2017/04/01 のログ
■ルーク > 『ふん…』
ロウソクの明かりに照らされる窓ガラスには、雨粒が映し出されている。
外には、まだ冷たい雨が降り注いで闇を深くしている。
投げつけられたそれの意味が分からないなら、自分で調べろとでもいうかのように続く言葉はない。
もし、その駒に対する知識があれば人形のような人物から名乗られた名とその黒い駒が同じ名前であることに気づくだろう。
「旧姓ルグゼンブルグ、元スペクター所属の偵察工兵、メテオサジタリウスの異名をもつ人物。その後部隊を離れ、潜入工作兵に所属、そこをも離れたあとはミレー族の為に娼館を経営し、現在はドラゴンフィートという名の集落にまで成長…。」
どれだけ知っているという質問に対して、まるで報告書でも読むかのように、淡々とした声は彼の経歴をあげていく。
感情のない表情と声で、淡々と告げられるのはまるでオートマタにスイッチをいれて喋り始めたかのように見えることだろう。
「――以上の経緯から、先代様と養子縁組をされ現第零師団師団長となられた経緯を存じております。」
養子となった経緯、彼とルーアッハの間に合致した利害関係なども全て淡々と告げられると、すべての事情を把握している事が分かるか。
『貴族の間では、若造が第零師団の団長に代替わりをしたことで空気が緩んでいるようだ。』
言外に、彼の中にある甘さを貴族たちに見透かされているのではないかとルーアッハはアーヴァインへと冷たい瞳を向ける。
その異質な冷たさは、従者から向けられる視線にもまた感じ取ることができるだろう。
■アーヴァイン > どうにも不機嫌な義父に、よほど腹に据えかねる事があったのだろうとは思うぐらい。
駒の名前、そして彼女の名前、それを指した意味合いはひっそりと理解はしたが、かと言っていきなり初対面の相手を駒と扱うつもりはない。
あくまで一致させたのは、祟り神と周囲に思わせることなのだから。
「……ぁー違う、そうじゃない。まぁ…そこまで知っていれば、大丈夫か」
そういう経歴のことでないと苦笑いで頭を振る。
だが、それだけ調べ上げていて本性を知らぬはずはないと思えば、祟り神を気取るのを止めた。
自然体でいられる数少ない相手だったことは、幸いなことだ。
「…それをいうなら、俺のせいではない。そちらがフェルザ家の令嬢を生かしたからだろう? あの時に殺していれば、妙な勘違いをすることもなかったはずだ」
冷たい視線を向けられれば、何時もの仏頂面に戻りながら、歯に衣着せぬ言葉で遠慮なく切り返す。
親子ではあるが、完全な上下ではない。
彼の望む祟り神をする、こちらはその恩恵に授かる。
彼が切るなと言ったからなるべくしてなった事だろう。
無遠慮が出来るのもまた、数年掛けてここへ引き戻す労力をかけただけの価値があるからだ。
むすっとした様子で答えれば、人形の様な彼女の方へと近づき、すっと掌を差し出す。
「人目の付かない時の挨拶ぐらい握手はしないとな? それと…素の俺がこの後どうするかぐらい、わかっているだろう?」
口角を上げ、薄っすらとした笑みを浮かべて握手を求める。
それから、その視線は彼女から傍にいる義父へと向けられた。
スペクターの新入りが来た時も、義父が騙した奴隷と接した時も、言葉を交わし親睦を深めようと務めている。
そんな緩やかな時間を好みはしないだろうと、遠回しに退場を願ったのだ。
■ルーク > 「……失礼しました。」
経歴を、と問われたので答えたつもりであったがそうではないと彼は苦笑いを浮かべて頭を振った。
そのことに、やはり感情の篭らない声は詫びた唇を閉ざす。
『それだけとも思えんがな。今後はこれの目を俺の目と思い励むことだ。』
フェルザの令嬢を生かしたのは、恩情ではない。
切るなといった事をあげる彼に、冷たい瞳が細められる。
そのことも要因の一つであろうが、決してそれだけが理由ではないと言うと、ルークへと手を差し出しながら視線を向けられ、退場を願う言葉に男は腰をあげる。
言葉を交わし、親睦を深めようとする姿をわざわざ見るつもりもないというように。
「………。」
差し出された手に、ルークは琥珀色の視線を一瞬だけ動かした。
それは、ほんの一瞬みせた戸惑い。
ルーアッハが立ち上がり、退室の素振りを見せると結局その握手の手をとらずに去っていく背中に礼をとる。
バタン、と重い音が響いて扉が閉まるまで礼をとり、そして身を起こした後も手が差し出されたままであったならまた少しだけ視線が動いた。
その手の意味は、分かるが自分に差し出される意味が分からないというように。
けれど、手を引かれなければどうすることも出来ずに、その手に自身の手を重ね握手を交わしていく。
ぎこちない仕草は、その行為に慣れていないことをアーヴァインの手へと伝え。
■アーヴァイン > 「別に謝らなくていい、悪いことをしたわけじゃない」
変わらぬ笑みを浮かべたまま、改めて頭を振る。
冷徹な義父に人形な従者と、酷いものだと冗談めかした言葉を心の中でつぶやく。
「仕事はする、そちらと自分では元の出生が異なる。それに、フェルザの令嬢が落ちぶれることをよく思わぬものがいれば…粋がりもする」
とはいえ、要因は分からない。
可能性を述べる合間に彼が立ち去っても、差し出された手はそのままだ。
戸惑い、見送ってからも困惑した様子。
どうしたと言いたげに軽く首を傾け、緩く手を揺らす。
それから、ぎくしゃくとした動きで重なれば、薄っすらと笑みを浮かべつつ、反対の手を彼女の手の甲へ重ねるようにして、しっかりと握手していく。
「どうも義父は素の俺が苦手なようだ、酒でも飲んでないと接しづらいんだろう。よろしくだ、ルーク」
それからゆっくりと手を解けば、そこらにあった椅子を適当に引っ張り寄せ、どうぞと座るように促すと、先程までルーアッハが座ってた席へ、こちらも座る。
丁度向かい合わせの形になるように。
「これから長い時間を一緒に過ごすわけだ、色々知っておいたほうがいいだろう? それで……早々失礼で申し訳ないんだが、ルークは女性であってるか? どっちとも取れる顔立ちと声で、判断に困ってしまった」
先程までの空気が嘘のように、落ち着いた静かな声色ながらも、楽しげにルークへと語りかける。
流石に性別を問う時は眉をひそめていたが。
見たところ中性的でどちらとも見える、声変わりしていないような少年の声だったが、どうせ間違えるなら女性と扱うほうがまだ丁寧だ。
苦笑いを浮かべながら冗談めかして問いつつも、戸惑いを見せた琥珀色を見つめ続ける。
■ルーク > 「………。」
握手を交わせば、彼は丁寧に両手でその手を包み込むようにしてしっかりと握られる。
そのような行為は、恐らくは初めてだ。
握手とは、本来対等な関係の者同士が行う挨拶の一つ。
それを主となる彼から手を差し出され、しっかりと握られる。
物心ついた時には、すでに感情の芽生えは希薄で人としての扱いなど受けた覚えはない。
そして、受ける理由も思い当たらないのに戸惑いが視線の微かな揺れとして現れたしまった。
「…アーヴァイン様、私は従者で主人の意思を実行する駒です。人のような扱いをしていただく必要はありません。」
ルーアッハが苦手だと言う、その理由がわかるような気がする。
奴隷や新人、挙句の果てに自身のような駒にまで親睦のために言葉をかける。
ルークからしてみれば、理解不能な人種だった。
椅子を引き寄せられれば、促されてそれに従う。
向かい合わせの格好になると、遠慮がちな質問が投げかけられる。
養父と話すときの、仏頂面も硬い声もなくなった落ち着きながらも楽しげな声色と、穏やかな表情に感情のない瞳は観察するように見つめながら質問に頷いた。
「…はい、性別は女です。一つの役割を除き、女である必要がないため魔法具をつけておりました。」
質問を肯定すると、首から魔法具であるチョーカーを外し、外すとともに柔らかな女性の声へと変化して体が女性らしい丸みを帯びて変化していく。
とはいえ、上着の上からでは微かな変化だろうと考えれば上着の前をくつろげて柔らかさの増した胸元をアーヴァインへと晒す。
■アーヴァイン > ほんの少しだけ過去が脳裏をよぎる。
ルーアッハと決裂となった時に起きた、犠牲者のことだ。
敵陣に娼婦として潜伏し、犯されながらも情報を聞き出そうとしていた少女である。
あの娘も、こうして手を握った時に、何故そんなことをするのかと戸惑いを見せたのだ。
こんなに人形のような娘ではなかったが、似通った何かを感じる。
「これの事か、義父はそう扱っていたようだが、従者は認めても駒とまで言い切る気はない。納得がいかないなら、人らしく務めるのが命令と言えばいいか?」
義父に渡された駒をテーブルの上へと置く。
あの義父がしそうなこと、その偽名のようなものも駒として与えたつもりなのだろう。
そういうところは相変わらず相容れない。
こちらを観察する瞳に、好きに見るといいと思いながら、視線には何も言わず、柔和に微笑む。
「そうか…。ん? 一つの役割…というのは?」
チョーカーが外れると、声の音が少しばかり高くなり、体にあった中性的な特徴が消えていく。
すらりとした細い体躯に、慎ましめの胸元と、可愛らしいというよりは、綺麗といった系統の整いをじっと眺める。
「それを着けているのも義父の命令か? ……まぁ、あの人のことだ、美人相手に綺麗だのというわけもないか」
すっとチョーカーを指差し、問いかける。
同時につぶやいたのは、彼女の本来の姿に対する本音だ。
個人的には、モデル体型の彼女のような外見に感動を覚えるのだが…生まれてこの方、理解されたことがない。
久しぶりに素でゆったりと喋るのも在り、何時もより饒舌に感情を発露すれば、軽く肩をすくめて苦笑いを零す。
■ルーク > 「第零師団を率いて、祟り神を引き継ぐのであれば駒は駒と割り切る非情さも必要と思われます。ご命令ならば、従いますがしかしながら、私には人らしさというものが分かりません。私は、生まれたときから駒としての生しか生きておりませんので。」
ぎこちない握手をかわしたあとは、視線が動くこともなく感情の篭らない琥珀色の視線とともに、人形のように表情の動かない顔でアーヴァインへと告げる。
コトリとテーブルに置かれた城を模した黒い駒。
それと自身の価値は同じ。ゲーム盤上にあるか現実で動くかの違いだけで、主の意のとおりに動く。
その駒に意思はない。ただ、現実の駒の違いはその意に沿うために思考する事くらいだ。
淡々と、養父を否定する言葉に否定を重ねる。
彼らの利害関係の一致から、今の状態になっているのも知っている。
恩恵のために祟り神となるというのならば、祟り神としての有り様があると。
その思考回路の基準は、完全に彼の養父の意に沿うためのことを考えている。
人らしく、と命令されればその命令を拒むことはできないが、そもそも人というものではない自分が人らしく振舞うのは不可能だと首を横に振る。
「血筋を残すこと。駒であると同時に、子を産む道具としての役割を担っております。この体にはカルネテル王家の血が流れ、次代を担う血筋を残す役割が与えられています。」
なんの疑問もなく、当然のように一つの役割について告げる。
『次代』と告げる際に、感情のない琥珀色の瞳はアーヴァインの瞳を見つめ、何を指すのかを示唆する。
「…命令をされた覚えはありませんが、その役割以外に、私が女である必要はありませんから。第二次性徴が訪れる前にルーアッハ様より賜りました。…材質が、木でもガラスでも、宝石でも、駒は駒ですから。」
命令と問われるのには、少し考えるようにチョーカーへと視線を落とす。
つけていろと命令をされた記憶はない。女である必要がないと、それが当たり前のように教育され当たり前のように渡されたそれ。
ルークにとってそれを着けていることが当たり前であった。
外見に対する感想に、チョーカーから再び視線をアーヴァインへと戻せば褒められたという自覚がないのか相変わらず表情の変わらない顔が彼の顔を見つめる。
美人だとか、綺麗だとかそれが賞賛の言葉であることは理解できるが感覚が理解できないのか苦笑をやはり観察するように見つめて。
■アーヴァイン > 「必要なときにはする、それが出来るからこそ俺がここにいる」
彼女に駒として無茶をお願いする時は…祟り神の後継者として言わざるをえない。
ただ、そうならないようにするのもこちらの勤めだと思いつつ、人らしさを分からぬと宣う彼女に、苦笑いのまま、どうしたものかと顎に手を添える。
「あまり駒らしくしすぎると、浮いて俺の位置が知られやすくなるのもあるからな。そうだな…まずはその辺からゆっくり楽しんでもらうとしよう」
自分も感情の起伏が出づらい方だが、彼女ほど見えないレベルではない。
少しは人並な生活に触れさせて、多少顔に変化が出るようにさせようと思うのは、こんなに無機質にいられるとこちらが気疲れしてしまうのもあった。
「……まぁ、そういう役割はあるかもしれないが…一応言っておくが、そういう時が来たとしても、道具として抱く気はないからな?」
暗に義父が世継ぎを作っとけと押し付けたのもあるのだろう。
そういえば、以前の酒の席で女の話が少し出たが…まさかそれで探りを入れられたのでは?と勘ぐってしまいたくもなる。
ともかく、今の彼女を抱くのはこちらが辛くなるものだ。
困ったように笑いつつ視線をそらし、その気がないのが伝わるだろうか。
「……分かった、俺は弟ほどではないが女性が好きだ。それに外見はルークみたいな、華奢で緩やかな曲線美が好みだ。見ていて疲れが取れる。俺のメンタルの手入れも従者の仕事の一環として、男の振りをする必要が無い時は、俺の目を楽しませてくれ」
おそらく、確りとした命令で言わないと今は受け入れないだろう。
暗に褒める言葉をつぶやいても、表情の変化もなければ、此方を見つめるばかり。
それを悪いという素振りは見せないが、淡々としすぎた様子に乾いた苦笑いが溢れる。
理由を添えた命令で女性の姿を求めれば、部屋の中に入り込む寒風に、かなり夜も更けた事に気付く。
「今日はこれぐらいにしようか、明日も公務があるからな。 ……ルークは俺が休む時は、何処で寝泊まりするんだ?」
立ち上がると、彼女の動きを待ってから部屋の外へと向かっていく。
義父と違うところは足取りにも現れる。
彼女の歩幅と歩調に合わせ、着いて来やすいように歩くのだ。
先程の問いに、外だの廊下だのと、マトモではない答えが帰れば、問答無用に自室へ引っ張り込み、ソファーをベッド代わりに休ませるだろう。
どうせベッドを促しても、拒否するだろうと見越しての妥協点として…。
■ルーク > 「どうぞ、ご存分にお使いください。」
人らしさを求められるよりも、駒としての役割を求められる方が理解もしやすい。
普段から、駒としての扱いは必要であると考えるが主にこれ以上言い募るものではないと口を閉ざす。
「…お側に姿を見せているのが不都合であれば、隠形することが可能ですが。バンシーに所属していましたので、隠形はなれています。」
その辺から、というのはどの辺なのか分からない。
が、自身の振る舞いが彼の不都合になるのならば身を隠して傍に仕えることも可能だと、所属していた部隊を明かす。
「…道具以外の目的が何かあるのでしょうか。」
駒として以外の、もう一つの役割を果たす時がきたと思っていた。
けれど、彼は視線をそらしてその気がないことを示す。
道具として抱く気はないとはっきりと言われるのに、それ以外の目的が本気で分からないように表情の変わらぬままに首をかしげて。
「ご命令ならば、そのように従います。」
彼の言い回しの一つ一つが分からない。
いや、言葉としてはしっかりと理解しているが、そういう言い回しをする感覚が分からない。
乾いた苦笑を零しながらの、理由を添えた命令に一つ頷き。
「はい。お疲れ様でした。ごゆっくりとお休みください。…眠っていらっしゃる間が一番無防備となりますので、お部屋の外で待機しておりますが…。」
彼が言葉とともに立ち上がると、ルークも椅子から立ち上がりその後ろに付き従う。
しかし、ルークの歩幅にあわせるように歩かれるのに慣れぬようにペースが乱れる。
いつもであれば、そこにいないかのように歩きさっていく背中についていくために歩を早めているところだったからだ。
夜間の居場所を告げれば、問答無用で部屋へと引っ張りこまれてソファに寝かされる。
今までと全く違う扱いに、困惑しながらも夜は更けていく。
ご案内:「王都マグメール 王城」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」からルークさんが去りました。