2017/12/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」にレナーテさんが現れました。
■レナーテ > 派出所での交代勤務だが、来客や仕事がないと中々に手持ち無沙汰になることも多い。
同じ年頃の少女達は、おしゃべりをしながらお茶を楽しんでいる事が多いが、真面目な自分はどうかと言えば、集落で行う書類仕事を持ち込んでいた。
机いっぱいに広げている書類は、ミレー族の集落について。
結界はあるところには先んじて此方の組合の旗を掲げさせ、既に専有済みであると示せるようにする他、ならず者が無視した時に備え、少数の警護と緊急展開の為の信号弾を備えている。
しかし、何らかの要因で結界が切れた場所は話が別だ。
旗を掲げても攻め込まれる率が無いところに比べれば大きい。
住民が望めば別の場所へ移転させたり、移動を望まない場合は防御の強化と自警団の設立強化を促す。
組合員は有限、そして集落の守りや業務にあてがう人数もある。
現場に繋がる細部は此方で舵取りを任されることが多く、今は何処にどう人を配置するかと思考の真っ最中だ。
「……こことここ、優先ですね」
思案顔のまま腕組をしてじっと書類とにらめっこを繰り返していたが、ほぅ…と小さく吐息を溢しながら肩を揺らすと、白い手を伸ばす。
手に取ったのはどちらも結界を失った集落だが、大通りが近く、何らかの拍子で見つかると面倒が起きやすい。
メンバーの選定をすると、サラサラと筆ペンを走らせる音を響かせていく。
インクが乾けば、羊皮紙をクルクルと綺麗に丸めて竹の円筒に収め、蓋をかぶせる。
立ち上がり、バルコニーへ通じるガラス戸を開けば、冷え切った風が頬をなでていく。
濃淡の入り混じった茶色の髪が揺れ、乾いた空気に柑橘系の香水の香りが薄っすらと混じって消えていった。
彼女が出てくるのを待ちわびたように、大きなベニマシコが空から空気を叩きながら降下してくると、大きな足には筒をはめ込む金具と固定する革ベルトが備わっている。
そこへそれを収めると、鳥は一気に上昇して城から遠ざかっていく。
「ぶつからないように気をつけてくださいね?」
そんな間抜けはしないと脳裏に響く声に、クスッと苦笑いを浮かべながら小さく手を振った。
吐き出す息が白く染まり、両手を口元に寄せると熱のこもった吐息を吐き出す。
湿り気と熱が白く染まり、掌をじっとりと温めて消えていく。
そんな在り来りな出来事に、少しだけ口角を上げると寒さから逃げるように足早に薪ストーブで暖められた室内へ逃げ込んだ。
ご案内:「王都マグメール 王城 ドラゴンフィート派出所」にアンネリーゼさんが現れました。
■アンネリーゼ > その日、少女が王城を訪れたのはたまたまだった。
過去の縁で投げ込まれた依頼をわざわざ不意にして、無駄足にしたのがつい先ほど。
機嫌を悪くした貴族を尻目に、そそくさと逃げるように部屋を出て、しんと静まり返った廊下を歩く。
毛足の長い絨毯は踏み込めば沈み、石造りの廊下は外気など関係ないかのように温かい。
恐らくは魔術を用いて空調の管理をしているのだろう。お陰で過ごしにくいという事はない。
さて、このまま王城を出てどこかに行こうか、とも考えた少女だが、ふと前に聞いた話を思い出す。
なんでも、ドラゴンフィートなる集落の派出所が王城のどこかにあるのだとか。
集落の名を聞いて思い浮かべるのは、過去に出会った可愛らしい少女の姿。
ーー会えるのかしら、などと少しばかりの期待を抱くと、少女の足はぴたりと止まり、やがて踵が返される。
そして王城の中を探りつつ歩く道すがら、巡り合った扉はとりあえず開けて、中を確認して閉じる。
ただひたすらに繰り返して、また一つの扉の前にやってくる。そこが意中の場所だとは、まだ知らない。
故に、まずはこんこんと軽くノックをして、中の様子をうかがおう。応答があれば答えるつもり。
或いはなければ、こっそり中を確認する。鍵など魔術を使えば簡単に開くのだ。
「すみません、どなたかいらっしゃいますかー?」
丁寧な言葉遣いは、侍従だと思わせるため。
中の貴族が面倒な相手ならば、魔眼で目くらましをして逃げだせばいい。
だから、と割と気楽に、扉の前で静かに待つ。中から会いたいの相手の声が聞こえてくるなど想像もしないまま。
■レナーテ > ストーブの中で燃える薪が崩れていく。
中の薪がかなり崩れてきたのを見れば、後ろ手にガラス戸を閉じながらそちらへ。
前扉を開き、新しい薪を放り込み、火の勢いが取り戻されたところでそこを閉じる。
ついでに紅茶でも入れようかなんて思い始めていたところで、不意に扉から響くノック音に、帽子の中に隠れた耳がピクリと震え、そちらを見やる。
「……? はい、今開けますね」
扉越しに聞こえた声に、はてと小さく首を傾げ、返事が少しだけ遅れていく。
軍関係なら師団名やら部隊名やら名乗ることが多く、商売関係者なら名や店の名を言う。
誰かいるか、という問いはあまりないものの、悪巧みとも取れない声掛け。
素直に返事をすれば、扉の方へと歩いていき、そこを開いた。
「……! えっと、こんばんわ…?」
開くとそこには以前世話になった愛らしい姿。
山道での出来事以来の遭遇ともあり、瞳を少し丸くして驚くものの、続いて脳裏を過るのはその日の出来事。
かなり激しい交わり合いになったのは確りと覚えており、薄っすらと頬を赤らめながら金色の瞳を彷徨わす。
視線が右往左往した後、おずおずとご挨拶を紡ぐのがぎこちないのは、見ての通りに恥ずかしさに彼女を直視できないからだろう。
「こんなところで再開するとは……思いもしなかったです」
仕事柄、あまり王城に馴染みがあるように思えなかったのもあり、率直な言葉を掛けつつも、どうぞと室内へ招き入れる。
王城の一角と言う割には、落ち着きある質素な調度品が多い部屋の中は廊下と違い暖かな空気に満ちている。
応接用のソファーの方へご案内すると、そのまま薪ストーブの方へと戻っていき、お茶の準備を進めていく。
■アンネリーゼ > 廊下は寒さこそない物の、ひっそりと静まり返って物寂しい。
思えば夜もそれなりに更けており、皆家路についた後なのだろうという推測が立つ。
王城に住まう者達も、どうやらこの時間は好き好んで出歩くわけではない様子。
こうして一部屋一部屋検めていくのもなかなか大変だが、全ては噂を確かめる為。
誰かに合えれば問うたのだが、会えないのだから仕方ない。かちゃり、ぱたり。かちゃり、ぱたり。
そして次の扉へ――という事で声をかけたのだが、中からは確かに声が返ってくる。
内心期待値が上がるのを感じながら、少しばかりの間が開いて、そして。
「……あら、あらあらあら……えぇ、こんばんは、ねぇ。
まさか本当に会えるなんて思ってなかったのだけど……」
開いた扉の向こうには、探していた彼女がいた。
一瞬、望んだ出会いなのに呆気にとられて、ついでじんわりと嬉しさがこみ上げる。
くすり、と微笑む少女の頬は、彼女と一緒でほんのり紅い。前の、出会いの時を一瞬思い出したからだ。
そして彼女の言葉には、くすりと笑いながら。
「ぁー、前に仕事で縁があってね。それにしても、本当にあったのね、派出所」
前の仕事――調教師や拷問吏として、貴族や王族の依頼を受けて働く雌の仕立て屋とでも言うべきか。
彼女との約束で廃業にしたまではよかったが、それでも無理やり依頼をねじ込んでくる者はいる。
それをにべもなく断った帰り道なのだが、わざわざ彼女に話すことでもないだろう。
招き入れられるのに従って中へと進むと、部屋は廊下よりもなお暖かく、着込んでいたら汗ばみそうな程。
ぽかぽかとした空気に、ほんのり香る彼女の匂い。思わず上機嫌になってしまうのも無理はない。
「……ん、ちゃんとした場所で会うのは初めてだから、ちょっと緊張してるのよねぇ」
応接用の柔らかなソファーに腰かけ、お茶の準備をする彼女を眺める。
それは、過日に見た発情しきった姿とはまた違う、新鮮な光景だった。
■レナーテ > 「本当に……?」
ドアを開いた彼女が、あの日のような微笑みを見せる中、紡がれた言葉の一つに、はてと不思議に思いながら問い返す。
部屋の中へ招き入れ、腰を下ろすソファーは柔らかに彼女を受け入れていく。
一級品の上物といったような派手さはないが、作りのいい良品といったところは、派出所という名にあっているといったところか。
「前の仕事……ですか、その…本当に辞めた…んですか?」
奴隷を調教し、売り払うといった話を朧気ながらに思い出しつつ、少々ためらいがちに問いかけると、その心境が現れるように言葉が途切れ途切れになる。
自分を助けるために廃業するようになったのもあり、悪いことではないにしろ、多少の負い目を感じていた。
しかし、あまり想像もしなかった緊張の一言は、背中を向けたまま瞳を瞬かせる。
「また予想外な言葉が聞けました……あんなことがあったのに、緊張…ってちょっと不思議です」
クスッと微笑みながらお湯で温めたポットに茶葉を入れていく。
少しだけ冷ましたお湯を注げば、渋みを出さずに茶葉から独特の茶色が滲み出し、中を満たしていった。
カップに注がれれば、紅茶とは異なる甘い香りが広がっていくが、彼女の前へ差し出せば、それが一層強く感じるはず。
「どうぞ、お気に入りの一つです」
甘酸っぱいベリー系の香りと、薄っすらと交じる甘味。
茶色にも淡く紫色が交じるカシスティーは、そのままでも苦すぎず、少し甘みを加えると飲みやすく心地よい香りに安らげるお気に入りの一つ。
それを差し出すと、向かいのソファーに座り、カップの取っ手と縁に手を添えて、ゆっくりと息を吹きかけながら冷まし、一口。
普段だと真面目な顔をしている事も多いが、お気に入りの香りに薄っすらと柔らかな笑みを見せた。
■アンネリーゼ > 「ん、噂を小耳に挟んだ程度だったから、真偽なんて確認してなくてね。
それに、何となく貴女の様子が気になったから確認してもらおうと思ったのだけど……」
まさか本人に出会うなんて、と少女は柔らかな微笑みを浮かべる。
次いで中を見回せば、質のいい調度品が部屋を素敵に飾っているのが分かる。
華美にならず、かといって貧相でもない。目利きね、と内心で舌を巻いた。
「あー、あれね。昔取引した子達のアフターケアはしてるけど、新規はすっぱり断ってるわ。
別に貴女が責任を感じたりする必要はないのよ?私が、自分の意志で辞めたのだから、ね」
彼女は真面目な分、責任に囚われやすい雰囲気がある。それは美徳だが、少女の望む所ではない。
彼女を助ける為に仕事を投げ捨てた訳だが、それで生活が困窮すると言う訳でもない。
強いて言えば、仕事と称して自分の性欲を発散する機会が大幅に減ったのは、大きな損害かもしれない。
――ついでに貴族や王族の恨みや不興を買いそうだが、それは彼女の機嫌に比べれば些末事に過ぎない。
「あんなことがあったから、こういう場所で緊張するのよ。肌を合わせはしたけど、それ以外はしてないじゃない。
それに、今までは基本的に仕事の関係でしか人と接してなかったんだから、完全に初めてなのよ、こういうの」
少女からすれば、会いたい人が出来るという事が初めてで、それに付随する全ては初体験になる。
だから何とも落ち着かない。普段の様に、余裕ぶっていられないのだ。妙にどぎまぎしてしまう。
小心者、と言われればそうなのかもしれない。大人ぶっていても、根は繊細なのである。
目の前、湯気立つお湯が茶葉を通り、甘い香りの茶へと変わる。どことなく甘酸っぱい、好きな匂いだ。
差し出されるカップの中は、どことなく紅茶の様な雰囲気で、しかし見たことない水色に満たされていて。
「ありがとう。それじゃ早速頂くわぁ……ふぅ、ふぅ……ふぅ、ふぅ……」
普段の癖で、カップを両手で包む様に持ち上げると、ふぅふぅと冷まし始める。
猫舌という弱点持ちの少女にとっては、少々熱すぎる模様。目の前で軽く冷ましてから飲み始める彼女が少し羨ましい。
何となくむずむずとした恥ずかしさに襲われながら、何度かと息を吹きかけて。温くなったらようやく口をつける。
口の中に広がるのは、先ほどよりも強い甘酸っぱさ。舌に感じるのは仄かな甘みと、お茶そのものの渋みだ。
その全てが混ざりあい、甘美な風情を醸し出す。これは中々良い物を教えてもらった、と彼女の好みの味を噛み締めた。
とは言えそれも、彼女の笑顔のせいで途中からよくわからなくなってしまうのだが。