2019/06/21 のログ
竜胆 > 小さなつぶやきでも、図書館という静寂を作り上げる場所であればそれなりに響くものである。
 そして、人よりも五感が敏感である竜種である少女には、それでも十分聞こえたのだ。
 ぱらり、ぱらり、と辞書をめくって確認している手が止まり、視線が動く。
 ゆるり、と半分だけ首を回し、横目で誰なのかを確認するのだ。
 そこには、自分が知る、先日出会った少女がいた事に気がついた。
 声を思い出せば、なるほど確かに先日聞いた声であった。

 こちらを見ていることに気がついたので。

 少女は軽く手招きを一つ。
 それから、ぽんぽん、と隣の椅子を軽く叩くジェスチャー。
 こっちきなさいな、という意味を込めてみたが伝わるだろうか。

モリィ > しまった……と後悔してももう遅い。
 彼女はばっちりとこちらの声を聞きつけ、振り向いてしまった。
 真面目に読書していたであろう少女を邪魔してしまった罪悪感と、静かな図書館で声を出してしまった恥ずかしさで耳が熱くなる。
 このまま会釈だけして、遠くの机に逃げ出してしまおうか。
 そう思って周囲を見回すが、生憎どこも一杯だ。こんな時に限って市民が勤勉に読書に励んでいるなんて。いつもはほとんど空席なのに。

 ――仕方なく再び竜胆に視線を戻せば、彼女は手招きをしてこっちに座れと合図を送ってくる。
 どちらにせよ他に座るところも無いのだ、好意に甘えるほかあるまい。
 法律書を抱えて、努めて冷静に振る舞いながら彼女の隣に腰掛ける。
 本を置いて、一息。まわりに聞こえないくらいに小さなささやき声で
「お久しぶりです、竜胆。奇遇ですね、こんな所で」

竜胆 > 「お久しぶり、というほどの期間ではない気もしたけれど……。
 人との感覚違うのかしら。
 でも、そうね、奇遇だとしても会えて嬉しいわ。モリィ」

 彼女の言葉は、懐かしむ感覚が混じっているような気がした。
 自分にとっては久しぶりというほど離れた日数ではない気もした、が人にとっては違うのかもしれない。
 難しいことね、と思いながらも、出会えたこと自体には喜びを覚えよう。
 視線は司法の書物であり、人のルールが書き記されているものだとおもいだす。
 一度目を通したことがあるが、興味が薄い。
 できれば守らずに過ごしたいと思う程度には、だ。

 とはいえ、人でもある身だし、仕方なくしたがっている現在。
 彼女はそれを学び、律する立場に居ると思い出して。
 書物と、彼女を交互に見るのだ

モリィ > 「あー、確かに数日ぶりではありますが」
 その間もいろいろと忙しかったせいか、妙に懐かしく感じたのだ。
 貴族の猫探しに始まり、空き巣の捜査、痴話喧嘩の仲裁、迷子の老人を家まで送り届ける――地味ではあるが丸一日近くかかった仕事も多い。
 そんな日々の末の非番、知った顔に会えれば懐かしさを覚えるものか。

「ああ、これですか。法律書ですよ、仕事上知っておいたほうがいいと思って」
 上から順に現在の王国法、そして帝国法、最後に悪政にして悪法と名高いナルラート王朝時代の王国法。
 これらを比較していくことで、王国法が今の形に落ち着くまで何が必要とされたのか、だとか近年降嫁で増えてきた帝国からの人々に王国法を遵守させるためにどう説明すればいいのか、などを学ぼうと――
「思っていたんですよ。と、どうしました?」
 書物に目をやっていたかと思えば、彼女はこちらを見ていた。
 首を傾げてその意図を問う。

竜胆 > 「よかった、別に私の日付の感覚がおかしいと言う訳ではなさそうね。」

 同意してくれる彼女に対して、少女はにこり、と笑みを浮かべてみせるのだ。
 彼女は基本的に引きこもって家の中での作業がほとんど、実はあまり日付の感覚とかを気にしてないのだ。
 間違っていないなら、それでいいわ、という程度。

「法律の書ね……、正直、関わり合いになりたくない本よね。」

 法律と関わり合いになるということは、そういうことなのだから、と。

 一冊一冊が分厚い辞書のような本は、説明されてなるほど、と思う。
 普通に詳しい人間でも、現在の法律だけで十分な気がするのに、過去の法律も合わせてみる彼女。
 首をかしいでこちらに質問をする相手に、笑ってみせた。

「モリィの職種、ここまでの知識は必要がないと思うのだけれど。
 勉強家、なのね。素敵だと思うわ」

 彼女の努力は、嫌いではない。
 それは、自分を投影しているから、かもしれないが。
 好ましいと思ったから、そう言った。

モリィ > 「真面目に生きていれば意識しないでも法に背くことはないでしょうしね……」
 法に関わるというのは、自分のような法の執行者や裁判官のような法の番人、そして法を定める王族を除けば被害者か加害者になったときくらいだ。
 後者は論外としても、前者が現れないよう努めるのが衛兵隊の役目。関わりたくないという竜胆に首肯して、関わらないで済むならそのほうがいいですよ、と呟く。

「まあ実際、これこれこういう法に違反してるから処罰、で済む仕事ではあるんですけども」
 たまにいるのだ。妙に回る頭で法に屁理屈じみた難癖をつけ、言いくるめて処分を軽くしようとする輩が。
 そういう相手に断固立ち向かうためには、深い理解を身に着けねばなるまい。

「……私のことばかり話してしまいましたね、竜胆は何を読んでるんです?」
 ふと話を中断して、逆に彼女の開いた本を覗き見て――一発で頭が痛くなった。
 辞典、だろうか。見たことのない図案を見たことのない言語で解説しているその本から、渋面で顔を背ける。
「竜胆こそ勉強家じゃないですか。それ、読めるんですよね……?」

竜胆 > 「……………そうね。」

 彼女の言葉になんとなく妹思い出す、会わせると大変なことになるだろうなぁ、と。
 妹は趣味で、色々なところに行く。
 彼女には法律は気にすることでなくて、許されない場所だろうが遊びに行くのだ。
 そんなことを考えながら、彼女の言葉に、そうよね、と同意して見せるのだ。

「それで終わらないのが人間、というところなのね。」

 難癖つけて、刑を軽くしようとする人がいるらしい。
 それに対抗するための作業とはいえ、大変ねぇ、なんて。
 ドラゴンで言えば、文句があるなら殴ってこい、なのだし。

「―――モリィのことは興味あるからたくさん聞きたいけれど。
 別に大したものじゃないわよ?」

 自分の呼んでいる本、タダの語学の辞典である。
 過去に使われた文字、とかそういった形のものである。
 基本魔導書は、過去の魔法使いが書いたものなので読解には必要なのだ。

「ええ、読めるわ。
 古代の文字は、必須だもの。」

 書物を持ち上げて、ぱたんと閉じて、彼女を見やる。
 小さく笑って見せるのだ。

「モリィ、このあと、時間はあるかしら?」

 図書館でこそこそしゃべるのも、飽きてきたわ、と

モリィ > 「ええ、恥ずかしい限りですが」
 人も竜もきっと利己的であることに違いは無いのだろう。
 けれど、その根っこにある力の差が在り方に大きく影響している、のだと思う。
 竜は強大であるから、姑息に言を弄さずとも己を貫ける。
 きっと彼らは法など無くとも、それで人のように乱れることはないのだろう。それはとても凄いことだ。
 そして、半竜だという竜胆はどうなのだろう、と少し気になった。

「興味って……面白くないですよ、私なんか。――十分大した物ですよそれ。古い文字だなんて、学者先生くらいしか読めないものだと思ってました」
 だから古すぎる文献を今の言葉に訳するための学問だってあるというのに、彼女はお構い無しで原本を読んでいるのか。
 翻訳の過程で微細なニュアンスなどが歪むこと無く、当時の想いをそのまま刻んだ書物。それを読めるというのが少しうらやましい。

「この後……そうですね、緊急招集がなければ午後は休めると思いますよ?」

竜胆 > 「別に恥ずかしがることではないと思うわ、だって、モリィのことじゃないし。」

 恥ずかしいという言葉を額面通りに受け止めて、少女は返答をするのだ。
 自分を見ている彼女に、何か?特日を傾ぐように。

「私にとっては面白いし、興味がたくさんあるわ。
 それに、文字は古くても意味のある言葉、必要だから、読むのよ。」

 辞書を読めばだいたいどんな文字がどんな意味なのかがわかってくる。
 それに、結構長いあいだ読んでいるし、と軽く持ち上げてみせて。

「じゃあ、少し移動して、カフェにでも行きましょう。
 もう少し、しっかり話したい、し。」

 手を出したいし、なんて、笑ってみせた

モリィ > 「それでも、です」
 異種族の友人に対して、どこか自分が人の代表であるかのような錯覚に陥ってしまう。
 人の恥ずべき行いは、連帯責任のように自分にものしかかってくるような。
 彼女がもし同じ人族であれば、そんな気持ちはしなかったのだろうか、と首を傾げる竜胆を見ながら思う。

「私もです。法律は面白いですし、興味をそそられるんですよ。もちろん仕事上必要だというのもありますが――一緒ですね、興味の対象は違えど」
 本を持ち上げる彼女にくすりと笑って、手帳に持ち出した本の題名と書架の番号を書き留めておく。 
 次に来た時スムーズにまた読めるように、だ。続きを読みたいが貸し出しを受けられるほどの身分も無ければ公的な信用もないのが平民の悲しいところ。

「いいですね、ちょうど小腹も空いてきましたし……って、手ですか? もう、まだ白昼から何を言ってるんですか貴女は」
 やれやれと肩を竦めて、本を急ぎ書架に収めてから竜胆の元へ戻る。
 本は読めなかったが、楽しい非番になりそうだ。

竜胆 > 「不思議な感覚、ね。」

 自分のことでもないのに、自分の事のように、彼女の感覚は特殊なのかしら、なんて首をかしいだのだ。
 あまり背負わないほうがいいわ、と心配になって言ってみせる。

「私にとっての魔法、というところね。
 確かに、法律もある種のちからとも言えるのだし……わかるわ。
 力を求めることは、素敵なことよ。」

 書物に対してメモを取る姿を見て、ああ、そういうやり方もあるのかと。
 少女の方は普通に暗記して居るのだ。
 この図書館のどこに何があるか、ということ。それは、竜の知力を全力で使用してるのであった。

「じゃあ、行きましょうか。
 それに、白昼だからこそ、言うのよ?」

 そういいいながら、少女も本を片付けていき、戻ってきた相手に笑みを浮かべるのだ。

「だって、夜に言うってことは。
 夜まで一緒にいるってことは――――。

 私の思いを受け止めた上で、モリィ、私と、同性愛に走るって。
 私と、交わるっていう、ことになるのでしょう?」

 違うのかしら、と彼女を眺め。
 行きましょうか、と手を差し出す。

モリィ > 「そういうことになりますね。法の力、魔法の力、腕力政治力経済力……全部力です。力に貴賤無く使うもの次第とは言いますけど、私はその中では法と魔法が好きです」
 メモを取り終え、本も返してきた。――竜胆がそういう記録を取る素振り無く本を戻していたのには少し疑問を覚えたが、彼女のことだ。
 もう全部中身は理解したわ、だとか何処にあるかなんて探さなくてもわかるもの、とか言うのだろう、きっと。

「白昼だからって、非常識な……」
 思わぬ返答に苦笑して、そういうのは人の常識では、と続けようとした所で言葉が詰まる。
 それは……そう、なのだろうか。たとえば友人として、夜まで一緒に盃を酌み交わしてともに語らうことだってあるかもしれないし。
 前回の初対面だって、はじめから夜に出会ったのだからそういうこともありうる。
 なのに。
 ――なのに彼女の目を見ていると、どうしてかそんな一般的な光景よりもありありと、彼女の言う未来が視えるような気がして、顔が赤くなるのがよくわかった。
 異種の彼女との同性愛。ふしだら破廉恥は一切許さない、とまで潔癖なつもりはないが、処女としてそれなりに性体験への理想はあるし忌避感もある、のだが……なぜかそれはそこまで嫌ではない。
 思慮深く、それでいて真っ直ぐな彼女が思いの外気に入ってしまったのか。
 頭の中を纏めきれないまま、差し出された手をそっと握って、図書館を後にする。

竜胆 > 「――――良い、考えね、その考え方、いいわ。」

 彼女の言葉に、目を瞬いた。確かに、法も力となる。腕力も権力も資金力も。
 竜としての腕力に自信のない少女のプライドを覆すその言葉に、いい言葉と、少女は考えた。
 素晴らしい発送ね、と賞賛を。

「あら?人だって、昼間、夜関係なく、求愛はするでしょう?」

 彼女の返答、少女はそれに答えようとして一度言葉を止める。
 彼女が何かを考え始めたようで先ほどの言葉のような、面白い、いい言葉を出すのだろうか。
 期待が入り混じった視線を向けながら、彼女の手を引いて図書館から出よう。
 そして、言葉もなく、彼女の手を引いて歩くのだ。
 こっち、こっち、と連れて行くのは、姉がよく行く喫茶店。

 女の子しかいない、会員専用の女の子用の喫茶店である。
 ここにしたのは、純粋にケーキが美味しいから、であり、そういう場所の方が落ち着けると思ったので。

モリィ > 「――?」
 急に目を輝かせた竜胆にどうしたのかと目を丸くする。
 天下の大商会の一族、そして自身も強力な魔法使いである彼女のことだから、とうに魔法と経済力、もしかしたら政治力あたりも振るっているものだと思っていた。
 まあ、竜の視点では腕力がすべてだったりするのかも知れない。深くは追求せず、この称賛は素直に受け取ろう。
 この考え方も、個々の力では圧倒的に非力な人族特有のものなのかも知れないし。

「それはそうですが、それでも昼の求愛は多少柔らかくあるべしと言いますか……」
 竜胆の期待を他所に、しどろもどろに言葉を紡ぐ。人は回りくどい物言いにこそ想いを込める生き物なのだから、直球は土壇場まで控えるべきだ、だの――言ってはいるが、焦って噛みながらではどうにも情けない。
 聞いているのかいないのか、ずいずいと引っ張られて気がつけば高そうな喫茶店に引き込まれていた。
 周囲にはきらびやかなご婦人や令嬢が沢山。そんな中で衛兵隊の制服を纏う自分が場違いなように感じる。
 そもそも此処、幾らくらいするのだろう。軍の下部組織、つまりは国家公務員といえど衛兵の給与はそう多くない。果たして恥をかくことなくこの場を乗り切れるだろうか、という焦りが先程からの竜胆の言葉への戸惑いと入り混じって、心臓がすごい勢いで暴れ始める。
 思わず胸を押さえて、ガチガチに固まってしまうほどに。

竜胆 > 「ふふ、様々な力……か、そうよね、腕力だけが、力ではないわね。」

 力を振るうことではなくて、思想に感銘を受けたのだ。
 少女の中で、やはり腕力以外の力は持っていても一段低いものとしての認識があった。
 彼女の言葉で、それがなくなったのだという事でもある。
 なるほど、なるほど、素敵ね、と、つぶやいてニマニマ笑ってしまうほどに。

「―――?おかしなこと、言うわね、マイルドにしてるわよ?」

 だって、少女の直球で言うなら。

 ――モリィ、貴女が欲しいわ、今すぐ、交尾しましょう
   貴女を、私に染めて、孕ませてあげるわ――

 という獣全開である、こういうふうにちゃんと……というには、まだ疑問が残るが口説くのは。
 マイルドにしてるのである。
 彼女のペースを考えて、ちゃんと少女はしているつもりなのだ。

「大丈夫よ、モリィ?
 誘ったのだもの、私が持つわ。」

 ここは、確かに平民地区から見れば高いだろうけれど。
 そこは、富豪の余裕か、彼女の分も出すわ、と。
 メニューを見て、平然と最高級のお菓子とかをいくつか注文して。
 飲みたいものを選ぶといいわと、彼女に差し出すのだ

モリィ > 「これで……!?」
 表現は人それぞれだと言うけれど、こうも差があったなんてと改めて驚く。
 いや、思い返してみれば初対面で口説かれた時はもっと強引だったしもっと直球だったような気もする。あのときも動転していてよく覚えては居ないけれど、あれはあれで好……いや、いやいや。
「…………案外竜胆って強引な方なんですか?」
 有無を言わさずぐいぐいと来るような。そういうパワフルな人は好ましいと思うけれど、それが情欲というとんでもない爆弾を積んでこちらに走ってくるなら逃げてしまうのが人の情というものだろう。たぶん、きっと。

「し、しかし市民に奢られる衛兵というのも情けな……」
 せめて自分の分は自分で、とメニューを開いて、すぐ閉じる。
 文字通り桁が違った。え、紅茶ってあんな値段がするものなの?
 お菓子ってあれはあの値段で一人前なのだろうか? いざ注文したら五十人前くらいの超特大が出てきても驚かない値段だったけれど。
「わ、私は水だけで――って、あ、ああっ竜胆! 大丈夫なんですかそんなに注文しちゃって……!」
 庶民の金銭感覚では水すら高いと感じるが、逆に水ならギリギリ生活費には手を出さずに払えるとそれを指差したときには竜胆が既にものすごい注文をしていた。
 富豪、恐ろしい。

竜胆 > 「ええ、人で言えば強引になるのかしらね。
 だって、私は私だもの。
 欲しいものは手を伸ばし掴んで引き寄せるわ、遠くで見ていて、気が付いてもらうのを待つなんて無理ね。」

 案外でも……ああ、そうか、『見た目』は完全にお嬢様だったことを思い出す。
 結構自分の姿をそうとは認識していないのだ、背中の翼とか、龍のしっぽは自分の誉れだし。

「まあ、そうね、モリィ。
 私はモリィのこと好きよ、恋人にしたうえで。
 貴女とえっちすることも、見据えた上での発言よ?」

 彼女には、ちゃんと言っておく、好意を持っていることを。
 その中に、情欲や性欲も、しっかり入っていることを付け加えるのだ。
 ホントは、後ろから抱きしめてささやきたいくらいよ、と。

「水ね?分かったわ。
 彼女には水、で。

 ―――?大丈夫もなにも、このくらい、平気よ?」

 もっと高いものも全然注文できるわ、と。
 ちなみに、この店で一番高いのは―――水である。
 煮沸や、ワインなどにせずに生で飲める美味しいお水、
 モリィ、いける口ね、と、女は感心するのだ。

 慌てるから言わないけど、支払いに関しては、この店でパーティしてもお釣りが来るぐらいのお金は持ってます。

モリィ > 「まっすぐなんですね……」
 それは私には無いもののように思えた。
 向き合えば応えてくれる法と秩序にはどこまでも真摯になれるけれど、異性はそうは行かない。いくらこちらが欲し望んだとしても、相手もそれに応えてくれるとは限らない。
 なにより容姿に自信のなく女らしい振る舞いからも縁遠い私より、世の中には美しく素敵な女性が沢山いるのだ。彼女たちに勝てる要素なんて無い、と諦めていた自分にとって、竜胆の強引で強欲な振る舞いは羨ましくて、眩しかった。

「すっ……ま、まあ私も竜胆のことは嫌いではないですが……物好きですよね、貴女も大概……これ前も言った気がします」
 彼女と想いを交わし、睦み合ったり抱きしめられたり――それはとても、とても魅力的だ。手に入らないと諦めていた暖かいものが目の前にあって、向こうから手を差し伸べてくれている。
 だというのに、自分への自信のなさがそこに飛び込むことを許さない。
 せめて、せめて自分も彼女と並ぶほど美しかったなら。

 そんなふうに心此処に非ず、といったかたちで水を注文し――届いたのはよく冷え澄み渡った水のグラス。
 見ただけでわかる。井戸水なんかとは格が違う、沈殿する不純物など爪先ひとつ分もありはしない澄み切った水。
 慌ててメニューを開き直す。――ゼロが想定より一個多い。
「……竜胆、落ち着いて聞いてください。詰みました」
 竜胆の財布事情や、本気でおごってくれるつもりだというのはつゆ知らず、この世の終わりのような顔で眼鏡を畳んでテーブルに置き、目元を掌で覆って天を仰ぐ。
 ざんねん、わたしのちょちくは ここでおわってしまった! というものである。むしろそれでも足りない。グラスいっぱいの水でしばらく遊んで暮らせるなんて、貴族はどんな金遣いをしているんだと恨み言を言いたくなるほどに。

竜胆 > 「自分に正直なだけ、よ。」

 好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、それがはっきりしているだけなのである。
 そして、牙をむく相手には、温情などはなく、牙を向けるのだ。
 我慢をすることを知らない子供といってもいいのかもしれない。

「あら、そうだったかしら?
 都合の悪いことは忘れることにしてるから。
 それに、人間の美醜で私は選んでいるつもりはないわ、貴女の性根に、考え方。
 それと、生き方が、気に入ってるの。」

 貴女の価値は、美醜だけではないの、それに気がついて欲しい。
 美しいだけの無価値な女など、掃いて捨てるほどいるのだ。
 人として、美しくなくても、輝く女がいる、そういうものが、欲しいのだ、と。

「……何を詰んだの?」

 彼女の言葉の意図がわからなかった。
 詰んだ、詰んだというのは、一体どう言うことなのだろうか。
 メガネを置いて天を仰ぐ相手。

「……? あ、ごめんね。
 チップと、今の分の精算、追加注文するときは呼ぶわね。」

 こう、待っている給仕にチップとしてお金を渡して。
 更に今の水を含めたケーキなどの代金を支払う少女。
 目の前の彼女は何を嘆いているのだろう。

「……あ、嫌いなものでもあった?
 クッキーとかそっちのほうが良かったかしら。」

 追撃のお土産を注文し始める娘。

モリィ > 「強いなぁ……竜胆、強すぎますよ」
 自分に正直に。都合の悪いことは忘れて生きられる。
 半竜だから、という以上に彼女だからこその生き方なのだろう。もし私も彼女のように在れたなら、もう少し素直に生きていたなら、もっと違う人生があったのだろうか。

「美醜ではない、ですか……他の誰かに言われたらまず詐欺を疑いますが、竜胆に言われると不思議と信用してしまいますね」
 彼女はわざわざ人を騙すようなことをしないでも自分を貫ける女性だ。その彼女が言うとどれだけ突拍子もない言葉でもつい信じてしまう。彼女が私に好意を示してくれるたびに、どきりと胸が弾んでしまう。

「――財布と私の心、ですかね」
 お金が足りない、そしてもう竜胆から逃げられない。
 たった一杯の水で、私の懐は空っぽどころか財布ごと消え失せてしまった。
 たった二回の遭遇で、彼女は私の心にすっかり食い込んで離れなくなってしまった。
 もうダメだ、と天を仰ぎ見ていた視線を戻してみれば、不明瞭な視界の中で竜胆が何やら給仕とやり取りをしているのがぼんやりと見える。
 ひとまず嘆いても仕方がないと眼鏡を掛け直し、視界の焦点を合わせているうちに、彼女は追加注文をし始め――
「ま、待って待って待ってくださいそれは一旦中止で!」
 何を考えているんですか、と声を荒げそうになる。
 さては直球で来ると言いながら私を借金で縛り上げるつもりですか、と。
 彼女はそういうタイプではないと感じてはいるものの、その暴挙は借金のカタに自分のものになれと迫るヤクザを想像させてならない。

竜胆 > 「そう、有りたいわ。
 竜とは強き存在だから、ね。」

 何事も、強く在りたい、それは少女もまた持っている願い……想いであった。
 そういう思いに関しては人も、人竜も、竜も、違いはないのであろう。
 ふふ、と。笑いながらケーキをパクり、と食べて見せて。

「ええ。モリィ、貴女の職業に美醜は必要な要素かしら?
 必要なものは、知識でしょう?法と、魔法の。」

 あなたの今の職業だって、証明しているじゃないの、と、笑ってみせる。
 美醜が必要な職ならば、彼女には可愛そうだが、今の職に就けては居ないだろう、と。
 それに。

 言うほど、醜くも思えないし、と。

「関連性が見いだせないわ。財布と心の……。」

 とりあえず、別々の要素であるとは、すぐにはわからない少女。
 うぬぬ?少女はなぜ財布と心が、と、
 本当に、複雑怪奇、とも言えるのであった。

「クッキーはダメみたい、では、キャンセルで。ごめんね。」

 慌てて中止を言い出す彼女。きょとんと彼女の方を見てから注文を受けていた給仕にキャンセルと、迷惑料のチップ。

「クッキー嫌い、だった?ごめんね。」

 何やら少し興奮している様子の彼女、そんなに嫌いだったのね、ごめんね。
 少女は謝ることにした。
 すごくズレているのは、この際仕方のないことなのだろう。

モリィ > 「いえ……そうですね、確かに衛兵に容姿は……流石に市民に怖がられる人相はどうかと思いますが、基本的に関係は無いですし」
 彼女の言うとおり、仕事に関してはたしかに容姿は関係ないだろう。
 色恋となると中々そうは行かないのが人間だが、そこはもう彼女の身体の半分を満たす竜の血を信じるしかあるまい。
「あの、聞いてもいいですか? 竜胆は……たとえばあそこの席の彼女みたいな美女ではなく、私が必要、なんですか?」
 楽しそうに談笑しながら菓子を頬張る、私から見ても魅力的な自信に満ちた女性。人の目から見れば、十人中十人が私より彼女を選ぶだろう。
 それでも竜胆は、私を選んでくれるというのだろうか?

「関連性は無くてですね、ここの支払いが私には到底ムリなのと、竜胆のせいで私にまで同性への恋心が芽生えそうなのとで二方向から詰んでまして……」
 心配してくれる彼女はどこまで優しいんだろう。
 クッキーは嫌いじゃないですけど、今日はちょっと食べれそうに無いですと返して、謝る竜胆をじっと見つめる。
「例えば、なんですけどね。私がここでの支払能力が無いことをいいことに、立て替えてやるからそれを返済し終わるまで身体を弄ばせろー、とか、そういう詐欺もあるわけですよ。竜胆はその気になれば私にそれを迫ることもできるわけで、絶対貴女はそういうことしないと思っては居るんですがやっぱり警戒はしますし、どっちにしろクッキー代どころかこの水の代金も払えないわけでして」
 どうしよう、とこれ以上無く狼狽える。

竜胆 > 「逆に、モリィの顔は、安堵感を与えると思うわ。
 こう、真剣にしてると、適度な緊張感を与えるようにも見えるわ。」

 彼女の顔はどちらかといえば、柔らかくキリっとしていてちょうどいいぐらいにも見えるのだ。
 憲兵に関しては、それは逆にいいだろう、美しすぎたりすると、別の意味で悪いこと考えるのも発生するだろうし。

「あそこの女、化粧でいろいろ隠してるけれど、玉の輿を狙ってるわ。
 価値の低いものを身にまとって、媚びてるわ。
 でも……貴女は違うわ。
 自分に自信が無さ過ぎるけれど、それでも、偽りはなく生きているわ。
 私は、あの女よりも、貴女のほうがいいわ。」

 しれっと言い切る。
 竜の目は、人に見えないものを見据える、それが、美女を断ずる。
 強いものに媚びて生きるのも、一つの生き方だろう。
 しかし、彼女のように、自分に自信がなくても自分の力で、生き抜く……そのほうが好ましいのだ。

「モリィ?
 この店の会計は、私が持つといったの、聞いてなかった?

 あら、それは嬉しいわ。頑張らないと、かしら。」

 軽口を叩いて見せて、クッキーをキャンセルする自分を見つめる彼女。
 本気で、脈が―――と思ったところでなにか違った。

「………次回は、平民地区で美味しいケーキの店に行きましょうね。」

 彼女の言いたいことはわかった。
 それはあれだ、姉の手口だ。
 貴族に金を貸して。返せないと、利子として貴族の妻を好きなだけエロい事する。
 ああ、それを心配していたのか。
 軽く苦い笑みを浮かべて、次は彼女の不安に思わない程度の場所にしようと決める

モリィ > 「はぁ。安堵感……ですか。緊張感も……」
 衛兵としては喜ぶべきなのだろう。市民を安心させられる。犯罪者には抑止力になる。
 決して強面過ぎず、かといって舐められるほど柔和でもない、ということなのだろう。
 ただ、その内容云々より竜胆に容姿を褒められるのが嬉しい自分も確かに居て、それが一歩また一歩と帰れないところまで歩みを進めている気がして恐ろしくもあるのだ。

「そ、そんなところまでわかるんですか」
 考えていることまで筒抜け、なのだろうか。それとも些細な仕草からそういう邪な考えまで見抜いているのかもしれない。人竜、凄い。
 衛兵にこそそういう才能が欲しいものである。彼女が商会の一族でなければ是非にと勧誘したのに。
 さておき。
「…………そ、そうですかぁ。わ、悪い気は……しませんね」
 きっぱりと私のほうがいいと言ってくれる。
 認めてくれる。愛してくれる。竜胆ならきっと、嘘は吐かない。吐く意味も無いだろう。
 ということは、彼女は本気で私がいいと思ってくれているということで――これまでの言動を鑑みれば、その、抱きたいとか、産ませたいとか、そういうところまで本気なのだろう。
 生まれて初めてだ。他人からここまで好意を示して貰ったのは。
 どうしよう。どうしたらいいんだろう。顔が赤いのはわかるけれど、それを隠すことすら思い至らない。

「えっ? あ、は、はい……竜胆がお会計、を?」
 そういえばそういう話だった気もする。これを奢るというのだからどういう財力なのだろうか、トゥルネソル商会というのは。
 ひとまずどうあがいても払えないのだから、ここは店より竜胆に借りを作るほうが利口だろう。水を一口、気を落ち着けて――嘘みたいに美味しい。水ってこんなに美味しいものだったろうか。

「う……はい、そっちのほうがありがたいです。こういうところは場違いな気がして、落ち着かないですし」
 平民地区ならいくらか気楽だろう、と頷いてから、次の約束を取り付けた事に胸が高鳴ってしまう。
 ――ああ。
 もう駄目だ、私はきっと彼女にどうしようもなく惹かれているんだ。
 自覚するとそこから転がり落ちるのは早かった。竜胆を見つめる視線に、それまでの友情に似た色と代わって恋心が滲み出てしまう。

竜胆 > 「大事なのは、能力、でしょう?あなたの職業はとにもかくにも。」

 美しいというのは、それが必要なところであればいいだけなのだ。
 それに、彼女だって美しくなること自体は難しくない、化粧というのはそのための道具なのだから。
 ただ、それは今の彼女に必要なアドバイスではないので言わないのだけれど。

「竜眼を舐めてはいけない、私以上に姉や、妹は、もっと見抜けると思うわ。
 本気を出せばもっと見えるけれど……疲れちゃうしね。
 考えていることは、服装と態度で、推測してるだけれど、大体あってるはずよ。」

 女の格好、服装、化粧、その辺を見れば、大体分かるものであろう。
 商人としてやっている姉や、竜の目を十全に使える妹であれば、もっと詳しくわかるだろう。
 そんなふうに思うのである。

「素直じゃない。」

 特大なブーメランが突き刺さりそうな一言を言って少女は笑ってみせる。
 嘘をつく必要がないし、嘘をつく理由もない。
 嘘をついて得た恋や愛に、何の意味があるのであろう。
 赤くなっていく顔に、あらかわいいと、首をかしいで笑ってみせる。

「ええ。
 だって、いきなり連れてきたのだし、手持ちもないでしょう?
 急に誘ったのだから、そのくらいはするわ。」

 聞いてなかったの?と、じぃ、と半眼になり、彼女を見よう。
 流石にしっぽは我慢した、ここは通路ではなくお店の中だから。
 でも、プルプルしてるのはぶったたきたかったのだろう。床を。

「分かったわ、じゃあ、いくつかいい店を見繕っておくわ。
 リクエストは、ある?
 どんな食べ物が好き、とか。」

 自分を見つめる視線の色が変わったことに気がつきつつも、好き嫌いを先に聞いとくことにした。

モリィ > 「ですね、どんな職業であっても、容姿ばかりで能力が伴わないといけませんし……」
 竜胆の言葉に何度も頷く。私は私に必要とされる物を持っていたのか。
 そう思うと、少しだけ自分に自信が持てる気がする。

「竜眼、ですか……竜胆でさえ人の身からすればとんでもない能力を持っているのに、姉妹はもっと、だなんて」
 本当に生物として上位なんだなあ、と驚くばかり。
 竜の能力と知性は、一介の衛兵では到底想像もできない領域にあるのだろう。
 でも、どれだけ優れた能力を持っていても、憧れるのは竜胆だ。彼女の真っ直ぐで気高い生き方は、竜の力とよく似合うように思えた。

「ま、まあ。嘘を吐く必要も無いですし」
 へへ、と気の抜けた笑顔を返して、改めて口元を結ぶ。
 赤い顔のまま、真剣な眼差しで竜胆を見つめて。
「――惚れっぽい女だと笑わないでくださいね。惚れさせたのは貴女なんですから」
 我ながらたった数度の出会いでここまで落とされるとはあまりにだらしないのではないかと思わなくもないが、それだけ彼女が素敵だということなのだろう。

「だ、だってこんなお店来たこともなくて緊張してたんですよ……!」
 それはもう、借りてきた猫の背中の蚤ばりに小さく縮こまっていたのだ。
 店の看板を見たときから既に頭の中はどうやって支払いを捻出するかでいっぱいだった。
「お、怒らないでください……!」
 震えるしっぽを見て、怒っているのかと平謝り。彼女を怒らせたら私なんてあっという間だろう。絶対に怒らせてはいけない。

「そうですねぇ……好き嫌いはせず何でも食べますよ。あ、でもお芋が特に好きです。ほくほくのお芋は子供の頃からの好物で……」
 そういえば聞きましたか、と。平民地区の外れに、お芋のパンを売っているお店ができたらしいですよ。蜜で煮込んだお芋を練り込んであるんですって、と日課のパトロール中に得た最新情報を披露。
 もしかすると彼女はもう知っているかもしれないし、そういうお店で買ったものを持ち帰って食べる文化は馴染みが無いかもしれないが。
「その……恥を承知で言いますけど、そういうの買って、どこかの公園で二人で食べたりとか、昔から憧れだったんですよ……」

竜胆 > 「そういうこと、よ。モリィ。」

 貴女は、貴方でいいの、ないものを強請っても仕方ない、と。

「私、体が弱いから、竜の目を使うのも、体に負担が大きいのよ。
 使う、って全力で、の話だから。」

 普通に生活する分には問題はない能力だけどね、と、ウインクを一つして見せようか。
 竜として生きている、気高いかどうかは、また別の話、ではあるけれど。

「可愛いわ、モリィ。
 そういうふうに素直に感情を吐き出すの、好きよ。」

 赤くなって笑う彼女、それがいいの、と、真剣になる瞳を見据える。

「なら、その責任は取るわ。モリィが惚れてよかったと思えるように居てあげる。
 それに、惚れっぽいを体現してる姉がいるからそれは大丈夫。」

 大丈夫、あなたが悪いようにはしないわ、ニコニコ、少女は笑ってみせる。

「あら、本当に聞いてなかったのね。
 ――――大丈夫よ。
 それに、本当の関係なら、怒ったり怒られたり、しないと、ね?」

 ちゃんと全ての感情をぶつけないといけないわ。
 怒るといっても、それで彼女を害したしはしない。それは、竜に有るまじきことである。
 逆鱗を全力で殴られたとかで意外で。

「じゃあ、モリィ、案内して、ね?
 そのお芋パン、と、モリィのおすすめの公園に、ね。」

 美味しそうなその食べ物に興味がわいたので、彼女と一緒に行くのもいいわ、と。
 彼女の憧れの行為、してみたいというのもある。

モリィ > 「身体が……? えっ、ご、ごめんなさい……!」
 負担が大きいというのに、私のうじうじした態度のせいでそれをさせてしまったというならそれはとても悲しい。
 ウィンクしておどけてみせる竜胆がまた無理をしているのではないかと心配になるけれども、あまり心配しすぎるのも彼女は嫌うだろうし。
 もう変なことで彼女に負担を強いないようにしようと決めて、頭を下げる。

「かわ……言われ慣れないんですから、恥ずかしいじゃないですか……」
 もごもごと口内で抗議の言葉を噛み潰して、それからこくりと頷く。
「信じてます、竜胆。今はまだ、多分恋心で、好き、なんですけど……いつか愛してるって言わせてくださいね」
 この不器用な自分がそうまで言えるくらいに、彼女に惚れたい。惚れさせられたい。
 ニコニコと笑う竜胆につられて頬を緩ませ、これからを夢想する。
 いつもどおりの衛兵としての毎日に、少しだけ花が添えられたような。
 正義と法と秩序の他に、もう一つ大事なものになりうるものが芽生えたような感覚は、嫌いじゃない。

「そう、ですね、対等に感情を向けあってこそ、というものでしょうか」
 確かに、好きあう相手ならば取り繕って肩肘を張る必要もないのかもしれない。
 それで万が一彼女の逆鱗に触れて殉職するとしても、それは自分が悪いのだし。人間相手と変わらない、相手を尊重しながら自分も畏まらない振る舞いを心がけよう。

「うん、竜胆の口に合うかはわからないけれど……」
 だから、少しだけ口調も砕けさせる。衛兵であるモリィ・フランではなく、私として。
「でもまさか、憧れのシチュエーションが女の子と、になるなんて思いもしなかったな……竜胆のことは好きだから気にならないけれど、やっぱり何だか複雑ではあるよ……嫌とかじゃ全然ないんだけど、そうかぁ、私女の子に惚れたんだなあって実感するというか…………」

竜胆 > 「ああ。人竜という意味での話だから、人よりは遥かに強いわ。
 それでも、竜眼を使うのは負担が多いのよだから、気にしないでいいわ。」

 本来は竜の権能である、それを人混じりで使うのだから、負担はあるものなのだ、だから気を使う必要はないわ、と。
 頭を下げることないわ、と少女は彼女に言おう。

「そういうところが可愛いと思うの。恥ずかしがるの、もっと見たいわ。
 あと……愛してるという頃には。」

 そこでわざと言葉を止める。そして只々笑って見せよう。
 下心も隠さないから、覚悟してね、と。

「それでいいの、下手にへりくだる恋人はいらないわ。
 恋人になるなら対等に……頑張ってね。」

 流石に逆鱗を的確に殴るというのは難しいかも知れない。
 だから、大丈夫、そう思う事にする。

「そうよね、ええ。
 もともとそう言う性質でないなら、そう思うわ、だって本来人は、異性と愛し合い、子を成す本能を持つもの。
 その違和感、正しいわ。

 塗り替えてみせるけれど、ね。」

 たのしみ。
 そう言いながら、少女たちはまだ、デートを続けるのだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 図書館」からモリィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 図書館」から竜胆さんが去りました。