2018/07/10 のログ
紅月/コウゲツ > ーーーかららん…

ドアベルが涼しげな音を鳴らす。
入店したのは、落ち着いた配色の店内に映えるベリーカラーの髪。

「やっほー姉ちゃん、注文してたカヌレとフィナンシェある?」

ドアベルが鳴り止むなり、開口一番。
軽く手を振りながら笑顔満開で店員に話し掛ける。
ここにはちょくちょく来るのか『紅ちゃんいらっしゃい、食べてく?』なんて軽く迎えられている。

「食べてく食べてく、今日も何かオススメを…?
あっ、やっぱりスコーンで!」

何となく店内を見回せば、先客の姿。
その手もとを見てすかさずオーダーを変える。
…他人の食べてる物が美味しそうに見える瞬間って、あるよね?ね!

アザリー > ドアベルが入室者を告げる音を奏でていた。
しかし先にスコーンを口にして―――思わず頬に手を当てるくらいに口に。舌に。何よりすぐ後に運ばれてきたローズヒップティーを口に含むと、調和が取れた様な甘味になる事に満面と言って良いほど幸せそうな笑みを浮かべていた。

「美味しいですね~~!お茶にも相性良いです~。」

ほぉぅ、という甘く、情熱が隠された様な吐息を一つ。
それから改めて新たな入店者――瞳は閉じられている筈なのに、正確にそちらのほうを向くように頭を少し脇に。
黒艶のある絹髪が流れると、其方に佇む人――ではなさそうだが、少なくとも敵意、害意は感じない相手に、ひらひらとした手を振ってこちらが空いてますよアピール。

店内はそこまで広い物ではないので、相席等も好き好きに取れるようになっている。
一人で食べるよりも美味しい物を食べる時は複数で食べるほうが良いのだ。

「あら~。お兄さん?かしら~?ここの常連さんなのかしら~」

開いた口からは間延びした声音。相手を歓迎するように此方に座りませんか~などという間の抜けた声が続いていた。

紅月/コウゲツ > 横から聞こえる幸せそうな声に、何だかこちらまでほっこりした気分になる。

ふと、振り返る濡れ羽の君。
目を閉じているように見えるが、どうも眼があっている気がしてならない…糸目、というヤツかしら?
女性とは対照的に目をぱちくりさせて、首を傾げる。

「わ、おじゃましまーす!
…ふふっ、仕事上がりによく来るんだ。
ここはシンプルなお菓子が美味しくてね~」

にこやかに歩み寄りつつヒョイッと近くの椅子をとり、女性と向かい合うように座る。

「……それにしても、よく私が『中間』だとわかったね?
もしかして、鑑定眼の魔法使いか何かなの?」

そう、今の私は女の形。
声も間違いなく女のもの。
…なのに『お兄さんか』と問うと言うことは、見破ってると宣言したようなもの。
目の前の未知への好奇心に、胸が高鳴る。

アザリー > 「こういう素朴で、でもしっかりとお菓子を食べている充足感~!甘さも控えめで主張しすぎず、ジャムもシャーベットも美味しいとか~~!どうしてこんな良いお店がこんな所に~?」

味わえば味わうほどに甘味の深さが判ってくる。
小麦は良い所だけを使っているわけではない、だから火の通し加減一つで香りの方が甘さを上回る箇所。
それとは正反対に、甘さの方が際立つ箇所というのが面白い。ジャムが甘さを強調しすぎていないのは、この甘さと香りの差を食べる人に理解して欲しいというような心遣いもあるのだろう。

本当に、何故このような良店が外れにあるのかがわからなかった。

「うふふ~。やっぱりこういう良いお店には常連さんもいるんですね~?じゃぁ~今日もお仕事あがりですか~?お疲れ様です~。
うふふ~。お姉さんは~色々な目と~色々と鼻が利くんですよ~。
ん~魔法使いさんじゃないですけど~、似た様な存在です~。貴方からは~とても柔らかくて、優しい……そうですね~例えるならお日様のような暖かい良い匂いがします~。」

女性の外見でも看破できる。
1視点ではなく複数視点と複数解析。それがバランスの乱れと僅かな違和感を感じ取らせたのが原因なのだが。
程なくして店員の女性がメニューを手に、おひやと常連の相手へのサービスなのだろう。一口サイズの冷えたプリンが添えられた小皿を持って来ていた。

紅月/コウゲツ > 「ああ、わかるわかる!
こういう満ち足りた感じ、堪らないよねぇ~!
隠れ家的っていうのかな、ついつい通っちゃって」

それこそ大通り沿いの一等地にあったって全然遜色のない味。
なのに隠れ家に甘んじているのはマッタリ経営したいからか、それともこの国の上の腐り具合による買収云々の話になるのか。
どちらにせよ『わかるヒトには分かる味』である。

「そうそう!
今日はねー、薬の材料になる薬草や木の実の採取と、ついでに山菜とって~…あっ、私冒険者してるんだー。
お、お日様…なんか凄い口説き文句もらっちゃった…」

自分が相手を褒めるのは好きだが、褒め『られる』側はどうにも慣れない…ぽっ、と頬を染めて斜め下な床の方をみつつ、頬を掻く。

すると偶然いいタイミングで店員さんが、メニューと…

「わぁっプリン!プリンだ!
ここのは卵が濃厚で美味しいんだよ~?」

先程までの恥じらいは何処へ行ったのか、女性に笑顔で勧めて。

「味見してみる?…あー、えっと。
私はコウゲツ…東の果ての地にては紅の月と書きまする。
お姉さんは?」

呼ぶに困って、とりあえず名乗ってみる。

アザリー > 「でも~隠れ家だからこそ~こうやってのんびりした心地良い時間を過せるんですけどね~。う~ん、なんでも良し悪しはあるものですね~。」

良い店を見つけられた事は一つの収穫。もう一つはこの国では珍しくも無い冒険者家業をしているという相手だが――少なくとも、殺伐とした気配や陰鬱な気配を感じさせない。
言葉の端々には活力と明るい気配が滲み、お店の人から好かれているのも遣り取りからは感じ取れる。
なんとなく、自然に手が伸びると、プリンを勧めて来る相手の頭を掌でゆっくりと撫でていた。掌から感じられる感触と、香りは確かに薬草や果実。木の実や山菜といった人にとっての薬となるものばかり。

凡その分類で言えば善良な相手である為、良い子はつい撫でたり、褒めたくなってしまうのだ。

「プリンですか~。良いですね~。日持ちはしなそうですけど~でも今食べる分ならよさそうかな~?お姉さん~私にも~プリンを一つ~。」

頭を使うのは糖分を使う事。甘い物は幾ら食べても別腹なのだ。
名乗りをされるとはた、と。
「アザリーと言います~。東国ですか~。数……年前に足を運んだ事がありますが~。あそこも良い土地でしたね~。……冒険者さんだと~最近は中々安全の確保が難しかったりしますか~?昨今、大分慌しいようですし~。」

紅月/コウゲツ > 「そうなんだよねぇー…人気になって欲しいような、このままほのぼのしてて欲しいような」

悩むわぁ…なんて溜め息をつく紅髪。
荒事家業のわりには、それこそ植物やお日様のかほりを纏いつつに…害意どころか毒気も警戒心も足りていない、ぽやんとした空気を漂わせている。

「…ふぉ?
えへへ~なぁに?どうかしたー?」

ぽふっ、と。
初対面の相手に何故か頭を撫でられる謎な状況にも何のその…一瞬きょとんとするものの、すぐ花でも舞い飛びそうな笑顔を女性に向けて。

「ふむ、あざりぃ…アザリーか。
リーさん、リーちゃん…リー姉、とか?」

もしまだ撫でられていれば、避ける事もせずそのままに。
んむむ、と何やら悩んで幾つか呼び方候補を呟く。
途中パクッとプリンを頬張り、ぱぁああっ!と笑顔を咲かせつつに。

「そだよ~、まぁ、私の知ってる東国とは少し違っちゃってるかもだけど。
…ん、そうねぇ?
危なそうなのは冒険者よりも傭兵さん達の方かなぁ…砦がちょっとねー、騒がしいから。
戦争なんかしてもイイコトないのにねぇ…戦争屋以外には。
魔族にだって、上に巻き込まれるだけの一般市民だっているだろうに」

…今、間が無かったか。
いやいや、こういうのはたぶんツッコんだら負けだ…私も例えば年齢訊かれたら正確な歳覚えてないし、マレビトだから東国のアレコレ訊かれても応える自信がない。

とりあえず、物騒さに関してはふんわりと答えておく。
言外に、魔族を敵視していないぞ、と匂わせつつ。

アザリー > 「……うふふ~。良い子が多くて~お姉さんは幸せ者です~。」

魔族への偏見がない。相手自身が例え純粋な人間ではなかろうとも、その考え方が出来る冒険者というのは――純粋な意味こそ違えど、マレビトとも言えるだろう。
種族の壁に悩まず、壁自体が無いと信じているような未来への芽。
そのひとつがこんな身近に、しかも暖かな気配と共に在る事実に。相手と同じ様に綻んだ花の様な笑顔と、口元を緩ませ――掌は優しく頭を撫で続けていた。

「そうですね~好きな呼び方で大丈夫ですよ~。呼び捨てでもお姉さんは嬉しいですし~。コ~ちゃんも~戦争はやっぱり嫌いですか~?」

戦争は本来忌避すべきこと。
……但し、だ。その戦争で救われる魂が一つある可能性がある。
『彼』の行動と、第三者視点評価。死後の言動と行動の齟齬。
ロマンチストな思考のひとつがその可能性を主張している以上、もう1戦は王国にとっても避けられない情勢だろうか?

「あらあら~。お姉さんみたいなひ弱な一般人は砦には近寄らないほうが良さそうですね~。コ~ちゃんも~危ない所には近付かない方が~。
コ~ちゃんみたいな優しくて~いい子は~。戦争や~諍いがなくなった時こそ~必要な人だと思いますよ~。」

一瞬、数百年前と言い掛けたのは危なかった。
名前を聞かれた時も王国軍にいた時の偽名を口に出しそうになっていたりと、矢張り思考の大半が封印されると警戒心も薄れる。
あぁ、この子は―――人の未来を照らす事が出来る良い笑顔と。
良い思考と。何よりも種族問わず心を癒す事の出来る優しい子だ。こういう子を戦の場に出すのは――もったいない。やんわり、戦場からは遠ざかるようにお願いを。

そして届いたプリンをお互いにつつきあいながらお茶会は続くのだろう。
閉店間際、困った様にお店のお姉さんが切り出してくるまで――。

ご案内:「王都マグメール お菓子通り」からアザリーさんが去りました。
紅月/コウゲツ > 「……、…???」

偏見という観点で言うならば、この紅髪には全くと言って良い程に。
何せ、この紅髪が元々産まれた場所では人も、亜人を含めた魔の者も、普通にそれなりの距離を持ちつつそれぞれ楽しく暮らしていたのだ。
自身も魔と精霊の合の子、伴侶は人間、娘はハーフミレーと…真実、壁がない。
もしも必要な場面が来れば、なんの疑問も持たずに両者の和平を唱えるだろう。

…だって。
こうやってのんびりと、誰かの掌の温かさを感じられる時間が争いで失われるのは勿体ない…金銭やらプライドやらの損失なんかより、よほど大きな損失だと私は思う。

「んふふ、じゃあ今日はリーちゃんの気分~!
…ん?ん~?
……喧嘩は、個人的に、サシでスッキリするまでヤり合う派だからなぁ。
巻き込んじゃダメよね、巻き込んじゃ」

この戦争の子細を知らない紅月としては、そんな認識。
つまり、海辺でサシで殴り合って漢の友情でも何でも勝手にやってろと。
…とにかく、穏やかに暮らしてる人々を深々と傷付け脅かすような事が、この紅髪は嫌いなのだ。

「うーん、実は紅ちゃんは~、まさに砦で重傷者の看病してたり~。
…私もさ、この終わる気配のない抗争が本当に終わるなら手をださないんだけどね。
誰かが、ただただ死に逝く姿を見過ごすのは…性に合わなくてね」

悲しむでもなく怒るでもなく、伏し目がちに静かに語る。
そうして語り終えれば、困ったように笑うのだ。
早く、本当の意味で平和になればいいのに…そしたら私は角を隠す必要も無くなるし、娘は安全に人の町で遊べる。
魔族の飲み友も天使の冒険仲間も、種族ごちゃ混ぜてのんびり宴ができる。
…いやさ、私は甘味の会でも一向に構わんのだが。

プリンも紅茶もスコーンも、甘くて渋くてホロホロで…それぞれ個性があり互いを引き立たせ、実に美味しかった。
またお茶しようね~なんて、次の誘いをしつつに…誰かと共に穏やかな時間を過ごす事は、争う事よりずっと大事だと心底思うのだった。

ご案内:「王都マグメール お菓子通り」から紅月/コウゲツさんが去りました。