2021/12/13 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区 墓所」にエリザベートさんが現れました。
エリザベート > どんよりとした曇り空、そぼ降る雨の冷たさが、殊更に気鬱を誘う午後。
とある貴族の寄進により建立されたという、瀟洒な白亜の聖堂の中に、
漆黒のドレスに身を包み、黒いレースのヴェールを被った貴族の女がひとり、
祭壇前に跪き、頭を垂れて静かに祈りを捧げていた。

「どうか、……どうか、旦那様を…あのかたを、お守り下さいませ」

祈ることと言えば決まっている、いつも、ただひとつだった。
か細く呟く声を聞く者は無い、供の者は恐らく今頃、敷地の正門前に停めた馬車の傍で、
女主人の戻りを、今か今かと焦れながら待っているだろう。
幾ら焦れたところで、まさか、置いて帰るような真似はしないだろうが、
仕事があると言いながら、午睡の為に私室へ引っ込んだ司祭と言い、
見た目ほど、安全な場所とは言いかねる場所である。
一心に祈りを捧げる男爵夫人は、知る由も無いことだったが――――。

ご案内:「王都マグメール富裕地区 墓所」にホースディックさんが現れました。
ホースディック > (聖堂に、男の姿が現れる。
此処が墓所である、とは言えど、誰もが自由な立ち入りを赦されて居る訳では無い
貴族が眠る場所、盗掘被害などを防ぐために、出入り確認が行われて然るべきだ

――本来は、だが。

明らかに、其の姿は貴族の関係者とは言い難い物であったろう
冒険者と言われれば、其の方が納得も出来るだろうし
或いは、荒くれモノ、盗賊、そう呼ばれても違和感はない

つまりは、本来、こんな場所に訪れるべきではない者
誰も気が付いて居ないのか、誰かが制止する様子も無く
其の姿は、祈りを捧げる夫人の背後へと忍び寄る
足音は無く、狩人が獲物を追い詰めるかの如くに、静かに
そして――其の肩に、掌が載せられると同時。)

「―――――ギーゼルベルク男爵夫人か。」

(響かせた声が、相手の正体を問い
そして僅かな、鋭利な針めいた物が、其の腕へと穿たれる
避ける事が出来なければ、其の身の自由を奪い、意識を混濁させる即効性の麻痺毒が
一時、女から声すらも奪い去り―――)

エリザベート > ――――扉が開け閉てされる音も、無かった。

決して小柄ではない誰かが移動する際、幾らかは聞こえる筈の足音も、
空気の流れが齎す筈の、他者の気配と呼ばれるものも、
何ひとつ感じられない儘、男の接近を許したのは。
決して、女が世間知らずの貴族であるという、其れだけが理由ではないだろう。

とすん、と置かれた掌の、重みも、温度も、確と認識する前に。
項から首筋へ忍び入るような、其の声が確認めいて、女の名を紡ぐのへ、
俯いていた顔を上げ、伏せていた瞼を擡げ、肩越しに振り仰ぐ視線を向けようとしつつ、
淡く色づく唇を控えめに開き、細い喉から声を―――…

「―――――――― ぁ、…… ッ …――――――」

僅かに一音、或いはもっと短い、か細い呼吸音。
洩らしただけで、女の世界は暗転した。
ちくりと腕の辺りに感じた、鋭くも微かな痛みの正体に、思考を巡らす間すら無く。
跪いていた女の肢体は、まるで糸を切られた操り人形宜しく、
ぐらりと仰のき、背筋を撓らせ、緩やかに崩れ落ちてゆく。
青い瞳がひととき、背後に佇む男の姿を映し出したが、
其れを『視る』間も無く、女はすうと瞼を閉じて。

そうして女の運命は、其の意識とともに、男の掌のうちへと。
いとも容易く転がり落ちて、委ねられることになった――――――。

ご案内:「王都マグメール富裕地区 墓所」からホースディックさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール富裕地区 墓所」からエリザベートさんが去りました。