2019/06/12 のログ
■ナイン > (――額に触れる。髪を梳く。
そうして、穏やかに起こしてやったなら。後に続くのは、余熱の消却。
否、ともすれば再加熱。更なる炎。
夜が更ける迄、等とつまらない事は言わず。なまじ休息を挟んでしまった分、夜明けを越えて。
…堕落の時間は引き続き。果たして何時迄続いたか。)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ホテル」からナインさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 公園」に竜胆さんが現れました。
■竜胆 > 富裕地区の公園というのは基本的には貴族が安全に[遊ぶ]ための場所と言える。
今日もそこかしこで盛っているのが見て取れる、その中を歩く少女は、やや幼さを残した少女と言っていい年齢の娘である。
とことこ、と歩く彼女の服装は、ドレスといっていいだろう服装。
大きく空いた背中から生える竜の翼。
プリンセスドレスと呼ばれる型のドレスのふんわりと膨らんでいる裾からは、紛う事なき竜の尾。
それは、彼女が人間ではないということを示している。
そんな少女は、とこ、とことこ、と公園の中を歩いているのだ。
「……しくじったわね。」
柔らかな唇から溢れるのは悔恨の言葉。
ちょっと魔法の練習でも、と思ったのだけれど、そういえば此処はお貴族様が使う公園であるがゆえに。
派手な魔法などは使用禁止なのである、こう、やる気があるのかないのかわからないが、警備は確かにいるのだ。
どかーんと魔法をぶちかましてしまえば、御用だということになる。
平民地区に行けばいいのだが……なんとなくグリムの散歩コース出歩いてしまっていたのだ。
わふ?と、リールの先で、大きな大きな狼犬。グリムくんがなにかあったの?と言わんばかりにこっちを見るのだ。
今日も、ニートは元気にわんわんの散歩でした。
■竜胆 > わんわんは今日も元気に、自分を主張しながらリードを引っ張っていく。
もっと遠く、もっと早くと、野生を爆発させたい模様。
まあ、解らなくはないが、こんなお淑やかな箱入り娘を走らせるものではないとおもうのだ。
だから、リードを引っ張って、走りなさんな、と意志を示す。
三メートルもある狼犬、そのリードに逆らう事出来ずに走れずにちょっといじけ気味。
とことこ、と少女の脇まで歩いてきて、走らせてーと鼻面をこすりつけるのだ。
というか、股の匂いを嗅いで体調確認。
「………。」
ぺしん、と頭を叩く。乙女の匂いを嗅ぐでない、体調は悪くありません。
やる気がないだけなのです。
「……義理姉さまも、引き取るだけ引き取って、放置とか……。」
いえ、大きすぎて連れていけないのです。
知っていても、ぼやいてしまうのがこの娘で、今、どこかで冒険してるだろう姉の嫁を思い出す。
はふ、と甘く息を吐き出して見せて。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 公園」にモリィさんが現れました。
■モリィ > 今日は久方ぶりに富裕地区での仕事だった。
王城よりいくらか気が楽とは言っても、平民地区ほどお巡りさんが必要とされているわけでもない区域での警邏は、やり甲斐があるんだか無いんだかわからない。
流石に貴族様から褒められた昨日の今日で仕事の気を抜くつもりはないため、真面目に見回るが何気なしに踏み込んだ公園では――
「貴族様ともあろう方々がなんで外であんな……はぁぁ、病人か事件かと近づいただけですごい剣幕で追い払われるし……」
もう嫌、と眼鏡をずらして目頭を揉みながら、少し頬を染めて遊歩道を歩いていれば、向こうからものすごい大型犬を連れてこんな公園に不似合いな少女が歩いてくるのが見える。
「……魔物? 犬……?」
思わず腰の剣に手を掛け、近づいてくるのをじっと待つ。
そうして待っていれば、夜闇ににじむ少女の姿がはっきりとして――
「翼に尾……人じゃない。ちょっと貴女、私は王都衛兵隊のモリィ・フランです。ちょっと話を聞いてもいいかしら?」
明らかに人じゃなければ犬でもなさそうなコンビに、燻っていた衛兵魂が燃え上がる。
職務質問の時間だ。剣から手を離し、拘束魔法をいつでも出せるようスタンバイしておいて、にこやかに声を掛ける。
■竜胆 > わんわんと、戯れていた所、不意に狼犬が顔を上げる。自分の匂いを嗅ぐのを飽きたというわけではなさそうだ。
少女が蒼の竜眼を向ければ、そこには一人の憲兵らしき姿が近づいていた。
というか、こちらが近づく形になっていたのだろう、狼犬は警戒――――なんぞしてなくて、新しい女性を見つけて、匂いを嗅ぎたそうにしている。
本能的に初めての匂いは気になるらしい。落ち着け、とリードを引っ張って、横に寝そべらせる。
「はい?わたくし……でございますか?」
にこにこにっこり、扇を持ってくるのを忘れてしまいましたわ、まあはしたない。
とはいえ、服装を新しくしたしこの服にあれは合いませんし、今度何か考えておきましょうとか思考が滑る。
意識を目の前の憲兵さんへと戻すことにした。
「何かの捜査ですか?わたくしは特に不審なものは見ておりませんが。」
そもそも、自分が職務質問に合うという思考すらないのであろう。
きょとんとした様子で、彼女の手のひらに集まる魔力をみる。
■モリィ > 「捜査というわけではないんですよ」
ただ、こんな夜更けに一人で居るとご家族が心配しませんか? と、あくまで少女を気遣う衛兵の体で話しかけ続ける。
途中大犬がこちらに鼻先を近づけた時はすわ噛まれるかと驚き肩を強張らせたが、少女が抑えたことでひとまず問答無用で襲われることは無いようだと判断した。
「最近の王都は……まあ、言うほど最近からではないですけど物騒ですからね。貴女のお家はどちらですか? お送りしますよ」
単に少女を心配するのが三割、明らかに人外であろう彼女の正体を見極めようというのが五割。ついでにそこらの茂みの中で盛るお偉い貴族様を彼女たちの視界に入れてはならないという使命感が二割。
そこまで提案をして、少女の綺麗な青い瞳が拘束魔法を待機している手のひらに向いていることに気づいた。
「……………………っ。さ、さあ、お家の人が心配してますよきっと」
無防備になるが、こちらは衛兵だ。相手が気づいている以上衛兵が先制の用意をしているとみられるのはよろしくない。
魔法を霧散させ、一気に背中に伸し掛かる心細さに声を震わせながら帰りましょう、と手を差し出す。
■竜胆 > 「捜査というわけでは、ない……?」
彼女の言葉に、ではなぜ、という言葉が溢れそうになってしまい、彼女の言葉に、ああ、と納得をする。
確かに、最近の王国は公主の降嫁の効果でドンチャン騒ぎもすごいところなのであろう。
そこかしこで盛ってるし。
「そこまでして頂かなくても大丈夫だと思いますわ?
この子がいますし、それに……わたくし、こう見えても少し心得ありますから。」
そういうふうに言って、どこか意地悪そうな笑みを浮かべて見せて。
彼女が霧散させた魔力を再現するように手のひらに。
見える形で浮かべてみせる。
「拘束魔法……上手く練られていますわね。
しかも透明で、魔力の余波も少ない……一流どころでなければ見抜けませんし、この強度なら並以上でも拘束できますわね。」
再現させた魔法を霧散させてから、差し出される手を眺める。
「とはいえ、この子の散歩がまだ終わっておりませんの。
よろしければ、ご一緒にいかが?
わたくし、モリイさんに興味が湧きましたの。」
魔法を霧散させるとともに、弱気になる彼女。
おそらく魔法をメインにするタイプなのであろう、とはいえ、自分の知らないタイプの魔法には興味が沸いたのだ。
貴女が一緒に来て下されば、安全でしょう?と
■モリィ > 「あぁ……なるほど」
確かに異形の翼に尾を持つ彼女であれば、自分ごときにも制圧できるようなそこらのゴロツキには遅れを取るまい。ましていかにも強そうな大犬まで連れていれば、血迷って彼女に手を出すような輩も居ないだろう。
彼女の浮かべた笑みにどきりと身を反らして警戒し、次いで研鑽の末にようやく身につけた衛兵隊でも五本の指に入ると自負する拘束魔法をすぐさま再現して見せた少女に息を呑む。
「……それをあっけなく見抜いた上に、完璧に同じ魔法を繰り出されると流石に自信を無くしそうなんですが……」
少女の評価ですら皮肉に聞こえてしまう。まだまだ未熟といわれているようで、事実その通りなのだけれども、ぎゅっと結んだ唇に力が籠もってしまった。
「そこまでわかっていれば、もう隠さず言います。貴女人間じゃありませんよね。ミレーと言うわけでも無いですし。王都の治安を守るものの一員として、私は貴女を警戒しています」
尤も、少女を一人夜道に送り出すのが心配だというのも事実だ。あちらから同行を誘ってくれるのならば願ったり。
「そういう訳ですから、道すがらいろいろと聞かせて貰ってもいいですね?」
あちらが私に興味を持ったというのが事実なら、いきなり暗がりで殺されたりはしないだろう。しないはず。たぶん。
いざとなれば魔法を使って逃げ……多分逃げられないだろうけれど、ともかく話しかけてしまった時点で命運は決したと見た。
「ではまずお名前から聞かせてください。それとお家はどちらに?」
少しずり落ちた眼鏡を直して、改めて少女の隣に付きながらまずは自己紹介から質問を始めていく。
■竜胆 > 「ふふ、だって、わたくしも、魔術を研鑽し、魔導を目指すものですもの。
素直に賞賛しているのよ?
魔法の、魔力の流れを読めば、大体は同じように魔力を流せば出来上がるものでしょう。
魔法とは、魔術とは、魔力の流れをシステム化したもの、なのだし。
私は、あなたの魔法を真似ただけ、つまり、あなたの魔法の完成度が高いということを示してるのだから。」
少なくとも、わたくしの中ではそうである。
未熟というよりも、種族的なものであるのだ、魔力を見る目を持つ竜が、魔術を学ぶとどうなるか。
その一例がこの娘という形になるのであろう。
唇を噛んで悔しそうな相手に、褒めてるのよ、と上から目線なドラゴン娘。
「わたくしは、人竜、人と、竜のハーフですわ。
そして……家は、富裕地区の中にあります、トゥルネソル家。
ジャンシアヌ・トゥルネソルと申しますわ。
そうですわね、トゥルネソル商会というお店に聞き覚えはあります?」
流石に、憲兵から素直に警戒されてるというのであれば、通称ではなく本名で名乗ることにする。
そして、素直に自分の素性を明かす。
トゥルネソル商会、本店は、港湾都市ダイラスにある商会である。
王都マグメール、神聖都市ヤルダバオート、果ては、奴隷都市バフートにも、商会のある店である。
特色といえば、ドラゴン急便という、配送サービスと思われがちだが。
船便、馬車や、普通の商品、武器防具の修繕サービスなど。
様々なものを取扱う総合商社であるのだ。
そこの三姉妹のうち次女である。
普段からほとんど家から出ないので、三姉妹の中で一番知名度は低いだろう。
知名度的に言えば姉のリスが、トゥルネソル商会の次期会長兼、マグメール店店長で有名だと思われる。
―――何が言いたいかというと、これ、貴族ではありませんが、お金持ちのお嬢様でした、一応。
■モリィ > 「その魔力の流れを読むというのが……はぁ。熟練の本業魔術師に出会ったと思って諦めます」
いくら褒められても、"それでもすぐにマスターできるのだけど"と言われているようで凹みそうになる。
頭を振ってそんな考えを振り払い、きっとその辺りも種族の違いで云々なのだろう、と思うことにした。
チンピラやゴロツキを処理するには問題ない魔法ではあるのだ。このクラスの魔法使いや、あの魔法で押さえきれない相手を検挙しなければならない時はもっと人手も道具もあるはず……いや、あの衛兵隊の同僚たちがそんな素直にそれらを出してくれるとは思えないが、さておき。
「人……竜? 人と竜の間に子ができるものなんで――ええっ」
生命の不思議に驚きながらも、だとすればその翼も尾も納得がいくと頷いていたところでさらりと出された名に、人竜宣言の倍くらい驚いた。
トゥルネソルといえば王都でもかなり有名な商家ではなかったか。
自分も給金を貯めたらそこで指輪なりイヤリングなり、身を飾る宝石の一つくらい買ってみたいものだと夢見た事はある。
まあ似合うはずもないので早々に諦めたが、そのくらい馴染みのある大商会の名だった、筈だ。
その経営者一族――貴族にも比肩する有力者の縁者だったとは。
「そ、そうなんですね。まさかあの商会が……」
人竜が居るとは知らなかった。少しだけ権威と生物としての位階差を理解した圧力に身が引けるが、それでも衛兵だ。たとえ相手が王族だろうが魔王だろうが、守るべきは王都の民と法。媚びへつらったり阿ったりせず、硬く強張りながらに衛兵として彼女を家まで送り届けようと気合を入れ直す。
■竜胆 > 「さあ?それは才覚じゃないかしら。わたくしは、生まれつき、見えるだけ、だもの。」
そう。
魔力を見るのは流石に、人間であれば様々な訓練だの修行だのが必要であろう。
それを必要とせず、そして、魔力には親和のある、竜種なのだ。
彼女の苦悩は、少女には理解できないのであろう。
「あら、できなければ私は居ませんわ?」
そして、さらに驚く様子の彼女に、女は楽しいわとばかりに笑を強くする。
ああ、やはり知っていらしたのね、と。
商店としては大きいし、それなりに広報活動もしてるし。
みなさまに愛されるお店として父様や姉が頑張っているのだ、それは少しばかり誇らしい。
商売に興味は――――これっぽっちもないが。
「勘違いなされると困りますが。
姉のリスも、妹のラファルも、人竜ですわ。
あと、別に商会に権力なんてありませんわ。
あるのは金と、商品だけですわ。
リスも、父様も、権力なんて気にしてない。
お客様に喜んでもらうために、商売を楽しんでるだけですもの。」
そう、貴族位が金で買えるこの国で、貴族ではない商人なのだ。
権力に全く興味がないのが伺えるだろう。
「付け加えて、わたくし達は馬鹿ではありませんわ。
一番繁栄している人―――貴方がたの町で、国で暴れればどうなるか。
知っているつもりですもの。」
喧嘩はするだろうけれど。
暴れたりはしませんわと、軽く肩をすくめる。
「それより、貴女のような綺麗な方と、仲良くなるのは大好きですわ?
魔法のことも、教えて欲しいですし、ね。」
少女はじぃ、と自分よりも僅かに身長の高い彼女を、見上げて笑う。
■モリィ > 「権力というのは振るわなくても周りが付けるものなんですよ、きっと」
実際、私も衛兵になってから「衛兵」という権力を身に着けた。なるべく普段はそれを笠に着たりせず、一人の民として事件に向き合っていくつもりでいるが周囲はそうは見てくれない。
平の衛兵でそうなのだから、あの大商会ともなれば思わぬところで凄まじい影響力を持っているに違いないと思えた。
「…………みな人竜、だったなんて」
冷やかしの客として、店の支配人は遠目に見たことがある。それが彼女の言うところの姉であったと思う。――まるきり人だと思っていた。
人でないからどう、という訳ではないがやはり驚きは隠せない。
驚きはするが、今までのトゥルネソル商会の在り方から考えても彼女の言葉に偽りは無いと思う。
彼女たちは純粋に商人であって、商売以外に興味は無いのだろう。
そんな彼女たちと私が対立することがあるとすれば、その商売が王国の法に触れた時、そのときだけのはず。
となれば、必要以上に警戒する必要は無いと考えていい。むしろ、商会の経営者と近くなれば彼女たちの商売敵が法に触れようとする時、その情報を先んじて得られるかも知れない。
王都の平和を守り、民の暮らしに被害が及ぶ前に未然に阻止する力になるかもしれない。
「綺麗だなんてそういうお世辞はよしてください。魔法は……あまり一般の方に教えたくないものが多いですし。仲良く、という点はまあ、否定はしませんけども」
綺麗というのはそれこそ彼女のような女性を示すものだ。それに比べて私なんて色は地味、そばかすは浮き、厚ぼったい眼鏡は必要不可欠。髪もさほど艶があるわけでもなく、無駄に高い背丈に筋肉と脂肪が乗って女性らしい細さはいまいち不足気味だ。
そんな容姿に自信がないところに綺麗だなどと言葉を向けられても、まず猜疑心が出てしまう。
魔法に関しても、衛兵向けの魔法はイコールで犯罪への転用も利きやすい。無闇矢鱈に広めるものではないだろうと思う。彼女の場合教えなくても会得しそうだが。
そんな風に、じっと見上げる彼女から視線を逃がすように俯いて呟く。
■竜胆 > 「それはそれで面倒ね。」
軽く肩をすくめてみせる、勝手に権力をつけて、その権力を求めてやってくる。
人間はマッチポンプ大好きね、なんてそんな感想が出るのは、半分は人間ではないからなのであろう。
「ああ、父様は違うわ?純粋な人間。
母様が竜。
店員のほとんどは、ミレーと純粋な竜。
ちなみに、姉は竜としてのちからは殆ど使えないわ、姿は、唯一使える魔法で人に化けてるだけ。
で。
貴方が魔法なしで捕縛できるわ。」
三姉妹は人竜、母は純粋な竜。
それに、びっくりしている彼女に対して、少女は軽く笑ってみせる。
先の言葉にあったとおり、姉のリスはとても弱い、そのへんのチンピラにさえ負けるぐらいに弱いのだ。
負けるといっても、物理的に傷はつかないけれど。
こういうふうに驚くのを見るのは、気分がいいわ、とどこかひねた感想。
「あと、ウチの家のメイドや家令も……一人を除いて竜よ。
ああ、姉の嫁と、料理を作るコックは人間ね。」
そう言いながら、ウチって人のほうが少ないわね。
思い出しながら言葉を放つ、衝撃を受けている彼女を見るのだ。
通称で言うなら、竜の巣というべきだろうか、別に空飛んで雲をまとってないけれど。
「モリィ。お世辞ではないわ?
貴女は、大事なものが、容姿だけだと思っているの?
そこは人間の悪いところよ。」
少女は軽く笑いながら、首を傾ぐ。
まあ、人間同士なら、容姿は重要だろう、実際人間に近すぎる姉は面食いだといえる。
でも、大事なのはそこではない。
少女は、猜疑の表情で、視線を逸らす彼女にすい、と寄る。
「女が、女を口説くのは、法に触れちゃうかしら?」
ね?どう?憲兵さん。
少女は、にこやかに尋ねるのだ。
■モリィ > 「ああ、なるほどだから人竜……半竜なんですか」
果たして竜を愛した男性とは、人を愛した竜とはどんな人なのだろう、興味が湧かないと言えば嘘に――
「……………………んっ。店員の殆どがミレーと、えっ?」
さらりと流すところだったが、もしかしてもしかしなくともトゥルネソル商会というところは王都の真ん中に鎮座するとてつもない爆弾なのではないだろうか。
今の所爆発するつもりはなさそうだが、もし万が一が起これば――それこそ職質に腹を立ててとか――その時はとんでもないことになるのではなかろうか。
みるみるうちに顔から血の気が引いていく。軽く笑う彼女の気まぐれ一つで自分のクビなどダース単位で吹っ飛ぶに違いない。絶対に怒らせないようにしよう。
「いや、本当に全然知らなかったわ…………」
姉が弱いだとか、姉の"嫁"だとか、他にも気になるワードは有るが気にしていられないほどの衝撃だった。
「……人は中身だと言いたい気持ちは山々ですが、衛兵をやっているとわかるんですよ。やっぱり人は外見がほとんどなんです。まず外見があって、それで受け入れてから初めて内面に移るんです」
だから悪人は結構見た目でわかるんですよ、と苦笑して。
人間の、という彼女が本当に人ではないんだな、と思い知って。
そうして、気がつけばにこやかな笑顔で間合いに踏み込んできた彼女の美貌に息が止まる。
同性だというのに、まるで彼女が纏う空気が神聖なもので、それを吸うなんて烏滸がましいと自分を戒めるように呼吸が中断されて。
「……ほ、法には触れません、けど」
でも、だって私なのだ。もっと綺麗どころや愛想のいい可愛らしい女の子はいくらでも居ように。
生まれて十七年、初めて"口説かれた"という未曾有の経験に長身の衛兵はあわあわと狼狽えながら後退る。
■竜胆 > 「ええ。三姉妹はね。
そうよ?奴隷のミレー族と、竜よ。
大丈夫、ちゃんと母とリスの言う事を聞く子だから。」
彼女の危惧する通りなのだろう、王都の真ん中にある、竜の巣。
トゥルネソル商会と、彼女の家。
もし何かあれば、王都のど真ん中で、ドラゴンが暴れることもあるのかも、しれない。
あるとしても、三姉妹が攻撃された、とか迫害にあったとか、そんなレベルの何かがあればということになるだろうけれど。
「ちなみに、ミレーは商品だからね?」
奴隷といっても、ちゃんと王国の法律に則った手段で手に入れたものであり。
違法性は無いものである。
法律を蔑ろにする気は全くないのでご安心を。
「わたくしは、貴女がその仕事に持つ貴女のプライドを評価するわ。
あなたは、美しい。
ちなみに、私は悪人……邪悪な竜、かしら?」
苦笑をこぼす彼女に少女は軽く首をかしいでみせる。
ふふ。と小さく笑って。
もう一歩、近づいてみせる。
「なら、安心して、口説けるかしら?
私のような、しっぽ付き、翼付きではお友達からでも、ダメ?」
どう?少女は見上げて、問いかける。