2016/11/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にシチューさんが現れました。
■シチュー > (高級住宅街は空気からして違う。貧民区はどれだけキレイな場所であっても人の汗や生ゴミの匂いから脱しきれない薄いくぐもった悪臭があったが、ここにはそんなゴミ箱の蓋が必要な汚さがちっとも存在しない。神様の作ったばかり、新品な世界の匂いがした。――さて。そんな富裕層の住まう街角をミレー族の奴隷が歩いている。)
トランジット通り……を右に……ナイスガイアベニュー……左……。
(お届けものの魔法の小箱を、ここに住まう貴族に渡せと命じられて屋敷から出てきた。地図とにらめっこして小奇麗で広い道を歩く足元はたよりない。屋敷も道路も交差点も広すぎて、通りも多すぎて、土地勘が全くないミレー族は……)
あは……迷ってるよね。これ。
(ひきつった笑みを浮かべて往来に立ち止まる。この赤い屋根の大きな屋敷はさっきも見た。これで3回め。ぐるぐる回っているらしい。諦めず、ふらふらと地図を見ながら前を見ずに歩き始め。)
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」に砕華さんが現れました。
■砕華 > (マグ・メールという国を、布で例えてみよう。
貧民地区を、泥臭い雑巾と例えるなら、平民地区は、少し生乾きのタオル、というところか。
では、この富裕地区はというと、質そのものが違う、シルクのヴェールと、例えるべきか。
ごみ一つも落ちることなく、歩く床は大理石で、顔すらも映ってしまう。
例え、空がどんよりと曇り空であっても、富裕地区であれば、晴天以外の天気を認めないとすら。
天と地、いや海底と天空ほどに、他とは差が開いている地区、それが富裕地区。
その、富裕地区に一人の、かなり場違いな女が、音も立てずに歩いていた。
マグ・メールではまず見かけないような、『キモノ』と称される、民族衣装を身にまとい。
背中には、身の丈ほどあるのでは、というような長物を背負っている。
開いているのかいないのか、分からないほどの細目。おかっぱの、その髪は漆黒。
平民地区の薬屋、『紅一朝』の女主人、砕華その人が、とある屋敷より顔を出し、深く頭を下げた。)
「はい、ご贔屓にしてくださり、ありがとうございます。
今後とも、我が『紅一朝』を、よろしくお願いします。」
(静かに、砕華は右手を振る貴族に伝えると、扉が閉まるまで、その格好を維持した。
パタン、と扉が閉まる音が聞こえれば、ゆっくりと頭を上げて、踵を返し屋敷を離れ始める。
今日は、とても大事な日だった。
半壊した『紅一朝』が、今日を持って新装開店したため、その挨拶回りをしていた。
贔屓にしてくれていた、貴族の館を一軒一軒回りながら、頭を下げて、また製薬を請け負えるようになったことを伝える。
中には、そのお祝いとして、食事会に誘われることもあるが、砕華は「店を空けることは出来ないので」と、丁重に断った。
商売をする上で、個人に肩入れすることは、あまり好ましいことではない。
プライベートは明かさず、砕華の素性を明かすことも、稀。
少しくらい、秘密を持っていたほうが、客は寄り付くものである。)
「さて、次は――――――」
(砕華はメモを見ながら、次に回るべき家の場所を調べる。
ゆっくりと、歩き出したものの、視線は完全に目も、下を向いてしまっている。
進行方向に、真っ直ぐ向かっているシチューのほうを見ていなかったために、結果は――――)
■シチュー > (悲しいかな、人生の豊かさは8割ぐらいがお金によるもの。金持ちほど”幸せはお金じゃ買えない”とも言うけれども、そう言いながら骨つきの肉をでっぷり太ったお腹に収めていくのか富裕層だ。幸せとは愛だという研究結果があるらしいけれど、お金で買える愛にそれが含まれるかどうかまで議論をしたらそれぞれの主張は永遠に富裕層と貧民区で平行線をたどるだろう)
(見た目も姿勢も、うなじの開きも華やかなキモノをまとう腕利きの薬師に何があったのかは知れないが、彼女はお店の立て直しを図っているらしい。しかし、そんな地道な努力をしているように見せないのが彼女の良いところだろう。伸ばした背筋は相変わらず凛としていし、そ、とした表情はミステリアスさが溢れていて、おべんちゃらとおだてと裏表激しい社交界に飽きた一部のマトモな貴族はその横顔を誘うと食事の口実を作りたがる。その場を蹴って、次の家を巡る相手の脇を、やはりスマホ歩きで前方不注意のミレー族の姿が重なれば、自然と交通事故が起きるわけで。)
――!ふあああっ!……あ、あ、ごめんなさい……。って、砕華!砕華だあ!
(そのままぶつかれば、額にキモノごしに豊満な乳房の感触を感じるが。――ともあれ、驚いたよにケモミミをぴくりと跳ねさせ。目線の上の彼女に気づけば、ここしばらく通っていなかった紅一朝の店主の久々の顔に声色も高く。彼女の腰に両手回してぎゅー、と抱きつきたがり。)
■砕華 > (お金があることが、幸せではないと、人は口を揃えていうが、それはただ単に、持ち合わせていない者の強がり、かも知れない。
持っている者が、左団扇で金品を身にまとい、「お金があることが、幸せではない」と言っても、なんら説得力などない。
ならば、そのお金を貧しいものに、分け与えてみせろ、といいたくなるが、ついぞその光景を、見たことなどなかった。
貴族たちの間でも、どうやら『紅一朝』の話は、時折上がっているらしい。
腕がいいとか、そういう話ではなく、『シェンヤンの美人が、薬屋をやっていて、しかも頼めば作ってくれる』と言う話ばかり。
ひょんな事から、襲撃を受けて、営業できなくなったのが、1週間前。
砕華自身も、かなりの怪我を負ってしまい、しばらく療養生活を送っていた。
ただ、商人組合からの補助金と、とある恩師のおかげで、早いうちからの営業再開、と相成った。
その挨拶回り、貴族から食事を誘われたのは、1回や二回だけではなかった。
表向きは、食事に誘うと銘打っての、砕華との繋がりを強くしたいという、貴族たちの思惑だった。
美人で、どこか雰囲気が謎めいていて。
それを、やんわりと微笑みで断り、そして次の家へと挨拶回り。
それを幾度と繰り返しながら、砕華は丁寧な、挨拶回りを続けていた。)
「あいたっ!」
(貴族の名前をピックアップしている、メモを見ながら、大理石の歩道へと出る。
次の家はあっちか、と顔を上げた瞬間、何か小さいものが、どすんっとぶつかり、砕華もろとも倒れる。
メモは手から滑り落ち、ぱさりと大地へと落ち、長刀がガシャン!と金属製の音を立てた。
当の砕華は、尻餅をつき地面へと、手をついた。
後頭部を軽く、手で押さえるものの、痛みがあるわけではない。所謂、様式美と言うやつだ。
何が、というよりも誰がぶつかったのか、と顔を上げると、その『誰か』が、飛びついてきた。
最近は、店に来ることは少なかった――というより、主人が店の事を聞き、寄越さなかったのかもしれない。
貴族のメイドの一人、シチューだと確認すると、砕華も少し、微笑を強めた。)
「あら、シチューさん。
こんなところであうなんて、随分と奇遇ですね。」
(ちなみに、砕華は人並みであって、決して豊満というわけではない。
しかも、シェンヤンでは下着を着けず、サラシで胸を押し潰すため、見た目もさわり心地も、完全に平坦である。)
■シチュー > (パンが無いならケーキを食べろという人々に、金持ちが天国へ向かうのはラクダが針の穴を通る事より難しいと説いたところで納得しないだろう。かといって、富の再分配をしたところでその富を受け取った人々がお礼のひとつもよこさないという事態がある事を考えれば、財産を社会の中で右往左往したところで皆しあわせとはいかないあたりが、生き物の不平等さを表している。天国にお金を持っていけるかもしれないが、天国にお店なんぞ無いのだ。蓄えれば蓄えるほどもっと蓄えたくなるし、減れば減るほどさらに減る。厄介すぎてウィッチやバンシーの呪いのほうが可愛く見える)
(貴族たちの間でお店の話題が広まるのは、彼女の薬師たる腕前がまず理由だろう。そして、帝国の勃興を願って貴族たちからの情報を聞き出そうとたくみに王国の領域の中に自分の領域を広げていっている努力もあるのかもしれず。)
ああ、ごめんね、砕華。そんなに派手に転ぶとは思ってなくて。
(尻もちつかせた事を詫びつつ、ゆっくりと下り。ニコニコと笑み浮かべて。)
偶然だね!――砕華、ここで何してたとこなの?
■砕華 > (後者の努力は、いつになったら実を結ぶのか。
それとも、砕華自身にそんな考えが、ないのかもしれない。
穂の、開いているのかいないのか、分からないような瞳の奥に、何を隠しているのか。
それは、砕華自身にしか、わからないことなのだから。
尻餅をついた砕華は、そのままの体勢で、シチューを抱きしめていた。
仲良くなった、というよりも、砕華に甘えてくる子犬、と言うイメージを、勝手ながら植えつけている。
その子犬を抱きしめることに、砕華は躊躇など憶えるはずもなかった。)
「いえ、あえて嬉しいですよ、シチューさん。」
(ニコリ、と擬音が浮かぶ。
あえて嬉しい、と言う言葉に嘘偽りはないが、その表情が変わらないので、営業なのか本心なのか、わからない。
その判断は、シチューにゆだねられていた。
これまでの貴族たちも、同様に本心か営業なのか、判別しにくかったことだろう。)
「ええ、本当に、偶然です。
私ですか?私は、贔屓にしてくださっているお客さんに、少し挨拶回りを…。」
(砕華は、かいつまんでこれまでのことを、説明した。
店が襲撃を受け、半壊してしまい、営業を停止していたこと。
そして、自身もこれまで、療養生活を送っていたことを。)
■シチュー > (帝国への忠誠心を裏とすえるなら、表は薬師であろう。よほど強い精神力がないと、両方を1人の人間の中に押し込むのは難しい。かといって、そこに干渉する余地も無いのがミレー族にとっては悔しいところだった)
(ぎゅ、と抱きしめられる感覚も久しぶりだった。キモノごしの平坦にしつえられた身体から緑の草木の匂いと彼女の匂いがする。ほっとする香りを感じて尻尾を揺らし。それはただ何も考えずになつく犬そのもの。)
僕もうれしいな!えへへ……。砕華、砕華……。
(彼女の名前を繰り返して。腰にまわす手の力をいれたり緩めたり。そうして戯れたら手を差し出したり一緒に身を起こしたりなりで立ち上がり。営業と本心の区別という概念がそもそも無いミレー族はそれを本心と受け取るのだ。彼女が自分に対して繕うはずが無い、と信じ込んでいて。)
そっかー。お店をするって大変だね……。え!お店が……?うう、砕華、散々な目にあったね。砕華、元気だしてね。
(これまでの経緯を聞けば、きっと彼女は不幸な目にあって、外見は変わらないままに気落ちしてるんだろうだなんて余計なお世話たぎらせた。いっぱい背伸びをして彼女の指通りの良い髪を撫で撫で、慰めようと)
■砕華 > (人の心に、干渉できるのは、そう多くは無い。
それこそ、人生そのものを狂わせてしまえるような、大きな人物ではないと。
神獣族が、その力を持っているならば、それも可能かもしれないが。
薬草の匂いは、どうしても衣服に染み付いてしまうもの。
仕事気と併用している、そのキモノに抱き疲れると、人によっては『臭い』と表現されてしまう、草木の匂い。
だが、その匂いを気に入ってくれている、シチューが抱きしめてくるなら、砕華も、背中に手を廻して、答えるのだ。
本心か、はたまた営業なのかは、開かない瞳の奥に隠されて、判断は難しいだろう。
だが、その頭を撫でる手は、決して嘘はつかない。
シチューを可愛いと思う、その心だけは、間違いなく本心なのだから。)
「ええ、すこし参りましたけど、もう大丈夫ですよ。
お店も立て直せたし、薬剤道具も、新しいものが揃いました。
ああ、そうだ。今からお茶でも、飲みにきませんか?
昨日、シェンヤンにいる老師が尋ねてこられて、一緒に茶葉を少し分けてくれたんです。」
(挨拶回りは、また明日でも出来る。
半分ほどを終わらせているし、あまりこの貴族の集落に、長居をしたいとは、思っていなかった。
好奇心の塊で見てくる、少年と思わしき風貌。
センスで顔を隠し、砕華のキモノをちらちらと、盗み見てくるご婦人方。
それらの目に、表情が変わらない砕華といえども、あまり気持ちのいいものを、感じてはいなかった。)
「ああ、でも…シチューさんはお使いの途中、でしょうか?」
(ただ、シチューにもお使いがあるはず。
今回は、砕華のところには来る用事がないようだが、その手にある小箱を見れば、どこかへ届けるものだと、容易にわかる。
それを、自分のせいで放置させて、主に叱咤されようものなら、ばつが悪い。)
■シチュー > (神獣と言われるほどに、ミレー族には力が無かった。誰か1人ぐらいを幸せにできてもいいのに、薬師の胸のうちを穏やかに落ち着かせる魔力のひとつも持たないかもしれない。ただこうやって、抱きついて名前を呼び、笑う事をのぞいて。)
(頭をなでてくれる手だけが真実だとしたら、もうそれだけで十分。他の部分がこのミレー族を騙そうとしたとしても、本望だと受け入れる。ケモミミがゆら、と動き。機嫌の良さを伝える。)
良かったね!新しい道具が揃ったんだね。良いお薬、これからもたくさん作ってね。みんなも、砕華のお薬ほしがってるからね。僕もお屋敷からお使いを頼まれたら行くからね。――いいの!?行く行く!……って言いたいところなんだけれど……。
(どうやら窮地はしのいだらしい、その言葉に頬を緩めて。安心したよに尻尾が垂れ下がり。お茶のお誘いに声音も高くなるけれど、片手にある小さな箱が邪魔をする。――気位の高く暇な貴婦人ほど、他人を厳しく評価するものだ。)
お届け物を届けなきゃいけないから……ねえ、砕華。この住所ってわかる?ここから遠いかな?
(お使いの箱と一緒に渡されたメモを彼女に向かって広げる。そこにあるのは、彼女の客の1人の名前とその住所。ここから3ブロックほど離れてはいるが、そう遠くはないことを相手は知っているはずで)
■砕華 > (生きとし生けるもの、一体何が一番落ち着くのか。
それは、笑顔――だというものもいる。
真実かどうかはさておいて、笑っているものを見ると、自然と心が落ち着く、というらしい。
シチューが笑いかけて、砕華もまた、微笑む。
それだけでも、十分なのではないだろうか。
シチューの耳は、とても正直なようだ。
機嫌がよければ、ピコピコと忙しなく動き、落ち込んでいると、ぺたんと折り畳まれる。
撫でるたびに、ゆらゆらと動くその耳を、砕華は少し、指先で擽った。
その微笑から察するに、おそらく軽い悪戯、のつもりなのだろう。)
「その言葉は、薬師として、とても嬉しいですね…。
解りました、これからも沢山、いい薬を作り続けましょう。」
(薬のことを、何の邪念もなく褒められると、少しだけくすぐったく感じてしまう。
単純に、薬のことだけで、砕華をよく言う人は、シチュー以外にはとても少ないから、慣れていない。
唯、一つだけ砕華が、気に入らないことがあった。
用事がなければ、尋ねてこないような言い回しに。)
「…シチューさんは、用事がないと来てくれないのでしょうか?
少なくとも、私はシチューさんと、お茶をしたいのですけれどもね」
(仲良くなった、神獣族の女の子と、お話をするだけでもいいのではないか。
砕華は、袖で口を隠しながら、どこか意地悪く言って見せた。
用事がなくても、ただ遊びにくるだけでも、『紅一朝』を訪ねてくれてもいいのだから。
砕華は、シチューが差し出したメモを、覗き込むように見た。
そのメモの宛先は、とてもよく知っている者の名前だった。
娘が、風邪をこじらせて締まったので、よく聞く薬がないかと、店に飛び込んできた貴族の一人だ。
む図目の体調がよくなったので、お礼にとかなりの額を提示してきたのだが、砕華はその金額の、1/10程度しか受け取っていない。
薬の代金以上の、お金王家採るのは、主義に反するからだ。)
「ええ、ここなら、右手に真っ直ぐ進んで、青い屋根の屋敷ですね。」
(なんだったら、案内しようかと提案する。)
■シチュー > (心やすくなるために笑顔が入用だというのなら、彼女が目を瞑ってでも薬を調合できるように、ミレー族はどんな時でも笑っていられる。その笑顔を作り出すのに何も労力も使わないので、その笑顔を分けるのにも何の労力もなく消耗もない。むしろ、分けた相手が笑ってくれるたびに自分のほうも元気になれる)
――ふわぁっ!
(尻尾は口ほど物を言う。という言葉を新たに作らなければならない。口で嘘をついたところでケモミミが寝てしまうのですぐにバレてしまうのだ。そんな正直者なミミを指先で触れられ、間抜けた声が漏れて肩をひくつかせる。神経がたくさん通っていて弱いところ。すぐに、彼女の悪戯には片目を細めて笑うけれども。)
うー。そんな意地悪言わないでよ。僕も砕華のとこでお茶したいよ。用がなくっても。……でも、なんか勇気でなくって。砕華のお仕事の邪魔になるかも……って。
(足先、つま先で地面をいじいじしながら、ちょっとうつむき加減で正直なところを告げる。大人には大人の時間があるというのを、屋敷に入って知ったからだ。そんな時、自分は相手にされないから。忙しい店主である彼女ならなおさら、と考えていて。)
(メモの宛先は、屋敷と親交のある者の名前。偶然にもその人物は、相手と面識があるだけじゃなく、大きな恩を持っているらしい。お金に流されずに信念を貫く彼女が一緒に訪ねたら、お届け物が届いた事以外にも喜んでくれると思って。)
そっか、ありがと!……ねえ、砕華。一緒についてきてほしいな。このお仕事終わったら、砕華のお店に寄ってお茶もしたいからさ……
(どうかな?と優しい薬師の顔色をそっと伺い)