2015/11/07 のログ
ヴァイル > 曇天の下、中庭の噴水の周囲に、焦げ茶髪を三つ編みにした少年が佇んでいた。
纏う衣装に華美なところが見られないことから、誰かの侍従のように見える。

少年――ヴァイル・グロットは、指につまんだちいさな何かを顔の高さまで持ち上げて観察していた。
緑色の、黒い斑点のある、指に垂れ下がるそれは芋虫だった。

「王族に化けるとは――どこの勢力の配下か知らないが、
 ずいぶんと大胆な手管を使うようになっていたのだな」

薄笑いを浮かべ、そう芋虫へと向けて語りかける。
もちろん言葉を返すどころか、解することもできないはずのそれが、
指の間でふるふると震えるように動いた。

ヴァイル > 王家に連なる人間の娘になりすましていた魔族を誘い出すのは驚くほどに簡単だった。
自らも魔族であるという事実を少しほのめかしてやればいいだけだ。
人間の生活に被れたか、同族を前に何一つ警戒らしい警戒を見せなかった。

「きらびやかな衣装をまとうよりも、今のおまえの姿のほうが
 素朴でおれ好みだな。どうだ、一生そのままでいたらどうだ。
 …………何、気が向いたら戻してやるよ。
 おれの気が向くまで、ちゃんと生き延びていることだ。
 ……おまえをおまえとわかるものがいたなら、呪いを解いてもらえるかもしれんな」

植え込みに芋虫を投げる。のたくって奥へと消えていった。
結社《無の世界帝国》からヴァイルに今回くだされた指令は、王城に潜伏している
当該魔族を始末することだったが、命を取ることはしなかった。
……とはいえ、ほとんど死んだも同然ではあったが。

魔性の存在は、犠牲者から全ての希望を奪うことはしない。
それはけして慈悲ではない。

ヴァイル > 「にしてもキリのない話だな。
 こいつ一人ではあるまいに。
 まさに虱潰し……といったところか。
 さっきのは芋虫だったがな」

自分の任務がマグメールと魔族にいかなる影響を及ぼすか、
実のところヴァイルはあまり把握できていない。
彼にとってそれはあまり重要ではなかった。

何食わぬ顔で、庭を背にする。
虫けらになりはてた彼女が、
誰かに踏み潰されるまで中庭から出られないことを想像して、
無感動だった相貌が、かすかな喜びに彩られた。

ご案内:「王都マグメール 王城/中庭」からヴァイルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城」にシドさんが現れました。
シド > 高みをめぐるテラスの黒曜石の玉座より王の挨拶から始まった。尊大なその謡い文句を告げても……。
その表情のそこに隠しようもない疲労が揺らめいているのが滑稽で。
大仰に頭を垂らしてビロードのように巡らされた銀髪の下ではつい苦笑いが出てしまう。
国庫を空にする催しする前にやるべきことがあるだろうと。
そんな不穏な考え巡らす青年は具に不満も見せぬ微笑みで風のように広間を巡っていく。
見る顔来る顔、どれも違う。国政が安定しないためか。
そこかしこ談笑華咲く中で、銀の髪波が重たげに揺れていた。

「はぁ……腹黒い中年に顔を売るのもいいが……ここらで、もう少し効率よく事を運びたいものだ。」

充てなく、過度な接触なく、行き着いた先は壁際。ウェイターから手渡されるグラスを傾けながら茫洋とした眼差しで。
優雅なる社交場、その毒蛇の巣を外から覗いてみた。

シド > 耳元では小鳥囀るような歌声が、演奏者に合わせて歌いだす者が現れる。其れに乗せるように踊りだす者も。
纏う装飾もどれもこれも色鮮やかで珍しき井手達に、圧倒されたこともあったが…。
距離を隔てて見えるに、互いの権威を見せ合う動物と等しく映るのだから、葡萄色の瞳はおかしげに細まる。

「偉くなったとしても、見栄だけは張らないようにしたいな。」

独り口を零していく貴族に話し掛ける相手は、どこぞから現れた彼の従者。耳元に囁く声音に小さく頷いて。
柱の陰にと溶けるように消えていった。急用だった様子で――。

ご案内:「王都マグメール 王城」からシドさんが去りました。