2017/10/27 のログ
■アーヴァイン > 思っていたより難しいと、彼女の言葉にそうだろうと言うように頷いた。
殻を取り除きながらも、気遣う言葉に大丈夫だというように苦笑いを浮かべてみせるも、続く言葉が今度は此方の心を擽っていく。
従者ではなく妻となり更に距離が近づいた結果か、感情の溢れ方も一層素直で愛らしい。
「喜んでもらえてなによりだ」
此方も微笑みで答えながらも、顔だけを近づけるとそのまま軽く唇を重ねて思いを伝えようとする。
先程からじわじわと可愛がりたいという願望を無意識に煽る彼女に、僅かながら鼓動が早くなるほどだ。
卵を差し出し、ボウルを彼女の前へと滑らせれば、再びあの小さな硬い音が、直ぐ傍で響く。
「そういう事だ、ボウルにそのまま落っことして潰してしまった娘がいたが……ショックで泣きじゃくられた時は大変だった」
今でこそ卵という安定したタンパク質源が手に入るが、奴隷だった少女達は異なる。
それ一つも貴重な食料であり、綺麗な食料だったからだ。
懐かしむように昔話をしながらも、彼女の手元へと視線を向けていく。
先程よりも慎重に卵が左右に割かれていくと……今度は絵に描いたように、綺麗に生卵が広がり、小さく拍手をして成功を称えた。
「良く出来てる、さっきに比べたらとても上出来だ。あと数回ほどやれば、丁度いい加減も出来るだろう」
僅かにしか変わらぬ喜びの発露だが、彼には十分に嬉しさが伝わる。
感情のコントロールが伝い分、子供のように感じる雰囲気に、優しく褒め言葉を重ね、片手で軽く頬をつぃっと撫でていく。
抱きしめたいところだが、何かの表紙に卵をひっくり返しそうな気もすれば、控えめな触れ合いではあるものの笑みはいつもと変わらず柔らかだ。
結果は小さな欠片が二つほど交じるものの、先程同じ要領で取り除いてしまえば綺麗なものだ。
ついでにと、卵の君のそばに浮かぶ、白い塊をトングでつまみ上げると、糸を抜くように取り除き、タオル地の紙へ落とす。
「そのまま焼くなら気にしなくていいが、溶いて使うならこれを取り除くといい。ここだけは綺麗に混ざらないのと、人によっては口に残る感触が苦手らしい」
殻座と呼ばれる君を支える白い柱だが、ここをどうこういう人間も少ない。
自分なりの経験から見出す小さなコツを囁きながらも、調理用のフォークを棚から取り出すと取っ手を彼女へと差し出した。
本に記載された作り方に習うなら、好みに応じて牛乳を入れてかき混ぜ、均一に混じったところでフライパンに流し込んでいく事になる。
流石に王城の厨房と言ったところか、かまど式ではなく、魔石を利用した安定したコンロだ。
吊るされていた小さいフライパンを手に取ると、取っ手に布巾を巻きつけるようにして準備し、いつでも火にかけられるようにしつつ、棚からオリーブオイルの小さな小瓶を準備していく。
■ルクレース > 「…はい。――っ……っ」
離れていても、彼のとなりにいてもいいのだという、証、立場そして、繋がりが不安を消して彼の帰りを待つことができる。
嬉しいと、素直に感情を出せば彼は優しく微笑んでくれる。
その笑みが近くなったと思ったら、触れるだけのキスを贈られて一瞬の間があった後、耳まで赤く染めて。
彼の内心はいざしらず、差し出された卵に一度小さく深呼吸をして早くなった胸の鼓動を抑える。
「飢えというのは、生命に関わる事ですし精神をすり減らすのでしょうね。」
一度飢えを経験すれば、その恐怖にとりつかれてしまうこともあるのだろう。
大切な食べ物をダメにしてしまったショックは、飢えを怖がる少女にとってはかなりのものだったのだろう。
自分とは異なる境遇は、想像することしかできないが泣きじゃくっていた少女も、今では笑顔を取り戻しているのだろうと確信があるのは、彼の手元にいたからだ。
そして、卵へと意識をむけて慎重に割れば殻がすこし混ざったがきれいにボウルのなかで踊っている黄身と白身。
拍手とともに褒める言葉に、微かな喜色とはにかみを浮かべて。
つい、と頬を撫でられるのに視線がまた交差して引きかけていた頬の熱が戻ってくる。
柔らかな笑みで、穏やかな瞳の色に見つめられると胸の奥から熱くてくすぐったい感触が溢れ出してくる。
割れた卵に混ざった欠片が取り除かれれば綺麗な黄色と透明な白身がつやつやと光っている。
殻を取り除いたトングが再びボウルの中へいれられると、黄身についた白い筋のようなものが取り除かれる。
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
調理台の上には、ボウルと卵だけしか置かれていなかった。
これが、料理経験者であれば過程を考えて器具などを揃えてから調理に入るのだろうが、まだそのあたりの容量は掴めていなくて。
カラザについてのコツに頷きながら、渡されたフォークを受け取り、それを両手で持ちながらレシピへと視線を落とす。
牛乳、塩、胡椒、牛乳の量を測って卵のボウルへと注ぎ、塩胡椒の項目ですこし困ったように微かに首をかしげた。
「この、少々という表記はどのくらい入れればいいのでしょうか。」
曖昧な表現は料理初心者にはなかなか難易度が高い。
今日は、彼に塩コショウの加減をお願いして味を記憶していくか。
卵を溶いている間に、彼が準備の行き届いてない部分を手伝ってくれるのにお礼をいって、一旦ボウルを置くと準備されたフライパンを火にかけて余熱していく。
かまど式だと、これもまた初心者に難易度が高くきっと黒焦げのものを作ってしまっていたことだろう。
これくらいですか?と彼に火加減を訪ねつつ魔石の火力を調整していく。
「――っ、え、っと…っ」
オリーブオイルを垂らしたフライパンに、卵を流し込めばじゅうっという音とともに熱した面に触れた卵がすぐに固まり始める。
本の文章で読むのと、実際に時間との勝負になりながら卵を上手に熱していくのでは大いに違い、少々慌てた様子で彼を振り返り。
■アーヴァイン > 軽いキス、じゃれるようなそれぐらいのものだが、変わらず彼女は初々しさを感じる愛らしい反応を見せてくれる。
周りに女らしさと、美しさを晒すようになっても、この恥じらいの色香は自分だけのものだと思えば、ちょっとした優越感じみたモノを覚え、満足げに口角が上がった。
「そうだな、特に満足に食わせてもらえてなかった娘は顕著だった」
それこそ飢えを釣り餌に、少女達を動かす奴隷商達も居たことだろう。
苦笑いのまま頷きつつ、彼女の予測は間違いなく持った通りの答えだ。
戦いの場、給仕、それこそ奉仕に勤しんでいるかもしれないがあの日の飢えは遠い記憶なのだから。
昔話をしつつも、小さなコツを伝え、それから準備は手伝うが敢えて細かく手取り足取りとは行かない。
戦いの構築とも似て、人それぞれに癖があるのを少女達を通して理解していたからだ。
レシピに従い調理を進めていく合間、器具を揃えていけば、問いかけられる言葉に呼び戻され、彼女が首を傾げた一文を覗き込む。
「グラムとかが決まってないからな、目分量だ。少しずつ入れて、フォークで掌に垂らして舐めて確かめるといい。少し塩っぱいぐらい、胡椒は辛味が舌に残らない程度……だが、気にしすぎないぐらいでいい」
胡椒は熱でも然程変わらないが、塩の味だけは異なる。
冷えると濃く、あたたまると薄まる塩の感触は、今なら少し強いぐらいができたてを食べる時の塩梅だ。
一応の目安は伝えが、苦笑いしながら添えた言葉通り、程々でいい。
恐らく、真面目な彼女だと細かに気にしすぎるだろうと、予測してのことだ。
任されれば、一例として岩塩をミルで磨り潰していくが、かなりアバウトに突っ込んでいく。
胡椒も同様だが、程よく混ざったところでフォークで掬った溶き汁を指に垂らし、彼女へ差し出す。
僅かに強い塩気と、香りだけが抜ける胡椒の度合いと、適当ながらにそれらしくなると実践してみせた。
「それぐらいで大丈夫だ。――慌てなくて大丈夫だ、少し日から遠ざけて、揺するようにすると固まり切らずに、徐々に火が通る」
火加減は動きもあり、彼女の後ろから手を回して取っ手を握る手に重ねていく。
薄膜に焼けていく卵を見やりながら、フライパンを火から少し離した位置へ上げれば、加減も感覚で行える。
スイッチのダイヤルでもある程度出来るが、こちらのやり方を先に教えておけば、後で併せて使えるだろう。
白い手に大きくも苦労の跡が残る肌が重なり、軽く左右に揺すっていくと、卵がよれていき、固まっていない部分が油膜のついた鉄に触れていく。
半熟部分と完熟部分が混じり合うように仕上げる動きは、夜食の日を喚起させるかもしれない。
「さぁ、仕上げていこうか」
鉄製のターナーを手に取ると卵の裏へ滑り込ませ、そこへ彼女の手を導き重ねる。
千切れないように、少しずつ鉄との合間に隙間を作り、優しく弾くようにして転がして、くるくると丸めていく。
慣れればフライパン自体を揺らす方法があるが、敢えて使わずにやりやすいだろう方法からと、一歩ずつ進めていけば、絵に描いたように楕円形に整ったオムレツが出来上がっていく。
「……しまった。ルーク、火から遠ざけてそのままだ」
ハッとしたようにピタリと手が止まると、少々慌て気味に彼女から離れていく。
皿を出していなかったと、小さめの皿を取りに食器棚へ走り……真っ白なそれを手に戻れば、フタをするようにフライパンの中へ被せた。
「よし……ルーク、火傷しないように真ん中に手を添えてひっくり返してごらん?」
安堵の吐息を零し、それから薄っすらと微笑みながら促す。
上下を入れ替え、フライパンをどけたなら、黄色味が均一に広がった綺麗なオムレツが出来上がっているだろう。
■ルクレース > 「目分量、ですか…。」
むぅ、と微かに眉間に皺がより塩と胡椒のミルを見比べる。
レシピ通り作って味の差がでるのがこの部分だろう。
塩が強めなのが好きであれば、塩がすこし多くぴりっとスパイスをきかせたのが好きであれば、胡椒が無意識にでも多くなる。
今回は、お手本ということで彼に塩胡椒を振ってもらった。
よくまざった溶き卵を少量指にたらされたものをぺろっと舐める。
「塩気が薄いように感じるのは、焼いたあとで濃くなるからなのですね…。」
温度と、一緒に焼くことで水分が蒸発して塩分濃度があがる。
すこし薄いかなというくらいがちょうどいいのかと、舌で覚えていきながら彼の好みもまた覚えていく。
「火加減をかえるのではなく、フライパンを離すのですか?こ、こう、ですか?」
手早さが求められる場面で、なれずに慌てるルークの後ろから彼が手を添えて誘導してくれる。
重なる手に今は、焼けていく卵に必死で頬を染めている余裕もなかったか。
火から少し離せば、熱が弱まり卵が固まるスピードが落ちる。
手首の回し方、火とフライパンの距離などを手とり教えてもらいながら卵が次第に固まっていく。
下のほうはしっかりと、上の方はぷるぷると半熟にできあがっていくのは、夜食で食べさせてもらったふわとろの食感を思い出させる。
タコなどで硬くなった皮膚の感触を伝えつつ、ルークの手を暖かく包み込む手が導いていく。
「はい…。」
仕上げ、とターナーを滑り込ませたあとルークに握らせてその上から手が重ねられる。
オムレツのオムレツたる所以の形へと形が整えられていく。
彼の手に導かれながらぎこちない動作でターナーを動かして、フライパンを回していくとまあるいオムレツが出来上がっていく。
この瞬間は、本当に魔法を見ているような感覚になる。
作り上げていくのを、彼の補助してもらいながらとはいえ体感できるのは、何かを作っている実感があって楽しくなってくる。
「――はい。」
しまったと、何かに気づいた彼が手を離すと火から離した場所でフライパンを持ったまま固まってしまう。
棚から取り出された皿を見て、そこで初めて皿がなかったことに気づいた。
「ありがとうございます。真ん中に手を添えて…え、これって大丈夫なのでしょうか…。こう、ですか?」
かぱっとかぶせるようにフライパンに白い皿が置かれ、言われるままに手を添えると彼の言葉の意味がわかった。
このままひっくり返して皿のほうにオムレツを載せるということだ。
少し腰が引けながらも、タイミングをはかり、えい、とフライパンをひっくり返せばアーモンド型になった綺麗な黄色のオムレツが白い皿の上に産み落とされた。
「―――……。」
手伝ってもらったとは言え、生まれて初めて作った料理に瞳を輝かせて喜色をにじませて見つめ。
ナイフできれば、とろっとした半熟部分が溢れてくることだろう。
■アーヴァイン > 「大まかでいい、人間の味覚はそこまで正確じゃないからな」
それこそ、ワインを選別する様な仕事でもない限りは、異様に細かくチェックする必要もない。
思った通りに考え込んでしまう姿に、苦笑いを浮かべながら味を整えていき、確かめる言葉に小さく頷いた。
「そっちでもいいが、強火の上に置くと、調整する間に焼けてしまうからな。こっちで調整できれば、とっさに加減できる」
ダイヤルを弄る合間に焼けていたとなりそうだと、ひっそりと思っていたのもあり、敢えて感覚な方法で教え込んでいく。
導くように綺麗に仕上げていく合間、加減の言葉には小さく頷きながら、導いていく。
ターナーの使い方、仕上げ方、一発で覚えられなくとも、感覚で残ったところから練習すれば、勤勉な彼女ならあっという間だろうと思いつつ、優しく教え込む。
数分という僅かな合間の調理、最後の仕上げに皿を被せる。
「大丈夫だ。本当はターナーで取るか、フライパンを傾けても出来るが…その方が慣れないうちはいい」
ここまで来て千切れたらガッカリだろう、引け越しの様子に笑みを浮かべつつもそのオチは伏せて、簡単な方法として伝えていく。
そして顕になった初のオムレツは、綺麗な楕円形を描くふっくらとした形。
問いかけようと思ったが、その顔を見上げれば問う必要もない。
薄い表情ながらも喜びと感動の具合が瞳からありありと感じる様子は、幼子のようにもみえて、口角が上がっていく。
「よく出来た……ルークは料理上手の奥さんになれるな」
くしゃりと黒髪を優しく撫でていき、初めての料理の成功を祝う。
冷めないうちにいただこうと、ナイフとフォークを準備すれば、蕩ける断面を広げつつ、半分にして分けていく。
中の具合の良さに、よく出来ていると改めて褒めて、もっともっとと心をくすぐりながら。
今宵の夜食は優しく質素なものだが、そう遠くないうちに自分が料理を期待する日が来るのが目に浮かびつつ…今宵の静かな一時に幕を下ろすだろう。
■ルクレース > 「はい。確かにあっという間に卵が固まってしまって、もたついてしまうと焦げてしまいそうです。」
機械のような精密さではなく、人の味覚の曖昧さそれがまた料理の個性を引き出すのだと実感できるようになるのはまだもう少し先の話だろう。
火加減の調整の仕方も、確かにそうだと納得して。
ターナーを操る際の手首の使い方、フライパンと卵の表面のはがし方など一つ一つ重ねた手の動きに導かれて動かしていけば、きれいに形が整っていく。
完全には覚えられなくても、次回以降も確実に彼に教えてもらった感覚は残りいずれ使いこなせる日が来るだろう。
「はい、分かりました。」
中が半熟のオムレツは非常に柔らかく、なれない手つきで持ち上げればスクランブルエッグに早変わりしてしまったかもしれない。
フライパンをひっくり返すのにも、結構勇気がいったが落とさずにひっくりかえすことができた。
「…よかった、です。殆どアーヴァイン様に手を添えていただいていましたので…。ですが、以前作っていただいた料理屋、アーヴァイン様がお好きなもおを作れるようになりたい、です…。」
くしゃりと髪を撫でられるのに、やはり嬉しそうにしながら、目標を口にして。
二人で肩をよせあって椅子に座り、ナイフがいれられればとろとろの半熟部分が流れ出して食感も良い。
食べながらも幼子を褒めるように、何度も褒めてくれるのにはにかみながらも向上心をくすぐられて行く。
そんな風に穏やかな時間を過ごして、後片付けを終えると二人は居室へと戻っていった。
ご案内:「王都マグメール 王城」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルクレースさんが去りました。