2018/10/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にアシュリーさんが現れました。
■アシュリー > 富裕地区の町並み。其処をすたすたと駆け足で抜ける少女は、ちら、と背後を振り返り
「ぜぇ、ぜぇ……ふふ……うふふふ! 撒きましたわ、ついに!
心配性の護衛がいたのでは巡察もまともにはできませんもの……」
早歩きごときでぜぇぜぇと乱れた息をすっと深呼吸で整えて、すっくと前を見据える。
その目には決意。警邏くらい一人でデキるもん!
「でもやっぱりちょっと不安ですしあんまり撒いたとこから離れないようにうろつきましょう、ええ。
これは怖いからとかではなくわたくしを見失った兵がお父様に怒られないようにという気遣いであってほんと心細いとかそういうのありませんわ」
誰にともなく言い訳をしながら、軽装の騎士装束に身を包んだ少女はるんるんと街を視察するのだった。
■アシュリー > とことこと品のいい足取りであちらこちらを見て回る。
貴族向けの商店などは、護衛付きで何度も訪ねた。勝手知ったる様なものだ。
いや、実際ほとんど商人とのやり取りも護衛がやってたしわたくしは後ろでニコニコ見守ってただけですけれど。
それはいいとして、せっかく護衛が居ないのだ。
いつもお嬢様見てはなりませぬ、なんて行かせてくれないようなところを見に行くのも一つの社会勉強なのかもしれない。
でも、さて。いざ行って見るにしても、なんだか恐ろしいような。
「護衛なしで見る王都って、なんだか少し怖いですわね。わたくしの住む、わたくしの仕えるべき街ですのに」
ぽつと呟き、いや恐れては駄目だと奮い立って歩みを進める。
今日はせっかく一人なのだから、見れるところは見て回らないと。
■アシュリー > 「ひ、貧民街のようなところにさえ行かなければよいのですわ」
貧民街は善意の施しを貪る悪しきところだと皆が口々に言っていた。
そういうところは、きっと武装して行くようなところ。
でも、富裕地区はそうではない、はず。たぶん。きっと、おそらく。
なら、多少表通りから外れた道に入ってみたって、なぁに死ぬことは無いはずですわ!
と自分を鼓舞して、深呼吸。誰に憚ることもないのに、周囲をきょろきょろ見回してから横飛びで表通りから路地へと飛び込んでみる。
ほら、路地一本くらいなんてことのない、何も変わらない王都の町並み――です、わよね??
■アシュリー > そーっと薄目で路地の様子を伺う。
「ど、どなたかいらっしゃいますのー? は、入りますわよ。
聞きましたからね、後から怒るのは無しですわよ?」
路地がいったい誰の私有地だというのか。
普段なら絶対にしないようなお馬鹿な行為をしてしまうのは、やはりはじめてのお出かけ故か。
そんな分析をするほどの余裕もなく、お邪魔しますわと路地に入ってみる。
ここは富裕地区、怖いことなんて無いですし奥にさえ行かなければすぐ大通りに戻れますもの。
平気平気、このくらい全然平気ですわ。ですわ。ですわよね、たぶん……
■アシュリー > 「……な、何を恐れることがありましょう。わたくしは騎士……の見習い、なのですから。多少の恐怖に負けてなるものですか」
自分を鼓舞してずんずん進む。
だめやっぱり怖い無理誰か迎えに来てなんで護衛はいませんのサボり? サボりですわね? お父様に言いつけてやりますわ!!
5秒で強気崩壊してへたり込み、自分で撒いておきながら理不尽な怒りを護衛にぶつけながらどなたかたすけてーと蚊の鳴くような声で喚く。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」に紅月さんが現れました。
■紅月 > ーーーその頃、路地の奥。
騎士見習いの乙女が進もうとした先というのが、実は小さな空き地で。
そこはよく女が、紅の髪を風に揺らしつつぼんやり空や夜景を眺めている場所であり…今日ものんびりするつもりだったのだが。
「…あっ、また止まった」
紅月はやきもきしていた。
なにせ自分のいる場所へ繋がる道を塞ぐように"巣立ち前の小鳥や小鹿のような弱々しい気配"がずっと、オロオロオロオロと、まるで迷子のような空気を纏って其所に在るのだ。
そりゃあもう、気になって気になって…気になって。
「…仕方ない、なぁ」
クスクスと苦笑しながら「よいせ…」なんて呟きつつに立ち上がる。
草を踏み締める音から、道を歩む音へ…から、ころ、から。
のんびりと、止まったまま動かない気配の方へ向かう。
…きっと聞き慣れぬだろう木下駄の音は、はたして不安げな乙女の耳にはどう聞こえるやら。
■アシュリー > 「……ど、どなたかいらっしゃいますのー?」
ワンモア、誰何。
どなたかいらっしゃればその方にヘルプわたくしするのだ。
なんてつもりで呼びかけてみれば、からんころんと軽やかな……なんだかわからない音。
びくっと肩を震わせて腰を抜かしそうになりながら頭を抱え、チラチラと路地の奥を覗き見る。
「ごごごごめんなさい別に不法侵入とかしようってつもりはありませんでしたのどうぞお許しなさい!? 今わたくしを許せば大事にはしないであげますわ!! あとついでに大通りに戻してくださいませ!!」
傲慢なのか卑屈なのかよくわからない態度で、迫り来る"何か"に喚き立てながら、どうか悪い人ではありませんように、と。
よしんば悪い人だったとしても、お金を差し出せば許してくれるタイプの悪い人でありますようにと
ろくすっぽ真面目に祈ったことのないヤルダバオート神に祈りを捧げながら身構える。
■紅月 > から、ころ、から…
徐々に近付く謎の音、もとい、足音。
路地の奥からユラユラと紅く揺らめく何かと、見慣れぬ衣装を纏った人影が見えてくるだろう。
人影は、半ば恐慌状態であろう声に思わず足を止め、蹲る乙女にキョトンとした目を向ける…その距離、だいたいベッド2つぶん。
「…えっと、大丈夫かい?
どうしたの?
この先、小さい空き地と平民地区に繋がる裏道しかないけど…迷っちゃった?」
怪我した小動物の如き怯えよう…これ以上警戒させても可哀想だし、距離を保ったまま軽く両手を挙げて緩く声をかけてみる。
なにもしないよ~、お姉さん怖くないよ~、と念を送りつつに。
■アシュリー > ちら……と視線を上げて、やってきた人影を見上げる。
異国風の装束に身を包んだ、綺麗な女の人だ。
少なくとも想像していたような、こうスキンヘッドで四六時中ナイフとか舐めてそうな「わるいひと」でなかったことにまずほっとため息。
次いで、眼鏡を持ち上げ涙目になりかけていた目元をくしくしと袖で拭ってすくと立ち上がり
「ま、迷ってなどいませんわ! あくまで騎士…………見習い、として、
街の造りを把握するべく見て回ってただけですわよっ!!」
見習い、の部分はぼそりと濁して、威勢よく胸を張って言い返す。
大丈夫、距離はある。何かされてもこれだけ距離が有ればきっとおそらく逃げ切れる筈、とまんまと思惑に乗って警戒しつつも恐怖心は融けた様子で
「わたくしはアシュリー=ロンディニア、誇り高きロンディニア家のものですわ! な、名を名乗りなさい! わたくしを案内する栄誉を授けてもよろしくってよ!!」
せっかく伸ばしてもらった救いの手を自分から台無しにしかねない態度で、尊大に言い放つ。
■紅月 > ぱちぱち、と目を瞬かせ…こてり、と首を傾げる。
これはアレか、貴族の箱入り娘か何かかと考えていれば…案の定の高飛車な名乗り。
ひとまず上げっぱなしの両手を下ろして「…ふむ、なるほど」と声を洩らせば。
「御初に御目にかかります、アシュリー嬢。
私はコウゲツ…東の果ての地にては紅の月と書きまする」
名乗りつつ、道化師のような些か大仰な仕草で腰から頭を下げて礼をすれば…彼女に歩み寄りつつに。
「見回りお疲れ様~!
私は普段は冒険者しててね、たまに治癒術師もしてるんだ!
…宜しく、ね?」
キリッと胸を張るレディに笑顔で近付けば正面で立ち止まり、片手を差し出して握手を求めてみる。
■アシュリー > 思いの外礼儀正しい仕草にきょと、と目を丸くする。
コウゲツと名乗る彼女が、こちらを貴族として認識してその様に扱ってくれることを理解して、にっこりと笑んで
「ふふん、宜しくしてあげますわ。
冒険者ということはこういったところの案内もお手の物、なのでしょう?
わたくし、護衛"が"はぐれてしまって困っていましたの。でもそれ以上にこの先が気になりますわ!」
優雅に握手に応じて、好奇心を隠すこと無く彼女がやってきた奥を覗き込む。
空き地はさておき、平民地区。
護るべき民草がどんな暮らしをしているのかは気になるところだし、
やっぱりそれを見に行くのは家のものが居ない今が好機だろう。
そして、一人で心細かったところに話の通じそうな冒険者。
「ね、紅月。わたくしを平民の住処に案内してくださらない?
それともやっぱり、家の者が言うように平民地区は恐ろしいところですの?」
もし怖くないならちょっと行ってみたいですわ! と初対面の相手にワガママを。
■紅月 > 話の通じそうな冒険者こと、紅娘はすぐ察した…"あっ、こりゃあ邪魔な付人を撒いてきたな?"と。
思わず苦笑しつつ「そりゃあ災難だったねぇ…」なんて相槌をうち。
「ん? この先…?」
彼女が覗き込むのにつられるように、後ろを振り返る。
成程、脱走した貴族のする事といえばやはり"お忍び探検"…であればこの先、平民地区に興味を持つのも道理である。
「うん、いいよ~…って。
恐ろしいところ?
…恐ろしい、かぁ……まぁ、ゴロツキ紛いの冒険者も居たりするしなぁ」
貴族の基準や箱入り具合を知らぬ故、どこまでを"恐ろしい"に含めているかはわからないが…とりあえず、誰かが護衛を勤めればいいだけの話で。
己の予定と言えばどうせ空き地こと絶景ポイントでゴロゴロするだけ。
…好奇心に勝てない気持ちもよくよくわかる。
「ま、今日は紅がいるから大丈夫大丈夫。
…けど、やっぱり護衛は連れておいた方が安心かもよ?
アシュリーみたいな可愛い子、すーぐナンパされちゃうんだから」
にこっと笑って「行こ!」と声をかける。
しかし歩きながら忠告はしておこう…"ナンパ"と随分ソフトに例えたが、そういった事が起こるからと。
誰にでも初めてはあるわけで…まぁ、次から少しでも注意してくれれば御の字だ。
そのまま暫し歩けば芝生の小さな空き地、そこからは富裕地区の一部と平民地区や貧民地区が一望できる…秋風の吹き抜けるちょっとした高台で。
そこから更に坂を下って裏道を抜ければ平民地区につくだろう。
■アシュリー > 「だって、家のものはすぐアレも駄目これも駄目って。
わたくし、いつも護衛の後ろでニコニコついて回るばっかり。これじゃあまるでばかみたいですもの」
道を歩こうとすれば大通りだけを歩かされ、
買い物をしようとすれば店に入る前に護衛が欲しいものを買ってきてしまう。
少しでも周りを見て回ろうとすれば目隠しをされ、窮屈この上ありませんわと愚痴愚痴文句を零す。
そうも抑圧されては、一人でうろついてみたくなるものでしょう?
なんて同意を求めたりして。
「なん、ぱ。えーと、船が座礁するアレですの?
わたくしの容姿がそれはもう整っているのは公然の事実ですけれど、流石に船を沈めるほど魔性ではなくってよ?」
ぷぅ、とむくれっ面でズレにずれた回答を返しながら、初めて赴く平民地区に胸を踊らせて後についていく。
途中、高台で初めて見る王都の、下々の民草が暮らす町並みを見てほぅ、と嘆息して。
「まぁ……あれが全て人の住処なのでしょう? 随分小さい小屋みたいな建物もありますけれど。
あれに民が暮らしていますのね……」
魔の類や帝国の脅威から、わたくしたち貴き血の貴族があの民を守ってあげなければなりませんわね、と
決意を新たに、紅月を追い越して坂道をトットッと無警戒かつリズミカルに駆け下りていく。
そんで盛大に躓いてすっ転んだ。ずべゃーって。
■紅月 > 「…あー、わかるわぁ。
いくら親の愛っつったって、ねぇ…そりゃあ逃げたくもなるよなぁ」
ついつい、深々と頷き同意してしまう。
どうにも彼女と昔々の自分自身が重なって見えては、本来諫めるべき事であっても否定する気が起きず。
けれども相手がナンパすら知らない箱入り具合だとわかれば、頭を抱えたくなった。
顔も知らぬどこぞの御父君に、ちょっぴり文句を言ってやりたい…知識は自衛に繋がるんだから取り上げちゃダメだと。
「チガウ、難破ちゃう…」
と些か遠い目になりながら彼女に向けて呟いた声は、彼女の感嘆と秋風に掻き消された。
「…ん、そうだよ。
お家にお店、教会に時計塔、広場に屋台にギルド…小さい小屋?
あぁ、あの辺りは貧しい人が暮らしてる辺りだから…凄く危ない場所だと思っといた方がいいね」
眼前に広がる景色を地図がわりに、これから覗き見る世界を説明する。
…あえて歓楽街や娼館を省いたのは、彼女の家庭の教育方針を鑑みた結果である。
たまたま現場で見付けちゃったら教えよう、くらいのつもりで。
さて、万が一娼婦やらとバッタリ鉢合わせたらどうしようかと…一瞬気が逸れたその瞬間。
小気味良い足音に続いて、盛大な…おぉう、なんと豪快な転びっぷりか。
今日び見ない程の見事さに呆気にとられる事、一拍…あわてて側に駆け寄って。
「…っだ、っ大丈夫!?」
とりあえず、彼女が嫌がらなければ軽く砂埃を叩いて落としつつ…怪我がないか様子を見ようか。
■アシュリー > 「う、うぐぅ。だ、だいじょうぶですわ……」
ぱんぱんと白い服に付いた砂埃をはたき落として貰いながらフラフラと立ち上がる。
どうにか運良く怪我はないが、泣きそうな顔をして。
誰ですの、こんなところに段差作ったの! と坂道に恨みがましい視線を向ける。
「ま、まあいいですわ。坂道が多少でっぱっているくらい。許しますわよ、もうっ。
あら、貧しい人が……いずれあそこもわたくしたち貴族が赴いて、貧しさを救ってあげないと」
貧民地区の恐ろしさも知らず、脳天気にそんなことを宣う。
あらゆる「良くない知識」から切り離されていた箱入り令嬢は、
今どきありえないくらいぽやぽやと王都の治安を舐め腐っていた。
■紅月 > 恐らく使用人や業者の類いが使う、そこまで綺麗に舗装されてる訳でもない斜面…貧民街に比べれば遥かに良好な道ではあれど、令嬢には歩きにくい、の、かもしれない?
「…うんうん、アシュリー偉い」
褒めて伸ばす派の紅月は、とりあえず頑張って痛いのを我慢しただろう彼女に笑顔を向ける。
しかし、貧民街に対しての彼女の言葉には僅かに表情を曇らせて…少し悩みつつに。
「…うーん、否でも、子供じゃないしなぁ。
アシュリーは、この国をどう思う?
どんな風だって、教えられてる?」
そう、先ずはそこから。
彼女自身が持つ認識そのものを知る事から。
あんまりにも"アレ"であるなら、やんわりと訂正なり補足なりしてやる必要も出てくるだろう。
何せ、あの辺りには奴隷や…貴族に利用され追い落とされた者なんかも居る訳で。
けれどこのホワワンとした感じは、きっと"そういった事"も何も知らない。
放っておいたら火傷じゃ済まない大惨事になりそうだ…なんて、ちょっとした老婆心。
■アシュリー > 「ふふん、わたくしが偉いのは当然ですっ」
笑顔で褒められれば、小さな子どものように扱われていることなどお構いなしにふんすと胸を張る。
頑張りを見てもらえて、褒めてもらえる。しかもそれが世辞ではないのであれば、嬉しさもひとしお。
紅月への好意や信頼感をぐっと高めつつ、得意げに笑顔を返す。
「……この国をどう思うか、ですの?
そうですわね……えっと、今はとってもよろしくないですわ。
北から攻めてくる帝国や魔が、なんだか悪いことをしているせいで民も荒んでいるとか。
でも、きっと新しい陛下が即位されて、その下にわたくしたち貴族が団結すれば些細な問題ですわよ」
つらつらと語る認識は、要約すれば「外敵がだいたい全部悪い」とか
「でも貴族が纏まればすぐ解決できるからわたくしも頑張らなきゃ」とか
「荒んでいる民もちゃんとお話して、場合によっては罪を償えばきっとだいじょうぶ」とか
ふんわりと、理想主義的で現実の汚いところを直視するだけの情報を持たない視点からのもの。
「貧民だって、貧しくて飢えるからわるいことでお腹を満たそうとするのでしょう?
わたくしたちが施しを与えてあげれば、悪いことをする理由だって無くなるはずですわ」
さもそれが素晴らしいことのように、貴族的な傲慢さで一度二度の施しを与えれば現状が改善するはずとまで言う。
■紅月 > "キラキラしていらっしゃる…"
それが、目の前の貴族令嬢の意見への感想である。
ここまで徹底的に汚いモノから遠ざけるのも大変だったろうに、と、変に感心してしまう程には…彼女は純白だった。
「うんと、ね? アシュリー…
実はね…悪いヤツが居るのは外だけじゃないの。
真に心から貴き方々からは見えない所でね、どうしようもなく性格の悪い奴らとかが隠れてコソコソ悪さしてたりするの。
…仕方なく悪さをする人も勿論居るんだけどね?
悲しいけれど、それだけじゃあないのよ」
いっそショック療法でも試すべきかなどと一瞬脳裏を過る、が…さすがに白いキャンバスにいきなりインクをぶちまけるのもなぁ、と思いとどまり。
ぼかしにぼかして、柔らかに。
「貧しい人を助けるのもね…例えば一回金貨を渡したとして、もし、使いきるまでに上手く立ち直れなかったら?
そんな人が何十、何百…いっぱい居たら?」
彼女自身に考えてもらうように、あくまでヒントや例題を出すように。
「…だって、簡単に助けられるなら……きっともうとっくに、貧しい人なんて居なくなってるでしょう?」
困ったように、少し悲しげに話す。
■アシュリー > 「むむ……悪いことを好んでやる方が居たとしても、幼子の頃から悪逆を好んでいたなんてことは無いはずですわ。
ですから、きっと本当の本当の、心の奥底の根っこのところではきっとよい心も残っていると思いますの……」
確かにそういう人も、仕方なく悪いことをしているうちにそれが癖のようになってしまった人もいるのかも知れないけれど。
でも、それでも、人の性根はきっと善性なのだと信じて疑わない。
自分よりずっと世間を知っている紅月がそういうのだからそれは一つの事実として受け止めはするけれど、
きっと根気強く諭し導けばみんな外からの脅威に立ち向かうために悪を棄ててくれるはずですわ、と。
「使い切るまでに立ち直れなかったら、もう一度チャンスを与えてあげればいいのですわ。
金貨をもし、無駄遣いしてしまうのなら必要なものを現物で……
大勢居たって、財を蓄えた貴族だって大勢居ますもの…………だから、えっと」
拙い理屈で我を通そうとして、紅月の言葉と表情にはっと目を見開いて。
だってそんな。貴族は民を助け守り育むのが役目で、きっとみんなその役目に殉じていて。
ただ、ちょっと国王陛下の不在に付け込んだ外敵が居るせいで、うまくいかないのだと。
そう信じていましたのに、もしかしてそうではないのか、と。気づきたくない事実に手が届きかけてしまう。
「…………そんな、嘘ですわ。だって、それじゃああまりに哀れで……
だって、だって助けてあげればみんな幸せになれるはずでしょう……?」
愕然と、眼下の町並みを見下ろして呟く。
こんなに近くにあって、恐ろしいけれど愛すべき街と人々が、信じていた貴族の力でも救えない……?
■紅月 > 随分と大量のクッションを敷き詰めておいたつもり、ではあるが。
やはり常識が崩れる瞬間の衝撃というのは…どうにも、大きいようで。
…真っ直ぐと真剣に、彼女の目を見詰めながら口を開く。
「……、…アシュリーは、今、気が付けた…そうね?」
確認するような口調ではあれど、それは揺らぐ彼女の心を見透すように聞こえるかもしれない。
「貴族の中には、ずっとずっと"それ"に気が付かない人も居るんだ。
そういう人たちは、気付かないから助けない…もしかしたら、知ってて見ないフリしてる人もいるかもね?
他にも理由はたくさんあるけど…助けが間に合わない所にいる人もね、今はいっぱい居る。
そういうの…あんまりにも哀しいから、きっとアシュリーの家族は内緒にしてくれてたんだろうなぁ」
性善説を否定する気はない。
己とて、どちらかと言えばソチラであって欲しい派だ。
ただ、悪の定義とは、だとか…考え始めたら善悪で物を見なくなっただけであって。
…だからこその、困ったような、苦笑。
「…貴族"だけ"じゃあダメなんだ。
例えば騎士は人を怪我や犯罪から守って、国の汚れを取り締まる為に居る。
私みたいな冒険者は、騎士や兵士だけじゃ間に合わない人を助けたり…貴き方々の見えない所をお掃除する為に居る。
そして、国民は国に税をおさめて…貴き方々を絶えず支えながら、一所懸命に日々を生きてる。
…みーんなが、頑張らなきゃダメなのよ、本当は」
それは、きっと究極の理想論。
けれども彼女の想いに沿いながら諭そうと思えば、必要な言葉では在るだろう。
…そう願いつつ、街並みに目を向けて口を開く。
「……汚れを掃除する人が居るって事はね?
…ひっくり返せば、そこを"汚す人がいる"って事なんだよ」
■アシュリー > 眼と眼が合う。
とはいえ、あまりに大きすぎる事実を突きつけられてはじっと見詰め返すことはできなかった。
きょろきょろと彷徨う視線は、それを認めたくないがためか。
「…………そ、それは。気づいた、といえばそうなのかも、知れませんけれど
貴族が、騎士が、誇るべき王国の貴き血族が、現実から目を背けて封殺しているかも知れないなんて……
なんでですの。どうして、そういうふうになってしまいましたの?」
なぜ、どうして。貴族だって、貴族になれたということは貴い責務を果たすことが出来ると認められたからの筈なのに。
なんでそれを放棄しているのか。なぜ、民は外敵以外の理由で苦しんでいるのか。
よい事が為されず、わるい事が為され、それが現状として受け入れられているというのが理解に難い。
だってよい事は好ましいからよい事で、わるい事は嫌がられるからわるい事のはずなのに。
「……で、でしたらわたくしががんばりますわ。
貴族として、騎士として、なんだったら冒険者のお仕事だって。
だって、よき王国にお仕えするために、わたくしは……」
みんなが頑張らなきゃ駄目なら、自分がみんなの分まで。
理想が理想に過ぎないなら、少しでも理想に近いところを、少しでも実現に近いところから。
現実的でないのは承知の上。でも、諦めてそういうものだ、なんて言いたくはないから。
「………………あの、紅月、さま。
今日は、平民地区に行くのは、やっぱり辞めます。
ここで、此処から、近くて遠いあの街を見て。わたくしが少しでもあそこを良くできる騎士になれるように、ここで誓いを。
汚す人は、許しません。悪事を敢えて選ぶ人も。そういう人が居るなら、わたくしが排しますから……!」
意志の籠もった目で、今度こそ目を見詰め返す。
実力はきっと足りないし、将来においてもそれを為せる人間になれる可能性は乏しいだろう。
致命的なまでに性根が楽観的で、そして心が打たれ弱い。荒事も苦手と来た。
だから、幾度も心が折れ、へこたれて、立ち止まるだろうけれど。
この優しくも厳しい、初めて外で出会った人に教わった一本の芯として、そういう目標を持とうと決めた。
■紅月 > 「…なんで、何でだろうなぁ。
器があるから認められて、だからこそ其所に立ってる筈なのに。
私も、いまだによくわからないんだ」
外の世界を見てきた経験の差はあれど、思うことは同じ。
人間という種族の可能性を信じているからか。
はたまた、産まれた家が強者至上主義で上下がハッキリしており…"上が下を守る"というのが死を賭して徹底されていたからか。
…へにょりと情けない笑顔を向けて、ポリポリと軽く頬を掻く。
「……、…うん、そっか」
静かな声で言い、けれど彼女の誓いを見届けるようにゆっくり力強く頷いて。
「あぁでも…ひとりで頑張るのは、だぁめ。
目の前にこんなに人が居て、後ろにもいっぱい人が居るんだもの…皆で分担すりゃあいいのよ。
怠けるヤツが居るんなら、ケツぶっ叩いてやんなさいな!」
先程までの真面目な空気は何だったのか、ケラケラと笑って宣い。
かと思えば、スッと正面に片手を伸ば…したその肘から先がプッツリと消える。
消えている所を境に、まるで空間が歪んでいるような…見えている範囲の腕はゴソゴソと何かを探すようであるが。
…そして数拍の後、消えた腕が帰ってくれば。
「……そんでさ、私にもちょっとくらい手伝わせてよね?
今は治癒術師として客将してるからさ、此所で。
まぁ…冒険者と兼業してるから、フラフラしてる事の方が多いんだけど」
その手に握られ、騎士見習いに見せたのは…王国軍第六師団の、キマイラの紋章が刺繍された腕章。
いわゆるネタバラシというヤツである。
■アシュリー > 「皆で分担するためにも、まずわたくしが、ですわ。
貴族たるもの常に先頭たれ。えーと、ノブ……なんとかジュ! ですわよ!!
なのでわたくしはお尻を叩かれる側……駄目ですわよお尻は! 肩くらいにしてくださいませ!
……こほん。そうすれば、きっと貴い責務を果たして任じられた貴族のように、後に続く者が現れると信じますわ」
決心すれば少しは迷いも晴れて、無駄に自信を帯びた明るい声音が戻ってくる。
ケラケラ笑う紅月さまに釣られるように、くすっと笑みをこぼして視線を少し下に――
下げたら、腕が途中から無くなってた。断面が見えて血がビャーって感じではないのできっと千切れたとかそういうのでは無いのだろうけれど、
急にそういうの見るとビビる。本日二回目の腰抜かしである。すこんと後ろにひっくり返って、それ、それと腕を指さして口をぱくぱく。
「あ……腕大丈夫、ですの? 良かった……
客…………将? 将って将軍の将ですの? じぇねらる?」
その手の中の腕章は、正規軍の証。つまりは貴族として傲慢かつワガママ放題を言った相手が
――未来の上官(かもしれない)というわけで。
「ひゃぇぁわぇっ!? もも、申し訳ありませんでしたわ!? み、見習い風情の分際であのような振る舞い!
あ、く、靴! 靴とかお磨きしましょうか!? なんなら舐めますわ、何卒若輩の愚かな振る舞いをご容赦くださいませ!?」
自分でも何言ってるかわからないくらい動転して媚びる。さっきまでの真面目で、ちょっと凛々しい風の雰囲気はどこへやら。
格上にはどこまでも下手に出てしまうこの性根が治るまでは、目標達成は遠かろう――
■紅月 > 「ノブ…のぶれす、なんちゃらっていう?
『貴き者は其の義務を果たすべし』…だっけ?
うん!その意気や良しっ!!」
なにせ己は外つ国の出…翻訳魔法や噂好きの妖精たちのお陰でだいぶ慣れはしたが、いまだに横文字には弱い。
とりあえず脳内補完を呟きつつに、ひとり納得。
そして、すっ転がってるご令嬢に大してお構いせずにゴソゴソと亜空間の倉庫を探って。
「そうそう…えーっと、外部協力者?
軍にスカウトされて、国から依頼されて~…将軍と同じくらい頑張るヒト!」
当人自身がなんとも、非常に雑な認識の仕方であるが…一応は、正規軍の雇われ軍人である。たぶん。
「ぅおわっ!?
…ぶふっ、あっははは!
いやいや舐めんでいい!舐めんでいいから!!」
コロッと、あまりに素早い変わり身に大爆笑。
目尻にちょっぴり涙、腹を抱えてプルプルと若干震えながらに。
笑いの波が静まってくれば、未来の騎士の前にちょこんとしゃがみ込み。
「…っくふ、あーおっかし……っその代わり、私が客将ってのは内緒、ね?
べつに絶対じゃなく、出来る限りでいいんだけど…私、まだ御偉いさんになるつもりないからさ」
緩い調子でささやかなオネダリを。
まだまだ誰かの上司になんかなるつもりのない気紛れ娘は、悪戯っ子のように笑う。
別に、敬われなくていい…若い芽がすくすくと真っ直ぐに育ってくれさえすれば、それでいいのだ。
…今のところ、そういう意味では目の前の彼女なら大丈夫そうだと。
どこか安心したように、やっぱり楽しげに笑う。
■アシュリー > 「わざわざスカウトされるほどの人材……ひえぇ、わたくしそんな方になんて無礼を……
あわわ、あわわわわ…………」
どうしましょう、と口元に手を宛てて震え、恐れおののくと同時にその目に宿る憧れの光も強くなる。
が、やっぱり失礼な事をした申し訳無さで服が汚れるのも構わず這いつくばり
「ほ、本当に舐めなくていいんですの? か、肩とかお揉みしたほうがよろしくって??
ううー、あとでやっぱり詫びろって言われてもわたくし、知りませんわよ……?」
爆笑されながらいいと言われれば、上目遣いに見上げて。
そして身分を黙せと言われ、首が取れそうなくらいぶんぶんと頷く。
「か、かしこまりましたわ。……でもわたくし、いつか正規の騎士になりましたら……
紅月さまのような方の下に付きたいと思いましたの。この憧ればかりはお許しくださいませ」
じっと、自分よりずっと多くを知って、現実を分かっていながら同じ視点でものの見方を教えてくれた人に尊敬の眼差しを向ける。
いつの日か、自分が目標を成し遂げられる立派な騎士になったら、その時は紅月さまのおかげだと胸を張れるように。
願わくばこれからも、心が挫けそうなときに喝を入れてくださいますように、と。
世間知らずの見習い騎士は、強い畏敬の念を胸に先達を見上げる。
――と、富裕地区の方からお嬢様、お嬢様と知った声が聞こえる。
撒いた護衛の声だ。そろそろ戻らないと、お説教では済まないかも知れないし、彼らもちょっとただでは済まなくなるかも知れない。
「…………紅月さま、今日は本当にありがとうございました。初めて外の……王都の姿を知って、
でも紅月さまのおかげで見るべき目標を失わずに済んだのだと思いますわ。この御恩は、きっと忘れません」
ぺこり、と深く頭を下げて、もと来た道を駆け戻――ごしゃーんとさっき躓いた段差に今度は下から蹴躓いて吹っ飛んだ。
ぷるぷるしながら立ち上がり、ごまかすように振り向いてもう一度お辞儀。それから今度は歩いて慎重に戻ってゆく――
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からアシュリーさんが去りました。
■紅月 > 「も、もげる、首もげそうだから落ち着い…っふ」
危うく笑いがぶり返す所を、ギリギリで何とか持ちこたえて。
「……うん、私でよければ。
頑張って追い掛けておいで?」
上司になる気はない、気はないが…こんなに面白くて可愛い後輩に尊敬されて、嬉しくない筈もなく。
ふわり、と、穏やかな笑みを向ける。
…と、そこで。
何だか物凄く慌てた、というかもう切実に必死な声が聞こえてくる。
未来の騎士、もとい、お嬢様も気付いたらしい…ハッとした様子。
礼を述べて駆け戻…れなかったドジっ子騎士を見送りつつ、軽く手を振るも。
「……あらあら…大丈夫かしら。
ふふっ…今度はゆっくりお茶でもしましょうね?
…また、御忍びで」
何だか締まらない緩い空気がおかしくて、またクスクスと笑いつつに。
遠くなってゆく背に向かい…こっそりと、呟いた。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」から紅月さんが去りました。