2017/07/02 のログ
ルーク > 草から虫が飛び立てば、折っていた膝を伸ばしてスカートの乱れを整えるように数度掌で軽く叩く。
綺麗だと感じたこの光景を見せたいと想うのは、スカートに描かれた花を見つけたときと同じ。
花と同じように、この虫が光るのも季節的なものなのだろう。

「………。」

そろそろ戻らなければと、小川へと背を向けて回廊へと向けて歩き出す。
ちらりと振り返れば、ふわりふわりと黄色い光が空中で踊り続けている。
いつまで見られる光景なのか分からないが、また見たいと思いながら回廊を抜けて私室へと戻っていく。

ご案内:「王都マグメール 王城」からルークさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にミリーディアさんが現れました。
ミリーディア > 王城内、ある一室の扉が開きローブを身に纏う一人の少女が現れる。
扉の前に居る数人の兵士が恭しく敬礼をしようとするも、必要ないとそれを制するように手を動かす。
開かれた扉を抜け、一度振り返り室内に居た何者かに視線を向けた。

「また何かあったら呼べば良い、気が向いたら来てやろう。
君も色々と大変なのは分かっている、少しでも気晴らしになるなら相談でも愚痴でも聞いてやるさ」

そこまで口にすると、その部屋を後にして歩き始めた。
兵の一人が扉を閉める、その扉の先にあった部屋とは…王の部屋だった。
当然、中に居て少女との会話をしていたのは国王である。
周囲に居た兵はただの兵ではない、王直属の近衛兵達だ。

自分からしたら大層な理由ではない、最近の王城内にあった出来事の少女視点からの報告と、それに対する相談。
後は少々の雑談程度だ。
そうした事は、何代ものこの国の上に立つ者達としてきた事。
だが、それを知る者は数少ない。

「久々に会ったが、なかなかどうしてご立派な王様をしているじゃないか。
しかし、最近は色々とあるもの…まったく大変な事だ」

そう呟き、久し振りの王城内を適当に練り歩こうと歩みを進めていく。

ミリーディア > 王城内で起こった騒動、調べさせてみれば出るわ出るわ、埃のように舞い上がっていた。
その目的も、先を見据えたものから、その場限りで考えなしのいい加減なものまで様々で。
そういった問題が起こっているにも関わらず、上にまで報告が届かない事も多い。
保身の為に金や脅迫、時に力によって無理矢理抑え付けているものばかり。
だが、それをまったく知らないままで良しとする無能な王でもない。
変に周りにそれを知られぬよう、こうした相談等の場を使い報告して欲しいと頼まれたのだ。
周りからは普段からいい加減に見られようと、幼少より知った仲である為に王からの信頼は厚い。

「そろそろ、少しは大人しくなって欲しいものだが…
調べなければならない儂の身にもなって欲しいものだ、本当に。
これだから、血気盛んな若者達は困る」

と、本音をぼそりと漏らす。
頼んだ相手が相手だからこそ、こうして動いてやった。
そうでなければ、こんな面倒な事を誰が引き受けるものか。

さすがに、こうして歩いて回る程度で見ても何事もなさそうか。
そうでなければ、色々と面倒なのだから当然と言えば当然だが。
歩みは進み、気が付けば庭園へと辿り着いていた。
いい加減に歩き疲れた、適当に少し腰を落ち着けようと、日の当たらないベンチを見付けて腰を下ろす。

ご案内:「王都マグメール 王城」にウィルバーさんが現れました。
ウィルバー > 昨夜、ハテグの方では大変派手な開戦があったようだ。
砲兵を突破口とした王国軍が数に勝る諸国連合を打ち破ったと言うのだ。

その話は城内を駆け巡り、僕が要る宮廷魔術師の部署ですら意見を求められたりする始末。
と言うよりは、お偉方が師団側にすり寄ろうとしていると言うのが本当の所か。

そういった政治ごとにあまり興味がない僕はバタバタと慌ただしい職場からこっそりと抜けだし、
息抜きにと庭園にやってきた。

すると、以前何度か見たことのある顔が先に寛いでいた。
確か、師団所属の魔術師だったような気がする。

「おはようございます、今日も暑いですね。」
僕は日光を避けるべく、適当な樹の下から声をかけた。
こうして面と向かって話すのは初めてだ。
と言うより、城内では碌に話したことのない人の方が圧倒的に多い。

さて、向こうからはこちらはどのように映っているのだろうか。
魔族の跳梁を忌避する考えの人ならば、僕は邪悪な討伐すべき生き物だろう。
多少は隠しているとはいえ、素質がある者ならこちらの素性など御見通しで。

ミリーディア > この庭園は景色は良いし、人がそう来る事もない、のんびりと過ごすにはもってこいの場所だ。
少々日が照り過ぎるが、それも日の当たる場所を避ければ問題はない。
一番の問題は、ここまで来るのが普段なら面倒という事くらいか。
そうした場所でのんびりとしていれば、何者かの気配。
誰か来るのは構わないが、面倒事を持ち込むのだけは勘弁だ。
そう思いながら、掛かる声にそちらへと顔を向ける。

覚えのある顔だ、そう思い出す事をせずとも浮かぶ相手の名前や経歴。
王城内でそれなりの重役や役職等を持つ者の事は、すべて記憶している。
もちろん、相手の種族さえも。

「誰かと思えばウィルバー君か、今の時間はまだ面倒な仕事でもしている時間だろうに…息抜きかい?
確かに暑いな、この時期は仕方ないとは言えるが。
君にとって、このような日の強い場所は避けるものとばかり思っていたが…そうでもないのだね?」

周りには、自分と、側にいる相手だけ。
向けられる視線に軽く肩を竦め、言葉を紡ぐ。
言葉に相手の正体を知った風なものを混ぜたのは、知っているが気にしてないのを伝える為だ。
魔族だからと打ち倒すような人間ならば、宮廷魔術師としての任に付く前に打ち倒している。

ウィルバー > 「いやあ、僕の名前を覚えておられるなんて。
凄いですね、ミリーディアさんは。
こうしてまともにお話し出来るのは初めてだと言うのに。」
宮廷魔術師の中でも下っ端で新入りの僕の名前を把握している。
おまけに、この口ぶりだと僕の種族もばれていそうだ。
とはいえ、わざわざこうして開示してくると言うことはこの人は悪意はないのだろう。

ややこしい人が多い城内で、珍しく話しやすそうな人を見つけた。

「まあ、こう暑いと大変ですけど。
僕の場合、色々あって最近は体調がいいんですよ。
ミリーディアさんも今度ご協力頂けると嬉しいですね。」
手の平で顔の前を仰いでいた。
体調とは、暗に血を得ることで耐性を得たことを仄めかしたつもりで。
ついでに、献血へのご協力も訴えておこう。

「で、そちらは今日はどんなご用事ですか?
僕の方は、お察しの通りバタバタしてましたよ。
上の方がこの間、ハテグで大勝利をされた師団に接触しようと頑張っておられますね。
そういえば、ミリーディアさんも師団の所属ですよね?
やはり、そっち関係のご用事ですか?」
軍事関係は僕の範疇ではないが、こうして城中で大騒ぎされていると、多少興味をひかれる。
知識としては、城の人たちがどのような戦略を考えているのか。
現場ではどのような戦術を取っているのか。
目の前のこの人なら僕の様な者相手でも何かしら教えてくれるかもしれない。

ミリーディア > 「この王城で、役職に付こうとせん者を覚えるのは当然だろう?
覚える気がなくとも、勝手に話が流れてくるのもあるのだがね。
王城は広い、知っていようとも言葉一つ交わしていない者も居るものさ」

単に、そういった役職に付く者が現れた時、一目でも見ておいてくれと頼まれるだけだが。
相手がどんな人物なのか、場合によっては…そんなところだ。
もっとも、余程の事がない限りは素通りさせてしまったりする。
目の前の相手も、魔族と分かってはいるが王室の者達に向けられるような悪意は無かったから通した。

「調子が良いのは良い事だ、しっかりと戻ったら仕事に専念してくれると嬉しいものだね。
おや、必要はないだろう?君にはすでに気軽に頼める相手が居るじゃないか。
目立つような下手な行動は謹んで貰えると助かるな、儂の立場としては」

なるほど、耐性をも何者かによって得られた訳か、そう納得する。
そして、世帯を持っている事も理解している、その上での言葉。
血を得る行動は、相手の首にその証拠を残す。
それはいずれ周りに知られ、その存在を明るみにする。
するならば、する相手は限定しておけ、それを含めたもので。

「儂か?儂は少々見知った相手とのお茶会に招待されたのさ。
師団に所属しているとはいえ、末席みたいなもの、戦に深く関わる事はないのだよ。
それに儂から関わる気もない、そんな面倒な事。
とは言え…頼まれれば手伝い程度はしてやるつもりではあるがね?」

実際には情報は入っている。ハテグの主戦場で何があり、どうなったのかは。
だが、知っているだけで、そんな話をする気は毛頭ない。
のんびりとしたこの時間に、何でそんな話をしなければならないのか、というのがあるからだ。
雰囲気から、その手の話を聞きたがっているのは伝わってくるのだが…少女にとって、その説明さえ面倒な事だった。

ウィルバー > 「役職って言われると困るんですけどね。
他の諸先輩方はともかく、僕は役付きと言われるような扱いを受けてないんですが。
まあ、そういう意味では今日ここで言葉を交わせたことは幸運かもしれませんね。」
どうやら、僕が思っているよりも城の監査機能は生きていたようだ。
その象徴とも取れる相手と対面してそれを感じた。
とはいえ、僕は城によからぬことを考えたことは一度もない。
敢えて言うなら、もう少し待遇面を良くしてくれると嬉しいかなあ~っとかは考えているが。

「いやいや、これでも精一杯仕事してますからね?
この間も上の人が作った試作品の試射試験とか現場でやってますよ?
いやあ、それでも僕としては色んな味を堪能したいんですよね。
…仕方ありません、何か大きな手柄でも立てた時にお願いするとしましょう。」
なんだ、こっちの素性はだいぶ知られているようだ。
どこまで知っているのかちょっと僕は怖くなってきた。
故に、無意識的に視線が外れてしまう。

「それは凄いですね。 うかつに相手のことを聴くと首が飛びそうだ。
そうなんですか? 師団の人ってだいたいそういうのが得意な人だと思ってたのですが。
…完全に今日はオフって感じですね。
まあ、こんな暑い日には働きたくないですよね。
で、今からはお昼ですか?」
金色の瞳が彼女の表情を、耳が彼女の声色をじっと観察する。
この人は僕以上に色々知っているだろう。
が、それを説明する気はなさそうだ。
更にいうと、彼女の見知った相手のことも穿ると多分恐ろしいことになるだろう。
久々に危うきに近づいた僕は、顔の筋肉が強張っていった。

ミリーディア > 「上下はあろうと、同じ立場である事には変わらないだろう?
今の新人が受けるべき洗礼と思って諦めたまえ。
もし君がそれが本当に嫌なものだと思うなら、次の新人には少しでも優しくしてやる事さ。
まぁ…連中に会ったら、軽く口添えはしておいてやろう。
会えたら、となるがね」

どれだけ世代が変わろうと、やはりそういうものはあるものだ。
それを変えるのは自分達、変えずにそのままにするのも自分達だろう。
とはいえ、一応はこういった進言らしきものがあるのならば、対処はしておこうと。
自分から進んで動こうとはしないのだが。

「それは大変な事だ、ご苦労だったね?
己の欲求に従い過ぎれば、いずれ己の身を滅ぼすだろうさ。
保身を考えるなら、もう少し物事をしっかり考えた方が良い。
自身の立場や状況をよく理解しているなら、尚更だろう」

ふぅ、と溜息をつきながら、目を細め答える。
そうなった時に悲しむような相手がいるならば、どうすべきかは分かるだろう?と。
知っているのは、周囲が認識している事、そこより深い事は予想に過ぎない。
今目の前にいる相手に関しては、名前と種族と役職と世帯に住まいに、その住人、その程度が分かっている事か。
さすがに、周囲が知る事のない外での関係性までは分かっていない。

「凄い…か?君だって、王城内に関わる者も一人二人は居るだろう?
それがどんな相手かなんて、知った事ではないものさ。
得手不得手で考えるものでもないだろうね、得意だからって、やらなければならないものじゃない。
気が乗ればやるし、気が乗らなければやらない、それだけだ。
この後は、もう帰って寝るだけの予定さ、これだけ歩かされて疲れてしまったよ。
お昼…そうか、もうそんな時間か…どこかで適当に食べるとしようか」

相手の表情に、苦笑を浮かべる。
無駄に変な事を考え、無駄に自分に何かを抱いたのだろう。
ベンチに預けていた背を起こし、右に左にと軽く体を解す。
言われてやっと気付いたように、日の傾きへと目を向けた。

ウィルバー > 「新人だからと言うより、後ろ盾の違いじゃないですかね。
御存じの通り、どこの馬の骨かもわからない相手ですから、僕は。
まあ、僕の元に後輩だの部下が出来たら相当優しくはしますけどね。
おお、それは助かります。 流石、ミリーディアさんだ。」
肩を竦め、愚痴愚痴とこぼしていた。
機会があれば進言をしてくれるとの言葉には、僕は瞳を輝かせ両手を組んで祈っていた。
しかし、今更ながらだがこの人はいつから城に居るのだろうか。
見た目だけは僕よりも遥かに若そうであるが。

「まあ、その辺は一応は心得てますよね?
やる前に相手の同意を取るようにはしてますからね。
まあ、ミリーディアさんも気が向いたときに結構なので
献血にご協力下さい。」
以前も別の人に似たようなことを言われたことを思い出し、苦笑する。
ここの人たちって結構優しいんだよなあ。

「それでも僕とミリーディアさんではだいぶ差があると思いますよ。
城内の知り合いもミリーディアさんを入れて両手で数える程ですし。
随分と勿体無いことをされるんですね。
ミリーディアさんが本気を出せばそのお知り合いも喜ぶんじゃないですか?」
お知り合いが誰かの断定は出来ないが、相当上の人であろうことは想像がつくので、
僕と似たようなことをしている彼女に思わず余計なことを口にしてしまう。

「僕は今から街にでも食事に行きますよ。
ミリーディアさんもたまには城下に出られたらどうですか?
なかなか面白いですよ。
あ、ご進言の件、機会がありましたらお願いしますね。」
最後に一言、お願いを口にした。
そして、僕は腹の虫に命じられるままに街へと繰り出すのであった。

ご案内:「王都マグメール 王城」からウィルバーさんが去りました。
ミリーディア > 相手の言葉に、腕を組み、相槌の代わりに頷いてみせる。
こういった立場の者から、直接に聞く話もそれなりに理解すべきだろうか。
何でも知っているとは言われても、さすがに細かな関係性などまでは理解し切れてはいない。
まだまだ自分も至らぬ部分は多いものだ。
それに、相手からどう思われたりしているのか、等々もあって難しいもので。
だからこそ、こうした世に関わっている事はある意味で面白いのかもしれない。

食事に行くのだと、去っていく相手が見えなくなるのを確認すれば、ベンチから立ち上がる。

「たまには、付近ではなく少し遠出をして甘味を探すのも良いかもしれんな」

気紛れか、そう呟けば、少女も庭園を後にした。

ご案内:「王都マグメール 王城」からミリーディアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 宴会場」にオーギュストさんが現れました。
オーギュスト > 先日のラウデンの戦いにおける大勝利祝賀会。
王城の庭では兵士たちは下級士官が飲めや歌えやの大騒ぎだ。
羨ましい、俺もそっちに行きたい。

だが、オーギュストは最高指揮官、本日の主賓である。
長々とありがたくもない貴族の話を聞き、挨拶に来る連中に適当に相槌を打ち酒に付き合う。面白くもなんともない、宴会というよりも仕事だ。

「将軍の武勇は、まさに近隣諸国に冠絶する!」
「今後は北方戦線だけでなく、ハデグでも指揮を執ってもらいたいものだ!」

ごめんこうむる。
心の中で舌を出しながらオーギュストは嘆息する。

オーギュスト > しかし、特徴的なのは出席者だろう。
こういう宴席の場ともなると、社交に敏感な上級貴族の溜まり場となるのが常である。それが、軍のお偉方である騎士団の一部以外、上級貴族がほとんど居ない。
オーギュストの不人気、ここにきわまれりである。

「将軍、私は西部方面補給担当の……」
「ハデグ方面街道整備担当責任者だ、よろしく頼む」

代わりに挨拶に来るのが、国の雑事を担当する官僚、いわゆる平民官吏である。
彼らは上級貴族と違い、オーギュストなど師団に関わる武官と積極的にかかわりを持とうとする。
血筋ではなく能力によりのし上がった者達だからこそ、武力を持ちさらに高みを目指そうとするのだ。

そして、極めつけに面倒なのがこれだ。

「将軍、実は私には年頃の娘がいて、もし将軍が側に置いてくれれば……」

オーギュスト > オーギュストの女好きは、周辺諸国まで知れ渡っている。
しかも、独身だ。
平民官吏たちとしてみれば、絶好のチャンスである。
実の娘なのか、金で買った娘なのかは知らないが、正室にしろ、側室でいいから貰ってくれと、売りつける連中の多い事多い事。
中には一夜試してみてくれ、きっと気にいるからという奴も居る。

「やれやれ……」

ようやっと万魔殿から抜け出し(後の事は師団に少数居る貴族の士官に任せてきた)、回廊で夜風に当たる。
酔った身体に風が心地良い。

ご案内:「王都マグメール 王城 宴会場」にウィルバーさんが現れました。
ウィルバー > 回廊には一足先に抜け出した者が居た。
宮廷魔術師の端くれである僕は、ハデグで大勝を起こした奇跡の将軍へのパイプ作りに躍起だ。
部署をあげてのもてなしに参加させられたのだが、元よりそれほど興味もなく。
邪魔になりそうだったので適当なタイミングで抜けていたのだ。

そこへ、奇跡の人自身が目の前に現れ、思わず酒を噴き出しそうになる。

「…お、お疲れ様です。 大変な賑わいでしたね。」
なんとか、粗相を起こさずに口の中に酒を流し込むと、空になったグラスを手近なテーブルに置いてから将軍へ声をかける。
こんな所をうちの部署が来たら大変だ。

僕は将軍の後ろに誰か着いてきてやしないかと、ちらと会場の方に視線を向ける。

オーギュスト > 幸いな事に、会場の連中は残してきた士官に食いついている。
爵位持ち貴族のボンボンで、根っからの武門の家柄。第七師団で鍛えたあとは、中央の騎士団でそれなりのポストが約束されてる奴だ。いい餌になる。

「あぁ、戦場より疲れる――火、持ってるか?」

葉巻を取り出しながら、傍らの男に聞く。
礼服なせいで、火を持ってくるのを忘れたのだ。

ウィルバー > 「はいはい、ちょっとお待ちを。」
僕が指を弾くと、葉巻の先だけに火がともる。
その火は葉巻が赤くなったくらいで都合よく消える。

まあ、こういうことは新入りが日頃やらされている雑用の一つだ。
言われるとすぐさま身体が反応してしまう。

「僕らの部署でも噂は持ちきりですよ。
なんでも、砲兵を起点に攻撃されたとかで。」
魔術師の部署でもその話で持ちきりだ。
お偉方は早速戦術として取り組みたいだの、魔法でもっと有効的に利用できるだの
と盛んに話題になっていた。
はたして、ご本人はどのように考えているのだろうか。

オーギュスト > 「おう、サンキュ」

指を弾くだけで葉巻に火がついて、しかも丁度良い時に消えた。
『あの世界』で見たライターより便利だな、などと考えつつ。

「砲兵ねぇ――まぁ、有効だったが、そこじゃねぇんだよなぁ」

確かに『準備砲撃』は絶大な効果を得た。
まず砲撃により相手の陣形を崩し、そこに突撃をする事によって通常の倍以上の戦果を得た事は確かだ。

だが、所詮は『戦術』の域の話である。

今回の戦のポイントは
『相手の動きを竜騎士の偵察で察知し』
『相手がもっとも不利な地点で戦端を開き』
『戦場、開戦時間、主導権全てをこちらが握る』

という、空軍と情報の戦略活用にあるのだ。

悲しいかな、それを見抜いたのはまだ誰一人としていない。

ウィルバー > 「ほう? 砲兵だけが起点ではないのですか?」
う~んと、僕は唸ってから僅かに空を見上げる。
僕自身、その場を直接見たわけではない。
故に将軍の作戦のポイントがどこかは伝聞からの推測だけである。

「最初に竜騎士を飛ばして偵察されたそうですね。
そこが大きなポイントになるのですかな?」
当然、将軍の思考は読めない。
なので、僕は伝え聞いた話から砲兵意外で気になった点から聴いてみる。

と言うより、僕の方に来た話では戦力的にはそれ以外に目立った点は聴いていない。

オーギュスト > 「ほう……」

竜騎士に目をつけたのは良い。
他の連中ときたら、竜騎士など

「空を飛ぶかっこいい、強い騎士」
「やたらと大飯を食らうくせに戦果がいまひとつ」

としか評価しないのだ。

「竜騎士による偵察での情報収集、それを利用して相手の布陣を読み、機動戦で相手を包囲殲滅……
まぁ、そんなとこだ。急造の遠征軍なんで、大分強権を振るっちまったがな」

ふぅ、と美味そうに煙を吐き出す。

ウィルバー > 「いやいや、いきなり放り込まれた現場でよくそれだけ動かせましたね。」
どこも派閥があり、序列を重んじている。
だから兵科ごとに固めて集中運用と言うのは存外難しい物と聴いていた。

「しかし、空の活用と言うのはなかなかに便利だと思いますね。
僕の部署ではそういった研究もしていますね。
ゆくゆくは魔道部隊を中心として、空から一方的に偵察、攻撃なんて出来たら良いと思うんですけどね。
僕みたいなのは体が弱いので白兵戦なんてとてもできませんからね。」
煙を吐く将軍の前で、持論を述べてみる。
とはいえ、やっていることは実用性があるのかよくわからん試作兵器の実験の方が多いのだが。

オーギュスト > 「だから宰相府をせっついてな。俺に逆らったら斬ってもいいって任命状を貰ってきた」

獰猛に笑う。
指揮権の統一。かの世界の九の原則のひとつ。
それを実践したまでだ。

「――空を活用すりゃ、必ず相手も空を活用しようとする。
そして、空が戦場になる、って寸法だ。
空で白兵戦をする日も来るだろうよ」

そう、あの世界の歴史ではそうだった。
航空戦によるドッグ・ファイト。そして、空を主戦場にした多くの戦い。
オーギュストには、その知識があった。

「もし、空の活用を考えるなら、そうだな。
地上から空の連中を落とす『対空』と、航空兵科同士で空を制圧しあう『制空権』の概念は研究しとくんだな」

ウィルバー > 「なるほど。 まあ、それ位しないと大事な戦力を将軍に一任するとは思えませんからね。」
随分と思い切った決断を下したものだ。 それほど緊迫していたいのか。
笑う将軍の前で、僕は驚いていた。

「なるほど。 その頃には魔法や弓と言った武器の打ち合いになりますかね。」
まるで見てきたように語る将軍。
大して、こちらはあくまで一部の事例を基にした推測にすぎない。

「どちらも聴きなれない単語ですね。
将軍はどこで学ばれたのでしょうか。」
この国の書物を読んでも出てこないであろう単語。
それを堂々と言ってのける将軍はどこに居たのだろうか。

「では、将軍はその辺のご準備をされるのですか?
先にはじめないとそれこそ、他所がやりそうですが。」

オーギュスト > 「それが無きゃ俺は行かねえ、って言ってやったからな」

この男は本気で行かない。
それを宰相府も分かっていたからの発行であろう。

「竜騎士の背の上は揺れるし、速度がはやい。魔法は詠唱が難しいし、弓矢は風に流される」

オーギュストは懐から、一丁の拳銃を取り出す。
『あの世界』で手に入れた、オートマチックと呼ばれる、この世界ではオーパーツの品だ。

「だから、おそらくこいつの打ち合いになる。
竜騎士の背中に乗った奴が、銃や大砲をぶっ放す。
それが、まぁ、近い未来の航空戦の姿だろうな」

オーギュストは彼の質問にこう返す。

「なぁに、とある楽園でな――ここより千年ばかり進んだそこで、色々と見聞したわけさ。
それに基づいて準備もしてる。竜騎士の重装甲化、来るべき航空戦に備えての対空火器の開発、それに――『戦略爆撃』の準備だな」

ウィルバー > 「言いますねえ。」
将軍の話はなかなか面白い。
砲兵だの以前に、この一言から勝利は始まっていたのだろう。

「まあ、それはこちらも把握してますので。 それに向けての改良を検討中です。
…なんですか、それ?」
将軍が見せた品は、僕は見たことがない。
なので、目を丸くしていた。
どこで手に入れたんだろう?

「そうなると、僕みたいな魔法使いはお役御免ですかね。」
その頃には別の仕事があるような気もするが、魔法の言葉が一つも出てこないのが気になった。

「…ああ、話がまるで理解できない。
そうなると戦い方がだいぶ変わってしまいそうですね。
北方の帝国は潰せそうですか?」
聴いたことのない単語の次は、聴いたことのない話。
僕は頭が痛くなりそうだった。 とりあえず、シェンヤンだけでも潰してもらえるかと、理解できる範囲で聴いてみた。

オーギュスト > 「これか、これはな――」

近くの木に狙いをつける。
そして、引き金を引く。

パスッ、パスッ、パスッ

気の抜けたような音がなるとともに、木の枝が三本、吹き飛ぶ。
サイレンサーと呼ばれる機構の為、通常の銃のような大きな音は鳴らない。
オーギュストは吹き飛んだ枝を見て満足そうに銃をしまった。

「なぁに、竜騎士じゃなく、人間はいずれ魔導機械で空を飛ぶようになる。そうすりゃ、魔法使いはどこでも引っ張りだこだろ」

笑いながら、傍らの男に手を振る。
――そういえば

「北方の帝国なんてケチな事言うな。
いずれ王国は――俺は、この大陸全て、飲み込んでやるさ」

望外の幸運。かの楽園の知識。
それを手に入れた今、彼の望みは魔族の絶滅だけでなく、大陸制圧まで見据えている。

そういえば、この男の名前を聞いてなかったな。
そんな事を考えながら、オーギュストは会場へ戻ろうと踵を返す。

ウィルバー > 「うぉぉぉ~~~。 これは凄い。」
僕の声の方が銃声よりも大きな音になってしまう。
どういう仕組かわからないが、これも銃なのだと言う。

「おや、それなら僕らみたいなのでもまだまだ食べていけそうですね。」
とりあえず、失業はなさそうだと僕は胸を撫で下ろす。

「大陸はともかく、北方は先に頼みますね。」
彼がどこまで考えているかわからないが、とりあえず北方が消えてくれると
魔族の僕としてはありがたかった。

「ああ、僕はウィルバーです。 おいしい仕事がありましたら紹介して下さいね。」
背を向ける将軍に、営業することも忘れなかった。

ご案内:「王都マグメール 王城 宴会場」からオーギュストさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 宴会場」からウィルバーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 庭園」にルークさんが現れました。
ルーク > 広い王城の一角。王城の中には庭園も数多く存在し、庭師によって美しく整えられている。
そのうちの一つの庭園には、湧水を利用したちょっとした小川が流れている。
今日も王城のどこかでは、宴が開かれ賑わっているがそんな喧騒とは無縁なほどに庭園は静けさの中にあり、水が流れる音がサラサラと響いている。
第零師団の執務室から、王族の私室の集まる区画へと戻る道順、寄り道をしたことでいつもと違う道順になったことで通ることになった回廊に面したこの庭園で、黄色い光を明滅させる昆虫を見つけたのがつい先日。
今日もまだいるのだろうかと、なんとなく気になってルークは回廊へと足を伸ばしていた。

「………。」

ふわり、ふわりと暗闇の中で黄色い光が規則的に明滅を繰り返している。
そのさまを視界に入れて、まだその光景がそこにあったことに安堵する。

ルーク > 何故安堵といった感覚が胸に沸いたのか、庭園へと足を踏み入れながら考える。
それは、この光景がとても刹那的なものに見えるから。
そう、春に見たあの花のように。
移ろいゆく季節の中で、一瞬一瞬に見える命の光。
目に映るこの光景を切り取ってしまえればいいのだけれど、それはそれで少し違うように感じる。
流れる小川の音や、湿気を含む空気の匂いや季節の花の香り、髪を揺らす風や、そんな様々な感覚混ざり合って心を揺り動かす。
そんな風に考えることも、感じることも駒として在ったときにはなかったことで、ましてや主以外のものに興味を向けるなんてありえなかった。


寄り道に主の不興を買うだろうか…。否、きっと笑ってくれるのだろうと想う。
美しいものに心を奪われるということは、人らしいというものだと、ルークに人らしさを望んだその人が言っていた。
ならば、こういう時間を過ごすのは人らしさを育む上でいいこと、なのだろう。

「……。」

春に花弁を散らす花を見つけたときと同じで、綺麗だと感じたこの光景を見せたいと思いながらベンチへと腰掛けて、空中に舞う光を眺める。

ルーク > 暫く光の舞を眺めたあと、庭園をあとにして
ご案内:「王都マグメール 王城 庭園」からルークさんが去りました。