2020/07/24 のログ
クレス・ローベルク > 「そうだね。割と、バリエーションはあるだろうけど、激昂して『無礼者!』とか言って平手打ちするパターンもあるかな。
まあ、こっちは後で仲が深まる様な事が起きるのが定石だけど」

流石に、この程度で心が揺れたりはしないかと思いつつ。
しかし、動揺がないということは、逆に言えばまだ深く踏み込んでも問題ないということ。
だから、男は握った手とは反対の手を彼女の背に回し、

「『貴女が思うほどには、私は紳士的ではありませんよ、レディ。
男は誰しも、心中に薔薇と獣を同居させているものです』」

物語の中の一台詞を諳んじている様に、大仰に言う。
そして、少しだけ――痛くない程度に手の力を強める。
それは、まるで逃さないと、言外に言うかのように。

「『心の用意は問いますまい。貴女は、私に奪われるのだから』」

奪ってみては、という言葉に応える様に、男は回した手を今度は、彼女の顎を持ち上げるのに使う。
何ということのない挑発に対して、あちらの想定以上に本気になる男――という筋書き。
物語としては、十分に有り得る筋だろう。

男は、そのままゆっくりと彼女の唇に、自分の唇を近づける。
一応、いざという時は止める為に彼女の表情を観察しながら――しかし、受け入れるならば、そのまま重ねてしまおう、と。

ニコル > 「初心な小娘ならそうするでしょうけれど」

流石に手を振り上げるジェスチャーはせずに軽く受け流す。
が、背へと回された腕と、重ねられた手の力強さに、無意識に一度視線を膝の上へと落とした。
近い距離から紡がれる、舞台でのお芝居めいた大仰なセリフについ笑ってはしまうものの、これが物語のワンシーンならば自分にも言い訳が立つというものだろう。

「『……では勿論、薔薇の方を下さるのでしょう?』」

彼の調子に合わせるように、此方からも大仰な言い回しで返し。
落とした視線を翻し、上目遣いに挑むような眼差しを向ける。
彼の本意を探るかのように。

「―――ふふ。流石読書家さんね」

顎を掬う指先に導かれる侭に顔を上向けながら、互いにしか聞き取れないような囁き声で告げ。
その言葉が消えるのと同時に、視線は僅かに横へと逸れる。
ふと、視界の端に揺れた木の枝を、或いは風に舞い落ちた木の葉を、視線で追い掛けたかのような仕草で。
視線は東屋の床へと落ち、その侭瞼が伏せられた。
唇が触れ合う瞬間にだけ、蝋燭のささやかな光でさえも長く影を落とす睫毛が僅かに震える。
それを誤魔化すかのように、或いは後押すかのように、重ねられた手を僅かに握り返して。

クレス・ローベルク > 別に、そうするつもりは無かったとはいえ、この物語調のやり方は案外良い効果があった。
お互いに言い訳を作りつつ、お互いの本音を曖昧にできるのだから。
尤も、男の方は守るべき立場やしがらみが無い――だから、相手のことを慮りつつも、ある程度強気に出られる。

「『勿論。但し、それは貴方を得た後で』」

緑色の目が、こちらを見上げる。
それに対し、こちらも真っ直ぐに男も見つめる。
強気の台詞とは別に、こちらの視線は、何処か気遣わしげだ。
情が湧いた相手に対しては、小心者になる性質なのだ。

「ラブロマンスは、結構読んだんだ。――手が届かないからこそ、綺麗に見えてね」

ほんの少し、瞼が震えた。
それを無視するように、強く唇を押し当てる。
握られた手に、力が入る――緊張ではなく、相手の手の感触を、強く求めるように。
そして、舌でニコルの歯を撫でる。開けてと、そう言うかの様に。

ニコル > 「……なるほど。ロマンチストな読書家さんなのね」

返される言葉に対し、僅かに目を細めることで笑みの気配だけを伝えて。
返される眼差しへと気遣うような色を見出すも、目を閉じてしまえばそれも見なかったことにできよう。
それでも、握り返される手のひらへと、軽く爪をたてることでそんな眼差しは無用だと伝える。
気遣いや憐憫など向けられては、奪われるヒロインになれぬが故に。

「―――ン…」

僅かに開いた唇から差し込まれた舌先が歯列を撫でる感触に再度睫毛を震わせ、唇を窄めることでその舌を一度軽く阻んで見せてから、受け入れる。
唇を、歯を、舌先を、彼の舌が触れる度に微かに粘膜や唾液同士が触れ合う音が零れた。
風が吹く度に蝋燭の灯が頼りなく揺らぎ、東屋の床と囲いの板壁へと重なる二人の影を映し出す。

「手が届かないものの方がお好きなの?」

口付けの合間、あえかな細い声で問い掛ける。
これ以上ない程に近い距離にも慣れた頃には、僅かに頬を染めながらも此方からも彼の舌を追い掛け、触れ合わせていき。

クレス・ローベルク > 爪が軽く押す力を、掌に感じた。
痛みはないが、意思は通じる。
この状況で、敢えて爪を立てるということは、つまりそういう事なのだろう、と。

腰に回す手に力を入れる。
一度阻まれた舌は、唇が緩むと同時に蛇の様に中まで入る。
舌と舌を絡み合わせ、より強く唇を押し当てる。まるで、彼女を食べる獣のように。

だが、それも少し経てば、緩む。
お互いを確かめ合うように、緩やかな動きの内に、相手が問うてきた。

「……さあ?だって、少なくとも君には、手が届くからね」

そうして、強く抱き寄せる男。
外では、楽団によって優美なアリアが流れている。
その音色から隠れるように、二人の夜は続いていく――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からニコルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にヒルデさんが現れました。
ヒルデ > 所謂、お屋敷と呼ばれる豪奢な建物が集まっている地域。
集まっている、と言っても、一般的な住宅街とは異なり、お屋敷とお屋敷の間隔は広い。
ちょっとした児童公園なぞ二つ三つは楽に収まってしまう敷地をそれぞれ抱えているのだから、当然だ。
当然閑静で、この時間にふらふらと出歩いている者など、中々にお眼にかかれない。
当然、周囲を見回しながら歩いている少年は、ひどく場違いな印象を拭えない。
少年とて好き好んで徘徊しているのではなく、これは仕事。
この辺りでうっかり逃がしてしまった家ネコを探して欲しいという依頼を引き受けたのだった。
実際捜索を始めてみれば、この辺りで小さな動物一匹を探すのは酷く難儀で──

ヒルデ > 丁度日付が変わりそう、といったタイミングで、ふっと鼻先を持ち上げて。
それから大きく一つ伸びをした。仕事の期限は、なるべく早い内にとあったが、今日でなくとも良い筈だ。
また、明日出直そう。そう決めて、少年は繁華街の方角へ足を向け……

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からヒルデさんが去りました。