2016/01/04 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区/ファルケの屋敷」にファルケさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール富裕地区/ファルケの屋敷」にツァリエルさんが現れました。
ファルケ > 夜。ファルケと名乗った魔術師が、王都の屋敷のひとつに黒い靄となって姿を現す。
靄が実体を取って広々とした寝室に着地したとき、その腕にはひとりの少年を抱えていた。
ヤルダバオートの地下に囚われていたところを救われた(?)少年修道士ツァリエルだった。

「それにしても災難だったな、君。
 改めて、わたしはファルケ。恵まれぬ少年少女を救う慈善家といったところだ。
 のちのちゆっくり話でもしようじゃあないか」

嘘とも真ともつかない調子で、ツァリエルを一瞥する。
身体中を侵した魔物のうち、脳に寄生した一匹だけは取り払ったあとだった。

「……は。こうして見ると、小汚いのが際立つな。
 どうせまたべたべたになるんだろうが……知らぬ男の匂いは不快だ。

 風呂にでも入ったらどうだね。ひとまず頭も冴えるだろう」

ファルケが寝室の扉へ目配せすると、間もなくメイドの女が寝室の扉を開き、姿を現す。
女と少女の合間のような、どことなく人形めいた無機質さを湛えた顔立ち。

「彼を綺麗にしてやってくれ。くれぐれもチェシャには近付けるなよ」

ツァリエルが拒まぬならば――屋敷の奥の白く艶めく浴場で、
同じように人形めいた顔立ちのメイドが数人、彼の身体を丁寧に洗い上げることだろう。
淫らに堕ち、乳を噴くツァリエルの様子にも動じず、清潔なチュニックを着せ付ける。
そうして再び、ファルケの待つ寝室まで。

ツァリエル > まるで魔法のようにあの薄暗い地下からこの屋敷まで運ばれてきてしまうと
本当は今自分は夢でも見ているのではないだろうかという気分になってしまう。
が、どうやらこれは現実らしいことを、ファルケの体温と自分の小汚さ、それから豪奢なカーペットを素足で触れたことでなんとなく知った。

「あのぅ……どうしてぼくを助けてくださったのでしょうか……?」

戸惑いがちにそう聞いては見るもののどうやらまずは風呂が先らしい。
見るも美しいメイドがツァリエルを先導して屋敷の奥の浴場に通し
そこで同じようなメイドの女たちにめいめい綺麗に洗い上げられる。
こんなに大勢の女性に体を触られたことはないし、綺麗で広い浴場に通されたことも無い。
大量の湯と香料、石鹸を使われたこともない。
見る見るうちにすっかりきれいになったが女性のほっそりした美しい手でなぜられた体は寄生生物の影響もあってか、湯上りのせいという以上に火照ってしまった。

身ぎれいに衣服を整えられて再びファルケの寝室まで通されると、もじもじと居心地悪そうに彼の前に立つ。

「あの、助けてくださってありがとうございました……。ぼくはツァリエルと申します……ファルケさん……」

ファルケ > 戸惑うツァリエルを尻目に、ファルケはただ笑い掛けるだけに留まった。
自分で話すと決めたタイミングのほかには口を開かぬ性質であるらしい。

いかにも金が有り余っていると見える贅沢な湯浴みのあとに、
上着を脱ぎ、アスコットタイを解いて襟元を寛げたファルケが寝室で出迎える。
ツァリエルを寝室まで案内したメイドを早々に下げさせると、
安楽椅子に座っていたファルケが相手の様相を上から下まで見分した。

「ほう、随分と綺麗になったな。
 まあ、まあ、疲れているだろう。まずは座り給え。
 よろしく、ツァリエル」

天蓋付の豪奢なベッドの前に置かれた、応接用のテーブルとソファ。
自分が座っている椅子と同じ形の、これまたふかふかとしたアームチェアのひとつへ座るように促す。

「いや、なに。君の修道院の近くの村で噂を聞いてな。
 見知らぬ神官の一団がやってきて、戸惑う君を連れ出したと云うじゃあないか。
 『知人』がそれに不穏を察し、わたしのもとへ相談にやって来たという訳だ――

 探りを入れてみれば、ほれ、案の定君が痛め付けられていた。
 この乱世とて、子どもが甚振られる道理はあるまいよ」

テーブルに置かれたランプの光が、互いの顔を仄明るく照らし出す。
肘掛けに腕を置いたファルケの低い声は、夜の空気にいやにとろとろと柔く溶けた。

ツァリエル > 借りてきた猫のように控えめに恐る恐るといった様子で勧められた椅子にちょこんと腰掛ける。
あまりにふかふかしていたために思わず沈み込んでびっくりして一度立ち、もう一度ゆっくりと座りなおした。

湯浴みで洗い清められたツァリエルは白金のつややかな髪がしっとりと濡れ、褐色の肌も血の気が通い、膝やひじ、頬が桃色に染まっている。

「『知人』……どなたかヤルダバオートにお知り合いがいらっしゃるのですね。
 ええと、それで……ファルケさんはぼくを助けてくださったのは、本当に慈善事業なのですか。
 それから……ファルケさんは、魔法使いなのですか?」

覚束ない記憶を集めながら、もごもごと口を動かす。
もしかしたら何か不興をかって自分もまた彼に芋虫にされて踏み潰されてしまうのではという疑念。

そして、あの地下で確かに自分の唇を食み性器に手を伸ばしたことだけは確かに覚えていて、
無意識に指先が唇を撫でた。

ファルケ > すわ椅子に芋虫でもひっついていたかと瞬くが、ツァリエルの様子に気付くとくすくすと笑う。

「各地に見知った顔が出来るくらいには、生きた時間も短くはないのさ。
 わたしは魔法でどこへでもゆけるが、この身はひとつきりしかないでな。
 各地の様子を活き活きと知れるのは、やはり人の縁あってこそだ。

 ……そう、魔法使い。
 魔法を使ってさまざまなことをするから、魔法使い。
 聞こえはよいが、実際は単なる道楽者だ」

低く笑って、ツァリエルの表情を、その指先を見遣る。

「もしやわたしが、『慈善事業家』『魔法使い』という名の奴隷商ではないかと疑っておるかね?
 それも仕様のないことだ。見知らぬ男に連れ出されたとあっては。

 ……先の地下牢では、不快な思いをさせたかね?
 生殺しは殺生と見えて、君の求めに応えたつもりだったが」

ファルケが目を細める。

「安心なさい。
 わたしは君に苦しみを与える真似などせんよ」

ランプの光が、ファルケの喉が紡ぐ音が、香の匂いが。
媚薬のように甘やかに、ツァリエルの鼻腔を侵してゆく。

「わたしは君ともっと仲良くなりたいだけさ、ツァリエル。
 ――“楽にしたまえ”」

ツァリエル > 笑われたことに恥じ入って俯きがちに深く座り直し真っ赤になって押し黙る。

「本当に、魔法使いでいらっしゃるのですね……。
 ぼく、魔法使いはほとんど見たことがなくて……その、びっくりしてしまって、すみません」

自分の疑問にきちんと答えてくれる様子にいくらか緊張を解いた。
が、ただこれまでの経験上なんとなくこのまま普通に教会へは戻してもらえそうにないということは判っていた。

「い、いえ不快とかじゃなくて、あの時は僕も随分と意識がその、朦朧としていたし……よくないこととか、
 たくさんして、考えが悪くなっていたので……。
 別にファルケさんが悪いわけではないです……」

助けてもらった上に行いを糾弾するのは失礼にあたると思って
慌てて詫びる様に顔を伏せる。
部屋に満ちたランプの光と、香の匂い、ファルケの言葉が少しずつ肺を満たして
だんだんと思考がうまくまとまらなくなってゆく。
とろんとやや眠たげな目をしたままやがてゆっくりと椅子にもたれかかった。

ファルケ > 「魔法使いは……わたしのように力をつまびらかに用いる者もいれば、タネ明かしを嫌う者も多くてな。
 君が考える以上に、案外珍しくはないものさ」

ツァリエルの言葉を聞きながら、穏やかに首を振る。

「人間のくせに魔に傾いていると、何かと世の道理に疎くなっていかん。
 わたしの無神経さは、この屋敷の者たちにも苦労を掛けているところであるからな」

言いながら、穏やかに笑って立ち上がる。
どことなく朦朧とした様子のツァリエルへ歩み寄り、その身体をそっと抱き上げる。
ファルケ自身の持つ気配が、触れ合ったツァリエルの奥に潜む魔物たちをいたずらに揺り起こすと知りながら。

そのまま横抱きの格好でベッドまで歩み、柔らかなシーツの上へツァリエルを横たえんとする。

「さあ……君は疲れているのさ、ツァリエル。
 君も早く自分の修道院へ帰りたいだろう?
 無論、帰してやるとも」

薄衣に覆われたツァリエルの首元へ、指先を滑らせる。

ツァリエル > 「魔に傾いている……」

ファルケの呟いた言葉を繰り返し、確かにあの力はどちらかといえば人間ではありえない、
魔のものの仕業ではあるが……見た目は普通の壮年の男であるファルケの顔をじっと見つめる。

軽々と抱き上げられると特に抵抗することもなく、だらりと手を下げたままうすらぼんやりとベッドまで運ばれた。

「あ……」

触れられた箇所からざわざわと自分の体の内側に巣食ったものがざわめきだすのを感じる。
内股を無意識にこすり、身悶える様にして体を揺するとはぁはぁと欲情したような吐息が漏れた。

「帰りたいです……お願い、帰して……」

せつなそうな声音と言葉とは裏腹にファルケの指へ自分から首元を差し出した。

ファルケ > 自らの顔を見つめるツァリエルを、その通りさ、とでも言いたげな顔で片眉を上げてみせる。
ひとつひとつの仕草は人好きがするものだというのに、ファルケという男は総じて胡散臭かった。

ブーツを脱ぎ、ツァリエルの隣に身を横たえる。
半身で身体を支える体勢で、ツァリエルの耳元へ顔を寄せた。

「そうだろう、そうだろうとも……知らぬ土地というのは不安になるものだ。
 だがツァリエル、夜は魔物の時間だよ。
 いま君の修道院へ戻ったとて、君を攫った悪い神官たちがどこに潜んでいるか判らない。
 だから今少し辛抱をして、お天道様が昇るのを待とうじゃないか。
 この屋敷には、君を傷付ける人間なんて居やしないのだから」

呪文を唱えるように、ツァリエルに囁き掛ける。
差し出されて露わになった首の薄い皮膚へ、そっと口付けを落とす。
それまで首元にあった手がするりと下りて、チュニックの薄地の裾の中へ忍び込んでゆく。

ツァリエル > もしかしたら自分はあの神官たちよりももっと恐ろしい魔物に攫われて今こんなところにいるのではないだろうかという
不安がよぎったがその心も今は魔法にとらわれてしまってすぐに霧散してしまう。

自分の傍に寝転んだファルケの言葉に子供のように頷いて
悪い魔物から身を守るように彼の胸の内にひしと縋り付く。

「怖いのはいやです……ここに一晩おかせてください……」

首筋にキスを落とされればそこから熱が伝わるような気がして身を震わせた。
ファルケの手が裾の中へと入れば、喜んでその衣服を肌蹴させる。
すでに火照った体は、胸からうっすらと乳をにじませ性器も柔らかくもたげ始めている。

ツァリエルからも求める様に相手の体に手を当て胸元を摩り、首筋にちゅうと吸いついた。

ファルケ > ファルケの灰色の瞳がランプのあえかな火を浴びて、小さく光っている。
柔和に微笑む顔が、ツァリエルの言葉を聞き届け、優しく丸呑みにしてゆく。

「嫌なことなど忘れてしまえ、ツァリエル。
 人の世の夜は怖い、だが昼間だって怖い。
 ならばわたしは、この晩限り――君の支えとなってやろうじゃないか」

内股を撫で上げる。その両足を緩く広げさせ、手の中に性器を握り込む。
柔らかく上下に扱いて捏ね上げながら、ツァリエルに身を寄せる。
近くなった身体を抱き止めると、互いの体温が熱となって籠もるのが判る。

「君のように無垢な子どもを、無碍に扱うとは何とも悪い奴らだ。
 わたしは君の望まぬことはせんよ。君のしたいように過ごすがいい」

首筋に吸い付かれて、心地良さそうに息を吐いた。
ツァリエルの深い口付けへの返礼めいて、その唇を塞ぐ。
ファルケの舌先が、相手の唇を優しく擽る。

ツァリエル > ファルケの大きな手がツァリエルのそれを優しく握りこみ緩く刺激すれば
シーツをかき乱してツァリエルはよがる。
自然と股を大きく開き、手のひらの動きに合わせて腰をゆらめかせる。

敏感な器官に巣食う魔物たちが一斉に目覚め与えられる刺激を何倍にも高めてツァリエルを乱れさせようと動き始めた。

「は、ぁ……やぁっ……こわい……あぁ、こわいです……ファルケさま……」

自分の中でざわめくものが熱を煽っていくことこそが恐ろしいと言わんばかりにぽろぽろと涙を零す。
ファルケに唇を塞がれればその舌先に導かれるようにして口を薄く開き自分の舌を絡めた。

嫌なことなど忘れてしまえと囁かれ、さらに思考が煙っていく。
人の世は怖い、昼も夜もなくツァリエルには自分からでなくともどうにも悪い何かが忍び寄る。
この人の内に沈み込んでしまえば本当に安穏と過ごせるのではないだろうかと思い始めるが
『この晩限り』の言葉にはっと我に返った。

甘い言葉は確かにうれしかったが、ずっとは置いては貰えまい。
それに嫌なことを忘れたとて戻る先が現世ならば再び嫌なことは巡ってくる。
そして嫌なことばかりの現世だったかといえば……そうではない。
ふいに茶色の三つ編みをした少年の姿を思い起こした。

「だ、だめです……忘れちゃダメなことも……ありました」

そっと口を離すと相手の胸を柔らかく押し返す。
とはいえ一度火がついたあとの抵抗では弱弱しいものだった。

ファルケ > ツァリエル自身の体液を指先に搦め、その性器を刺激する。
彼の中で魔物が目を醒まし蠢き始めるのを、肌の上から透かすように見つめる。

子どもを甘やかし宥める様に似て、肩を優しく擦り、涙ながらに呼ぶ声に応え、口付けを落とす。
それでいて下肢へ伸びた手は、淫らな男娼を弄ぶようにツァリエルを容赦なく煽り立てた。

――不意にはっとしたツァリエルの顔を近くに見ながら、ほう、と囁く。

「……忘れちゃダメなこと?
 何だね、わたしにも聞かせてくれるか?」

愉快そうに微笑み、陰茎を扱いていた手を止める。
それでいて一度灯った身体の火を絶やさぬように、熱の籠もった手のひらで握り込んだままに。

ツァリエル > うつろだった瞳にわずかに光がともる。
その眼がファルケから視線をそらし居心地が悪そうにさまよい始める。
隠し事が苦手なツァリエルの顔から誰か別のものを思っていることは明白だった。

疼く体を押さえつけて我慢し、ファルケの巧みな導きに息も絶え絶えになりながらも弱く首を振った。

「……い、言えません……。大事なことだから……」

それからは顔を両手で覆いすすり泣いて、ファルケへ縋り付くことはしなかった。
ただ体だけがびくびくと痙攣し熱のやりどころがないままひどく苦しい。

ファルケ > ツァリエルの瞳が自我の光を取り戻したことに、愉しげにくつくつと笑う。

「そうか、誰ぞ操を立てた相手が居るのか。
 それでは、いたずらにこのわたしが君を弄ぶ訳にもいかないな」

体液に塗れてぬるりと粘つく手を広げ、ぱ、と性器を開放する。
ツァリエルの身体からも手を放し、ベッドの上で肘を突いて上体を支える。

「ならば君を知らぬ男の閨で泣かせ、その可愛い一物を放り出しておくのも酷というものだろう」

濡れていない方の手を伸ばし、ツァリエルの瞼を優しく塞ぐ。
目を開いた次の瞬間には――

まぼろしのヴェールが、ツァリエルの視界を、心を、靄のように包み込む。

もはやそこがファルケの邸宅であることも忘れて、ただ柔らかく心地のよいベッドの上。
果たして、そこはどこのお屋敷だったろう?

そうしてツァリエルの目の前に横たわるその姿は――



彼が心に思い描いた人物の姿に他ならない。



そのまぼろしの人物は、ツァリエルの描いた声と文法で、ツァリエルが望んだとおりの語調で囁くだろう。

『わたしの名を呼べ』と。

ツァリエル > 「操だなんて……そういうものじゃあ……」

否定しようと口を開くが(だって相手は男だし)ファルケの手が自分から離れ
もう一度瞼を閉ざされればおとなしくそれに従う。
次に目を開いたときには壮年の男の姿はなく、そこには茶色い髪を三つ編みに結った白皙の美少年が赤い目を向けこちらを見ている。
いつものにやにやと相手を小ばかにしたような薄ら笑いをした彼を見て、あっと声を上げた。

「ヴァ、ヴァイルさん……」

何故彼がこんなところにいるのか、そもそものことの前後があいまいになってしまってよく思い出せないが
今ベッドで無防備な姿をさらしてしまっている自分にひどく気まずい思いを抱いて
慌ててシーツを引っ張って自分の体を隠そうとする。

ファルケ > 現実のファルケの喉奥で、ふうん、という声が呑み込まれる。

ヴァイル。ヴァ・イ・ル、
それだけにおいては未だ無個性な響き。

Weil ―― Weill ――あるいは Weyl 。

いずれにせよ――『 Vile(ness) 』。

ツァリエルが視界にいかなる人物の像を結んだのか、ファルケには知る由もない。
ヴァイルと呼ばれたその人物と、どのような関係であるのかも。

シーツで身体を覆い隠したツァリエルの姿に、独りほくそ笑む。
ファルケがツァリエルへ手を伸べると、彼の視界に結ばれたヴァイルという人物もまた、その手を伸ばす。

『悪い夢を見ていたらしいな。――ゆっくり休め』。

その優しい言葉もまた、ツァリエルだけが知る声となって鼓膜を揺らすはずだ。
まぼろしの“ヴァイル”は、ツァリエルの身体を組み敷くようなことはしなかった。

茫漠とした視界の中から伸べられた手が、ツァリエルの肩を撫でる。
“ヴァイル”が持つ手のひらの熱(または冷ややかさ)が、相手を眠りの世界へ引きずり込んでゆくだろう。

ツァリエル > 現実のファルケがほくそ笑むのと同時にツァリエルの中に結ばれた像のヴァイルもまたにやりと笑みを深めた。
だが、それが普段の彼とそう大差ない動きであれば特に違和感を覚えることも無い。
伸ばされた手に恥ずかしそうに自分も手を伸ばしてお互いの指を絡める。
魔性の一族である彼の体温は相変わらず冷やかで、それは幻の中でもツァリエルにはそう感じられた。

「……はい、ありがとう……」

撫でられた肩に安堵して身を横たえると瞼を閉じる。
昨日の今日でひどく疲れていたこともあってかすぐにすやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。
もう何をされてもちょっとやそっとでは起きる気配もないだろう。

ファルケ > 「…………、おや」

幸せそうなツァリエルの顔。
“ヴァイル”の指が絡められると同時、ファルケもまた手を繋がれた。
しばらくの間、眠りに落ちてゆく少年の顔を見下ろす。

『……仕方のない奴だ。おやすみ、ツァリエル』。

その声と、ツァリエルが眠りに就いたのは同時だった。
相手がそう簡単には起きないであろうことを確かめてから、ゆっくりと手を離す。
無為にベッドを揺らさぬように床へ降りて、大儀そうに首を掻いた。

「……やれやれ、次は『ヴァイル』か。
 まったく取り合いの多い玩具だな」

聞く者のない呟きを残し、ほんの目配せで部屋のランプを消す。

「今日のところは……ひとまずここまでとするか。
 また会おう、――『王子様』」



――ファルケが寝室を出ると、先ほどのメイドが間を置かずに姿を現す。

「ヘレボルスを呼べ。切り刻んでやるわ」

眉間の皺が、ファルケの不快を現していた。
ファルケに呼ばれた私兵が、どのような顛末を辿ったかはさておき――



次にツァリエルが目を醒ますのは、変わらずファルケの邸宅の寝室だ。
“ヴァイル”の気配は露と消え、あとには夢物語のような余韻が残るばかり。

そんな早朝、豪奢なつくりの馬車がツァリエルを迎えにやってくる。
話によれば、ファルケとも異なる『さる高名な貴族』が、ツァリエルの身元を一時的に保証した――と。

果たして戻った先でどのような生活が待っているかは知れないが。
そうして表面上は形ばかり、ツァリエルの暮らしの舞台は再び修道院へ戻る。
あの魔物と淫紋とは、身体の中に残されたまま。

――ファルケにツァリエルの相談を持ち込んだ『知人』の存在だけは、杳として知れないままだった。

ご案内:「王都マグメール富裕地区/ファルケの屋敷」からファルケさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール富裕地区/ファルケの屋敷」からツァリエルさんが去りました。