2017/03/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にアーヴァインさんが現れました。
アーヴァイン > その日の会議室は、暗く静まり返り、畏怖ばかりが室内を包み込む。
祟り神のように恐れられている王族に名指しで呼び出された者達は、以前も同じように呼び出されたことがある。
その者に仇なす事をした貴族の首を、その場で切り落とすという殺伐とした映像を見せられ、今日は自分の番かもしれぬと、生きた心地がしないのだろう。
奥の扉が開かれ、彼らを呼びつけた王族の一人、傷跡だらけの男、ルーアッハが姿を現すと、普段座る中央の椅子ではなく、斜め後ろにある椅子へ乱暴に座り込む。
空いた中央の席、そこへと近づいたのはルーアッハの背後から出てきた彼だった。
普段とは違う仕立てのいい服装は、内心肌に合わず気に食わないのだが、義父に言われ、仕方なく纏っている。
静かに中央の席に座ると、始めろと義父が呟き、小さく頷くと集まった一同を一瞥する。

「この度、ルーアッハ・グラウ・カルネテルの養子となり、義父の仕事を引き継ぐことになったアーヴァインだ。今日はその挨拶と、初の仕事のため、集まってもらった」

祟り神に養子、唐突な話に困惑した様子の貴族達にざわめきが広がる。
想定されていたとおりの結果に、確認するように義父へ視線を送るものの、仏頂面の此方とは異なり、明らかな不機嫌顔を見せる。
早くやれと言いたげに目配せし、顎をしゃくると、再び貴族達へと視線を戻す。

「黙れ」

義父と同じ、有無を言わせぬ命令。
その仕事を引き継ぐというのは、こうした輩を一言で、一睨みで制する胆力が必須だった。
手続きを終えたとは言え、もし義父に答えられる仕事ぶりを見せられねば、利害関係が一致しなくなる。
変わらぬ表情、淡々と告げる様は不気味さもあって彼らが黙りこくり、静寂が蘇った。
それでいいと呟くと立ち上がり、一人の貴族を指差した。
20後半程の女性、指さされた女は、びくっと身体を跳ねらせ、みるみる青ざめていく。

「ここへ来い、今すぐだ」

その命令に女の手が震え、脂汗が滲むのが見える。
それでもそれ以上の言葉発さず、彼も義父も、じっとその女貴族を見ているだけだ。

アーヴァイン > 何が起きるか想定がついたのか、それとも空気に飲まれ、腰を抜かしているのか。
女貴族が動かずにいると、周りの貴族が立ち上がり、彼女の脇を抱え、まるで生贄に突き出すかのように引きずり始めた。
泣きわめく女が彼の前へ突き出され、両膝をついた瞬間、無遠慮に拳を顔面へと振り抜く。
ゴッ! と鈍い音が響き、唇が切れ、血がだらりと滴り落ちていく。
その一撃で女が黙ると、連れてきた貴族達は蜘蛛の子を散らすように離れていき、席へ戻っていった。

「義父の経営する店と知っていて、どこの馬の骨とも分からぬ輩にちょっかいを出させたな? 先々月、仕事の不履行の罰として、私財を一部没収された恨み返しか」

この女が義父から命じられていたのは、娼婦宿の一分管理とそこの娼婦たちに流れ着く話から、有益なものを洗い出す諜報の一部。
それほど重要というほどではないが、宿の管理が悪く、報告されていれば、平原での小競り合いにおいて無駄な損耗を抑えられた情報を見逃した仕事の不履行がある。
故に、その懲罰として一部資産の没収を行ったわけだが、その恨みを返すための嫌がらせだったのだろう。
巧妙に情報を消そうとしていたが、彼と彼の部下達が戻ってきたことで、簡単に足を捕まれ、引きずり出されたのだ。
少々殴り飛ばして、更に財の徴収で黙らせても良かったが、ルーアッハからすれば、丁度いい無能を見せしめの生贄にする口実を得たとしか思っていない。
そして、脇差しを引き抜くと、女の背を踏みつけ、体を縮こませて抑えつける。
最早、何が起きるか言うまでもない。
命乞いを喚く女に、表情を変えぬまま刀を振り上げていく。

「死ね」

風切る音が重たい水音を交えて首を叩き切る。
ごとりと生首が転がると、あっという間に鮮血が吹き出し、鉄の匂いが室内に充満していく。
変わらぬ仏頂面をしてはいるが、内心は酷く困惑している。
殺す必要など無い、だが力のためなら躊躇いなく殺しの命令を降す義父がいる。
それを忌み嫌う故に離れたが、今はこうして従うしか無い。
心の葛藤をぐっと押し殺し、冷えた目つきで傍に居た貴族を見やると、二つになった女貴族を指差す。

「そこの窓から捨てろ、ゴミだ」

逆らえばどうなるか、間近で理解させる。
そのための死体処理を命じると、ガツリと死体を蹴り転がし、赤い飛沫が顔にかかった。

アーヴァイン > 血に濡れた金髪、光をなくした青い瞳、最後の言葉を紡ぎきれず、半開きのままとなった唇。
そして、死後硬直に痙攣しながら鮮血を滴らせる無様な胴体。
貧民地区にでもいそうな人間がやる死体処理を、彼らに命じると、吐き気を抑えるようにしながら、命令通り窓の外へ死体が放られる。
真下は丁度ゴミ捨て場だ、ゴミの山にかぶさるようにしたいが落下し、鈍い音が響く。
刀についた血を一払いしてから鞘に収めると、無言を貫く貴族達へ振り返った。

「終わりだ、帰れ」

仕事とはこのことだった。
貴族達は各々に去り際に挨拶をしながら、いそいそと廊下へと消えていく。
外に待機していた部下達が入ってくると、残った血の跡の処理を開始し、室内が薬液の匂いに入れ替わっていった。
よくやったとルーアッハが呟きつつ立ち上がれば、ぽんと肩をたたいて、後ろにあるドアへと消えていく。

(「まるでちょっとした一仕事を終えたぐらいの感覚だな」)

そういうところが嫌いなのだ、時に人をゴミのように扱う。
時に人を宝のようにも扱う、必要、不必要の取捨選択で感情を伴わせない。
彼の非常さに嫌気が差し、離れたが、結局はルーアッハの想定通りの結果を迎えている。
それでも、国が腐り落ちるのなら、落ちぬように楔を叩き込む必要があった。
楔として、大きな力を振るい続ける。
それが自分の夢物語の傘となるのだ、心を押し殺す他無い。
そんな心の葛藤を、変わらぬ表情のままに一人繰り返せば、会議室を去る。
新たな祟り神が生まれた、その話は早くに貴族や王族に広がるのかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 王城」からアーヴァインさんが去りました。