2018/07/09 のログ
ご案内:「王都マグメール お菓子通り」にアザリーさんが現れました。
アザリー > 「も~~~~あの子ったら~~~~」

人に逢いに行ったが肩透かしを受けた。事前に察知したのか城を抜け出しているらしい。城に入り込み、面会の手続きを取ろうとしたが、衛兵は申し訳無さそうにそう答えるのみだったのだ。
居留守を使ったか逃げたか。――どちらかと言えば後者だろう。
そんなわけで酒場でも探そうと思ったのだが、香りの良さに誘われたように足を踏み入れたのはお菓子通りと呼ばれる、有名な菓子や甘味。贅を尽くしたものから質素な味わいを控えめに主張してくる素朴さをウリとした地方名産のお菓子。
これらが立ち並ぶ通りだった。

こういう店の特徴として、まず客引きなんて無駄な事はしない。
客は自分の店のお菓子を選ぶと言う自信と他に負けていないという自負を持つからだ。
客引きを出すようでは1.5流。店頭に無造作に置かれている試食ケースがあれば1流という謎理論と謎結論でふらふら。

あの吸血姫へのお土産を選ぶのも悪くないだろう。
妹に会いにいくときの手土産を選ぶのも悪くないだろう。
だからそっと白磁の指先にて、小麦を丁寧に引いた粉と荒く挽いた食感を重ねるマカロンやクッキーを楽しむのは、自分の為だけではないのである。
多分。きっと。

アザリー > 「んー、チョコレートを溶かし込んでいるのは~それはそれで美味しいのですが~。薫り高いお茶とはちょっと噛みあいませんね~自己主張が強すぎます~。」

チョコレートはとても甘い。そして口の中に、舌先に支配的な甘さとその香りを残しすぎてしまう。
繊細な香りを楽しむ紅茶や香茶を嗜むあの吸血姫には、少し甘さが過ぎるのかもしれない。
味は物凄く良い。彼、若いパティシェの名誉を損なわない為にもこれは主張できる。
もしコーヒーやお酒を飲む際に甘い物をアテにするような人種であれば。この店のチョコレートガナッシュやショコラといったものは強く強く推奨できるだろう。

たまたま、欲しかった味のお土産とこの店のウリが会わなかっただけのことなのだ。
クッキーのさくさくとした食感と口当たりは良い。しかしやはりというかチョコレートを専門にしているのか、必ずどこを食べても濃厚な甘味が香気が口の中を満たしてしまうのが難点だった。

「ん~~お兄さん、チョコレート使ってないような物はないかしら~?」

アザリー > 考えてみればそうか。ここだけではない。大抵の店舗は
『自分の作り上げた菓子こそが主役』
これを求め追求している。吸血姫の領民達が大切に育て、少女の為に収穫の時期までじっくりと見定めたそのお茶を引き立てるような脇役に甘んじるお菓子と言うのはこの通りでは数が少ないのかもしれない。

幾つかのお店を回っても同じだった。
自己主張が強い。食べる時の飲み物はこれがお勧めですよ―――
こういった話しか聞けないのだ。飲み物に合わせた菓子ではなく、菓子に合わせた飲み物が必要になってしまう。
これでは必要としている物の目的が逆転してしまう。
甘い物は幾ら食べても飽きないが、すっかり試食ばかりしては申し訳ないので小さな小さなお土産をその都度購入しているのだが。
大分小さい袋が増えすぎた。いまや両手で抱えるようにして自分の体の前に、大きな一つの袋にまとめて持っているような状況だ。

……少しばかり豊か過ぎる胸元が窮屈だが、試食だけで済ませては何か申し訳ないと思う精神が悪いといえば悪い。
ピンヒールの足元は少しおぼつかない物の、それでも人と衝突するような事態にはならずさらに店の数々に足を運んでしまう。
香りに弱いのだ、己は。

「お兄さん…じゃないんですね~お姉さん~このお店のウリはなんですか~?」

間延びした声で問い掛ける。
お菓子通りでも外れの方に近いお店だ。売り上げが上がるのは中心地に近い一等区画。そこから遠ざかるほどに売り上げが下がる事を示す。
少し落ち着いた店内は、胡桃やナッツ。それらをキャラメリゼさせた後で細かく砕き、地方特産の素朴な小麦の味わいを損なわないようにしたというスコーンに振り掛けた物を販売している。

おや、と目…は伏せられているが、鼻が引き寄せられるのは。
それ以外にも香りの良いものが幾つか店に、しかも奥まった場所にあったからかもしれない。

「ほほ~~スコーンですか~。あ、丁度良いサイズですね~。子供さんでも、食べやすそう~?」

アザリー > あまりに大きなスコーンではポロポロこぼれて食べにくいのもあるが、なんというか、吸血姫の愛らしさが爆発してしまいそうな光景が目に浮かぶ。
その点、この店のスコーンは食べる人の事を考えているのかやや小ぶりだ。残念ながら試食は置いてなかったので、お財布から幾許かのゴルドを支払い、店内で食べてみる事に。

椅子に座り、テーブルの上に程なく並べられたのは2種類のスコーン。
1つはプレーンスコーン。砂糖ではなく、どうやらここではないどこかの土地で取れる甘さと香りは控えめながら滋味に溢れた糖蜜を使っているらしい。
何分甘さが控えめなので、一緒に出されてくるのは甘さを補填するクリームか、と思えば寧ろさっぱりとしたレモンとオレンジの中間くらいの酸味と甘さをもつ柑橘を使ったというジャム。
それと、暑い気温の時には最適なのか。
リンゴを摩り下ろし、少しだけ蜜を混ぜたフローズンシャーベットがついてくる。

『どうぞ、どちらもスコーンやお茶請けには向くかと思いますよ』
『お飲み物は何かご入用ですか?』

ご案内:「王都マグメール お菓子通り」に紅月/コウゲツさんが現れました。
アザリー > 「では~ローズヒップティーを~。」

飲み物のメニューから選んだのは特有の酸味、香り、甘味を有する物だ。口にした時の好みは分かれやすい物だが、逆に言えば癖のある分だけお茶請けとの相性は良いともいえる。
自己主張が強すぎないこのスコーンや、フローズンシャーベット。ジャムをつけたとしても相性は崩れないだろう。
なんとなく、胸が高鳴るのは何時以来か。
気に入らなかった魔王をなんとなく包丁で貫いた時以来かもしれない。

「そろり~そろり~」

ジャムを一掬い。スコーンをナイフで少し小さく割るように切り、そこにジャムを塗りつけていく。
小麦の香りもさる事ながら、使われている糖蜜の甘い香りが鼻腔を擽ってくる。フォークで小さくしたスコーンを浅く刺し――
ぱくり、と。茶が届く前なのに口にしてしまった。それくらい甘い香りが強いのだから仕方無い。子供の目の前にチョコをおいていたらなくなる理論、アレである。