2017/08/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/騎士訓練所」にティエンファさんが現れました。
ティエンファ > 少年から青年に渡る年頃の男が一人、そこに立っている。
普段であれば騎士達が剣戟を合わせる音、気勢を込めた声が跳ね上がるそこは、
丁度騎士達の勤務の穴となり、人影は少ない。

砂敷きの土に立つ姿は、黒髪異邦、帝国生まれと一目でわかる風体。
軽く伸びをして、首を鳴らす。 素肌に羽織った長衣の、大きく会いた胸元には、異国の刺青が覗いていた。

ティエンファ > 何故、異国の、見るからにならず者と言った様子の少年が騎士の訓練所に入れるのかと言うと、
まあ、用心棒や捕り物の仕事をしているうちに、騎士と知り合って仲良くなって…
と言う所なのだが、その理由については割愛する。
訓練所を使う騎士達と目が合っても、片手をあげて挨拶すればそれで咎められもしない程度の様子だった。

空は曇り、湿り気はあるが涼しい風が吹いている。
腰の後ろほどまで伸びた長い髪が揺れ、その髪を首後ろでまとめる銀の飾りが、薄い太陽光を受けて煌めいていた。

ご案内:「王都マグメール 王城/騎士訓練所」にシュカさんが現れました。
ティエンファ > ではもう一つ、何故そんな少年が此処に居るかと言うと…。

「あァ、今日は鍛錬なんだけどさ、ちょいと人に果たし状っての貰っちゃって!
 相手もなかなかやり手って話だから、折角だし騎士のオッサン等にも見せたいと思ってね」

通りかかった顔見知りの騎士にそう言って返す。
時々、騎士に交じって鍛錬を積む少年だが、今日の相手は騎士ではないらしい。

「民間の自由広場じゃないって? まァそう言わないでよ、
 街でやってると自警団が駆け付けたりして、意外と面倒なんだぜ
 …この間なんて、一人で型稽古してたら、不審者が居るってんで巡回の騎士が剣握って駆け付けちゃったしさ…
 …いやほら、悪かったって、だから再発防止も兼ねて、ここかりてるんだって!」

壮年の騎士の後ろから、その時駆け付けた騎士が顔を出し、説教を始めようとしたので、慌てて言葉を重ねた。

シュカ > いろんな意味で一汗かいた額をぬぐって、王城の門をくぐる。
足を踏み入れることなど滅多にない場所、やや物見遊山な雰囲気も拭いきれず、辺りを不躾に見渡すと、
時に衛兵らしき男が眉を顰めて怪訝そうにこちらを見遣る。
何もしません、をアピールするように、手をひらり、とさせて気のない様子を見せてから歩みを進めるのは訓練所。

そちらへと脚を向けて中へと入ると、幸いにしてお偉い騎士サマたちはさほどいない。
これ幸いと中へと入ると、ちょうど話しをしている人物が視界に入る。

「よォ、ティエンファ。久しぶり、生きてて何よりだ。今日はさんきゅ、宜しく頼むワ」

手合せに、と指名した人物を相手に、気安い口調で声をかけるさまに、
周囲の騎士たちが、これが相手?みたいな視線を一斉に向けてくる。
何しろこちらは、彼らにとっては初見の相手だろう、見た目からも特段強そうなわけでもなし、中には失笑する騎士もいなくもない。

そんな状況を気にする風わけでもなく、そちらへと歩みを向けて、
よろしく~、とやはり軽い口調で、本人とそして顔見知りらしい騎士へと笑みを浮かべて挨拶ひとつ。

ティエンファ > 現れた、少年とはまた違う顔立ち異国の青年。
そちらに顔を向ければ、軽く手を振って返す。
騎士達に一声かけてシュカの方に歩けば、ひらっと振った手を互いに打ち合わせて笑った。

「おうよ、シュカの兄さんも元気そうで!
 酒場以来会ってなかったのに、いきなり果たし状なんて、中々熱いじゃん!
 こちらこそよろしく、だぜ!」

に、と歯が覗く明るい子供っぽい笑顔。
しかし、長衣から覗く刺青が刻まれた胸板は鍛えられた盛り上がり。
握手で触れ合った掌は、シュカと同じように、戦う物らしい硬さがあった。

手を離し、ふらっと気楽な足取りで空いている場所に歩けば、振り返って。

「で、どうする? 武器ありか、素手だけか、何かルールがあるなら乗るぜ」

シュカ > 酒場で管を巻いていたのは、どうやらそれはごくごく小さな彼の一面であったらしい。
こうして素面で逢えば年相応の少年である。
おう、と返事をして、確りと手を取ったあと、

「まーな、俺の場合は何とか生きてる、ってのが正解だけどさ。
そーだろー、そーだろー。果たし状って、俺、ちょっとやる気出しちゃったよ的な?
思い立ったが吉日って言葉が、俺の国にはあってなぁ」

そう、突然思い立ったのである、手合せを。
そして仰々しく、『果たし状』なるものを書いてみたのだが、
閉じ方が違ったり、字が違ったり、慣れてないのが丸わかりなそれでも、受けてくれた相手に感謝である。

のんびり相手に付いて歩くと、お、という顔をして一旦足を止める。

「そうだな、俺の得物はコイツだが…まぁ、素手といこうか。
俺はお前さんの実力を知らんからなぁ、ナニが得物かも知らんし、ここはひとつ、俺たち自身の力ってのはどうだ?」

言いながら、帯刀していた二口の刀と脇差を鞘ごと抜く。
無手というのは不得手ではない。むしろ得意である。
別に、己の得意分野で、というわけでもなかったが、何となしに無手での手合せのほうが、武器を持つよりは加減もできるし、
相手の実力如何によっては、怪我をさせずに済む、となんとなーく年齢差から言って、自分が上、みたいな感覚があるのか、
そう提案しては、邪魔にならぬよう、端の方へと赤銅拵えの二口を置く。

「ルールは…そうだな、とりあえずウォーミングアップもかねて、先に拳を入れた方が勝ちってのは?
部位は問わねえし、足を使っても構わん」

手合せというには実に軽い提案をして、首を傾けて相手を見る。
しなやかな体躯ではあったが、やり手なのはギルドの評判からも知っていたし、
先ほど手を取ったときに解ったが、ずいぶん鍛練も積んでいるのだろう。
それでも、とりあえずは安全第一、彼の実力を測る意味での提案もあった。

ティエンファ > 依頼の事で悩んでいた時に出会った青年には、少年の落ち込んだ姿の記憶が強いだろうけれど、
こうして経ち合えば、背筋の伸びた明るい姿。

「思い立ったが、か、良い言葉だなそれ!
 手紙ってのが良いな、思わず読んでて背筋が伸びちまったよ、俺
 でも、こうやって立ち合いを望まれるってェのは、こちらとしても嬉しいもんさ!
 だから、ありがとな、シュカの兄さん!」

人懐こい笑顔を返して、少年は無手のまま軽くストレッチするように腕を回す。
首に手を当てて軽く鳴らしてから、青年の言葉に目を瞬かせる。
聞くからに、こちらを慮るような言葉。 少し眉を上げれば、

「それで良いのか? そりゃあー…随分、お手柔らかな」

にや、と口の端を上げて笑った少年は、構える。
シュカがあまり見覚えがない、帝国の拳法の、腰を落とした構え。
大柄とはいえず、肥大した筋肉も持たない少年だが、すると意外に堂に入ったどっしりした所作。

「ウォーミングアップと言わず、気合入れていこうぜ
 気の抜けた拳を見るために、あんな風に手紙を送った訳じゃあないだろ?」

表情も声音も変わらないが、シュカに伝わる、矢先を向けられるような感覚。
少年は、既に覚悟を入れていた。 シュカの心が決まれば、次の瞬間に放たれるだろう。

シュカ > 管を巻いていた少年はそれはそれで弱さと強さを内包した危うさが目を引いたが、
聡明で快活な少年である、という印象が今後は根強く残ることになるだろう。

「いやいや、お礼を言われると何ともくすぐったいけどな。
やっぱり人間、日々鍛錬だよな、と真面目な人間が思いそうなことを思っちゃったわけ。
で、白羽の矢をずきゅんとたてたわけです、お前さんに」

二口の得物がなくなると、やはり身軽になったのは事実。
解すように軽く首を回し、手首も回すと、若干動きにくい恰好ではあったが、それを厭うことなく、少年の正面へと向かう。

すっと目を細め、構えた少年を見る。
なるほど、形に覚えはなかったが、無手もイケるらしい、それはその構えからして見て取れた。

「これは…なるほど、心して掛からんとな」

ふ、と思わず口許に笑みが浮かぶ。
久々に行う手合せに少々気が昂ぶってきたのか、綻ぶ表情とは裏腹の言葉が口を付き。
こちらも軽く足元の砂を慣らしてから、左腕は心の臓あたりに、右手はやや上段に構えると、

「はは、言うねぇ、少年。…お前さんを指名したのは正解だったな。
じゃあ、…加減はナシ、だ。お前さんも、なっ………―――っ!」

ぞくりと身が震えるような高揚感。
鋭利な闘争心といえばいいのか、まっすぐに己へと向けられるそれは、ともすれば気圧されそうになるが、
短く言葉を発し、そして丹田を意識したように、息をひゅっと吸いこんだかと思えば。
一気に距離を削ぎ、馬鹿正直に少年の左頬を狙うべく右の拳を引いて、そのまま迷わず拳をおろし―――。

ティエンファ > こちらが抱いてた、気の良いかるい兄ちゃん、と言うイメージも、きっとこの戦いを終えた所で変わるだろう。
相変わらず軽い口調で言いながらも、自分を見る目の変化にこちらは口元を緩める。

「そうそう、意外と強いかも知れんぜ、俺は
 ご指名、有難うございまーすってなもんだ …行くぜ!」

中上段のシュカの構えに対し、こちらは両手を腰の高さに構える下段の構え。
こちらの殺気を意に介さずにまっすぐ進みだしたシュカと、少年の一歩は同時。
左頬に放たれた拳を、自分の左手を下から跳ね上げる事でいなす。

「ふ、ゥッ!」

一呼吸、その間に、いなしたシュカの右腕に蛇のように少年の手が絡み、半歩横にかわす。
シュカの突進の勢いに合わせて自分の力を加え相手の体を崩しながら、その脚に向けて蹴りを放つ攻防一体!

シュカ > 「…っ、と!」

当然のように一撃目は難なく交わされ、往なされた拳は空を切り、身体のバランスを整えようと、ざっ、と片脚が地面を削り踏ん張る。
乾燥した砂塵が僅かに舞うが、構わず相手の動きを素早く視線で追えば、

「―――っ!」

視線が捉えた時には、しなやかに伸びてきた手が腕に絡み、己の勢いを利用したのだろう、
驚くほどあっけなく、身体がぐらりと揺れてバランスが崩れそうになり、
反射的に絡まれたその少年の腕を掴んだが遅かった。

「っ?!」

崩れそうになる身体のバランスを取ろうと、踏ん張った両脚の踵が、ざざっと砂を蹴る。
が、その一瞬、足を払われるかのように蹴りを繰り出され、難なく膝が崩れてしまい。
反射的に相手の右腕に視線を馳せ、もし、その右腕がこちらへと向けられるならば、
利き腕ではないにしろ、左拳がそれを払うべく動くはず。
でなければ、無様に膝を付いて、彼の拳を受けるかもしれない。

ティエンファ > 自分の腕を掴むシュカの強い手。 咄嗟に掴んだとはいえ、その動きは素早く、内心で少し驚く。
バランスを崩したシュカと腕を繋いだまま、膝を折る方向に腕を沈めて完全に膝をつかせる。
しかし、同時に放った右拳は、シュカの左拳にぶち当たる。

「! …ははァ! やるじゃんシュカの兄さん!
 でも、あんな正直な大振り、俺じゃなくても避けられるぜ?」

こん、と軽く拳同士を打ち合わせて繋いだ腕を放し、一歩二歩、バックステップで間合いを開ける。
そこで、先程と同じ構えを取り、シュカが立ち上がるのを待つ。

「…冒険先でもあんな風にやってるんじゃあないだろ?
 さ、ウォーミングアップなんて言ってないで、本気出せよシュカの兄さん!
 次は、拳ごと殴りぬいちまうぜ?」

挑発の様な軽口を言いながらも、目は穏やかに。
しかし、シュカが構えれば、その瞬間に、滑るようなすり足で、一歩。
そして、そこから加速して、大股の一歩!
シュカの左肩、右脇腹と拳を放った後に、ぐんと真下に身をかがめての、地を滑るような足払い!

上、中、下の流れる様な攻め分け、シュカはどう返すか!

シュカ > 確かに鍛えてはいるが、少年らしいしなやかさを纏った彼のどこにそんな力があるのか、と思うほど、
彼が放った拳は重く、骨が軋むような衝撃に、思わず息が詰まる。
意外と強いかも、の言葉は、ちゃんと自分を理解しての言葉だったわけだ。

「こ、ン…のっ!」

少々大人げないかもしれないが、そんな声が、奥歯を噛み締めた唇から零れる。
少年を前に、無様に膝を折られた恰好の上に、拳を打ち込まれたのだ。
周りの騎士たちが歓声めいた声と共に野次るものだから、
ついつい苛立ちを隠せぬような声が零れてしまったのは、少々冷静さを欠いているが故のこと。

「お前さんの実力を確かめたってやつだ」

と負けず嫌いが滲む言い訳をしてから、腰を上げて、間合いを取って、はっ、と息を吐く。
じん、と打たれた左の拳は熱を帯びていたから、ひらとそれを振ってはみたものの、使えそうではあったが、
二檄目を食らえば、おそらくそれで終いだろうとは想像に難くない。

膝の砂埃を払うようにしていれば、どうやら己はヒール役らしく、周りの声援は目の前の少年に向けられている。
見た目からも、華麗な技からも、まぁ、それはうなずけるわけで。

「とはいえ、無様に膝を折られたお仕置きだけはしとかんとな」

気を取り直して、とばかりに再び構える。
が、今度は先ほどよりも、ゆったりと、やや両脇を拡げるような構えを見せて、先方を見る。

そして、その一瞬。
ざっ、と一気に詰められた間合いに、ひゅ、とまた短く息を吸ったあと、左、右、と何とか上体を引き、そして翻す。

「…っ、二度も膝を突くかっ!」

滑らかに、まるで舞を見ているかのようなしなやかな動きで伸びてきた足払いに合わせ、
寸でのところでそれを避け、どうにかバランスを保つと同時に。
屈みこんでいた少年が立ちあがる前か、それとも同時か、
軸足にぐっと力を入れ、そして思い切り空を切るように利き足からの回し蹴りを放つ。

ティエンファ > 「はは、そうかい! でも、まだまだ見せ切ってないぜ
 シュカの兄さんも、まだまだ出せてないだろ? 引き出して見せるぜェ」

負けん気の強いシュカの言葉を聞けば、ちょっと目を細める。
緩い普段の様子の中に、熱い物があるのだと見えてくる。 そうでなくては、と思う。
戦いとは、削り合うからこそ火花が散って面白いのだ!

いつの間にか周囲を囲むように騎士が集まり見学している。
しかし、少年の目は野次や囃す声にも揺るぐ様子を見せず、
ただただ、相対するシュカの目を真っ直ぐ見つめていた。
楽しそうに輝く目が歩染まった瞬間、攻勢が始まる!

上半身を素早く揺らして拳を避ける青年の動きに、ひゅう、と唇の隙間から称賛混じりの呼吸を漏らす。
そして、相手の視界から消える様な下段に屈んだ一撃も避けられれば、
ははァ!と楽しそうな声とともに、地面について居た両手に力を籠め、
放たれる回し蹴りから、身体を地面に投げ出すようにして転がって避ける。
シュカの蹴りが髪をさらう感覚、蹴りが巻き起こす風が、その威力を伝える。

「こりゃァ、当たったら一撃だな!
 身体に当たったら負けってのはアレかい、兄さん、
 一撃ありゃあ十分ってェことか!」

シュカとすれ違うようにして転がれば、砂に塗れた身体を払う事もせず、
地面から伸びあがるような、顎を狙った直拳一撃!
…を、途中で引き戻して、くるりと身を翻しての横面を狙った勢いを乗せた裏拳!

シュカとは違い、手数で翻弄するように、しかし舞よりもなお、鋭く!

シュカ > 「くそ…っ、俺が遊ばれてどーするっ」

全く、可愛い顔してやってることは、本当に容赦がない。
大人に対してもう少し花を持たせろ!とでも言いたいが、そんな少年にいいように遊ばれる自分も情けない。
くそ、と苛立ちを隠さずに舌打ちすれば、少々大人げない負けん気がむくむくと。
しかも満場一致のヒール役となれば、反骨精神に火もつくわけで。

ひゅ、と空を切った利き足は、彼の身体を捉えることなく、地面を踏む。
ちぃ、と腹立たしげに舌を打ち、相手の動きを目線が追う。

「ったく…っ、だったら…大人しく当たっておけってっ!!」

回し蹴りを繰り出したため、僅かに残る遠心力でブレた軸を整えようと足を踏ん張ったのと、
相手の拳が伸びてくるのはほぼ同時。
先ほどはそれを避けた、が、今度はそうはしなかった。
顎先へと、一瞬、ぐん、と腕が伸びたみたいに感じるしなやかな一撃を、迷わず利き手の手首の上あたり、所謂手根で受け止め、
………ようとした瞬間。

「ぅ、ぉいぃいいっ!?」

さすがに踏ん張った先、それがフェイクだったと気付けば、素っ頓狂な声が上がり、
避けるのはすでに間合いからしても無理、と判断して、咄嗟に両腕を面前でクロスさせてその拳を受けると、
ざざっ、と踵が砂を削るほどで、裏拳とはいえ、十分な威力であることを痛感した。
じん、と腕から肩に掛けて衝撃で痺れが伝う。

まったくもって、次から次に攻撃を仕掛けてくるとは、若いって素晴らしい、とかなんとか、
オッサンじみた考えが少しばかり脳裏を掠めたものの、それを振り払うように、腕で受けた拳を払うと、
折しも互いに間合いに入ったままである、そのまま間髪入れずに、
右の拳が…いや、正確には、手首の少し上、手根辺りを突き出しての掌底打ちを繰り出して。
狙ったのは、頬、ではなく、腹を、である。

この至近距離でならいける、と踏んでの突きだったが、相手にしてみても、こちらは当然その間合いに入っているから、
一か八か、果たしてその突きはどうなるか。

ティエンファ > 「楽しんでいこうぜェ?」

毒づくシュカに向け、にぃ、と口の端を上げる少年。
好き好んで武者修行、用心棒なんて選んでいる人種なのだ。
シュカの脳裏に、「戦闘狂」などと言う言葉が浮かぶだろうか。
反骨心を燃え上がらせるシュカに対し、こちらは純粋に、シュカとの手合わせを喜ぶように目を輝かせる。

「当たったらおしまいなんだろ? ホントは俺も、ガツガツ殴り合う方が性に合ってんだけどさ
 そんな直ぐに当たったら、持ったいない…さッ!」

虚実混ざった動きで放つ裏拳、それをも止めるシュカの防備。
体捌きの勢いを乗せたその一撃を辛くも受け止めた様子に、
楽しそうな笑みが、獣の笑みに変わる。 口元から覗いた歯は、牙のように光る錯覚。

払われた肘を畳み、足裏を軸に身を入れる。 半歩に満たない踏み込み。
それと同時に、打ち込むのはシュカと同じ中段、頂肘!
どご、と鈍い音。 肉を打つその生々しい音に、観戦していた騎士達が言葉を失う。

…シュカの掌底は少年の横腹、筋肉が薄い場所を的確に打ち込まれている。
その手の根元に確かに臓腑を打つ感触、筋肉が歪む感触。
同時に、シュカの鳩尾に埋まる肘の威力は、シュカの掌底の威力で半減していた。
果敢に攻めるシュカの動きに、僅か、肘の気道が想定よりもずれたのだ。
少年の口から息が漏れる音、そして、膝をついた。

「げほっ、けほっ…あー、こりゃあ、一本取られたか…ちょいと兄さんのが早かったかな…
 あそこで一歩でも退いてたら、俺が打ち抜いてやってたのに…兄さんの気合勝ちだな…ッ」

シュカ > 「おいおいおいおい、可愛い顔して、お前さん、とんでもねぇな」

若干息が上がって、何度か拳を受けた両腕は少々重たくなってきているし、じんわりと滲む汗がまとわりついてくる。
酒場で管を巻いていた可愛い少年、はすでにこの段階で全消去。
純粋に手合せを…いや、この分だと、ともすれば死合いでさえ嬉々としてやってしまいそうな少年を見据え、
思わずため息交じりな言葉が零れて。

「お前さん、蛇の生殺しってやつ、知ってるか?今のお前さんがやってるよーなこった!」

どうにか凌いではいるが、分が悪いのはこちらの方である。
どうやら、活かすも殺すも、目の前の少年の匙加減らしいことをその言葉から察すれば、全くもって末恐ろしい少年であった。
このままだと、本当に生殺しになりかねん、と繰り出した…正直なところ、最後の賭け。
一か八かの掌底突きは、間合いは十分であったとはいえ、即ち相手にも同じことが言えた。

腕を一直線に真っ直ぐ突き出した瞬間、掌へと返ってくる肉の感触。
鍛えられたとはいえ、当たり所の感触からして、筋肉の感触はすくない。
と、遅れて己の鳩尾に走る痛みに、僅かに息が詰まる。
間合いは互いに十分だったが、体格差もあり、リーチの長さも手伝って、
運よくこちらの間合いで打ちこめただけ運があったのかもしれない。

「っと…」

膝を突くより早く、ボディへと打ち込んだ手が、相手の身体を支えるべく背に回され。
咽た相手の背をぽんぽんと撫で叩いては、

「いや、あの時お前さんの踏み込みがもう少し深かったら、俺、今頃あの世だって」

相手の踏み込みが僅かに深ければ、おそらく己よりも先に、相手の拳が鳩尾を打っていただろう。
苦く笑いながら告げる言葉は、相手に対する賞賛であり、確かに彼が言うように、こちらが僅かにでも身を引いて、
突きのタイミングが遅ければ、それこそ再び膝を突いた状況になったはず。

「はぁ…にしても、お前さん…強いな。いや、参った。正直…まだまだひよっこかと思ってたことは詫びるよ」

辛うじて大人のメンツが保てました、みたいな安堵の表情を浮かべながら、素直な感想と詫びを入れ。
そして、支えるために回していた腕を解き、砂が付いているその長衣をぽんぽん叩いてから、
思い出したみたいに、ふぃー、と息を一つ吐いて、充実感に僅かばかり浸る。

ティエンファ > ドン引きするシュカの表情と声に、少年は、ハハッ!と笑って返す。

「何言ってんのさ、誘ったのはそっちだろ?
 速度重視で叩きこんでるのに全部凌がれてるってだけで、俺って結構ショックなんだけどな!
 シュカの兄さんは目が良いな、反射神経っての?」

拳を受けたシュカの腕の芯に鈍く痛みが残るような感覚。
手数で押す速度重視の一撃でも、その質を保つ拳。
手合わせではなく敵として対面した時には、どのような技が飛び出すか…。

しかし今は、「叩きのめす」のではなく「当てる」ことを優先しての手合わせである。
その場合については、シュカの掌底は最適解と言えた。
体格や腕の長さ、それもあるけれど、

「シュカ兄さんの動きが良いのさ けほっ」

背を叩かれ、残った咳を吐き出して、礼を言いながら背筋を伸ばして脇腹をさする。
長衣の前を開けば、筋の筋がくっきりと浮かんだからだ、その脇腹がすでに赤くなっている。
これはきっと、夜には蒼黒い痣になっているだろう。

「ははァ、負けた身としては、強いって褒め言葉は素直に受け取れないぜ?
 でも、ありがと 弱いガキと思われないようになったなら良かった
 …と言うか、ひよっこと思ってたのに果たし状送ったのか? 悪い兄さんだ!」

支えを離され、砂を払われれば、子供のようにおとなしくそれを受け入れて。
負けたー、と声をあげながら伸びをすれば、集まっていた騎士達も笑いながら離れていく。
帰りがけに、シュカの肩を叩いて称賛の声をかける騎士達も居た。
その様子を見ながら長衣の合わせを直して、汗を腕で拭えば、一息ついて。

「くっそー、次は勝つぜ! 今度は、シュカの兄さんに武器を持たせて見せるさ
 …って訳で、どうだい、反省会も兼ねて酒でも呑んでこうよ!」

シュカ > 「いやいや、だから、ほんとはもう少しお前さんが、こう、ひよっこでかるーくあしらうつもりだったわけ。
避けたのだって、ほとんど紙一重。俺、1年分の集中力を使ったし。暫くはギルドで、迷子ネコ探し、とかする」

はぁぁぁ、と息を付くと、言葉通り、かなり集中しての手合せだったことをしみじみ回顧。
可愛い少年だと思って手を出したらとんでもない、鬼神のごとき手練れである。
俺の目、曇ったかな、などと聊か少年を過小評価していたことを反省してから、今後は冒険者として少年を見る目は変わることだろう。

「おい、大丈夫か。スマン、つい加減を忘れちまった。
…なんつーかな、お前さんの目を見てると、つい、な…」

咳き込んだ彼を気遣うように、外した手ではあったが、その背を軽く撫で叩く。
そうしながら、見事、というのか、強運故というのか、無駄なく引き締まった身体に残る赤い痕を認める。
本当なら加減もできたはずだし、しようと思っていたが、嬉々として拳を振るう少年を前に、
防衛本能が聊か過剰に働きすぎて、加減を忘れてしまっていた。
それだけ、目の前の少年の強さに畏怖したということではあったが。

「せいぜい互角、って算段だったんだよ。それがどうして、お前さん、容赦ねぇからなぁ…。
この辺の騎士サマよりは、腕が立つだろ、国に士官したらどうだい?」

相手の拳を受けた左拳は、まだ痺れるような違和感がある。
それを見下ろし苦く笑いながら、包み隠さず、手合せする前の彼の評価を口にして。
多少の砂汚れは残るものの、とりあえず砂を叩き終えると、散々己をヒール役にした周囲の騎士たちに聞こえるように告げては、
にやり、と意地悪く口許に笑みを乗せ、周囲の騎士たちを眺める。
称賛の声もありがたく受け取れども、やっぱりヒール役になったことは少々根に持っているかのよう。

「え。ティエンファくん、ちょっと…次もやる気?俺、勝ち逃げでいい?」

果たして本気か冗談か、口調は後者、けらりと笑う表情も後者を示しながら、
隅へと置いていた二口の刀と脇差を取りに行く。
二つを一度に手にしたが、手合せの後となると、こうも重いのかと思わずため息をついたほどで、
少年との手合せは充実していたが、さして疲労らしい顔も見せない相手に比べれば、
そういう面では“負け”だと自覚する。

「よし、手合せの礼に奢るって約束だからな。高い酒から飲んでこーぜ!」

…すっかり金欠なのは忘れているけど、ここは大盤振る舞い、どーんとこーい、と胸を張って酒場に繰り出す心算で快諾し。

ティエンファ > 「先輩風吹かそうとしてもそうはいかんぜ! へへ、驚かしてやった!
 いやいや、手加減されるよかずっと良いさ! 手を抜かれたら、俺は臍曲げてたぜ」

に、と笑って見せる顔は、やはり子供っぽいのだけれど。
戦闘の時と同じ顔だが、受ける印象は全然違うだろう。
人懐こい少年も、練達の武人も、一つの人間なのだ。

「おうよ! シュカの兄さんが良けりゃあ、何度でもな!
 シュカの兄さんは剣を使うんだな、俺は長物だから、こうはいかないぜ?
 っと、マジで! よっしゃァ! じゃあ呑み行こう、すぐ行こう、今行こう!
 人のおごりで飲む酒ほどうまい物は無い…!」

20にもならない歳だろうが、そんな年季の入ったダメ酒飲みの様な事を言って、
シュカの背を押して訓練所を後にする。
まだまだ元気たっぷりだった!

シュカ > 「じゃあ、先生風吹かそうかな、俺」

先輩がダメなら、とばかりに次の案をさらっと笑顔でのたまう。
笑っている表情は、まだまだ子供っぽいのだが、そのギャップがなんとも。
それゆえ、ごくごく自然に手を伸ばして、頭を撫でようかという衝動に駆られるわけで。

「え。いや、あのさ、あんま大きい声じゃ言えねぇんだけど…」

再戦がありそうな予感に、少しばかり声のトーンを落としてひそひそ、耳打ちしようかと顔を近づけ。

「俺さ、武器より無手の方が強いらしーのよ。てーことは、つまりどーいうことでしょーか。
…はい、正解は武器を持つと弱くなるということでしたー」

こそこそと、本当に声のトーンを落としては、真面目な顔で一人クイズ、解答まで。
口調からは事実ともそうでないとも判断付きかねるかもしれないが、顔つきだけは大真面目。

言い終わると、ナイショな?などと戯れめいた笑いを残し、

「よっしゃ、こーしようぜ、ティエンファ。今度は酒の飲み比べ!…ふふふ、こっちは負ける気しねぇ!」

気合を入れた少年を見れば、乗った、とばかりに頷いてから、
自信たっぷりな口調で勝負を挑む。
こちらに関しては並々ならぬ自信が表情にも滲んでいる。

「いいか、負けた方が奢りっつーことで!!」

奢る気だったのは、ほんの数分。飲み比べ勝負という勝てそうなモノを思い付けば、奢る約束もさらっと反故に。
そんなことを言いながら、手合せしたときの剣呑さはなく、気のいいオッチャンと元気な少年、みたいな二人は訓練所を後にして。

ご案内:「王都マグメール 王城/騎士訓練所」からティエンファさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/騎士訓練所」からシュカさんが去りました。