2017/04/23 のログ
ご案内:「王城 とある貴人の部屋」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 平民地区の甘味処でドーナツ漬けにされた午後。
お土産を両手にたんまりと抱え、己の店に戻った妖仙を待ち受けていたのは、王城からの招きだった。
伝令の差し向け元は、数代前にどこぞの王家から枝分かれした伯爵家当主から。
大多数の人間からの認識は、過去の来歴による物よりも、王国軍の兵站部門における重鎮という職務に纏わるものだろう。

「おおよその所は使者殿から聞き及んではおるが、ストンと腑に落ちてはくれぬ。
 それそれの騎士団には治癒担当の兵員もおろうに、何故こうも対処に手間取るのかと。」

応接用のソファに、ちょこんと腰を掛ける。
武官のお偉方を前にしても、妖仙は飄々と。
それが許されるのは、持ち合わせたキャラクター性か、それとも何か鼻薬を嗅がせているのか。
用件は、予想していたうちの一つ。
王国辺境部での発生している”疫病”への対処について。
情報統制を敷いているようだけれど、人の口に戸は建てられぬのが常であるから、耳聡い妖仙は噂話という形で事態の概要を掴んでいたのだ。

ホウセン > 症状については、直ちに命に係わるような悪性のものではないらしい。
曰く、発熱による消耗と倦怠感に、症状が重篤化するにつれて吐き気やら眩暈やら。
大の成人なら、多少の無理を押せば、短期的には日々の活動をするには支障が無い。
だが、回復しないのだ。
現状維持か、悪化するだけで、最初期に発症したと思われる罹患者は、彼是三ヶ月に渡って症状を引き摺っているという。

「ふむ、斯様な症状を齎す病とて、広い世の中を隅々まで探せば無い訳ではなかろうが…」

療法まで発見されているかは別にして。
やはり、態々軍の部外者まで引っ張り出して対処しようという意図が今一つ見通せなかったけれど、次の情報で合点がいく。

「…そして、罹患者は戦場に立つ輩に殆ど限定されておるじゃと?
 性別や齢の別で罹り易い病というのはあろうが、面妖なことこの上ないのぅ。
 故に、お主が藁をも掴む思いで…というのは分かったのじゃ。」

袂から煙管入れを取り出して、形の良い唇に咥える。
煙草の葉を詰め、部屋の主に断りなく着火して一服。
吐き出した白い煙が、揺ら揺らと密度を下げながら天井に向って上ってゆく。

ホウセン > 思案の為の間繋ぎとしての一服。
見た目ばかりは何処から如何見ても子供でしかない妖仙が、無駄に堂に入った所作でそれをするものだから、違和感は酷かろう。
可能性は幾つか。
偶々戦場になった場所や、行軍の道中に道の病原体が潜んでいたという”まっとうな”可能性。
次に、敵対勢力が、彼らの本拠にしかない風土病の元を撒いたという可能性。
最後に、そもそも疫病ではない”何か”という可能性。
どれにしても、情報が圧倒的に欠乏している。

「ま、新薬というのは往々にして儲けが出るものじゃから、調査をするというのは吝かではない。
 そして、手持ちの情報だけからの感想じゃが、それが蔓延っておる地域に赴く運びとなろう。
 この身が王都を離れるとは誠に誠に由々しき事じゃ。」

ふぅ、と煙で輪を作る。
依頼を受ける事は構わない、が、交換条件があると人の悪い笑い。

「儂がおらぬ事で生じる商いの損失の補償と、道行の案内人を付けてもらおうぞ。
 何分、王国東方は、あまり地理に明るくないし、斯様な混乱が生じている陣中に儂一人で乗り込んでは間諜の疑いを掛けられても笑えん。」

知的好奇心が頭を擡げているせいか、この妖仙にしては極々まともな要求だった。
流石に先方も予想しているらしく、即答で応諾を投げ返してくる。

”と、いうことは、少なくとも主観的にはそれだけの危機と認識しているということかのぅ。”

黒い瞳を細めて、探るような眼差し。
それも、案内役との顔合わせをすると、酷く行き届いた段取りによって中断される。
『入れ』との短い指示で、奥の間に続く扉が開く。
其処から姿を見せたのは――

ホウセン > 現れたのが見目麗しい女騎士なり、肉感的な女傭兵ならば、妖仙の機嫌は向上し、その一方で僅かに作業効率が低下するかもしれない。
約束事は履行するが、それ以外の点は…言わずもがな。
どのような人物が現れたにしろ、長距離移動の打ち合わせは夜半まで続く筈で――

ご案内:「王城 とある貴人の部屋」からホウセンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にルークさんが現れました。
ルーク > ――少し気分が悪い。
いつもと変わらぬ従者としての日課を行い、表情を殆ど動かさないながらも微かな体調の不調にルークは琥珀の瞳を軽く閉じて密やかに息を吐き出した。
動けないほどのものではなく、気にしなければ問題ない程度の変調の理由は察しがつく。
神経をざわざわと逆撫でされるような感覚は、恐らくは先日図書室で受けた精神干渉によるものだろう。
本に描かれた刻印に意識が引き込まれそうになったのを、半ば強引に引き剥がした反動、と不調の理由を分析する。

「………。」

『声』が指摘したとおり、気が緩んでいる証拠かもしれない。
『声』が蘇り、胸に苦いものがこみ上げてくる。

ご案内:「王都マグメール 王城」にアーヴァインさんが現れました。
アーヴァイン > 何時もよりもキレのない雰囲気を訝しんでいたが、こうして部屋の中に篭っているのに気づけば、確信へと変わる。
ドアの前までやって来れば、コンコンとその扉をノックする。

「ルーク、入るぞ?」

断りの言葉を入れてから戸を開けば、何時もと変わらぬ仏頂面のまま彼女を見やる。
後手で扉を締めつつも、その姿を確かめれば、心配そうに眉をひそめながら近づこうとする。

「日中から思っていたが…何か調子が悪そうだ。体調でも崩したのか?」

自分はハードスケジュールでも難なく熟せていけるが、彼女は違うかもしれない。
少しずれてはいるが、彼女のみを案じながら、確かめるように問いかけた。

ルーク > 与えられた任務を遂行する、主だけを見て主の安全だけを考える。
周囲に向けるのは興味ではなく、常に警戒の目。
余計な事に思考を割く必要はなく、考える駒として傍に『在る』だけの存在。
生まれる前からそう決められて、作られた。
なのに、感情が生まれたことで揺らぎが生まれ隙を『声』に指摘された。
その言葉は、ルークにも理解でき納得がいくものであった。
人として不完全なものになって、主を危険に晒す可能性。
それを考えれば、駒として在ったほうがいいのではないかと、そんな考えが浮かぶ。
けれど、そう考える動機を辿れば、結局は感情へと行き着く。
書籍や研究書を読んでも、解決しない矛盾。
ため息というには密やかに、呼気というには少しだけ多くまた密やかにルークは吐息を零した。
今度は、体の不調からではなく頭の中でぐるぐると回る思考と途切れさせるように。

「…はい…。」

不意に扉の向こうからノックの音と、断りの言葉が聞こえルークは顔を上げた。
いつもと変わらぬ表情の彼が入室すると、茶色の瞳をまっすぐに向けられる。
その眉が、ルークの姿を視認した瞬間に微かにひそめられ彼が歩み寄ってくる。

「申し訳ありません、何かご用がありましたか?……調子が、悪そう、ですか。そのような事は…ありませんが。」

近づいてくる彼に、そう言葉を向けるが投げかけられた問いに微かに琥珀の視線が動く。
それほど大きな不調とまで言えず、気にしなければ問題ない程度の変調、それは表に出る程でもなくいつも通りに彼に接していたと思っていたが…と表情が変わらないながらも、気づかれた事に少し動揺してしまう。