2019/02/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > パーティ用の巨大な広間。
普通ならば、貴族達が優雅に――或いは強かに雑談や根回しをする場だが。
今日に限っては、勝手が違う。
皆、晴れ着を着ている事は共通しているが、その内容は貴族が着るようなパーティドレスから、平民が着るような胴着をちょっと派手にしたようなものまで様々。
服装だけではなく、容姿も嫋やかな婦人から、でっぷり太った色んな意味で油の乗ったの中年、果ては意識が確かなのかも怪しい老人までも居る。

「凄いとこに来ちゃったなあ……」

このパーティは、この邸宅の持ち主が開催した物である。
とにかく、自分が出資している施設・商店・個人の関係者を集めてパーティがしたかったらしい。
その為、この様なごった煮なパーティが行われているのだが、

「どうすっかな……いい機会だし、人脈を広げてみるか……?」

クレス・ローベルク > 人脈といっても、誰と話しかければ良いのか。
普通の貴族のパーティならば、誰と話してもそこまで損をする事はないが、今回はとにかく色々な人が居る。
場合によると、厄介事に巻き込まれる可能性もなくはないわけで……

「考えてる間に飯でも食うかな……」

もともと、自分が来たのだって、主客である闘技場の幹部の他に、剣闘士も来ていれば客受けが良いだろうという、言ってしまえばただのおまけ扱い。
自分自身が何をしなければいけないというのもないのだ。
実際、他にも似た境遇の者が居るらしく、そういう者は何時もは食べることができないごちそうをひたすら食べている。

「まあ、ただ飯を食えると考えれば、それだけで得か……
あ、この子羊のロースト美味いな」

早々に目的を安易な食に切り替える男であった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にシュライアさんが現れました。
シュライア > 「ん?」

ハイブラゼールで行われているという闘技大会。その主催者たちが集まる催しがあるというので
自分も武に身を置く者。少しは顔を見せておいて損はないか、と公務の合間を縫って参加してみた

予想以上に様々な人種がいてめまぐるしいほどだ。
なんとか挨拶を返しつつ、ふぅ、と一息ついたところで…

「あれは…。」

見知った姿を見て…驚いた後、どこか納得する。
あの柔らかな剣技を持つ男ならこの催しに参加していもなんら不思議はなく

「クレス。クレス・ローベルク殿、貴方も参加していたのですね。」

慣れないドレス姿を揺らしながらゆっくりと相手に近づき、声をかけるだろう
一応公式の場なので敬称をしっかり付けて。
しかし鞘に納めた愛剣は…事故で抜けないようにしっかりと留めて腰に帯剣している

クレス・ローベルク > 「……ん?」

チリ、と後頭部を少しだけ何かに焼かれた様な、そんな錯覚を得る。
感覚ではない。殺気や敵意を含む視線を感じたわけでもない。
ただ、何となく、此処は危険かもしれないという、曖昧な本能からの囁きを感じたのだ。

「いや、でも流石にこんな所で?ダンジョンじゃないんだぞ?」

暗殺者が紛れているのかとも考えたが、流石にそんな訳はない。
前とは状況が違うのだ。
そう、前に出会った、武芸の達人にして正義の騎士、シュライア=フォン=ラクスフェルに出会った状況とは……

『クレス。クレス・ローベルク殿、貴方も参加していたのですね』

「ふ"っ"……!」

口に入れていた料理を危うく吹き出してしまいそうになったのを、意志の力で強引に堪え、そのまま口の中のものを飲み込む。
そのまま、ゆっくりとそちらを向き、何とか何時もの笑みを浮かべると、

「これはどうもシュライア様。お久しぶりでございます」

と軽く頭を下げる。
確かに、この宴には、闘技場の主催者の大半が参加している。
同じ闘技場に金を出す立場の者同士、興味としても利害としても、共に話すことなどいくらでもあるからだ。
ならば、武闘派のラクスフェルの当主としては、彼等に顔を覚えてもらっても損はない。そう考えると、自然な流れだ。
だが、彼女の性格上、闘技場で行われているあれこれは、決して好ましからざるモノだと思っていたが――

「(とにかく、何とか取り繕わないと……)」

あくまでも自分はローベルク家の長男。
決して、本性を見せてはならないし、出奔したという事実もバレてはならない。

「所で、シュライア様はどうしてこちらに?
僕は――まあ、この日、丁度手が空いておりましたので、半ば道楽気分で、こちらに。ダイラスの闘技場の話も、聞いてみたくもありましたし」

シュライア > 実際のところ、実父に強く止められているため闘技場の全容は彼女は知らず
ただ、武芸に通ずる者たちと関わることは彼女の益になると考えた当主が参加を促した…というのがクレスの不運ではある

無邪気に、尊敬すら見えるまなざしで見つめてくる彼女は相手からはどう映るか

「少し堅苦しくしてしまいましたが…一度剣を交えた仲です。小さな声で気楽に話しましょ」

にこにこ、と知っている相手に会えたのがうれしいのかいたずらっ子のような表情で声のトーンを落とす。

「クレス殿もそうでしたか。私も、武芸に関わる者が多いので参加すればいい、と…。
詳しいことはいつもあまり教えてもらえないのですが…どうやら、ハイブラゼールの方でとても賑わっている様子で。
私も一般枠での闘技でいいから参加させてほしい、とお願いしているのですが中々…」

饒舌に話し続ける。今のところ燕尾服を着ていることが幸いしたか、疑いもないようで。

闘技大会に参加させないのは、当たり前である。何せ本質を知ればここにいる顔を覚えた者達に問いただしに行きかねない
そういう意味では、この宴の参加者はクレスと同じ緊張感を背負っているのかもしれない
いうなれば厄介者、というわけだ。


「いえ、というか…クレス殿なら闘技大会に参加しているものかと思っていました。
あれだけの剣技をお持ちなのですから…その縁でこの宴の主催者が呼んだものとばかり…」


どうやらシュライアは、相手の剣技を素直に、あるいは相手にとってはむずがゆいほどに評価している様子。
よほど自分になかった剣技を見せられたあの模擬戦が刺激的だったのだろう。

クレス・ローベルク > どうやら、シュライアには今の所、自分の悪行はバレていないらしいと心の中で安堵する。
彼女が嘘がつけない性質であろうことは、今までの会話でよく解っている。
実際、彼女は自分が知己だと見るや、寧ろ警戒を解いてひそひそ話に誘ってくれている。

「そうですね。僕……いや、俺としてもあまり格式張った会話だけでは息が詰まってしまいます。シュライア様が良ければ、少々砕けましょうか」

これは、あちらに嘘がバレてない以前に嬉しかった。
本来のクレスは非常に気楽な生活をしており、敬語を使う機会すら、そうそうない。
それに、それだけこちらを信用してくれているのは、男としても嬉しいことだ。

「……成程。僕も、そこまで詳しい事を知っているわけではないのですが。
しかし、闘技場には荒くれ者も多いと聞きますし……僕もダイラス自体には何度か行ったことがありますが、治安は悪いですから。
止めている方も、万が一があれば不安という事なのでしょう」

成程、と男は理解する。
話に聞いているだけで、実態は知らない。
そうすると自然、自分がやるべき事も明確だ。
とにかく、彼女と話し続けて、彼女を"真実"から遠ざけ続ける。
それだけが、この宴の頭に、"血の"が付くことを防ぐ唯一の道だ。

「はは、僕の剣はまだまだですよ。
勿論、悪人を討つには十分という自負はありますが、魔族相手となると、中々。
鍛錬も兼ねて、ハデスの主戦場に義勇兵として向かうこともありますが……大抵命からがら帰ってくる事がほとんどです」

勿論、これは闘技大会から話を逸らす意味も有るが、同時に真実も含んでいる。
実際前も、見た目は少女と言える魔族に、コテンパンにされたばかり。
そういう意味では、これは一種の謙遜であり、また愚痴でもあった。

シュライア > もし、クレスが行っていることに気づいていれば、もっと顔に出るだろう。
姉と違いそう言うところは融通が効かないのが逆にわかりやすいか

「うーん…。多少の荒くれ程度ならなんとかなる自信はあるのですが…。世界は広いですからね」

家族をこれ以上悲しませるわけにはいきませんし、と
彼女も彼女で色々あったのだろう。表情の裏に少し憂いが見える

尊敬する親に留められている以上、無理矢理に行こうとする気持ちはない様子。

「あの戦場に…。…私の家も、選りすぐりの者を援軍として出していますが。報告は惨憺たるものです。
…もしかすると、クレス殿に助けていただいたものもいるかもしれません。
……魔族…、クレス殿も会ったのですね。この街にも相当数、隠れてはいるようですが…」

も、ということは彼女も魔族と遭遇したことがあるのだろう。憂いが濃くなる
その様子から彼女もまた剣を振るったが通じなかったのだろう

「ああ、あまり暗くなりすぎてはいけませんね。せっかくの宴ですから。
乾杯でもしましょうか。良き剣の使い手に。」

安酒から高級酒まで客に合わせて器用に配っている給仕に、軽い酒を2つ頼み
片方をクレスに渡し、乾杯しようと

「…ん。本当はあまり飲んではいけないのですが…、こういった催しの時くらいは少し嗜んでも怒られはしないでしょう…」

軽く杯を傾けて、ふふ、と笑う。どこか以前よりも雰囲気が緩くなったような印象だろう

クレス・ローベルク > ――家族。
彼女がその言葉を呟いた時、一瞬だけ、寂寥、或いは嫉妬のような色が目に浮かぶ。
しかし、その次の一瞬には、その色は柔和な笑みの奥に押し込められる。

「(いけないいけない……)」

演技以前に、人間同士の会話としても過剰反応だ。
ともあれ、当分彼女が闘技場に行くつもりはないというのは良いニュースだ。
取り敢えず、当分の危機は去ったか、と思う。

そして、魔族の話題に話が移ると、悲しそうな――実は男には、そこまで仲間の死や危機に頓着が有るわけでもないので、あくまで悲しそうな目をして、

「ええ。下っ端の目でも解るほどに、戦況は常に切迫してますね。
……そうですね。魔族の国と人間の国の境目は、一般人が思うほどには強固ではない。僕もそれなりに心得はありますので、よく解ります」

だから、シュライア様もお気をつけて――と言おうとして、彼女の目の憂いが、更に濃くなった事に気付く。
何かあったのだろうか、と聞く前に、こちらに酒を手渡された。

「そうですね。暗い顔をしていては、折角お招き頂いたお方にも失礼でした。
――では、こちらは正義の剣の使い手に」

乾杯、とグラスを軽くぶつけ合う。
そして、グラスの酒を一口舐める。
余り飲みすぎると、余計な事を言ってしまうかもしれないが少しぐらいは構うまい。

「酒の席、ですからね。
俺もシュライア様の年頃には、宴にかこつけて、少し羽目を外したものです。
しかし、何というか、こういう事を失礼に当たるかもしれませんが――前に比べ、随分と心が柔らかくなられましたね」

前は、寧ろ、宴という場に対して緊張があった様にも見えたし、生真面目、というのが似合う性格だったと思えた。
しかし今は、真面目なのは確かだが、何処か余裕を感じる。
あれから社交の経験を重ねたのだろうか、と少し疑問を覚えた。

シュライア > 「…?」

僅かに、演技のような気配を感じたが…酒のせいか、と乾杯を交わす
お互いの近況を少しぼかしながら話し合いながら…

「今も、とても自由に見えます。私なんかよりずっと…
柔らかく、というより…少しの迷いかもしれません。」

宴を眺めて、ふぅ、とため息。その後、グラスを少し勢いよく傾ける

「…揺らいでいるのです。このままでいいのか。…お父様は尊敬していますが、所詮私は家の庇護を受けているだけ…
それでは、これ以上の力を得られないのではないかと。…正義を、為せないのではないかと。」

酒の勢いか、話してもいいか、と姉にしか今のところ話したことのないことを
もちろん小声ではあるが聞けば衝撃であろう。正義を信奉する彼女がそれを為せないかもしれない、と落ち込んでいるのだから。

「強くなりたい。今よりも、もっと。何にも負けないほどに…!」

ぎゅ、と愛剣の柄を握りしめる。カチャ、と留め具が鳴って。
眼に憂いが浮かんだことも関係があるのだろうか。

「いっそ、飛び出してしまおうかと、そういう思いに駆られるときもあります。…ああ、ごめんなさい。なんだか愚痴ばかりで」

あはは、と笑って。態度が柔らかく見えたのは…悩んでいることによって逆にそちらに思考を取られ、取り繕えなかった結果だったのかもしれない

クレス・ローベルク > 「自由……?」

それはなんだろう。確かに自分は自由だが、しかしその声には何か、言葉以上の感情が込められている様にも感じる。
実際、彼女はその後、勢いよく――勿論、乱暴な所作ではないが、しかしやや感情的に酒を煽った。
しかし、それよりも、その後に続く言葉のほうが、彼にとっては驚きであった。
とはいえ、

「……成程」

彼女の表情を、何処か焦っているようも見える表情を見れば、それは覚えの有る感情であった。
それは、男も嘗て陥った焦りであり、そして何よりそれは――

「いえいえ。俺もさっき愚痴を言ったばかりですし。
――でも、そういえば、前にこうして会ったときも、二人して宴を飛び出してしまいましたね」

流石に、あの時のように、修練場で剣を振るうのは難しいだろうが。
少しぐらいなら、外に出ても、差支えはあるまい。
寧ろ、シュライアを外に出すというのは、誰にとっても損にはなるまい――少なくともその間、シュライアの剣は此処にはないのだから。

「どうでしょう?少しの間、今一度宴を飛び出し、夜の街を歩くというのは?」

優しく、さりげなく。されど大胆に。
男は、少女を昼の如く明るい宴の場から、夜の闇へと誘う。

シュライア > 吐き出してすっきりしたのか、くい、と酒を飲み干して
強いと言えば強いようで。弱い酒とはいえ酔ってはいない様子。

「そうです、ね。あの時は私が強引に誘いましたが」

あの時はありがとうございました、と言って

「歩く…?、…別に私は主賓でもないので構いませんが…」

酒は入っているがこの程度で足元が怪しくなるような彼女ではなく。
こく、と頷いた瞬間、周りから…言葉には出ないもののよし!という喜びが伝わってくるだろうか


「歩く先は…殿方にお任せしていいのですよね?」

くす、と笑ってから帯剣したドレス姿で、先にととと、と歩いていってしまうか
その先は、夜の闇へと繋がっている

クレス・ローベルク > 「勿論。――それでは、皆様、少々失礼。
暫くの間、宴の花を一輪、お借りいたし――って行動早!?
任せたからには、せめて準備を待っていただきたい……!」

あまりにも早い行動に、気障な台詞も慌ててぶった斬られ。
男は急いで彼女についていく。
それにしても、まさかこんなに素直についてくるとは、大丈夫なのかこの娘は、と心配になりながら。

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今日は、快晴だ。
夜の帳に星が輝き、それを見守るように満ちた月が青白い光を放つ――
富裕地区には魔法式の街灯はあるが、それだけでは夜の闇を払うには不十分。
邸宅の持ち主からカンテラを借りて、その明かりを頼りに二人、夜の街を歩く。

「お足元にお気をつけて。
……いや、シュライア様がバランスを崩して転ぶ事は無いと思いますが。念の為」

この娘のバランス感覚なら、ハイヒールで岩場を歩いても転ぶまいとすら思うが。
しかし、誘ったのはこちらである。
こういう時に心配の言葉を投げかけるのは、一つの作法である。

「余り長く宴を離れても失礼ですし……そうですね。
少しこの通りを歩いて、帰る時は一本隣の通りを歩いて帰りましょう。
もしかしたら歩き慣れた道かもしれませんが――夜空を見ながら歩けば、退屈もしないでしょうから」

そう言うと、そっと手を差し出す。

「念には念をということで。誰も見てない間だけでも、手をお貸し頂けませんでしょうか?」

シュライア > 自信も…大半は失われてはいるが、まだあるのだろう。
それに、今のシュライアからすればクレスは十分信頼に値する、というのもある

「…あまり、こういう扱いを受けるのは慣れていないのですが」

作法とはわかっているものの、おどおどせずにそういった言葉を投げられるのは久しぶりだ。
カンテラに寄って、足元を照らしてもらいながら夜の道を進む。

「…確かに、呼ばれている以上、あまり外に居ては主催に失礼ですね。お任せします」

こく、と頷いて…男の予想通り、酒が弱くとはいえ入っており、更に歩きにくいであろうドレス姿であるにも関わらず
その足取りには淀みはなく、今から戦えと言われれば彼女は剣を即座に構えるであることがわかる凛とした姿勢だ。

「ん。…エスコートされるなど、いつぶりでしょうか」

ぼそ、と呟いてから…剣を握っているためか少し硬い指を相手の手に重ねる

「思えば、いつも店や通りを気にして…夜空を見たことはあまりなかったかもしれませんね」

とん、とん、とヒールを鳴らしながら上を向いて歩く。
あの星はなんという名前だったか…など、とりとめもないことを考えながら、今度は男のエスコートに従ってゆっくりと歩いている

クレス・ローベルク > 一見、酒と雰囲気に浮かれて見えるが、体のバランスも足取りも乱れがない。
ある意味、戦場の兵士よりも、よっぽど常在戦場という言葉を体現している。
この娘をマジで口説くのは大変そうだなあ、と思う。

「それでは、参りましょう。夜を見ながら、しかし足元に気をつけつつ」

手を引き歩いていく男は、しかし暫くの無言だった。
ただ、何をしゃべるわけでもなくぼうっと星を見ているだけ。
男が口を開いたのは、歩いて数分してからの事だった。

「……北極星って知ってます?」

唐突に、前振りもなく。
ただ呟く様に、男は彼女に声をかけた。

「一年を通して、常に北にある、船乗り達の星。
ウチの家は、元が魔物退治の武勲から貴族位を得た家でして。森や山の魔物を退治する時、遭難しないように、代々星座を学ぶんですよ」

でも、

「結局、星座を知ってても、迷う時は迷うんですよね。
常に変わらず見守ってくれる星があってさえ、人は迷う。
多分、シュライア様が陥ってるのも、そういう物なんだと思います」

突然の、ある意味では自分語りにも思えるような言葉。
困惑するだろうなあと思うが。
それでも、ぽつりぽつりと零すのは、自分でも上手く伝えられるか不安だからで。

シュライア > 「ええ。……」


軽く、返事をした後はしばらく無言が続く。
ヒールの音と革靴の音だけが響くだろう

「…?」

しばらくの心地よい無言の後の言葉に首を傾げる。
名前を知ってはいる、と伝えるが…

「……私の家は、武芸、あるいは知略…お姉様なら、そういった処も知っていたかもしれません。」

合わせる様にぽつぽつと、自分の家の状況と照らし合わせる

「見守ってくれるものがあっても、迷う…」

言葉を口の中で転がして、考える。
それは、自分と同じだ。尊敬する父親、自分の信念という光があっても、今自分はこんなにも迷っている

「迷ったら…どうしたらいいのでしょうか。行く先が森の更に奥かもしれないのに」

薄い唇から吐息が漏れる。少し寒そうではあるが…鍛えられた体のおかげか、それほど身は震わせておらず
ただ、ぽつり、と星が見えても迷う時はどうすればいいのだろう、と尋ねる

クレス・ローベルク > 「ああ、確かに知略を司るという、貴方のお姉様なら知っているでしょうね。
軍略において、方角を知るのは基礎ですから」

と相づちを打ちながら、しかし男は話を進めるまでの間、少し間を置く。
悩みを晴らす時、一度に多くを考えてはいけないと、知っているからだ。
そして、その末に零した彼女の答えを聞けば、笑って応える。

「森で迷えば、水源を、できれば川を探すのです。
喉を潤せますし、いよいよ見当がつかなくなっても、川に沿って歩けば、同じところをさまよう心配だけはなくなりますから」

どれぐらい長く歩くことになるか解らないし、増水すると溺れますから、最後のはあくまで最終手段ですけどね――と。
茶化した様な言葉で、実際茶化すように言う。
だが、その後に真剣な面持ちになって、

「要は、周囲を良く見渡すのです。
迷ってしまうのはしょうがない。
誰だって迷うし、大体の場合、迷ってしまったのは単なる偶然か事故のケースが多い」

だからこそ、と男は続ける。
静かな声で、しかしそれでも少し早口になってしまうのは、らしくない説教が、果たして彼女に届くのかと不安だからで。

「迷うのは、貴方が間違っていたからではありません。甘えていたからでも、弱かったからでも。
その上で、行くべき場所に行けないというのなら、周囲を見渡し、辿り着く道を探してください」

どんなに遠回りでも、危険でも。
それこそがきっと、貴方があるべき道なのだと。
道に迷い続けて、道を外した男は、祈るように言った。

シュライア > 「そう、でしょうか。私が間違っていたからでは、ない。…では…」

少し考える。相手の話は…余計なことが抜け落ちた酒の後では、す、と頭に入ってきた。
星を見るのではなく、水場を探す…

「私にとっての…水場を探す。他の道を探す…?」

言葉は理解できたものの、実際に水場とは何を指すのだろう、と

「…難しいですね。…別の道を探しながら、けれど…最終的な場所は変わらないようにする…」

説教という面倒くさいものとは思わなかった。水場が自分にとって何かもわからないがそれはきっと

「自分で見つけるもの、なのでしょうね…。…少し。ほんの少しですが…」

カンテラの灯りに照らされながらくす、と笑う

「気が晴れやかになったような気がします。やはり私は…頭が固すぎるんですね。」

一つの道しか、それを塞ぐ壁は粉砕することでしか進んでこなかったが…回り道を取る手段もあるのだと知って、礼を。

クレス・ローベルク > 「まあ、シュライア様の実際の悩みは解らないわけですからね。
これが貴方の行くべき道だ!って言ったら逆に胡散臭いでしょうしねえ……」

そこまで踏み込むのは、流石にやりすぎの域だろう。
年長者の立場で、彼女に出来るのはこれぐらいで、それでも大丈夫だと男は確信している。
彼女は、自分とは違う。
心配してくれる味方が居て、傷つきながらでも道を歩く強さが有る。
――自分とは、違って。

「(あー、クソ、なっさけねえなあ)」

あくまでも自己満足。過去の自分を救うための代償行為。
そうだと解って割り切っていても、嫉妬と自己嫌悪は否めない。
ともあれ、言いたいことは言った。
だから、後は帰るだけだ。

「っと、此処らへんで通りを変えましょう。
こっちの横道に入りますよ……って此処夜だと結構暗いな……?」

指さした横道は、道幅は広いが街灯がない。
昼間は陽の光が入りやすく明るいものだから、油断していた。
とはいえ、他の道を今から探すのは時間がかかる。
ここらへんは建物が密集している上大きな建物が多いので、横道の類が複雑化しやすいのだ。

「えーと、まあ、ごろつきが居ても多分二人ならどうとでもなると思うので。
すいませんが、少しの間、暗いのは我慢して頂けますか?」

幾ら強いとは言え、流石に婦女子をこんな暗い道に引き込むのは少々罪悪感もあり。
申し訳なさそうに、カンテラを持つ手で頭を掻いた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からシュライアさんが去りました。