2017/04/12 のログ
■ルーク > 綺麗だと感じる感性も、抱いたその感覚も、前の主であれば、くだらないと一蹴されると分かる。
求めるのは、『共感』という欲求。
その感情の名前が、ルークには分からない。
薄紅色の花に目を奪われ、『綺麗』だと感じているのだと、そして感じたその感性を『共感』したいと、自分がそう感じているのだという事に名前がないから戸惑ってしまう。
「…アーヴァイン様、気づかず申し訳ありません。」
ルークが来たのとは別の方向からやってきた彼に、気づかぬほどに薄紅色の花と抱いた感情にルークはとらわれていた。
掛けられた声に、はっと視線を声の方へと向けると訝しげな表情を浮かべた主の姿がそこにあった。
風が収まれば、またヒラリ、ハラリと余韻を残しながら花弁が舞い散っていく。
「いえ…。この花を見上げていると、よく分からない感覚が浮かんでそれが何故なのか少し考えていました。」
問いかけの言葉に、首を横に振ると抱いた戸惑いについて告げる。
見せたいと思ったその彼が、この場にいることに胸の内に擽ったさのような感覚が生まれる。
この感情の名は知っている。『嬉しい』と。
■アーヴァイン > 近づいていくと、まるで此方に気付かぬ様子は異様に見える。
普段ならすぐに気づくような距離に近づいても変わらずであり、声をかけてやっと彼女が現実に意識を戻す様は、振り向かれたこっちも少々目を丸くしてしまう。
「いや…気にしないでくれ。それよりも、ルークにしては珍しいな。こんな距離まで近づいても気付かないなんて」
咎めるというよりは、不思議な事だと言うように、軽く首を傾けた。
そして、続く言葉に再びその木を見上げれば、青白い光が花と重なり、神秘的な光景となって瞳に映り込む。
何を考えたのだろうか、思案顔で顎に手を当てて考えていく。
「嬉しいとは違うか……しかし、この花を二人で見れてよかった。確かこの花は…春先に咲き乱れると、あっという間に散ってしまうと聞いた。一緒に見るタイミングを逃すところだった」
偶然ながらここで同じ光景を見れたことに、嬉しそうに微笑む。
彼女が浮かべていた共感は、彼も同じように思っていたことだ。
気付かぬまま答えの感情を言葉にすれば、一層感情に素直になっていく彼女を褒めるように、黒髪へ手を伸ばし、優しく撫でるだろう。
■ルーク > 気配を殺すでもなく近づいてきた彼に、恐らく普段であれば庭園の門をくぐっだ辺りで気づいただろうが、胸に抱いた感情への戸惑いもあるが、それ以上に儚く美しくもどこか妖しい艶を含むような花に意識をとらわれていた。
「…何故でしょうか、抱いた感覚について考えていたのもありますが意識がここにあって、ここに無いような、この花しか見えないような…何にしろ、従者としては失格です。」
意識を埋め尽くす薄紅色の花に再び視線を向けると、気配に気付かなかった理由を考える。
しかし、どのような理由であろうと主がいるのに惚けているなどあってはならない事だと思えば心苦しくなってしまう。
「――……。一人で見ても二人で見ても花は花だと思うのですが、一緒に見る事に意味はあるのでしょうか」
一緒に見れたという事に嬉しそうに微笑みが浮かべられると、彼の口からルークが抱いたものと同様の感情を言葉にされる。
それに少し驚いたように、琥珀色の瞳が微かに見開かれ花からアーヴァインへと向けられる。
言葉としては、いつものような理解できない感情を問いかけるような言葉であったが、その響きはどこか答え合わせをするかのように相手に届くはずで。
「…花に意識を向けた事はありませんでしたが、とても目を惹く有様に…アーヴァイン様にも、見て欲しいと何故か思いました。」
髪を優しくなでる手は、まるで褒めているようでむず痒い、擽ったい心地を覚えて鼓動が少し大きくなるように感じる。
その胸に手を当てると、戸惑った感覚を告げていく。
■アーヴァイン > 問いかけた言葉の理由は、今までの彼女では感じることを赦されなかったものだろう。
故に、それに囚われたことすら気づけないと見える。
何処か気落ちした様子が見えれば、気にするなというように更に髪をくしゃりと撫でていく。
「気にするな、寧ろ嬉しいぐらいだ。見惚れる、見入る、感動というところか。ルークはそれだけ、この花に心を揺さぶられたんだろうな」
それだけ強く心を揺さぶられたのだろうと答えれば、それは彼が望んだ人らしくあれという願いと繋がるだろう。
そして、義父が感情を押さえ込んだのも、察してしまうのだろうか。
時にそれは、人を惑わせすぎるときもあると。
「確かに一人で見ても、二人で見ても、物は変わらない。然し、感動や喜びを人は分かち合いたいと思う。夜食の時も同じだ、一緒に食べるから味を分かち合える。一緒に見えるから美しさを分かち合い、共感し合うことで…認められたり、理解されたりで、嬉しくなる」
何気ない言葉に驚く様子に、一瞬頭から疑問符が浮かびそうになるも、直ぐに問いの音で理解に至る。
彼女はきっと、同じことを考えていたのだろうと。
何故かそう思うのか?
その答えを例えを交えながら語りつつ、薄っすらと微笑みながら琥珀色の瞳を見つめた。
「それだ。やはりルークは共感したかったんだろうな、自分が見つけた凄いものを俺に見せたかった。俺にもこの感動を感じてほしいと」
胸の上へ当てられた掌に、此方の掌を重ねていく。
心は思考と一緒に沸き立つはずなのに、何故か胸が疼く。
今までにない刺激は、思わずその手をそこへ導くのだろう。
生まれて間もない感情に触れながら、鼓動が僅かに肌を震わす。
「酒場の詩人達は、女性を花や景色に例えることがある。この花なら、陽気に咲き乱れる桜花といったところか。明るく無邪気な女性へ送る言葉だな」
昔の仕事柄、酔っぱらい達や娼婦たちを楽しませるために詩人が紡ぐ一フレーズを思い出しながら、その美しさを女性に重ねた。
明るく天真爛漫な女性、それは今の彼女とは真逆にある。
けれど、薄っすらと微笑みかければ桜へと視線を向けて、更に言葉を重ねた。
「こんな言葉もある。月夜にかかる静穏なる柳桜、柳は細く美しい女性に贈る言葉だ。桜のような明るさや派手さはなくとも、月夜の様に神秘的で、静かな佇まいはゆったりとした安らぎを与えてくれる」
そして、改めて彼女へと振り返る。
ここまで意図した言葉は、普通なら皆まで言わずとも伝わってしまいそうだ。
けれど、彼女はきっとそこまで察しつかないだろうとも思っている。
微笑み、その答えを言わねばならないと。
「ルークの様な女性に贈る言葉だ。きっとルークが微笑むことが出来るようになれば、月のように心地よい明るさを手に入れられると思う」
体つきや姿を柳に例えたことはあっただろう。
しかし、ここまで砕いて伝えたのは初めてかもしれない。
彼女らしく美しくなってくれればいいと思いながら、甘ったるい言葉を紡ぎ終えると、少し照れくさくなり、頬が赤らむのを苦笑いで誤魔化そうとする。
■ルーク > 「お越しになった事にも気付けなかったのに、嬉しい、ですか。…私は、少し困ります。…人らしくある為に、心が必要だということもわかります。けれど、今のように心揺さぶられるものが増えたら、アーヴァイン様が見えなくなってしまうのではないかと、少し怖い気がします。」
すぐ傍まで来た彼に気付けなかった事に、やはりショックを受ける。
それほどまでに心を囚われる事がある事に、そしてそんなものが増えたら見たいと思う存在が見えなくなってしまうのではないかと困惑する。
心とは、人としてあるために必要不可欠であるが惑わされる揺らぎが生まれるという事。
ルーアッハが、心を必要としなかった理由も少しだけ理解できる気がする。
「分かち合う…花が散る様が、月に照らされる様がとても目を惹いて、これがきっと美しいと感じる感覚なのでしょうか。次々に散っていくのに、次に来たときにはもう花弁がなくなってしまっていそうで、アーヴァイン様にも見ていただきたいとそう、思いました。だから、アーヴァイン様が此処にいらした事が嬉しく思いました。」
彼の作ってくれた夜食。その味は王城のどんな料理よりもルークの味覚と何より記憶に刻まれた。
そこには、彼の感覚への共感があったから。
そして、味覚とは違う視覚、美しいという感覚の共感を望んだのだと例えを交える言葉から理解していく。
まだ感情や感性といったものを感じるままに受け止めるには経験が足らないのか、言葉にして伝えられる事で、言葉にして出す事で少しずつ実感を伴っていく。
嬉しかったと、この感覚はなんなのかと自身に問いかける必要のなくなった感情を告げる表情は、笑顔とまではいかないまでもどこかはにかむように、柔らかな印象を伝え。
「………。」
生まれる感情は、胸の奥に湧いた泉から溢れていく。
一つ一つ感情が生まれる度に、胸の中に擽ったかったりむず痒かったり、暖かかったりといった感覚が生まれていく。、
その胸に当てた手に、彼の掌が重ねられ温もりが伝わるのに胸の奥が甘く疼くような感覚を覚える。
「明るく無邪気な女性へ送られる花の名ですか。」
月の光の下に佇む姿と、陽気の中ではまた印象ががらりと変わるのだろう。
春爛漫の陽気に咲き誇るさまは、天真爛漫な女性を称える言葉として綴られる。
きっと、自分には無い明るさを持つ女性への言葉。
けれど、彼の視線が薄紅色の花へと向けられると更に言葉が重ねられていく。
「………?」
明るい桜ではなく、柳の細く静かな佇まいを褒める言葉にその意図が理解できずにただ黙って言葉を聞いていると、視線が再びルークへと戻ってくる。
「――……。安らぎを、与える事が…できるでしょうか…。」
姿を柳に例えられたことはあったが、彼の綴った言の葉は姿だけでなく内面の事も紡ぐ。
恐らく、桜の花のように明るい春の陽気のように振舞うことは難しい。
けれど、柳のように今宵の月の光のように静かに在る事は出来るかもしれない。
そして、そんな佇まいが彼の人の安らぎとなれるなら――。
察するほどに情緒が成長しきっていないルークに伝えるために、砕いて言の葉に載せられるのにじわりと胸の中が熱くなる。
頬が赤らむのを苦笑いで誤魔化す様につられるように、胸の中に広がる熱さが頬に伝わるようにほのかに咲き乱れる花の色のように頬が桜色に染まっていく。
言葉のとおり、安らぎになれるならいいと、そんな望みが浮かんでくると自然蕾から綻ぶかのように微かな笑みが浮かんでくる。
■アーヴァイン > 「感動とはそういう物だ。だが、その次に思うのはルークのように分かち合いたいと思う心だと思う。感動で俺をずっと見失うことなんてないさ。そして、俺が見えなくなるのを恐れたのは…花の美しさより、大切に思っているからだろうな」
花の美しさに気を取られ、一瞬だけの時間を永遠の様に恐れる。
それだけ自分を見失いたくないと心をぶつけられていく心地に、嬉しくも在り、すこし照れくさくもなりながら微笑む。
戦う時や非常時に、美しさに囚われることがないのも知っている彼としては、もっと実体験を与えないといけないかと思うところだった。
「あぁ、それは美しいと感じている証拠だ。確かに…開花の時期を少しずれると、あっという間に葉だけになってしまうからな。 ……ありがとう、俺もルークと見れて嬉しい」
味覚での共感、視覚から感じる感動の共感。
それらを一つ一つ確かめるようにしながらも、着実に人らしい感情の細かさを得ていく。
はにかむような笑みですら、彼にとっては胸がぐっと熱くなる嬉しいもの。
もっと見ていたい、そう思うと今笑顔だよと…いいたくても言えない。
重ねた掌は、弓の弦を引き絞るタコや、ペンだこがあったりと、苦労を重ねた歴史が刻まれている。
小さな手に触れ、ずっとこうしていたいと思えるほど、彼女の心の幼さに庇護欲が沸き立つ。
詩人の言葉を借り、彼女へ囁く甘い本音は届いただろうか?
照れながらも視線を彼女に戻すと、うっすらと染まる頬に喜びを示すように僅かながらの微笑み。
それだけで十分だった、思考を振り切ってしまうのは
重ねた掌をそのまま彼女の背へと回そうとし、華奢な身体を力強く抱きしめようとする。
(「綺麗だ、本当に……」)
不器用だからこそ素直な気持ち、それが染み入るように心を熱くさせる。
この都で壊してはならない大切な存在に、神妙な面立ちで囁きかけていく
「とても癒やされてるよ、そして…全てが欲しくなる。この国で…何かが起きる前に」
大切にしたい、もっともっと心を育てて、女性らしい華やかな感情が芽生えたなら、もっと深く繋がりたい。
けれど、大切にしたくとも、踏みにじる存在がいる世界だ。
誰かに壊されてしまう前に…それほど彼女を奪われたくないと願う。
桜は二人を祝うように風に踊り、枝から薄桜色の花吹雪を二人へと浴びせていく…。
ご案内:「王都マグメール 王城」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルークさんが去りました。