにも数合わせの印象を与えそう。

ゼロ > 歩いていると、誰かが近づいて来る、その気配に気がついた。
 視線をそちらに向けてみると、清浄なオーラと禍々しいオーラを色々と溜め込んでいるというか背負っているというか。
 力がすごいというのは分かるけれど、どう判断すればいいのだろうと思わなくもない、自分と同じぐらいの女の子。
 武器と防具は、凄く質素である、だけど、その身のこなしと、纏うオーラから問題は無く感じられた。
 彼女の口から出てくる言葉に、首をかしげることを一度。
 直ぐに彼女の方に向き直る。彼女には、仮面を身につけた怪しい人間に見えてしまうかもしれない。

「お疲れ様です。
 王国軍第七師団の訓練兵、ゼロと申します。
 依頼の受諾に感謝致します。」

 そもそも、ギルドに依頼を出していたということ自体初耳であった。
 しかし、誰か貴族が依頼したのかもしれぬ、あとで確認する必要があるなとは思いながらも、敬礼をして言葉を返す。

「まず、今、どのような依頼として受けているか教えてもらえますか?
 僕の所に話が届いてない物なので、状況の把握をしたく思います
 あと、警邏を任務としているので、移動しながらお願いします。」

 仮面の少年は、静かに問いかけながら、通路の奥を指さしつつ、歩き始める。

ローザ > 「ゼロさんですか。
こちらこそ、依頼を出して頂きありがとうございます。」

ぎこちない敬礼にも関わらず、敬礼で応えてもらえた。
少女はニコニコ笑顔を浮かべる。
仮面の先輩は少し威圧感を感じるが、見た目ほど怖い人ではなさそう。

「城の巡回の手伝いと聴いています。
後は正規の騎士の方に指示を受けていれば良いと。
僕はまともな訓練を受けてないのですがと聞いたのですが、それは構わないとのことでした。」

先輩は私の身体に漂っている気配にすぐに気が付いたようだ。
仮面の向こう側は果たしてどんな顔をしているのだろう。
先輩の隣を歩いている間も、どうしても視線が向いてしまう。

ゼロ > 「はは、別に畏まらなくてもいいですよ。
 貴女は協力者、という形であり、軍属というわけでもありません。
 ああ、他の人とか、偉そうな人にはそう言う風にしてくれれば。」

 対等でもいいと思いますと、僕はと、自分の所感を伝えておこう。
 少女は、人懐っこいんだなと思うのは、この仮面に物怖じしないせいだろうか。
 第一印象はそんなところである。

「騎士……?
 ……あ、僕は騎士ではなく、兵士ですよ。
 貴族階級持ってませんし。
 恐らく、訓練に関しては、軍属ではないので手間を省いたのでしょう。
 実力があれば、ということで。
 仕事自体は、基本的に怪しい人物を見つけたら、捕まえるなり問いかけるなり。
 魔族が侵入してたら迷わず殺す、以上です。」

 少年は表情が仮面に隠れている分、声音で話をする。
 当然相手に緊張感を与えないように気楽に話しているつもり。
 言葉が硬いのは生来の性格と、人に慣れてないというのもあるのかもしれない。

「この仮面、気になるみたいですが、外したら、命に関わってくるので。
 滅多に外しませんのであしからず。」

 気にしてもダメですよ?
 少年は軽く冗談を紡ぐように言葉を放ってみせる。

ローザ > 「僕には誰が偉い人かわかんないんだよね~。
この国には来たばっかりだからさ。
ゼロさんがそれとなく教えてくれる?」

お言葉に甘えて…さっそく少女は地を現した。
両手を頭の後ろに組んで歩いている。

「そうなんだ。 ゼロさんってごっつい鎧着けてるからてっきり騎士さんかと思ったよ。
お城って怪しい人物そんなに出てくるの?
僕みたいな部外者でも呼ばれる位には危険なのかな?」

金払いが良かったのと、やりやすそうだったので選んだ仕事。
気さくな先輩に早くも甘えはじめた少女。
まだ仮面が気になる様子だが。

「あ、あはは…。
それなら外せないね。
でも、食事の時とかどうしてるの?」

少女は両手を振って、否定しているが気にしているのがモロバレであった。

ゼロ > 「ああ、いいよ。
 先ずは、アソコの茂みで盛っているのが、伯爵で。
 扉が閉まっているけど、ヤッテルのが、男爵とその愛娼……男同士。
 あっちでは、貴族の奥様が若いツバメを貪ってるし」

 それとなくどころではなかったりする、この国の実情。偉い人ほどエロい事している。
 そこかしこで、不倫だの、手篭めだのがわんさかと。
 流石に、見えてくる範囲にいるのは、こっそり教えるけれど、ああまり気にしなくていいだろう。
 大体はヤってて、気にしてないのだから。

「ああ、この鎧と仮面がね、生命線なんだ。
 そんなにいない、とは言いたいけど、城自体が広大だからね、把握しきれてないのが現状。
 なんてったって、警邏する兵士の中には、サボってるのも多々いるらしいし。
 第七の師団にはいないけれども、第一の師団には多いと聞くよ。

 ……魔族も入り込んでいるという噂もある。」

 危険か、という言葉にどう言葉を選ぼうか、悩んだ。
 なので、あえて噂という形で最後に危険度を伝える。
 軍人である自分が声を大にして言えない事である、それは自分たちが無能であると言っているのと同義なのだから。

「食事の時はいつも自室か隅の方で、少しだけ仮面をずらしているよ。
 僕の体は壊れていてね。
 この魔法の鎧の回復効果と、仮面の回復効果がないと、崩壊しちゃうんだよ。
 ……そうだね、仮面も鎧も外してほしいっていうのであれば。
 僕の子供を宿してくれるような相手でないと。
 両方外すだけで命かけることになるし。

 正直、そのへんで気軽にパコパコできる貴族は羨ましい。」

 気にしてるようなので、軽く脅しておこう。
 悲しいことに、脅しというか……それが事実だったりもする。
 そして、最後にぼやく一言は、ものすごく切実だったり。

ローザ > 「ゼロさんがくれる情報はヤってる情報ばかりなんだね。
とりあえず、ヤってる人が偉い人なのかな?」

偉くはないが、時々金にあかせてエロイことやってる少女なので、
その辺のことはあまり驚きはしなかった。
男同士と言うのはあまり見たくないなあ、なんて思う位で。

「生命線…。
正規の兵士の方が仕事しないから僕ら冒険者を呼んでくれたのかな?
マグメールは聴いてた通り、豊かな国だね。
魔族が出たら、ゼロさんはどうするの?」

依頼が舞い込んできた事情はよくわかった。
少女は噂通り、淀んでいるが今でも金回りの良い国と聴いていたので喜んでいる。
これなら仕事には困ら無さそうだ。

「大変そうだけど、城の中では治せる人いないの?
そんな状態だと戦う時とか辛そうだけどね。

…さっきから思ってたけど、ゼロさんだいぶ溜まってるよね。
エロイ話ばかりだし。」

最初から最後まで割とエロ話をぶちまける彼にふふっと笑みが浮かんでしまう。

少女は彼の横から抱きつこうとする。

「お疲れ様、毎日我慢してるんだね。」