2020/05/29 のログ
ご案内:「酒場 富裕地区2」からネメシスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にアデラさんが現れました。
アデラ > 聞こえる声が野卑でなく、漂う空気に焚いた香が混ざっている。
集う者の衣服が、襟のボタン一つでさえ、貧民地区の住民の、何日分の生活費になるだろう。
けれど、それだけの空間だった。
豪奢な衣服の裾を乱して体を重ねる男女が、方々に幾人も、幾人も。簡素な衝立程度で遮られて交愛に耽っている。
此処は名目上は〝酒場〟である。……一夜の寂しさを埋める為の、都合の良い出会いの場とも言う。

少女はその一角で、二人がけのソファに横たわり、一人で占拠していた。
手元には赤々と眩しい程の酒を注いだグラス。時折ついばむように、舐めるように喫水線を低くしながら──

「いつまで続けられるのかしらね……この退廃の美徳は」

と呟いて、クスクスと笑う。自分の言葉がおかしいからと。
マグメールの惨状は国力の低下に直結する。本来なら望むべきではない有様の筈だと、理性では分かっている。
けれども。退廃が進めば進む程に、この国は自分の好ましい新たな形を曝け出してくれる。

「……いっその事、アスピダの賊が此処まで攻め込んで来ないかしらね」

と、急に真面目な顔で言うと、近くで交わっていた二人組の男の方がブルリと身震いした。
その様を観て、いっそうおかしく思ってか、喉奥からの笑い声が音量を増す。
……酔いは幾分か回り始めているようだ。