2017/08/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 第零師団執務室」にアーヴァインさんが現れました。
■アーヴァイン > 近況、あの祭を境目に色々と動き始めている。
個人的な大きなことと言えば、従者であった彼女を身籠らせたことだろう。
だが、それ自体が大きく響くのは自分と義父相手ぐらいか。
それよりも大きな流れと言えば、物流と組織の規模だ。
「……ティルヒアの方は順調、か」
報告書に目を通しつつ、要請内容を確かめた上でサインを入れると、トレイへと戻していく。
戦争の舞台となったティルヒアは復興を目指している。
吸収した王国側からしても、野放しにするつもりはなさそうだが、この国は国の形を取っていても、いろんな思惑が混じり合った石の集まりであり、一枚岩ではない。
そんな中、率先してドラゴンフィートのメンバーと物資をティルヒアに送り、復興作業に当たらせたのだが……ここには思惑がある。
まずは、生活基盤の復旧と物流と金の巡りを正す。
文化人が文化人らしく生きれる環境を整えるのは、けっこう大変なもので、始まってから随分たった今、担当した区域を完了させた。
場の人心は掴んだので、仕事と組織の支部を拡大させる。
王都からは遠く、手の届きづらいところにある支部は、ドラゴンフィートよりも自由に行動が取れるだろう。
事実、一般事業にも手を出したことで、そこに生まれる業務を熟すべく人材と仕事を行き来させ、以前よりもラインは太く強固になった。
その結果は、現状の収益額に全て出ている。
報告書を読み終えたところで、向かい側にある扉が開く。
服装の上からも分かる体付きのたくましさと、覗ける腕に残った傷跡。
祟り神と呼ばれ続ける義父、ルーアッハの姿だ。
「……呼び付けてすまない、直ぐに話しておきたいことがある」
『どうせ駒のことだろう』
どうやら孕ませたことは筒抜けらしい。
もしくは、凡その察しがついたか。
この男ならどちらかといえば後者だろうと思えば、苦笑いを浮かべつつ小さく頷いた。
向かいの席へドカッと乱雑に座る義父の目は、そんな事のために何故呼んだと言わんばかりに不機嫌だ。
■アーヴァイン > 「察しのとおりだ。彼女を正妻にしたい」
ずっと彼女が懸念し続けたこと、それは自分が認められないという立場の弱さ。
駒と呼ばれ、育ち、使われ、そして投げ渡された。
人の心を得ても、駒という立ち位置に縛られ続ける彼女が従者であり続けたいと願ったのは、唯一の場所が欲しくて堪らなかったからだ。
変わらぬ仏頂面で告げると、ぴくりとルーアッハの眉が跳ねる。
『ふざけるな、駒如きを』
「なら言わせてもらおう。俺に他の王族の娘が付けば、違う思惑が入り込むぞ?」
国を維持することを考え続けた義父からすれば、私利私欲にまみれた他の王族は屑以下にしか見ていない。
誰が頭になろうが関係ない、国というモノを作るのはそれを支える存在合ってのことだと、冷徹ながらにそこはまともに考えている。
故に、他の王族が口出しをするキッカケになるというのは、血の維持からみれば、酷く相性の悪いことだ。
口を噤んだ義父の前へ、放り出したのは、彼女の生い立ちについて調べた書類。
「ルークの血筋は、間違いなくカルネテルのものだ。そちらが駒扱いを辞め、娘と見なせばすべて終わる」
彼の娘が婿養子を迎えてめでたく結ばれた、そうなれば誰も口出しはできない。
仮に第二、第三と夫人を迎えたとしても……その力は、正妻という存在に遠く及ばないものだ。
つまり、彼が望む血を維持する事も、口出しされない環境も揃って整う。
これが彼女に告げていた、言いくるめる手段としたカードだ。
義父からは言葉はなく、無音の時間が過ぎ去る。
数秒してから、ルーアッハは苦虫を噛み潰したように舌打ちした。
『駒を娘にするつもりはない、貴様が娶れ。代償ではないが、お前に一つ仕事をやらせる』
腹ただしいほど思惑は重なったらしい。
乱暴気味に答える義父が机の上においたのは、この国の地図だ。
特に何か書かれたわけでもない、何処にでも溢れていそうな地図である。
『お前はこの国の位置をどう思う?』
「……危ういとは思っている」
淡々と、思ったことを告げる合間も表情は崩れない。
主戦場の向こうは敵国、その直ぐ側には魔族の国。
そして王都は前にその二つを正面に捉えながら、退路は海しかない。
そもそも、戦争など仕掛ける様な余裕があるものとは思えない地形にいたのは、かなり前から思っていたことだ。
■アーヴァイン > 『分かっているなら話は早い。あの馬鹿な戦争をした時に、シェンヤンから敵が雪崩込まなかったのは運が良かっただけだ。次、誰かが馬鹿をしてみろ。泥沼の戦争の幕開けだ』
主戦場は膠着状態が続き、長いこと正面衝突の戦闘は始まっていない。
小競り合いが多く、大きなものと言えば祭り前に奇襲を狙った戦い…第7師団が退けた戦いぐらいなものだろう。
だが、魔族たちとの戦いの足がかりとなるタナールの戦況も一進一退の繰り返しで終わりが見えない。
国には火は届かないが、この国は一歩間違えば三つ巴の殺し合いに巻き込まれる可能性があると、二人は考えていた。
『お前の組合とやらに、正式な命令書を出していい。各戦線の情勢を見張れ。防衛に関わる戦いをしに行くのはいいが、喧嘩を売りにいく馬鹿がいたら止めろ。そこから崩れて、国を潰されたら溜まったものではない』
功を求めて、何処かの戦線で頭一つ飛び出せば、そこから敵が押し寄せる。
押し寄せた敵に目を向ければ、逸らされた敵が背中を狙う。
それだけで崩れはしないが、三つ巴の殺し合いが始まるのは目に見えたことだろう。
義父としては、最悪なシナリオである以外の何者でもない。
「師団クラスになると、正面衝突するのは無理がある。あくまで監視と報告に徹する。一応忠告等はするが、止まらないのがいるのも知っている」
『……分かった、だが馬鹿が居たら教えろ』
話は以上だというように席を立つと、地図をそのままにして義父が立ち去る。
一人残された中、地図に掌を乗せ、指先が魔族の国に重なっていく。
彼が言う馬鹿に引っかかりそうな存在に一人、心当たりがあるからだ。
「……」
動かないでいてくれればそれでいい、そう思いながら地図を畳むと、引き出しの中へと放り込む。
■アーヴァイン > 夜更けとなり、日付が変わる。
新しい週が始まると同時に、新たな仕事が始まる。
チェーンブレイカーの増員、各戦線から少し後ろに監視所の設置、監視。
そしてタナール砦周辺も同様だ。
戦う立場という、隷従とは異なるものを手に入れた代償ともいえるか。
それでも、外で人らしく笑える事と引き換えなら、牢獄で食いつぶされるよりはいいと笑うのも知っている。
「……装備と訓練を強化しないとか」
秘書の娘にはまた面倒を掛けることになるなと思いながら苦笑いを浮かべると、紙を手に取り、羽ペンを走らせる。
ランプの油が切れる頃には丁度仕事を終え、寝床につくのだろう。
ご案内:「王都マグメール 王城 第零師団執務室」からアーヴァインさんが去りました。