2018/12/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にアデラさんが現れました。
アデラ > 「~♪」

少女は浮かれていた。
以前店で見かけたマジックアイテム、学生の小遣いでは手が届かない高級品を、ようやく購入するに至ったのだ。
父母に泣きついた訳ではない。自分で稼いだ金だ。
……尤もその〝仕事〟が健全だったかと言うと、全くそうではないが。

「ああ、早速試してみたいわ……って、そうね、試せばいいじゃない」

腕を掲げて、銀のブレスレットに月光を受ける少女は、新しい玩具を与えられた高揚感のまま――

がぶり

「っ……、どうかしら――って、おー」

自分の手首に、血が出るほどに強く噛み付いた。
が――その傷は僅かの間を置いて、直ぐにも再生が始まる。
リジェネレートの魔術が施された装身具。暗殺を恐れる貴族が身につけるような代物だが――

「これで……もっと無茶ができるのね……!」

目をキラキラとさせている。全く少女は浮かれていた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にナインさんが現れました。
ナイン >  ――――?

(微かな血臭に顔を上げた。
この国らしいといえば、らしい、の一言で済まされかねない馨だが。
流石に此処等の地区のど真ん中ともなれば。訝しむのも仕方がないだろう。
どうやら。馨の元は街路を挟んだその向かい側か。軽く前髪を梳き除け、其方へと目を向けてみたのなら――)

 …先、輩か。こんな所でお目に掛かるというのは。随分奇遇じゃないか――ない、ですか。

(一年程前迄。通っていた学舎にて、そう呼んでいた相手の姿が有った。
懐かしさが半分。もう半分は…道が異なってしまった故の気拙さだろうか。
お陰で。声を掛けたものの、声量にも立つ位置にも。少しばかり距離感が残されていた。)

アデラ > 自分の腕に傷を付けてみる。その傷が塞がるのを眺める。
不健全な愉しみではあるが、少女は暫しその遊びに没頭していた。
少女自身の魔力を少しずつ吸い上げて蓄積し、リジェネレートの魔術へと変換するブレスレット。

「特筆すべきは変換効率かしら……って、ん?」

などと、少しは魔術の徒らしいことも考えて――いたところ、声を聞いた。
声の方角に立っていたその姿を見たならば、少女は暫し視線を虚空へ飛ばし、

「ええと……誰だったかしら。ごめんなさいね、学院は人が多いものだから」

立ち位置に示される交友の度合いを、こちらも詰めることはない。
先輩と呼ばれたからには知る誰かなのだろうが――さて、なにものであろうか。

ナイン >  …そうか。――それは残念だ。
 貴女は逐一目立っていたから、私の方は覚えていたのだけれど。

(取り越し苦労、だったかと。それはそれで安堵したろうか。
考えてみれば、彼女の言う通りではあるだろう。一年程の短期間。
それを数多の子息子女の人数分に稀釈したのなら、細微になるのも当然だ。
僅かばかり苦笑すれば。それはそれで、返って遠慮がなくなった為に。
夜の街路、物理的な距離を。躊躇う事なく渡りきる。)

 暫しの間同課にて後輩だった、グリューブルムの娘、と。
 その侭、卒業迄行く事が出来無かったのは残念で…つい。往時の顔に声を掛けてみようかと。

 嗚呼、相変わらず。アデラ嬢の方は、お変わりがないようで…?

(そんな希薄な思い出であれ。此方は、彼女の事を良く覚えていたのは。
あの頃からあらゆる意味で目立っていたからだ。
頽廃、堕落、享楽、その他を。若い、否、幼いとすら言える当時から翳していた彼女の姿を。
少女の方だけは、目に焼き付けていた。
だから今も。血臭に。流血と治癒の繰り返しに。納得すらしてしまう。)

アデラ > 「グリューブルム――覚えてないわね」

少女は重ねて、記憶に無いと言う。その言は決して偽りではない。
言葉を飾らずに言うならば、〝自分自身にとって何かをもたらさないもの〟を覚えていられないのだ。
仮に相手の存在を、記憶から呼び起こす手立てなど有るならばまた別やも知れないが――
とかく少女はそのままだ。思い出しもせず、ただ、応じている。

「……私の何を知っているのかは知らないけれど、ええ。私は変わらないわよ」

距離を詰められれば、一歩、足を引き下げる。
間の空間を埋めるという行為に対し、はっきりと拒絶を示して、少しばかり息を吸い、

「もう一度聞くわ。誰だったかしら――そしてね、何の用件かしら」

お前は誰だと、重ねて問う。

ナイン >  そうだ。本当に、そういう所も変わらない。
 …どうしてだろうな。貴女以外はきっと。変わらずに居られない者が多すぎるのに。

(少女自身を含めて。…寧ろ。変わらざるを得なかった自覚に、日々苛まれる身の上で。
懐かしまざるを得ない日々の中に在った思い出の一つが。
当時と何一つ変わらない侭、目の前に具現化しているようだった。

そんな彼女からすれば。幾らか言葉を交わした程度の後輩が、一人二人消えた事など、何の変化にもならないか。
変化と、無変化とを。変わらずに在り続けられる事を。…今、初めて。)

 そう…こんなつもりは欠片も無かった。
 唯、懐かしかっただけだ。在りし日の思い出。あの学舎の華。
 それを思い出したかったか、もう一度見上げたかったか。それだけのつもりだったけれど…

(歯牙にも掛けられぬというのなら、寧ろ逆に諦めもついた。
だが、拒絶の意思という、無関心よりは随分とマシな物が有ったから。
小さく歯を剥くようにして、更に、一歩。)

 私は。あの学舎で…貴女に憧れていただけの、仔娘だよ。
 だからその憧憬を、今なら。 ――――手折れるかもしれない。

(そしてもう一歩。この間に、用件は。…目的は変わっていた。
その背に焦がれる程度しか出来なかった彼女へと、伸ばすのだ。
但し、手を取りたい、指を絡めたい、等という甘やかさではなく。
腕に掛けていた傘の石突きを槍の如く、その腹へ。)

アデラ > 「酔ってるのかしら、あなた」

過去を懐かしむ、今を悲観する、そういう己に酔う――それは少女にとって、理解の及ばぬ感情だ。
理解どころか、そういう発想があるとの思考にさえ至らないのだろう。
少女は、相対する〝誰か〟の言葉を解釈し得ない。
だから名を問うたのだ。せめて理解できる部分を増やしたかったから。

だが、目に見えるものは理解できる。
距離が詰められる。言葉による意思の疎通には至らないままで。
再び少女は距離を取る。たっ、と石畳を蹴って身を跳ねさせたその直後、先ほどまで自分の身体が有った空間を貫いたのは――

「……三度目を問おうかと思ってたけど、気が変わったわ」

命には至らない鈍い凶器。それでも腹へ突き刺されば痛みはある筈だ。
だがそれは――求めている痛みではない。
故に少女は身を翻し、凶器に背を向けて歩き始める。

「私はうんと愛されたいの。愛の手段として傷付けられたいの。あなたは、あなたが愛しいのでしょう?」

走りもせず、声を荒げもせず、ただ粛々と歩き去る。
夜の影に溶け込むには、その黒衣は都合が良かろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からアデラさんが去りました。
ナイン >  少し違うかな。…酔いたいんだ。

(否定はすまい。唯僅かなズレが有るだけだ。
そして、認識も矢張りずれていた。…どうせ、覚えていまいと思った結果。だからこそ名乗らなかった。
改めて今から、刻みつけるべきだと。そうせねば理解などして貰えないと決めつけたから。

嘗ては届かず。今は到らず。
あの時から、痛みを悦んでいた彼女を知っているから。
今の少女になら、他人に届ける事が出来るようになったその概念を差し向けて――それも亦。)

 ――――知っていたよ。だから、刻みつけたかったんだ。

(愛と痛みが繋がる事を。あの頃は理解出来なかった。
今なら、少しは。大人にさせられて、理解し始めていると。
それでも、彼女の抱く深みには、未だ到らなかったという事か。

再びの機会にも、手を届かせる事は出来無かった。
理解したいから、届かそうとして。理解出来ないから、逃げられた。
小さく笑って傘を退き。もう、闇に溶けた姿を追う事はすまい。)

 過去は過去。……っは、っ…

(歩き出し様の嘲笑は。きっと少女自身への物だった。
改めて突き付けられた気がする。戻る事は出来無いのだと。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からナインさんが去りました。