2017/02/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 王国の中枢たる王城。筋からいえば、如何な豪商といえども、異国出身者がおいそれと足を踏み入れられる場所ではない。だが、それは王家の権威が弱体化する前の話であり、王城に出入りする者達が王国の民である事に矜持を持っている時にまかり通っていた道理だ。国王不在の混乱期ともなれば、何かしらの伝がある者なら、或いはその伝を金銭を堆く積み上げる事で構築することが出来る者ならば、入り込むことは容易い。下手をすれば、一見さんお断りの会員制娼館に潜り込む方が困難なぐらいに。

「…如何にか撒けたかのぅ?」

今宵、この妖仙が王城に足を踏み入れている理由は、どちらかといえば前者寄り。そして、自身が積極的に望んだことかといえば――否。此処に至るまでの顛末は、そう難しい話ではない。元より取引のある”クリュグ伯爵家”という、それなりの格と政治的影響力を持った貴族の御婦人に半ば強引に連れてこられたのである。何のことはない。今宵、王城で開かれるささやかな宴に臨席するに際し、数十年前は妙齢であった御仁が妖仙の帯同を望んだのだ。確かに異国情緒溢れる容貌は、十分以上に多くの人物の審美眼に適うものだから、ご婦人方の持つマウンティング精神の発露という観点から見ると、体の良いアクセサリーを欲していたというのも、理解できないでもない。納得できるかは別にして。故に、宴もたけなわになった頃、少しばかり涼んでくると言い残しての大脱走。広過ぎる城に対する土地勘は殆ど持ち合わせておらず、行き当たりばったりの散策という風情。

ホウセン > 潜入。そして探索といえば聞こえは良いのかもしれないけれど、今のところは物見遊山が精々。廊下や角の其処彼処に衛兵が立っているものの、誰何されることは皆無だ。見るからに王城内では異分子でしかない、異国の風体と、子供子供した容姿。それなのに訝しんで声をかける者がいないというのは、こうして縁のなさそうな輩の出入りが日常化していることの傍証であり、警備にあたる者達の士気の低さを物語る証左。

「これならまだ、最前線で血泥に塗れておるものの方が、兵としては真っ当なのやも知れぬのぅ。」

己の倉庫番ではない故、偉そうに論評する台詞は他人事めいた響きを隠そうともしない。とはいえ、誰かに聞かせるつもりもない言葉は、音量が絞られている。寧ろ、衛兵の誰かに聞かれたのなら、彼らを侮辱しているものなのだから、唇の内側に押し留めるのが理性的な判断なのだけれど。ともあれ、行動が掣肘されないのを良い事に、気の向くままに城内を闊歩する。妖仙本人は意図していないが、式典や催し物の為に使われる区画から離れつつあり、そのまま進めば政の区画なり、軍関係の区画なりに足を踏み入れてしまうのも、そう遠い未来の話ではない。

ホウセン > 今は妖仙としての活動というより、商人として振舞っている時間だ。必要以上に気を張り巡らせるでもなく、ペタペタと小幅な歩みで、大人数人が横一列になっても通り抜けられるだけの広さを有した石造りの廊下を進む。両手は腕組みの形で、左右の手を互い違いの袂に突っ込んで、少しばかり薄っぺらい胸板を反らす様に。著しく欠落している威厳という要素を、その姿勢で補充しようとしているようにも見えるかもしれないが、お大尽の猿真似をしているかのような滑稽さの方が先んじるだろうか。チラチラと視線が向けられるのは、悪目立ちしている事を裏付ける一要素。

「斯様に不景気そうなツラを並べられても困りものじゃな。せめてこう――」

己の眼鏡に適うような見目麗しい者なり、金蔓になりそうな者なり、珍奇な騒動なり、乱闘なり、暗殺騒ぎなりが転がり出てこぬものかと、甚だ物騒な呟き。己の領域外であり、厄介ごとが起きようとも後始末をするのは己ではないという事情が、傍迷惑なトラブル願望の源泉とも言える。最悪の最悪、”帳”を使って、この場から人知れず退散するのも――此処に連れてきたご婦人には迷惑をかけるだろうが――出来ない訳ではないのだし。

「うむ?何ぞ、設えが変わったかのぅ。」

久方振りに足を止め、軽く首を傾げた。これまでは華美な装飾が幅を利かせていたのに、今しがた妖仙が足を踏み入れた区画は、少しばかり実用性に重きを置いた内装になっているように思えたのだ。若しかしたらと予想すれども、確答はまだ妖仙の手の内にない。其処は軍関係の区画。催し物の区画でさえ浮いている事を否定できなかったのに、この場では尚更。唐突に襟首を猫摘みされても、文句は言えない程度に。

ご案内:「王都マグメール 王城」にアマレットさんが現れました。