2017/10/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にヴェオフラムさんが現れました。
ヴェオフラム > 普段ならばアホの子丸出しでぽかーんと口を開け、高くそびえる堅牢な建物の数々を見上げながらのんびりと街歩きをする獣娘。
しかしその日は焦燥も露わに視線を巡らせ小走りに、時には四足で駆けて人波を縫っていた。

分厚く天を覆う灰色雲と湿った風の流れが、数日の間雨が続くと獣娘に伝えていた。
しばしの間、少なくとも一巡り程は落ち着ける寝床を探す必要があった。
少女の華奢な背を覆う魔獣の毛皮は真冬の野外であろうと凍死せぬ程度の暖を与えてくれる。
多少の水気もへっちゃらで弾いてくれるけれど、降り続く雨を完全に防いではくれないのだ。

お腹もすいているけれど、早く寝床を探さねばならない。
いつしか獣少女は富裕地区へと迷い込み、道行く貴婦人とすれ違っては悲鳴を上げさせ、厳しい鎧姿の門衛に睨みつけられては逃げ回り、更に奥へと入り込んでいた。

ヴェオフラム > 装飾も立派な鉄柵から覗く大邸宅の広い庭園。
人の手によって美しく整えられた木々の群れ。
あそこなら獣少女の小さな身体を雨から守る、素朴な木陰もすぐに見つかるだろう。
もしかしたらネズミやリス、小鳥といった美味しいごはんも捕れるかも知れない。

しかし、鉄柵をよじ登るところを見られれば鎧兵士が怒声を上げて追いかけてくるし、うまく中に入れても己よりも大きな猟犬達が寄って来て、猛り狂って吠え立ててくる事も経験済だ。

本気を出せば、あんな犬など造作もなく叩き伏せ、群れのボスに収まる事も出来るだろうが、彼らとてフラムに対する敵意があってそうしているのではないのだ。
彼らの吠え声からは、主に対する忠誠の色が感じ取れるのだから。
そんな相手を叩きのめして居場所を奪うというのは、獣娘の本意ではない。

「――――きゅぅぅん……。」

鉄柵を掴み、名残惜しそうに庭園を見つめるちっぽけな少女の口から、しょげかえる仔犬の如き声音が漏れた。
いつもはぴんと立った獣耳もへたりこみ、元気に振りたくられる獣尻尾も今はしょんぼりと垂れている。

ヴェオフラム > こうして眺めていても仕方がない。
雨の気配は刻一刻と強まって来ているのだ。
垂れていた眉尻を持ち上げ、犬耳も雄々しく立ち上がらせ、獣少女は再び街路を駆け始める。

細い四足がしなやかに石畳を蹴る。
魔獣の毛皮が風を孕んで靡く。
その様は、人の領域に迷い込んだ仔狼ががむしゃらに駆けるのにも似て映ろう。

小さくなっていく獣の姿が、曲がり角に消えた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からヴェオフラムさんが去りました。