2022/12/11 のログ
ヴィルア > 結局、特にこれといった出会いは無く
男は奴隷の販路は開くことなく、その場を後にした

ご案内:「王都マグメール パーティ会場」からヴィルアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
ドラゴン・ジーン > 夜更けの王都マグメールの富裕地区。威圧的なと形容してもいい立派な建造物が軒に連なり、そして一欠片の乱れも無い敷石によって舗装された通り道を見下ろしていた。此処一帯は歓楽街と言ってもいい区画であり、金に飽かせた住民達を満足させる為の『趣味の良い』店が揃い踏みとなっている。数多の獣の本能から品性の良い芸術に及ぶまでに金さえ支払うならば此処で困る事は一切も無い。
今もまた目の前で仕立ての良い服飾を備えて自分の一挙一動の世話をさせる従者達を侍らせて引き連れ多くの金持ち達が闊歩しながら過って行く。即ちにおいては、それらを見張る目がそこにあるという訳だ。

「………」

夜間となって沈んでしまった陽は既になく、代わりに昇った月夜の青白い明かりも大分希釈されて下界に及ぶまでには薄い。天体の代替を担って路面の端々に立てられた街灯の照明が周囲を照らし出し。その光すらも及ばぬ物陰においてそれは潜んでいる。全身が粘り付くような黒い粘液で構成されたその怪物は、路上に停まっている大型の馬車の下にいた。
その不定形の肉体を最大限に生かしている御蔭で窮屈な、本来は鼠や蟲ぐらいが潜り抜けられるの閉所であっても、今現在は胎に子供を抱えてもおらず、かなり自由をきかせて移動が出来る。そこであたかもゴルド硬貨一枚にも満たぬ平たさとなりながら、そこから薄らかに伸びている触角の淡い輝きが周辺を窺い続けている。

ドラゴン・ジーン > 「………」

す、と、その場より動き出す。下手に見つかれば忽ちに灼き尽くされて一握りの灰塵とされても何ら文句も言えぬ立場故に音も無く密やかに、怠けている御者がソッポを向いているその隙に車体の真下より這い出した粘液体は、直ぐにその隠れ場所を別の場所にへと移し始める。鍵をかけて閉門してある馬車の横扉も、不定形にとっては解錠済にも等しい。

滑り込んだ馬車の中と言えばそこもまた平民地区で走る馬車とは大違いな程に豪華なものだ。床面には真紅のビロウドが敷き詰められ、設置されている木造のテーブルの上にはサービスの一環であるのか硝子壺一杯に、否、溢れる程に詰め込んで在るいろとりどり鮮やかな砂糖菓子。のみならずに壁の横面の収納棚にはまだ未開封である葡萄酒のボトルにそれに供する為のワイングラスまで仕舞ってある。
そして厚張りになっているふわふわの、人を駄目にする弾力に満ちたソファー状の長椅子の下にへと、間も無くしてその身を隠し込んだ。液体状態とは言え表面には薄く乾燥した膜が張られ一切の濁った粘液の痕跡すらも残さず、アサシンが如くに潜伏。

ドラゴン・ジーン > 「………」

それもまたこの馬車が何処かの貴族の占有ではなく、あくまでも民間で営業されている馬車であるからだ。歌劇や食事、あるいは奴隷苛めなどの趣味嗜好に耽り帰路に徒歩を使うのも怠る誰か。もしくはこの富裕地区まで足を運んできた誰かが此処を利用するかも知れない。
一度馬車の扉が閉ざされてしまえば、静穏さとプライベートな空間を好む貴族達のその馬車じたいの防音性が一挙に牙を剥いて振り翳される。
かくしてその惨劇の場となる、かも知れないその場にへと身を置いているという次第なのだった。

ドラゴン・ジーン > 「…………」

どれぐらいの時間をそこで費やしていただろう、辛抱強く。
がたん、と、揺れる震動は詰まる所はこの馬車が発着場より走り始めたことを意味する。その閉じられた車体の中にへと誰か乗客を載せ上げて。
上等な遺伝子を刈り取る為に、緩慢とその椅子の影より怪物は這い出す事になるだろう。
夜更けにおける富裕地区の一角で何が起きたのかを知るのは、その犠牲者だけとなるのは間違いない。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からドラゴン・ジーンさんが去りました。