2023/07/12 のログ
ヴァン > 「まったくだ。図書館は空調完備、服装自由、勤務時間も比較的融通が利くから、もう鎧を纏う生活には戻れないな」

黒の詰襟で炎天下を歩いてきたからか、微かに額に汗が滲んでいる。
懐からスキットルを取り出すとコーヒーに黄色い液体を注ぎ、蓋をしてテーブルに置いた。
香りを楽しむように目を細めてから口をつける。

「あぁ、上司の目が届かない、ってのは最高だな。平民地区や貧民地区と違い、ここは治安も良いし……。
王城は本当に何もないからなぁ。だらけるにはいいが、上司や先輩の目が怖いか。
……おぉ、よくわかったな。そう、ここで待ち合わせなんだ。
あぁ、そうだ。えーと……ミス・カイエスタン。
王城に顔を出さない生活が長かったからか、顔は覚えていても名前を度忘れすることが多くてね……。
貴女は結構、今の仕事が長い方で?」

何もない、というのは正確ではないだろう。騎士団が出張るようなことはない、といったところか。
城の中でも不正は行われているが、権力をもって揉み消す手合いが多い。そのためのスターチェンバーと言える。
待ち合わせの場所を言い当てられ、少し驚いたように眉をつりあげてみせた。

男はどうやら、外見と地位や職業をまず結び付け、その後に名前を覚えるタイプのようだ。
10年以上前と今で、彼女の外見は変わらないように思える。男の記憶はあやふやだが、職位も昔と同じ……気がする。
男はあまりハーフエルフについて知らない。人より長命である、ぐらいか。
ハイエルフのような長命種は一定期間務め上げると名誉職のような地位に就く、と聞いたことがある。
人間のような短命種がいつまでもポストが空かないことに不満を持つかららしい。

セレンルーナ > 「それは羨ましい限りだね。暇があれば、本を読んでいられそうだ。」

カラカラとストローを回して、氷が溶けて薄くなった部分とアイスティーとを混ぜ合わせながら、雑談に応じていく。
普段は図書館の司書をしているというのは、辺境伯家の名代になったあとも変化はないようだと、頭の中の情報を更新しながらストローに口をつけていく。
氷を使った冷たいドリンクが飲めるのも、富裕地区ならではだろう。
彼がスキットルからコーヒーに注いだ液体からは、アルコールの香りが微かに漂ってくる。
黄色い液体は、ブランデーかウイスキーだろうか。

「上司がいると、こうやってサボる事もできないからね。
 ま、何もないのが一番だけどね。王城内だと王族、貴族の方々がいらっしゃるから、あまりだらけているとまた上司がうるさいしね。
 ただの予想だよ、こんなに暑い日なら待ち合わせ場所まで距離があるところで時間を潰したりはしないだろうとね?
 王城内は人の入れ替わりも多いしね、名前を聞いただけで家名が出てくるだけでも十分すごいと思うよ。
 んー…結構長いほうかな。
 人外の種族の先達に比べるとまだまだ若輩だけれど、人の中で考えると長くなるね。」

待ち合わせ場所を当てた事に驚く様子に、微かに目を細めていく。
確証はないけれど、このカフェの個室へと入っていった人物のどちらかがヴァンの待ち合わせ相手のような気がする。
そんな憶測は表情には出さずに、問いかけに少し視線を左上に向けるようにして考えるように答えるだろう。
騎士見習いから入団があれくらいの歳だったから、ひぃ、ふぅ、みぃと指折り思い出しながら数える仕草を見せて。

「長いは長いけど、所詮は小隊の副隊長止まりだからね。後輩にどんどん追い抜かれていっているよ。」

やる気のない不良騎士が、出世できるはずもないと今の立場は長く勤めているお情けで着いている職だと印象づけていくか。

ヴァン > 「俺も最初はそう思ったんだが……。
意外と図書館には人が来るんだ。窓口業務や返却された本を書架に戻すとか、結構やることが多くてね」

コーヒーを飲んで一息つき、ようやくパラソルの下も空調がきいていることに気付いたようだ。
ゆっくりと息を吐きだして、落ち着いたように椅子に深く腰掛ける。
スキットルの中身を勧めようかと視線を女騎士へと向けるが、さぼりとはいえ職務中だと思いだす。

「仕事中の人に酒を飲ませたら、さすがに怒られてしまうな。
こいつはジンと『赤べこ』って南方の嗜好品とを混ぜたものだ。疲労回復や眠気防止の効果がある。
昔は紅茶やコーヒーのように薬として扱われていたこともあったんだと」

テーブル一つ分の距離があるとジュニパーベリーの香りは消えてしまっているだろう。中身の説明をしつつ懐へとしまう。

「なるほど。ここからだと噴水広場までは5分はかかるか。
王侯貴族、あと騎士か。若い頃に社交の場でとにかく覚えさせられたよ。ブランクもあるし、年下は覚えきれないかな……」

冗談めかして告げる。
噴水広場は待ち合わせ場所として有名ではあるが、デートの待ち合わせ場所としてだ。そんな所に帯刀しては行かないだろう。
名前と家名を繋げられることには大したことではないと謙遜する。

「それでか……だいぶ昔から見た顔だなぁ、と思ってたんだ。だから名前も――喉のあたりまでは出てきたんだな。
それでも役職付きなのはいいんじゃないか?」

即答できなかったのがややばつが悪いと感じているのか、言い訳のように述べた。
追い抜かれている、という言葉にはおかしそうに笑ってみせる。
男は騎士団長直属と言えば聞こえはいいが、飼い殺しのような立場だ。もとより人を監督する能力は欠けている。

セレンルーナ > 「そういうものなのか。イメージよりも忙しいんだね。一日中、本を読んで過ごせる職なら素敵だと思ったんだけれどね。」

細々とした仕事が多そうな彼の言葉に、なるほどと頷いていく。
確かに返却された本を書架に戻さなければ、本が積み重なってどこにいったかわからなくなってしまうだろう。

「さすがにね。職務中に飲酒したと見つかったら隊長のげんこつではすまないんじゃないかな。
 南方の、というと辺境伯領の特産品とか?
 あまり嗜好品には詳しくないからね、初めて聞いたよ。」

再びテーブルに肘をつくようにしながら、少しだけ探るように辺境伯領の事を口に出してみる。

「待つなら、涼しいところで待ちたいと思うものじゃないかとね。
 若い騎士は毎年たくさん入ってくるし、退団する者も同じくらいに多いからね。それは仕方ない。」

年下は覚えきれないという彼の言葉に頷いていく。
王国軍も騎士団も、色々な組織に枝分かれしていて複雑なところがあり、誰がどの軍、騎士団の所属と把握するだけでも一苦労だろう。
実際セレンルーナも、全てを覚えているわけでは当然ない。

「私などの名前まで覚えているというのは、素直にすごいと思うけれどね。…お給料の面でいえば、役職手当なんかもつくからいいけれどその分雑務も増えるからどちらとも言えない感じかな。平のほうが楽だけど、長年勤めているから降格させるわけにもいかず、上は頭を抱えている…と思うけれどね。」

少なくとも、以前王城でセレンルーナを初めて彼が見たときには、セレンルーナの勤務態度の評価は悪かっただろう。
国が腐敗していくことに、なにもできない無力感に腐っていた時期もあるし、そのあとはスターチェンバーにはいって昼行灯を演じている。
昔の騎士の職務に真っ直ぐに取り組み、実直で真面目な騎士という印象はすでに忘れ去られているはず。
…否、忘れられていなければならない。

バツ悪そうな様子には、充分十分と笑いながらアイスティーを飲んでいく。
可笑しそうに笑われれば、肩をすくめてこちらもくすっと笑い。

ヴァン > 「忙しい。予算案とか書類仕事も多くて……っと、これ以上は愚痴になるな。
ケーキ屋がケーキ食べ放題とはいかないようなものさ」

あまり聞いても楽しい話ではなかろうと、短くまとめた。特産品かという問いには首を横に振る。

「いや、舶来品だ。甘味があって――なんというか、元気を前借りするような感じだな。
粉を溶かして飲むんだが、水だとだいぶ甘く感じるから炭酸で割るのが一般的らしい。
船で長い間運ぶから、むこうでは庶民が一般的に口にする飲み物でもこっちでは少しばかり高くなる。
今貴女が飲んでいる紅茶も同じ国からだが、王都で十分な需要があるから大量に輸送してる分気軽に飲めるんだ」

王国より遥か南の国の名前を口にした。流通・交易といった話になると男の口は滑らかになる。
南方の辺境伯は金で国に貢献している、という自負があるのだろう。

「ある程度の地位にある人は覚えるものさ。それに、綺麗なお嬢さん――いや、お姉さんか?のことは覚えておくものさ。
うーん……人間だと体が動かなくなってきたら教官とか、役職を大きく変えて処遇を変える、ってのをしている所もあるけど。
能力が減退してないなら降格させる理由もないしな」

おそらく、女騎士が真面目な騎士と周囲から見られていた時期はまだ男は生まれていなかったか、騎士見習いですらなかった頃か。
男が知っている彼女の姿は決して良いものではないだろうが、男もまっとうな騎士ではない。
容姿に言及したのは挨拶のようなものか、本心か。男は穏やかに微笑むばかり。

やや遠くから時を告げる教会の鐘の音がする。男はコーヒーを飲み干すと立ち上がった。

「さて、時間のようだ。
それでは、またどこかで。ミス・カイエスタン」

盗聴先の商談はいつの間にか終わったようだった。
男はカフェの建物に入り、姿が見えなくなって――しばらくして、子機が破壊される音がするだろうか。

セレンルーナ > 「はは、愚痴が出てきてしまうのはどこも同じということか。楽しいことだけをしていられたら、それに越したことはないんだけどね。」

短く纏められた言葉を深追いするでもなく、そういって締めて。

「舶来品、か…。輸送費がかかると、どうしても高価になるからね。向こうで庶民が口にしているものでも、こちらの国では富裕層の飲み物、食べ物になるのは仕方がない。…元気を前借りするような品…ねぇ…。」

遥か南に位置する国、それだけ遠ければ輸送コストも嵩むだろう。
南方からの玄関口となる辺境伯領は、そんな国々との関わりが深いのも頷ける。
しかし…元気を前借り、疲労回復や覚醒効果…。
果たしてそれは合法的な成分なのだろうか、という疑問が浮かぶ。

「そんなものかね。…ま、そういうことだね。体が動くならば動かなくなるまでは国に身を捧げ働けってね。」

地位に比べて、美醜で覚える基準に少しきょとんとして苦笑を漏らす。
適当に、頑張るさとやる気のなさそうな返事をしつつ肩をすくめていく。
話していれば、遠くからの鐘の音。

「ああ、待ち合わせをしているんだったね。それでは、また…。」

コーヒーを飲み干して立ち上がったヴァンを見送れば、彼は建物の中に入って姿が見えなくなる。
ちょうどその頃、交代要員が小走りに走ってくるのが見えた。

「とりあえず、商談自体は終わってしまったようだけど、もう一つ気になる人物が個室に入っていったから、そのろくお―――っ」

交代要員に事情を説明しながら、引き継ぎを行っていると受信機に破壊音とピーガガガと耳障りな音が響き渡って、思わず耳から受信機を引き抜いていった。

「子機に気づかれたみたいかな…。盗聴はできなくなったけど、このまま客としてここに残って、出てくる人物を見届けて欲しい。その際、ヴァン=シルバーブレイドがどちらの人物と親密そうだったかも見ておいて欲しいかな。」

引き継ぎの人物にそう伝えると、遠くからセレンルーナを呼ぶ隊長の声か聞こえた。

「じゃあ、あとはお願いするかなっ!」

アイスティー代をテーブルに置くと、手すりを身軽に乗り越えてセレンルーナはそこから立ち去っていくだろう。
あとは、新聞を読む紳士然とした人物が、テラスでコーヒーを飲んでいる光景へと変わっているだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からセレンルーナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にエリビオさんが現れました。
エリビオ > 力強い夕映えが富裕地区の整然とした街並みの一色に染め上げている。
衛生観念から巡らされた水路から刈り込まれた木立、狭い街路の隅々までが照り映えて。
身なりの良い住民たちが皆長い影を引いている様はまるで絵画のようで。

「いいなぁ……」

つい独り言を零す少年は配達物の代金の金貨袋を揺らしながら帰路につくことも忘れて魅入ってしまう。
普段自分が暮らす雑踏とした平民地区とは全くの別世界。
一張羅で用意した自分のマントさえ安っぽく感じ、自分がいるのは場違いに感じてしまうから。
誰も見てないというのに何度も襟元を整える奇行に走ってしまう。

「ここで暮らすにはどれだけお金が必要かな?」

揺らしあげた金貨袋が鳴る、小さく軽い音に僅かに眉尻を下げてしまう。

エリビオ > 鈍い茜色の街並みを彷徨う内に黒瞳は広場のベンチに目が付きそこに向かう。そのまま腰を下ろし。

「ここに住めるまでは、こうして散歩して金持ち気分を堪能するしかないか。」

遠い山裾が藍色に染まり始め、そろそろ夜の刻。
蒸し暑い大気にも爽やかな風が混ざり始める。
襟足や後ろ髪を涼やかに擽られ心地よさげに目を細め。

「このまま此処で野宿するのもアリかな。
 それとも治安維持兵に叩き出されるのが関の山かな。」

ベンチに深々と背を預けて仰ぐ茜色の空、朱に染まる群雲たちが風に流れる様をを茫洋とした眼眸で追っていく。
そうする内にどこからか泣き声が聞こえてきて。

エリビオ > 泣き声の主を探せばベンチの側でしゃがみこんで泣いてる子供が。
尋ねれば迷子のよう。

「どうしたの?お家がわからなくなったのなら俺が一緒に探そうか?」

薄く首を傾げて優しく尋ね、その手を引いて富裕地区から離れていく。
向かう先はいつも通い慣れてる平民地区。迷子の子供のそこで親とあえて喜んだとか。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からエリビオさんが去りました。