2016/03/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区・ナイトパブ」にグールドさんが現れました。
グールド > 仮面の紳士淑女が夜のヴェイルの向こうから蝋燭の炎で囲まれた円陣を見下ろしている。
手首に結いつけた金属台に刺した針を抜く指が汗ばんだのがわかるが指先と足首から先は汗が乾いて冷え、眼を上げた先にいる少女が目覚めた様子はない。こちらから見る紅に彩られた肌は悪魔の果実のように色づいているようだ。少女の長い髪を縒って捻り、絹のクッションに縫い付ける作業。

「――― …は―――」

観客は賭けをしている。
異国の香で眠り続ける少女の眠りは司祭が奏でる歌声にもヴェイルの向こうで立てる金属などの音にも今のところ邪魔されることはない。
ツバを飲んで、滑りの良い床を四つ足で踏む足の指の位置を変え。ほんのわずか楽しげに微笑んで潜めていた息をひそやかに吐き出し。

グールド > 児戯のやうだと思わせる。少女の肉体が熱いのかと黒々と濡れた眦を、頭を上げて呼吸を聞くが体温を確かめる術はこちらの管轄外だ。触れるべからずと手を翳す代わりに分厚いヴェイルで全身を包む者が十字を真上で切り続けている影と空気が動いて部屋じゅうの蝋燭が明滅し人々をさざめきに揺らして。不気味なので視点を戻し一旦停止しかけていたかも定かでない作業を続け。

「髪結い」

与えられた少女の名前を呼ぶ、呼吸をしている喉と肺が多少息苦しいが空気密度が高いのだろうか。不気味な暑ささえ部屋に籠って。胸板が何度も深い呼吸に上下し肩甲骨から張り出した骨格が上がり、撓んだ背骨を今一度押し下げて、また一つ針の筵が完成に近付くのがわかる。クッションが柔らかく針を飲み込んで。

グールド > 仮に喉が渇いても手元に水を入れた瓶は用意されず、皆一様に酒を煽っており。シャンパンやワインにブランデー、匂いだけでものが上等とわかるそれらが混濁し続ける空間。頭は醒めているつもりだが、精神力はどれだけ経過したかわからぬ時間を追う毎に消耗するのをなんとなく悟っており。
歌なのかバイブルを読み上げているのか、耳にぞっとしない神父の声が届いて、頭の周囲から数ミリか数センチ内側がおかしくなったのを思うが止めて貰うことは夜が明けるか少女が目覚めるか或いは不可能であり。

「―う」

喉から苦し紛れに音が漏れて。髪を掴む指は躊躇わず編み続けて。膝を折って腹の真下へ潜り込ませ。

グールド > 目の前で心地よい動きをみせる柔らかい咽頭に腕を伸ばして絞めようとしたら十字架を持つ掌に止められた。下腹部の真下でくぐもる生温い岩のような塊がざわめくが、微動だにしない神父は皺だらけで分厚いピンクの老人の手をしていた。聖人にも似ている生ぬるい手、これに欲情するつもりはさらさらない。
胸と腹に籠った息を吐いて、乗り出した上半身を円陣の外側に近い場所まで戻して、髪の上に散った少数の虫ピンを拾い集め。
続行か、リタイアか。代理はいると告げられて。
シャツのボタンをつけた隙間に指を差し入れて薄い布の内ポケットから摘み出す。金で出来た裁縫用のリング。ブツブツ針頭ほどの窪みが無数にある、リングの裏に彫ってあるサインを確認した後で場から外へ出して貰えた。美しいデザイナーの懐から拝借したもの。使い様は様々にあるだろう。

「疲れた」

芯は燃えるようだが体温は少し冷えているように思え、酒蒸す場を潜って廊下の外へ、上着や靴を受け取って羽織ると外へ出て行き。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・ナイトパブ」からグールドさんが去りました。