2016/08/28 のログ
ナルラ > 自分の悪癖の結果とはいえ、こう警戒されるのはやはり寂しいものである。
先日の事を言い訳を並べようとすれば、山のように言葉を積み上げることは出来るだろう。
だが

「……先日は、あの怪物の熱に侵され、己の押さえが効かなかった
 そして何より貴女が女性として魅力的に映ったのだ」

それよりも、己の感じた事を素直に言葉に紡いでいく……不審に思われている状況の上に嘘を重ねては
もし信頼を築けたとしても、それは脆いものだと知っているから。

「……私はリヒャルト王子の願望を具現化したに過ぎません
 王子がもし女性になりたい、お姫様になりたいという願望がなければ
 あのような変化は起こらなかった……」

そのまま離れる相手に一歩だけ近づき

「あの時、私は欲望のままに行動を行ったことに関しては非礼をお詫びする
 身体を元の状態に戻ることを望むのなら、その治療に手も貸しましょう」

だがその一歩より先には踏み出さなかった……リヒャルト王子と己との体格差もあり
近くに寄りすぎれば威圧感も与えてしまうかもしれない、だから少しだけ距離を置いていた。

ラケル > ――――― どくん。

『女性として』『魅力的に』―――そんな言い回しを用いられただけで、
身体の芯が甘い疼きを訴えてくる。
外見や出自だけのことでは無い、己にとって正しく『王子さま』と呼ぶべき
献身を示してくれたひとの口から、であれば、なおのこと。
蒼褪めていた頬に淡く朱が燈るほど―――悲しくも辛くもないのに、眦へ涙が溜まるほど。

「ぼく、……でも、ぼく、っ……
 ―――が、願望、なんて、……そんな、…ちが…っ、……」

認めてしまうのは、怖い。
この変化が、自らの願望の結果である、と認めてしまったら―――
今度こそ、もう二度と戻れなくなってしまうような気がして。
縺れる舌を懸命に動かして、たどたどしくとも必死に否定しなければ、
取り返しのつかないことになってしまいそうで。
それでも、―――語尾まで、言い切ることが出来ない。
俯いて、身を引いて、後退って、それでも、逃げ出すことは出来ずに。

彼から一歩、削られた距離に、己の頭上へ青い影が差す。
その影のなかで、ずきずきと疼く腹の辺りへ、震える片手を宛がったまま。

「……ち、…治療、って…。
 これ、…なお、…治せる、もの、なんですか…?」

だって、一度はもとに戻ったのだ。
なのに今、夜着の下で震える身体は―――華奢ではあっても、確かに、
こんなにあっさり、異性のそれに変わってしまっている、のに。
言外に、出来る筈が無い、という諦念すら滲ませて。

ナルラ > 目に見える明らかな動揺、ここは飲み物でも勧めればいいのだが、あいにく今は持ち合わせはなく、
誰か人を呼ぶべきではないだろう
庭園の華を眺めながらお茶をする趣味の方もいるので、何か飲み物を飲むための道具一式はないかと、探し始める。

「なければあのような変化は起こらなかった……もし無いのなら私はリヒャルト王子のまま貴方を抱いていただろう」

否定する言葉を紡ぐ相手に、きっぱりと断言をする。
そのような願望がなければ、あのような変化は起こり得なかったのだと

「ああ……その変化の逆の手順を踏めばいい、そう難しいことではない」

空の水差しに、カップを見つければ、水差しの中に水を『創造』し、カップに注ぎリヒャルト王子に差し出した。

「男でありたい、男でいたいと強く願い祈れ……そして女になりたいという願望の一切を己の心から消せ
 さすれば、あの時のことは夢のように『無かったこと』なるであろう
 リヒャルト王子はちゃんと男に戻れる、凛々しく勇敢な王子へとなれるであろう」

ラケル > ずきん、ずきん。
こうして間近に彼と相対し、彼の声を聞いているだけで、身体の芯に灯った焔が、
じわじわと内側から肌を焙りながら、四肢の先まで広がってゆくのが分かる。
どれだけ言葉で否定しようと、己の願望の在り処など、はじめから
お見通しだ、と言わんばかりに―――
己自身の、からだ、そのものが。
己の意思を無視して、雌になろうとしているような。

「……そんな、―――…」

もはや、反駁の言葉すら浮かばなかった。
差し出されたカップを反射的に受け取り、両手でそれを包み持って、
淡い波紋を描く水面をじっと見つめる。

―――男でありたい、男として、王子として、強く、凛々しく在りたい。
それは果たして、己が描いた夢だっただろうか。
己はいつでも、逆の夢を抱いていたのではなかったか。

叶わないと分かっていたからこそ、手放しに夢想していられた。
不意に叶えられてしまったから、これほどに動揺した。
―――ならば、

「―――……でき、ません……。

 ぼく、には……きっと、……」

きっと、消し切ることなど出来ない。
あるいはいつか、本当に取り返しのつかない事態を招いて、心の底から
後悔するのかも知れないけれど。
今はどうしても、その夢想をすべて、追い出すことは出来そうに無かった。

ぽとり、零した涙の粒が、カップの水面へ新しい波紋を描く。

ナルラ > 己の言葉に身を小さくするようにするリヒャルト、己の言葉の真実が
逆に彼を責めることになったのかもしれない。
そしてその影のある表情が、ナルラの欲情を掻き立てていく。

「……まあ、貴方の願望がどうであれ、私の責任は大きいな」

そう言って自身もカップに水を注ぎ、一気に喉に流し込む。

己の欲望に負け、そして行ってしまった行動が目の前の少女を苦しめる事になったのは事実である。

「……できぬのなら、他に方法がないかを探すしか無いか」

そう言って、そんなものがあるかどうか判らない不確定要素を口にする。
ただ目の前のラケル姫に寂しい表情をさせたくない、そんな気持ちがナルラの中で思いつく他の手段を考えさせた。

「私の能力でリヒャルト王子貴方の身体に変化を与えた、だが私の能力と同じ能力が過去にも存在したかもしれん
 その事例がないかを調べ、元に戻れる手段を探る」

少ししゃがみ、視線をラケル姫に向け瞳をじっと見つめ

「もしそれでも、元に戻る方法が見つからなければ……私が責任を取り
 ラケル姫、貴方は女として生きるといい」

ラケル > ぽとり、ぽとり。
ひと粒、零れてしまえばもう堪えることも叶わず、カップのなかには
瞬く間に、零れ落ちた涙による、複雑な波紋が描かれることになる。

自らの責任、などと言い出した彼に、俯いたまま、そっと左右へ頭を振って。

「…ちが、…ちがい、ます、……ぼく、…ぼくが、こんな…こん、な、」

父の望むような、立派な『王子』にはなれない。
そう『なる』ことを心から願えない、己の脆弱さがなによりも罪深いのだと、
本当ははじめから、分かりすぎるほどに理解していた。
己自身の心がこんなに弱いままでは、きっとどんな手段を講じようと、
この状態から抜け出すことなど出来ないのだ、とも。
だからもう、良いのだ、と―――そう言って、今度こそ、この場を辞する
つもりでいた、のだが。

「……いいえ、ナルラ様、―――もう、

 ―――――― え、……?」

目の前の男は、いったい、なにを言い出したのだろう。
泣き濡れた双眸をわずかに瞠り、彼の双眸を窺い見る。
彼の真意を探るように、その眼差しの奥を、覗き込もうとするように。

「……せ、きにん、って……いったい、……」

ナルラ > あの時ナルラが彼女に向けて言った言葉、その言葉をどれだけ覚えているかわからない。
だがあの時確かにナルラは言ったのだ。

「言っただろ、ラケル姫お前は私の女だと……忘れてしまっているのではないだろうな?」

先日の洞窟内での彼女との情事、その時にナルラは彼女に向けて言ったのだ
お前は私のものだと、私の女だと、私の雌だと……

そのまま不意に抱きしめ、彼女の唇を奪う、強引で我侭なナルラのキス
それがラケルにどう受け入れられるかは判らない。

「姫としてお前を引き取る、知っているかもしれんが私はすでに何人か妾や婚約者がいる、
 今更一人二人増えた所で、とやかく言う奴はいないだろう
 ……流石に妾は嫌か?」

じっと瞳を見つめる、こちだは片膝立ちで座り少し見上げるような視線でラケルの瞳を見つめている。

ラケル > 「―――――な、」

どく、―――ん。

はじめての快楽に朦朧とする意識のなかで、夢うつつに紛れていたその言葉。
『ラケル』は彼のもの、彼の女、彼の、雌―――夢だと思っていた、あるいは、
夢だと思い込んでいたかった。
けれど彼の存在が、彼の言葉が、―――不意に伸ばされた腕が、再び己の心が
逃げを打とうとする前に、この身をしっかりと捕らえてしまう。
抱き竦められた腕のなかで、強引に奪われた口づけは、それでも、
ひどく甘くて、熱くて。

「んっ、――― んぅ、…っ、っ…!」

反射的に閉じた瞳、零れ落ちたカップが地面に転がり、冷たい飛沫を足許に散らす。
空いた両手は彼の身体を、申し訳程度に押し遣ろうとしたけれど―――あまりにも、非力なまま。
口づけが解ける頃には、戦慄く唇は艶やかに赤みを増し、零れる吐息は熱を孕んで。
ぼう、と霞みかかったような眼差しが、跪いた体勢からこちらを見つめる、
彼の顔を捉えて、淡く揺らぎ。

「―――ぼく、よりも。
 父が、…そんなこと、許す筈、ありませ、ん…。」

彼に纏わる噂が問題なのでも、彼の華やか過ぎる女性関係が問題なのでも無い。
何よりもまず、父にとってはたったひとりの王子なのだ。
許される筈が無い、と口許を緩ませたが、笑みというには弱々しく。

ナルラ > その言葉を耳にした時、またこの男の悪癖が鎌首をもたげた

「なるほど……お父上が許したのなら、貴方の抱えている問題は全て解決するのですね?」

そう問いかける、ラケル、いやリヒャルトの父は知らぬ中ではない。
ましてや、ラケルは知らないがナルラから、領地の農作物の改良などで
その恩恵を受けているのである。

勝算のない戦いではない、むしろリヒャルトの父は喜んでナルラに彼を差し出すかもしれない。

「ラケル姫、貴方はフォン・シュトラーゼ家を無理に背負う必要はない、私がその辺りは上手く立ち回らせてもらおう」

そう言って彼女の頭に触れ髪を撫で下ろす、その感触は心地よいもので

「改めて聞こう、貴女の父上、そして家の件が解決するならば……貴女はラケル姫として我が妾になるか?」

改めて問い、瞳を見つめる……真剣な眼差しを向け、その問の答えを求める。

ラケル > 己の知る『父』というひとは、もしかすると我が子に見せるためだけの、
ほんの一部分に過ぎないのかもしれない。

あまりにもあっさりと、己が一番の障害になると考えている部分を
すぐにでも『解決』出来る、と言わんばかりの台詞を吐く彼に、
薄れかけていた警戒心が、そっと頭を擡げてくる。

姉たちが、母が、眉をひそめて、あるいはどこか面白がるように、
語り聞かせてくれた彼の『評判』。
多分に己に対する揶揄いを含んでいると思っていたけれど、もしかして。
噂通りの、否、もしかしたら噂以上の―――。

「―――――、……

 ……できる、わけが、ありませ…ん。
 いくら、貴方が、…カルテネルの、血を引く、かたでも……、」

妾、とは、すなわち側室、側女、言い方はさまざまだろうが、
少なくとも己の知る『父』というひとは、自分の息子をそんな立場へ、
簡単に差し出すとは思えなかった。
だからきっと、―――どこかで、油断したのだ。
頭を撫でる掌の下で、気弱そうに微笑みながら。

「…そんな、夢みたいな、こと。
 あの白い花と、同じようなものでしょう、
 ……ただ、この一夜の夢で、終わるに、決まっています。
 明日の朝には、きっとなんにも…なんにも、残らない。」

―――残らない、残せない。
たとえこの一夜に約束を交わしても、たとえ、この身に宿る熱が導くまま、
もう一度彼に身を任せたとしても。
何も残る筈が無い、何も変わる筈が無い。
そう思い込んでいる己は―――まだ、気づきもしない。
今、この身体で彼と交わった場合、―――なにかが『残る』可能性、なと。

ナルラ > 出来るわけのない言葉、その言葉は挑戦的にも聞こえた。
ならば

「もしそれが出来たのなら……貴女はラケル姫になっていただけますか?」

彼女が不可能だと思っている事案、ソレさえも乗り越えたのなら、
それこそお姫様を救い出す王子のように見えてしまうかもしれない。

「ああ、そうだなこの国には私のような立場の者も多くいるし、所詮カルネテル王家の一人でしか無い
貴女からすれば、頼りなく見えるのかもしれないでしょう……」

そっと抱き寄せ、お互いの体温を感じられるほどにしっかりと抱きしめ頬を重ね

「あの白い花は夜の間にしか咲きませんが貴女は違う、
 貴女は咲こうと思えば昼夜問わず咲くことの出来る花です。
 明日の朝も昼も、そしてまた夜も……貴女は残る、そしてラケル姫であり続けることが出来る」

ラケル > ―――吐息のように力無く零れたのは、掠れた笑い声の残滓。

「できたら、……できたの、なら?
 ……どうして、…ナルラさま。どうして、ぼくを、……

 ……『ラケル』を、そんなに……、」

ほんの気紛れかも知れない、己が馬鹿な子供だから、少しばかり変わり種だから、
揶揄われているだけなのかもしれない。
それでも、―――求められていると、己惚れても良いのだろうか。
こそばゆい心地は決して、触れ合う頬の柔らかさゆえ、だけでは無く。

「……頼りない、なんて、…そんなことじゃ、ありません。
 でも、――――

 信じない。信じません、…だってぼくは、まがいものの花、だもの。」

姫になんて、結局のところ、なれる筈が無いのだ。
許される筈が無いのだ、と嘯く己の表情は、寂しげに映るだろうか。

それとも年端もゆかぬ子供の分際で、無謀にも男を挑発しようとする、
稚拙な手管を思わせるだろうか。

―――いっそ、呆れてくれたら良い。

彼の身体と、己の身体の間へ。割り込ませたままの両手に、そっと力を籠める。
今度こそ、身をもぎ離してしまおうと―――するには、やはり弱々しい、
抵抗とも呼べぬような。
あるいはそのささやかな反抗すら、挑発ととられる危険も孕みつつ―――。

ナルラ > 諦め、戸惑い、そして嘲笑、様々な思いが入り混じった吐息が聞こえれば
彼女を改めて強く抱きとめる。

「そうだな……好色で有名な私がこう言ってどこまでちゃんと信じてもらえるかは判らんが

 貴女が気に入ったのだよラケル姫……」

そう貴女を求めたのだと口にする、でなければこうして抱きしめやしないと言うように

「そこまで言うのなら、今一度思い出させてあげましょう
 貴女が花であるということを」

言葉を重ねても、受け入れぬというのなら、そのまま今一度身体に判らせてやろう。

抵抗する手に身体を一旦離せば、そのまま軽いラケル姫の身体をお姫様抱っこで抱き上げる。

「失礼……貴女の体温を感じていれば紳士的でいられなくなった、今宵はこちらに参りましょう」

そして半ば強引にナルラはラケルを連れ、そのまま寝室へと向かう……

ご案内:「王城 月夜の庭園」からラケルさんが去りました。
ご案内:「王城 月夜の庭園」からナルラさんが去りました。