2016/08/22 のログ
ご案内:「富裕地区のおもちゃ屋」にツァリエルさんが現れました。
ご案内:「富裕地区のおもちゃ屋」にヴァイルさんが現れました。
ツァリエル > 王城から馬車に乗って着いた先が富裕地区にあるとあるおもちゃ屋であった。
王都の中でも腕の良い人形職人や小物を多数置いてあると評判の店で
店の売りも女の子たちに大変喜ばれるミニチュアの着せ替え人形だとか。

ヴァイルが小さくなってしばらく経つが一向に戻る気配がない。
ありあわせのもので衣服などをまかなっていたが、流石に毎日ドレスばかりでは気の毒だろうと
新しい衣装を買いに行こうと侍従たちに恐る恐るおもちゃ屋へ行きたいと告げてみた。

普段高価な贈り物にも子供らしい遊びにもあまり喜ばないツァリエルが自らおもちゃ屋へ行きたいと言ったことに
大層侍従たちは驚いて、王都で評判の店を調べあげすぐに馬車を用立てた。
もちろんきっちり侍女や護衛の者が同行するのであまり自由にはできないのだが。

店内に入り、他の客や店員の目を盗んでそっと上着の内側に声をかける。

「ヴァイルさん、着きましたよ」

ポケットに小さくなったヴァイルを忍ばせてきたのであった。

ヴァイル > ポケットの中でもぞもぞと蠢く反応があった。
目を擦りながら顔を覗かせる。呑気にも寝ていたらしい。

「ちょっと外出するだけで面倒な話だなぁ。
 まったく過保護なものだ」

肝心なときには役に立ちもしないくせに、と続ける。
最もその保護されているツァリエルに保護されているのが今のヴァイルなのだが。
店内をさして興味もなさそうに眺める。

「おれはドレスのままでも構いやしなかったんだが」

などと常通りの皮肉げな笑みで言う。

ツァリエル > 「だって動きやすい服が欲しいって以前仰ってたでしょう?
 一着くらいは普通の、男の子らしい服があったほうがいいかなって」

そっとポケットからヴァイルをつまみ上げると、丁度人形の衣装が並んでいる陳列棚に乗せる。
主な衣装はやはり女の子が夢見るドレスや華やかなワンピース、スカートなどだが
一応数は少ないものの、異性用の人形の衣装も取り揃えているらしい。
どれもどこか甘めの、女性受けが良さそうなディティールばかりではあるが。

「これとかどうですか?」

手を伸ばして選んだのは白と紺でまとめられたセーラー服だ。
膝丈のパンツと、ベレー帽もセットでついてくるらしい。
身ごろを合わせようとヴァイルの横に並べる。

ヴァイル > 「さて、そうだっけ?」

素知らぬ様子でそう返して、棚の上を歩いて衣装を眺める。
男児の間に人気がある人形はどちらかというと錫の兵隊になってしまうため、
どこかファンシーなものばかりなのは道理である。

とはいえ衣装のディティールに特に不平があるわけでもないようだ。
自身の長髪を紐でくくり、差し出されたセーラーを前で合わせて見る。

「仮にも闇の者にはこのような涼しげな装いは
 似合わないんじゃないか?
 どちらかというとツァリに似合うもののように思えるよ」

言葉に反して、ツァリエルに楽しそうな笑みを向けている。
気に入っていないということもないようだ。

ツァリエル > 「え、そう?ああ、そうか、肌が出ちゃうと焼けちゃいますよね。
 ううん、それなら長袖の……こういうものかな」

流石に錫の兵隊では衣装の着せ替えはできないしでもセーラー服も決して悪くないのだが
そう言われては別の服を見繕ってみる。

今度は冬の間に紳士がきっちりと身にまとうようなグレイのチェスターコート、フリルのシャツ、黒いズボンのセットを取り出してみる。
うん、これなら夜の魔物っぽいではないか。
ついでに小さなシルクハットもヴァイルの頭に乗せてみる。

「僕じゃあきっと着せられているように見えてしまいます。
 それに選べるなら質素なもののほうがいいです」

例えば以前着ていた黒一色のカソックのようなもののほうが落ち着くのだ。

ヴァイル > 「これはこれでなんだかコスプレのようだな」

人形の服なんてみんなそのようなものだろうが、
一言何か言わないと気がすまないらしい。
見えないステッキを地面に突くような素振りをして、大儀そうに頷いてみせる。

「何、着ているうちに服のほうが馴染んでくる。
 若いうちにいろいろな服は着ておくべきと思うね」

年寄りじみた助言。
シルクハットを脱いで瀟洒に一礼すると、
ひざまずいてツァリエルの指にくちづけを落とす。

「……おっと、これは姫に対する作法だったっけな」

ツァリエル > こすぷれ、の聞き慣れない響きに首を傾げる。
俗っぽい単語は馴染みがないらしい。

大仰な素振りにくすくすと笑って、まるで本当にネジを巻いた精巧な人形のようだと思う。

「そうかしら、例えばドレスもその一つ?」

ヴァイルの着ている服を摘んで尋ねてみる。
指先にヴァイルの小さな唇が押し付けられれば、たったそれだけのことなのに顔を赤らめた。

「もう、ヴァイルさんったら。そういうことは本当のお姫様にしてあげて」

恥ずかしそうに不平を言うが、決して不満ではなさそうな表情。
とりあえず、別々の印象の衣服があればその日の気分で選べるだろう。
この二つを買うことを決めて、他になにか必要な物がないか考える。

「ヴァイルさん、衣装だけじゃなくて家具とか他に欲しいものがあれば仰ってください。
 それも少し買っておきましょう」

ヴァイル > 「そうさ。それを着るヒトとしての立ち居振る舞いも含めて、ね」

服の裾を摘まれれば、くにゃりと身体を折り曲げてしなを作ってみせる。
どこか背徳感をくすぐる姿勢だ。

「はは。いまはおれのほうが姫のようだしな」

小さなキスに照れるツァリエルに目を細めた。
何かほしいもの、と言われると、少し考えた後
ベッドのひとつを指差す。まさに姫が眠るような天蓋付きの豪華な寝台だ。

「どうせ人形の暮らしをするんだから、ああいうのにも寝てみたい。
 ……しかしなんだな。あまり充実し過ぎると
 逆に元に戻るのがもったいなくなってしまうな」

買い物が済めば、再びツァリエルの手に身を収めるだろう。

ツァリエル > 完璧な女性としての立ち居振る舞いにどきりと胸が高鳴った。
が、それ以上は目の毒だというように視線を逸らす。

ヴァイルが指差した天蓋付きの豪華な寝台、
上等なレースに花々が散りばめられた寝具、支える台座は黒檀の木材に緻密な細工彫りを施したものだ。
女児ならずとも確かに目を引かれるその一品に思わずため息をついた。

「すごい……、もしかしたらお人形のほうがずっと人間よりもいい暮らしをしているのかも。
 でも案外ヴァイルさんって、ロマンチストというか趣味が女の子みたいですね」

相手の意外な一面を見た気がして得をしたような気になる。
再びヴァイルを上着の内側に隠し、控えていた侍女に支払いを頼む。
貴人はむやみに下々の者と会話をしてはならないとしつけられていたからだ。

店員が手を揉みながら、ツァリエルが選んだ品々を丁寧に包み始める。
その合間に交わされる金貨の数と会話から、このおもちゃ一つで貧民街に住まう人々が一月余裕で暮らせるらしいことを悟り
なんとも罪深い事をしてしまった気分になった。

だが今はどうしても必要なものだし、申し訳ないが仕方ないと割りきった。
侍女がリボンの掛けられた箱を持ち、一緒に店を出て再び馬車に乗り込む。
侍女がそろそろお茶の時間ですから、せっかくですから外で何か召し上がってはいかがですかと申し出た。
この上さらなる贅沢をしてもいいものか迷ったが、結局押し切られる形で
馬車は勝手に侍女の言う方向へと走りだした。

そっと馬車が走る音に紛れてヴァイルに話しかける。

「なんだか、お茶をすることになってしまったのですけれど、
 ヴァイルさんお腹空いていますか?」

もしヴァイルが休憩したいのなら言い訳も成り立つ。
何より長い時間小さな体で狭苦しいポケットに詰められては疲れてしまうだろう。

ヴァイル > 「おれはそんな風に自分の趣味を考えたことはなかったが……
 いかなる男もときには手弱女であるし、
 いかなる女も益荒男のごとく振る舞うことがあるのだ。
 心当たりはあると思うが」

趣味について言及されると、事も無げにそう応える。
それに人形というのは汗の匂いがない。
夜歩く者と近しい存在なのだ。

「散財や豪遊も持てる者の義務だ。慣れることだな」

どこか苦い表情のツァリエルには、上着の中からそう声をかける。

ツァリエルが考えているようにヴァイルは退屈しているらしく、
時おり上着の中で身体をひっくり返してはツァリエルの身体を
服越しにつついたりしていた。

「ぜひ相伴に与ろう。
 ……ふふ、なんだか本当にこっそり餌を与えられる
 ペットになってしまったみたいで楽しいな」

食事の誘いには二つ返事で応える。
いつも薄笑いを浮かべているヴァイルであったが、楽しいのは嘘ではないようだ。

ツァリエル > 元々男の見目であるもののヴァイルは魔族であり
変身の能力を持っているわけで本当の性別というのは違うのかもしれない。
曖昧であるからこそ、どちらにでも振る舞えるようにしているのだろうか。

ともかく心当たりといえば真っ先に自分が思い当たる。
大抵の男に迫られて、女のような役割を振る舞ってしまうのだし
時には女にでさえあっさりと主導権を握られるのだ。
セクシュアルな問題に自分が口を出せる身分でもないことを思い知らされたようで
そんなものですか、と複雑な顔で返事をする。

服の内側からヴァイルが自分の体をいじくり回す。そのたびにやたらくすぐったくて
思わず変な声が出てしまうのだから、同乗している侍女が不審な視線を向けてヒヤヒヤする。

「ちょっと……ヴァイルさん、だめだったら。気づかれちゃう……ひゃんっ」

もじもじと体を揺すってやめるよう訴える。
傍目からはわからないがなんだか互いにじゃれあっているようだ。

やがて馬車が停車する。侍女が先導して降りれば郊外にあるようなこじんまりとしたレンガ造りのレストランが建っている。
バラのアーチによく手入れされた広い庭園が柵越しに見え、いかにも貴族たちがこぞって訪れそうな雰囲気だ。

侍女がウェイターに事情を話すと快く承り、特別なお席が丁度空いておりますと
一般の客とは違う方向へ案内された。
向かった先は先程見た庭園であり、テラスになっている場所に椅子と丸いテーブルが設えてある。

ここなら人目を気にせず、自由に食事できるだろう配慮がされていた。
何より立派な庭園が季節の花々を咲かせて目に楽しい。
椅子を引かれるまま大人しく座る、侍女は流石に相席が許されていないのだろう、
隣の部屋におりますので何かあればお呼びくださいと言いおいて去っていった。

もしかしたら隣部屋でこっそり自分もなにか口にするのだろう。
本当に来たかったのは彼女の方なのかもしれない、
日々自分のお守りを任され大変だろうしその程度の贅沢では目くじらを立てる気にもならなかった。

メニューはなく、ウェイターがこの店のおすすめをおもてなしいたしますと言って下がってくる。
誰の目も無くなった頃にようやくツァリエルは再びヴァイルを外に出して、テーブルのナプキンの上に乗せた。

ヴァイル > バレないか気が気でないツァリエルの内心を知ってか知らずか
好き勝手つついたりけたぐったりする。
気付かれたらその時はその時だとでも思っているのかもしれない。
やがてレストランへとたどり着く。

「侍従や給仕の真似事は何度かしたが、
 貴賓の席に立つことはあまりなかったな」

もっともその貴賓の持ち物としてではあるが。
テーブルの上に立ったヴァイルは物珍しげに辺りを見渡す。
とはいえすぐに飽きてツァリエルに向き直り、構え、とばかりに胸を反ったり
手指によりかかったりした。
品が来るまではどうにも暇だ。

「ツァリ、あんまり楽しそうじゃないな?
 おれはこんなに楽しいんだから、きさまも楽しむべきであろう」

高価な買い物で後ろめたくなったり侍女に気遣う素振りを見せたりしているツァリエルに、
眉をハの字にして、ヴァイルにしては珍しい不満な態度を取った。

ツァリエル > 「そう見えたのならごめんなさい。
 僕も一応楽しんでいるつもりですけど、だって久々の外出だし」

不満を表わすヴァイルを宥めるように指先でその頭を撫でる。

「ずっと清貧を良しとして生きてきたから、どうも慣れなくて。
 どちらかというと、こうして恭しく改まった場に出されるより
 自分の部屋でヴァイルさんと御茶会を開いていたほうが気が楽だったなぁって」

あそこなら誰に気兼ねすることもないし、手ずからお茶を注いでヴァイルに振る舞うことができた。
誰かに仕えてもらうより、自分でやったり誰かの世話を焼いたりするほうが性分にあっているのだ。

「でもヴァイルさんが楽しいのなら良かった。あまり退屈させてしまうのも悪いもの。
 あなたのそんな様子を見ているだけで僕は十分楽しいし満足です」

にっこりと本心からそう笑いかけた。
やがて給仕が料理を運んでくると慌ててヴァイルを手のひらで覆って、テーブルの下に隠す。

持ってこられたのは美しいティーセットと、様々な菓子が盛りつけられた一人分にしては随分と大きいケーキスタンドだ。
スコーンにサンドイッチ、クッキーに様々な色形のケーキ、さらには小さな器に盛られたパフェやフルーツの盛り合わせなどもある。
到底一人では食べきれなさそうだと目を丸くしていると、パティシエが挨拶に帽子を脱いで現れた。
ひとつひとつ丁寧にケーキの解説をいただき、すごいとか綺麗ですねとかドキドキしながら会話をしてようやくその場を辞して静けさが戻った。

はあああああ、と盛大に溜息をついてヴァイルを再びテーブルの上に戻す。

「どうしよう、こんなに食べきれないや……。ヴァイルさんは……さすがに無理ですよね」

小さなヴァイルではたぶんケーキ1つで満腹になってしまうだろう。
とりあえず皿にサンドイッチを一つ取り分ける。
紅茶をカップに注ぎながら、ヴァイルに尋ねた。

「どれにしますか?さっきのパティシエさんのおすすめはロールケーキって仰ってましたけれど」

ヴァイル > 「ふうん。
 そう言うのであれば、まあ、許そう。
 せっかくのデートが楽しくないと抜かすのならば
 仕置をしなければならないところだった」

ツァリエルの返事に、とりあえずは満足を得たらしい。
指で撫でられれば満足そうに目を瞑る。
テーブルに現れたティーセットとケーキスタンドには、
ほーうと感嘆したように顎を擦った。

「ロールケーキもいいが、あれも気になるな」

鮮やかに飾られたパフェの器を指差してねだる。
天蓋付きのベッドもそうだが、華やかなものが案外好きらしい。
ふんぞり返って、食べさせろと指図する。

ツァリエル > デートだったのかと今更ながらぱちくりと瞬いた。

「お仕置きって……、ヴァイルさん小さいのにそんなことできるの?」

いつもの大きさならともかく今弱った状態の彼にそんな力はなさそうに見える。
なんだろう、書物をしなければならない時にペンを隠したり
朝目が冷めた時に、ベッドに糸を張り巡らせて縛り付けるとか
そういうことだろうか?

はいはい、とパフェの器をヴァイルの目の前に下ろす。
桃と薔薇の形に縁取られた生クリーム、アイスクリームが重ねられた一品だ。
スプーンを手にとってバランスよくそれらを掬うと、

「はい、どうぞ」

とヴァイルの顔の前に差し出した。

ヴァイル > 「なんだか随分かわいい想像をされている気がするが……
 別に魔術も腕力も使わずに突くことができる弱点なんて
 人体にはいくらでもあるんだぞ、ツァリ」

含みを持たせた妖しげな笑み。
しかしスプーンが差し出されるとたちまちそれに食らいつく。
すっかり無害な小動物のような振る舞いである。
肌や衣服がクリームに汚れようがお構いなしだ。
たちまちのうちに平らげてしまう。

「もっとくれ」

見上げて次を要求する。

ツァリエル > それが例えばどういう方法であるかを聞くのは恐ろしかったので
冷や汗を流してあえて詳しくは聞かないことにした。

高い衣装を汚してスプーンに食らいつく相手に慌ててナプキンで汚れを拭う。
この後自分の上着に隠したらベタベタしそうだ。

飢えたネズミのようだと思いながらがっつくヴァイルに慌てないでと声をかけ

「まだまだ沢山あるし、焦らなくても大丈夫ですよ。
 それに一気に食べちゃうと体が冷えるかも」

今度はコーンフレークとゼリーの層を装って差し出す。
別のスプーンには紅茶を注いでソーサーの上に置いておく。
体が冷えた時はこれを飲めばいい。

ヴァイル > 「悪い悪い。ついついはしゃいでしまった。
 冷えてしまったら、ツァリにあたためてもらうさ」

たしなめられて今度は素直に少しずつ口に運ぶ。
スプーンを抱えて紅茶に口をつけ、人心地ついてテーブルの上に座り込む。
人形のドレスの裾や襟を引っ張って、くつろげさせる。
肩や胸元の肌がのぞく。

「ふぅ。
 ツァリエルも食べたらどうだ。
 ……なんなら食べさせてやろうか?」

口元にはゼリーの欠片が付着している。
注意していても食器の大きさから汚れてしまうのは避けられないようだ。

ツァリエル > 「あたためてもらうって……さすがに人目があるから
 こんな所でいかがわしいことはできませんよ」

豪奢な寝台といい美しい菓子といいひょっとしたらヴァイルは女の子だったのかもしれないと思うほど
少女のように夢中になっている。食べる姿はネズミだが。

寛げた衣服からのぞく肌をお行儀が悪いなぁとちらちら盗み見るが
じろじろとみるのも不躾であるので視線を逸らした。

「食べさせてもらうの、大変だと思うけど……
 でもせっかくだからお願いします。」

皿に載せたままのサンドイッチを指す。さすがに切り分けるのは大変だろうと
ナイフでヴァイルが持てるように小さくした。
口元についていたゼリーを指先で拭うとそれを舌で舐めとった。
自分もあまり人のことを言えるほど行儀が良くない気がする。

ヴァイル > 「いかがわしいこと?
 さてそんなことを求めたつもりはこれっぽっちもないが……」

とぼけた口調。

切り取られたサンドイッチを両手で抱えると
テーブルの上を歩いてツァリエルへと近ついて、

「ほら」

背伸びしてそれを掲げ、食べるのを待つ。

ツァリエル > 「……じゃあ今日は帰ってもそういうことはしないです」

ぷうと頬を膨らませ、恥ずかしげに告げる。
差し出されたサンドイッチにそっと顔を寄せて一口で食べる。
うん、確かになかなか食べることがない味だ。

「ありがとうございます、とっても美味しいですね」

口元をナプキンでぬぐいつつ、

「じゃあ次は何を召し上がりますか、ヴァイル姫様」

微笑みながらトングをとって、次の菓子を選び始める。

ヴァイル > 「えー。
 それは困るな。退屈してしまう」

それに、それを禁じられては、いくらここで菓子を食した所で
夜歩く者にとっては食事抜きに等しい。
ぱたぱたと手足を動かして不平を表明する。
小さくなったせいか普段に比べるとどうも所作が幼い。

「ふふ、どういたしまして。
 では次はおすすめらしいロールケーキをくださるかしら、ツァリエル」

姫様呼ばわりされてはしたなく肌蹴ていた服を直すと、
とことことティーカップの側まで歩いて、
紅茶の湖面を覗き込んで自らの顔を映す。
あまり落ち着きが無い。

ツァリエル > 「だって求めてないんでしょう?
 ……ちゃんとはっきりどうしたいのか仰ってくださらないと僕だってわからないです」

少々意地悪な物言いに内心自己嫌悪をしてしまうが
どうも小さくなったヴァイルにはやや困らせてしまいたくなる。
反応が小動物のようでいちいち大げさで面白いし可愛いのだ。

かしこまりましたと請け負ってロールケーキを皿の上に乗せる。
フォークとナイフで切り分ければ中に詰まったクリームとフルーツがはみ出した。

「今度、紅茶でお風呂にしてみますか?
 でもミルクのお風呂よりは一般的じゃないかもしれないけれど」

はい、あーんとロールケーキのかけらを差し出した。

ヴァイル > 「典雅な考えだな。美肌にもいいらしい」

ひな鳥のように口を開け、ロールケーキの欠片を頬張って上機嫌に微笑む。

「ぬぅ」

ツァリエルが珍しく見せた意地の悪さには、少し考えた後
よよとテーブルの上でいわゆる女の子座りに崩れ落ちて、自分の指を噛む。

「ごめんなさい、ツァリさま……わたし、ツァリさまとえっちしとうございます。
 はしたないこのヴァイルに、どうか熱く爛れるような罰をくださいませ……」

妖艶な仕草でうなじを見せ、潤んだ瞳が上目遣いにツァリエルを射る。
ふざけているのか本気なのかどちらにせよ堂に入った振る舞いであった。

ツァリエル > 「僕が一杯紅茶を飲むのを我慢したら、もったいなくもないでしょう」

それじゃあ今日は紅茶をまた厨房にて用意してもらおうと考える。
もりもりとロールケーキを食してまた汚れた部分を拭い、
自分も同じものを口にして微笑む。

テーブルの上で泣き崩れるヴァイルの女優っぷりにちょっと吹き出してしまい慌てて口元を押さえる。
確かに色っぽいし、嫌いではないがあの高飛車なヴァイルが自分にこうも下手に出るのがおかしくてつい笑ってしまった。

「ふふ、今日のヴァイルさんなんだか本当に女の子みたい。
 でも本当に僕でいいのかな、それとも僕”が”いいのかな……。
 本当はもっと格好良くて優しくて、その、ヴァイルさんをたくさん楽しませて満足させられる
 そういう人がいいんじゃないかな……?」

さらに調子に乗ってヴァイルを見下ろしつつ、顎の下を指先で突く。

ヴァイル > 「そんなっ……」

調子に乗ったツァリエルの言葉に、ヴァイルは反撃をすることはない。
打ちのめされたように目を伏せ、自分の顎を突く指に、両の掌をそっと添える。
悲しむ素振りもいちいち仰々しい。
遠くに見る演劇と同じで、小さな身体では大げさに振る舞わないと
伝わらないということがわかっているのだろう。

「わたしは、ツァリさまじゃないとだめ……。
 わかっているでしょう。
 なぜなら、わたしは……あなたの、しもべなのですから」

そう言って熱に浮かされたような表情で
ツァリエルの指先に口をつけて、舌先を愛おしむように這わせる。

ツァリエル > なんとも言い知れぬ陶酔がぞくりとツァリエルの背筋を駆け上る。
同時に罪悪感も感じていたが、しおらしく自分の指にくちづけ奉仕するヴァイルなど
あまり見れるものではないのだからと言い訳してしまう。

熱っぽい目で見つめられればどぎまぎしながらこちらも見つめ返す。
あまりに熱の入った舌の動きにくすぐったさから、だんだんと情欲が掻き立てられてしまった。

「っ……、あの、ごめんなさい。ちょっとやり過ぎちゃった……。
 大丈夫、意地悪なことはもう言いません。帰ったらきちんと頑張ります……。
 
 それと、僕はヴァイルさんのことしもべだとは思っていないですから。
 友達、だとおもっています……」

そっと指をヴァイルの顔から離すとそそくさと紅茶を飲んだ。

「……乱暴にするって、わからないですけれど
 教えてもらえたら頑張ります……」

カップに赤らめた顔を隠すようにしてそう小さく呟いた。
そうと決まったらさっさとこのケーキたちを片付けてしまおう。
慌てて残りのケーキにフォークを刺した。

ヴァイル > 「なんだ、謝るなら慣れないことなどするんじゃない。
 せっかくノってやったのに、芝居の打ち損だな」

奉仕をやめる。辛辣な物言い。
けろりと、まるで魔法が解けてしまったかのように
素の醒めた表情と態度に戻っていた。

「随分とただれた友の間柄もあったものだね。
 まあなんだ。こんな身体で偉ぶっても滑稽なだけだからな。
 幸い下僕の振る舞いなら、板についていたんだ」

へら、と笑う。
スプーンの紅茶を飲みながら、
ツァリエルがケーキを口に運ぶのを眺めていた……

ツァリエル > それはその通りであった。悪さが過ぎて叱られた子供のように首をすくめる。

ヴァイルが誰に下僕の振る舞いを習っていたのかは自ずと分かる。
グリム・グロットだろう。
本当はずっとヴァイルはかつてのグリムのような人に無茶苦茶にされるのを望んでいるのだろう。
その役割を自分に求めるにはあまりに力不足であった。
きっと自分はヴァイルにはもっと幸せで穏やかでいて欲しいし
ずっと今のようにただ買い物に行って甘いものを摘むだけの日々を送りたいと思っている。

だけどそれではヴァイルは満足しないし、いつかそんな日常から去ってしまうだろう。
ヴァイルが欲しいものをほんとうの意味で与えられないことに歯がゆさを感じた。

「だって、情交を抜いてしまうとヴァイルさん大変でしょう?
 それに友達だと思っているのは別に、僕だけでいいんです」

胸の内を押し隠して、微笑んだ。
やがて食事を済ませれば、ウェイターを呼びつけ隣室の侍女に帰り支度を頼む。
そそと侍女が口元についたクッキーの欠片を拭うのを見てしまったが気づかぬふりをした。

「それじゃあ帰りましょう」

ほかの人が気づかないうちにヴァイルをまた自分の手で隠す。
やはりドレスはべたべたしていたが、嫌がることもなく今度は
シャツの襟元、胸の内側に滑らせて席を立った。

ヴァイル > 「愚かなやつ」

ため息を一つ。
嘲るでも憐れむでもなくつとめて無味乾燥に口にして、
灰色の薄ら笑いのまま、胸のうちにしまわれる。
ヴァイルにとってツァリエルという少年はいったい何なのか、
それを伝えることはなかった。

ただ言えるのは、ツァリエルとヴァイルは互いに
真に望むものを与えることはきっとないということだった。
幸せは手につかもうとすれば消える朝靄のようなものだった。

疲れた仔猫のようにおとなしく身を丸め、
ツァリエルの部屋へと運ばれるだろう。

ツァリエル > また長々と馬車に揺られて王城へと帰る。
お腹も満たされて随分と眠くなってしまった。

自室に戻ると侍女に上着を脱がされ足を清めてもらい、
荷物を片隅に置いてもらいあとは自分でできると申し出て下がらせる。
シャツの胸元からヴァイルを取り出すと自分の分の天蓋付きの寝台に下ろし、
その横につかれたようにぼふりと横たわる。
昔なら考えられない怠惰であった。とろとろと瞼が下がっていくが
片手をヴァイルに差し出してゆるく猫を撫でるような仕草であやす。

「……ちょっと休んだら、しますか?」

何をとは言わなかった。

ヴァイル > ツァリエル同様にどこか夢見心地でぼんやりとしていたが、
手を差し出されるところりと丸くなり、自らのドレスを緩める。

「うん。
 脱がしておくれ、ツァリ」

それとも着たままでやるかい、と微笑んで
あやす指の一本の腹に吸い付く。

ツァリエル > 【一旦中断】
ご案内:「富裕地区のおもちゃ屋」からツァリエルさんが去りました。
ご案内:「富裕地区のおもちゃ屋」からヴァイルさんが去りました。