2015/10/18 のログ
■チェシャ > 主人の分厚い手が自身の肌を滑って行くのに、心地よさそうに目を細める。
あの男とは何もかも違う感触に自然と喜びと快楽がわき出て尾がゆらめく。
ファルケの言葉に少しだけ静かに押し黙り、長い睫を伏せた。
主人の心は確かにチェシャを止まり木にしてよって立っている。
だがそのことが少しだけ気にかかるのだ。
間諜めいた仕事だ、いついかなる時に自身の命が失われることになるか知れたものではない。
ただ生き恥をさらしてでも主人の元に帰る覚悟はできているが、それも出来ぬほど追いつめられついに命を奪われた時、
自分を失った主人はどうなってしまうのか。それだけがとても恐ろしかった。
出来ることならこんな奴隷の命一つで聡明なファルケが心を煩わせることなどないほうがよいのだが、それと同時にこの主人の心を独り占めしたいという後ろ暗い思いもある。
矛盾した想いを抱えたまま、じっと主人を抱きしめた。
許可が下りればするりと身を離し、衣服の乱れを整えて部屋の出入り口へと歩く。
出る際に主人へと頭を下げ
「すぐに戻ります。しばしお待ちを」
そうして音も立てずに扉の向こうへと消え去った。
メイドに寝室の支度を整えるように言づけると、自分は浴場へ。
時間を惜しむように歩きながらタイをほどき衣服を脱ぎ捨てる。
宣言した通り、さほど時間をおかずにチェシャはファルケの待つ寝室へと現れた。
薄絹の夜着をまとって主人の待つベッドに猫のように身を滑らすとそこから先は待たせた分だけしっかりと奉仕に努めた。
ことがすっかり済めばファルケを抱き、その安眠を守るように傍にひかえるだろう。
ご案内:「富裕地区/ファルケ邸」からチェシャさんが去りました。
■ファルケ > (ファルケの本心は、常に少ない言葉で語られた。
チェシャの憂いを慰めるような台詞は、何一つ出て来はしない。
身体が離れた後には、チェシャの身体からもファルケの残した体温が容易く薄らいでゆく。
――やがて部屋に独り残され、一息つく。
目を伏せて徐に立ち上がり、居間を後にする。
チェシャから支度を命じられたメイドは、いとも手早く務めをこなしてみせる。
この屋敷には、有能な者しか必要とされない。
誰しもがファルケに拾われ、飼われ、雇われた人間ばかりだった。
ファルケの歩いた後には、不可視の魔力が波紋のように浅く波打った。
彼の閨においては、世のいかなる煩も薄らいでは融け消えた。
間もなく現れたチェシャの身体を、ファルケの腕が、無数の影が絡め取って抱き竦める。
エフライムと呼ばれる魔術師は、そうして永きを過ごしてきた――
今やただ従者の気配のみを、深い眠りへの導きとして)
ご案内:「富裕地区/ファルケ邸」からファルケさんが去りました。