2017/06/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/貴族の屋敷」にピアさんが現れました。
ピア > とある貴族様が歌手を集めて宴を催されるから。報酬も弾むから。
という甘い誘惑に乗ってしまったのがいけなかった。
否、もしかしたら自分以外の歌い手はこうなることをきちんと理解しており、了承していたのかもしれない。
だから少女以外は慌てるそぶりもなく狂宴に身を投じていたのだ。

主催者である貴族と、招待客が当然のように歌う女たちを抱き寄せ、ドレスの隙間に手を差し込んでいた。
中には男4、5人で1人の女を使っている場面もあり、皆一様に異常な熱を発していた。
彼らの手をすり抜けて、お手洗いに、と見張りに断り、人のいない部屋に逃げ込んで、現在。

(2階か…降りられないことはないかな…。でも怖い…。
 怪我したら修復されるまで休む場所が必要だし…。)

窓を開けてみて、高さに腰が引ける。
きっと手練れでなくともある程度訓練を受けた者なら簡単に降り立てる高さなのだが、
少女は歌い、人形師と愛し合うためだけに造られたので戦闘能力ゼロ。
時折風が靡くくらい強く吹く風が恐怖感を煽る。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区/貴族の屋敷」にヴィクトールさんが現れました。
ヴィクトール > (ぁー、またこのパターンか)

兄がどんどん国の奥へと食い込むほどに、その実弟たる自分にも貴族達の根回しがやってくる。
とはいえ、自分に何をしたからと言って兄の考えも変わるわけでもなく、どちらかと言えば組合のための愛想笑いに行くだけだ。
脳筋の自分が外交とは笑える冗談だと思いつつ、今日は酒池肉林といった宴に引っ張り込まれる。
美しい歌姫達を集め、各々好き好きに手を伸ばし、女を貪る。
嫌いではないし、好きな方だが同じもてなしが多いと少々食傷気味だ。
酔いを覚ましてくると、貴族に告げて庭へと出れば、ぐっと背伸びをし、固まった首を左右に曲げて小気味いい音を響かせる。

「……ん?」

気配、それに気づくとそろりとその方角を見やる。
真正面に人影があるわけはなく、訝しむように空を見上げれば、窓際にいる彼女を視野に収めた。

「よぉ、そっちも涼んでんのか?」

にかっと分かりやすい笑みを浮かべながら声をかければ、もう少し見やすい位置へと数歩前へ。
明るい赤系の髪に可愛らしい顔立ちと、ドレスより華やかなそれをまじまじと眺めれば、そういえば怯えた感じの娘にこんなのが居たようなと、朧気な記憶を辿る。

ピア > 真下よりやや向こう側にある茂みに上手く落ちられるものか、などと
無謀な算段をしていた少女は男の影に気づかなかったようで、
声をかけられて初めてビクッと反応し、男の貌を見ようとするように身を乗り出した。
いかにも好きものといった身なりだけは豪勢な貴族ばかりを
記憶していたので、庭の男はそれに比べて印象が違う。
だからか、緊張しがちだった表情が一瞬泣きそうに緩んで、そして真顔に変わり首を横に振った。

「いいえ。わたし………ここから出たいんです。
 階段の所には人がいて、降りられません。」

中から出られないのなら外から、と。
今にも上から降ってきそうに身を乗り出したまま、声を夜空に響かせる。
人知れず去りたいわりには無防備な声の張りようだった。

ヴィクトール > こちらの声に何処か怯えるように体をはねらせる少女。
そして、視線が重なると一瞬だけ見えた本音のような表情に変わらぬ笑みを浮かべた。

「はっはぁ、そら逃げたくも……って、そんないい声で叫んだら聞こえちまうだろっ!?」

声も澄んだ綺麗な響きで、正に歌姫と言うにふさわしいもの。
それ故に、伝えたいであろう自分以外にもその声が届いていく。
やばいと呟きながら一度周りを見渡すと、下がれというように掌を振りつつ、自身もステップを踏むように後ろへと下がる。

「窓から離れてろよ?」

そしてすぐに地面を掛けていき、ダンッ!と強く地面を打ち付けるようにして跳ね上がる。
結構な背のある巨躯が簡単に宙に舞うと、そのまま窓から転がり込むように部屋に入ってしまう。
床を一回転するだけで勢いを殺し、すぐに窓を締めてカーテンを引いた。

「他の野郎が来ちまうだろ、いい声が仇になったな?」

カラカラと楽しげに笑いつつ告げれば、軽く辺りの気配を探り、部屋を見渡す。
すぐに邪魔者も来ないだろうと思えば、壁によりかかりつつ彼女を金色の瞳が見つめた。

「でもよ、黙って出ていったらアイツらに目ぇ付けられて面倒だぜ? 似たような仕事してりゃ、ちょっかい出してきそうだし」

金も権力もある相手だ、路上で歌ってようが酒場で歌ってようが、難癖つけて潰すこともあり得るだろう。
それが宴の餌が逃げたとなれば尚の事。
ウブそうに見える少女の姿を上から下へなぞるように確かめつつ、苦笑いを浮かべる。
外では男たちの声と足音がいくつか重なり、カンテラの明かりがカーテン越しに薄っすらと見えるかもしれない。
それはまるで、逃げ出そうとした彼女を探し求めるかのように。

ピア > そんなに声を張ったつもりがなかっただけに、指摘されて慌てて唇を両手で覆った。
けれど本当に誰かが聞いていたら手遅れだったと思う。
庭だけじゃなく、扉のある背後も気にしなくてはいけないので注意を四方八方に
向けていたものだから、男が見た目では想像出来ないくらい軽い挙動で
2階であるこちらへと跳ね上がったことに一瞬夢でも見るかのような、
ただ驚きだけを表しつつも少し間抜けな、ぽけーっとした顔が相手を見ることになった。

目を点にしたまま窓から引いて、カーテンが閉められたことで少女の視界はかなり限られる。
感心するやら、驚きでまだ胸がドキドキするやらで口が縺れ。

「あっ…あっ…………ごっ…ごめんなさい。
 でもびっくりしました。一瞬ふわって…体が…まるで飛んだみたいに。」

身振り手振りに今の出来事を興奮気味に訴えようとするが、言われて初めて気づいた。
今夜ここでこっそり抜け出して終わり、とはいかない世界もあるのだと。
男たちの声が、足音が、明かりが、一直線に自分の元に近づいてくる錯覚さえ覚える。
不安げにゆっくりと男に歩み寄りながら、先程とは打って変わった囁き声で。

「…どうしよう。今から戻った方が良いですか?
 で、でもわたし、あんなこと出来ません。」

彼らの宴は本当に悪趣味だった。
体を蹂躙されるにしても程度があり、受け入れ難い場面を見てきたばかりだ。

ヴィクトール > 戦う仕事柄というのもあるが、人間を半分辞めてしまったことで、常人離れした身体能力を発揮できる。
こんな時こそは、素早く動ける自分を便利に思うも、闇に潜む強い欲望に身を焦がされる時は、それを呪う時もあった。
ともあれ、無事に二階へと転がり込むと、此方を見やる少女は何処か興奮気味で、はてと思いながら、疑問符が浮かび上がりそうな顔で彼女を見つめる。

「……ぁー、そら半分人間やめてるからよ。これぐらい朝飯前ってな? まぁ、間に合ってよかったぜ、案の定探りに来てら」

得意げに語るものの、気取ることもなく、特技を褒められた子供のように明朗な笑う。
カーテンの隙間からもカンテラの仄かな明かりが見える。
気のせいか、そんなことを言いながら立ち去る男達だが、それは少女が逃げることを良しとしてない証拠でもある。
歩み寄る少女を見下ろしつつ、縋るようにも見える瞳に思案顔で自身の顎を指で触りつつ、思考を巡らせた。

「……まぁ、アンタがお気に召せばだけどよ? こう見えても、俺の兄貴……腹違いだけどな、それが王族の養子にされてよ。兄貴目当てでここに呼ばれたんだわ」

前置きを一つした後、ここに居た理由を語っていく
王族の養子の義弟、その事実に そう見えないだろ? 自嘲するように呟く。
だが、似合わぬ兄を持ったことを楽しげに笑ってだ。
そこらの貴族達と違い、明らかに戦う為の身軽な格好に、背中には細身ながら彼の身長に近いほどのクレイモアと、腰には剣が一振り。
風来坊の剣士と言った風貌の彼がここにいる理由を告げれば、眉をひそめながら言葉を続ける。

「でだ、戻るにゃ戻るが、俺だけがアンタを可愛がって、アンタは乱暴なしに出られる。ってのが一番無難だろうなとな」

彼女が彼をもてなしたとなれば、貴族も満足だろうし、彼女のお咎めなどあるはずがない。
問題は、今しがた出会ったばかりの男に体を許せるかだろう。
顔つきは悪いし、口も悪い。
挙句に黒尽くめで、仕事先で稀に悪党と思われることもあり、見た目でどうこうというのには印象が悪いことも自覚していた。
だからか、告げた後、バツが悪そうに視線を一度そらし、間を置いてからそろりと視線を戻す。

ピア > カーテンに映り込むようにして移動する明かりと足音が遠ざかるまで
少女は耳をそばだて、声を抑え、なるべく気配を押し殺しているつもり、
なのだけれど、所詮非戦闘員のソレなので気持ち程度なのだろう。
現に、安堵したのか単純な驚きからか、また少し声が上がる。

「人間ってやめられるのですか!?…もったいない。」

人間になりたくてもなれないヒトガタとしては素直な気持ちであったが、発言が妙にズレた。

近づいてみればようやく男の面立ちがはっきりと見える。
部屋の暗さが暗さだけに溶けてしまいそうな黒衣装に金色の瞳というのは
夜に浮かぶ月のようでいて、随分特徴的だ、と少女はぼんやり見つめる。
人間社会にはまだ疎く、彼が王族に所縁のある者として相応しいか否かは、判断つかなかった。
ただ何となく察することが出来たのは、

「………偉いお方なのですね? ―――。」

迷う必要なんてないのだろう。
酒池肉林の中に放り込まれるか、名前すら知らない男とはいえ
自分を助ける方法を考えてくれた1人と肌を重ねるか、選ぶまでもない。
たしかに口ぶりは乱暴だったが、少女にとってその印象は決して悪くないのだし。

「……その…、スゴく…助かりますけど…あなたはそれで宜しいのですか?
 あなたに得があまりない…ように思えるのですけど…。」

庭で過ごしていたということは女を抱きたいわけではないのでは。
選ぶ権利のある相手なら尚更、申し訳なくも感じる。
少女の方も俯いてしまい、お互いに外れた視線は不自然で微妙な空気を作り。

ヴィクトール > 「ぁ、あぁ……人によっちゃだろうけどな。俺は魔族を食……魔族の血を口にして、変わっちまったけどよ。まぁ疼く事以外は不便ねぇよ、そういうアンタは人じゃねぇのか?」

驚きの言葉はなかなかに奇妙で、珍しく彼が呆気にとられて言葉にどもった。
可愛らしい見た目とは裏腹に、変わり種の娘なのだろうと思っているも、言葉から察しも着く。
人になりたい人外、彼女が隠したがっていたことを読み取れば、その正体を何気なく問う。

「俺じゃなくて兄貴がな? 俺に取り入りゃおこぼれもらえるだろって」

自分ではないと軽く頭を振るものの、変な期待をされていやしないかと少し不安になる。
あまり兄には面倒をかけたくない、そう思っていれば、更にずれた言葉が帰る。
クツクツと湧き上がるような笑い声溢しながら、その肩にぽすっと掌を重ねるようにして触れるだろう。

「いい女を抱いて礼まで言われるなら得以外の何者でもねぇよ。アンタみたいに可愛くて不慣れっぽいのは、正直がっつきたくなるぜ?」

生娘という感じではないがあまり擦れた様子はない。
そんなまだ白い部分の多い印象を感じる彼女に、先ほどと変わらぬ笑みを見せるが、少しだけ瞳が欲にギラついたのが分かるかもしれない。
壊すより貪りたいという、雄の渇望は獣の様に彼女を見据える。

「俺はヴィクトールだ、九頭竜山脈の麓にある平和な集落で…傭兵みてぇな仕事してる」

互いに肌を重ねるなら、名前ぐらい知らないと無礼だろうと自分から軽く自己紹介をすれば、そっちはと視線が問い返す。
それからすっと掌を伸ばし、小さな手を握っていく。
戦う硬い肌の大きな手は、ぎゅっと握る割には壊さないように加減して、ガサツなりに気遣いながら手を引き、エスコートするように宴のもとへ戻ろうとする。