2023/07/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にラディエルさんが現れました。
ラディエル > ―――――目覚めたとき、館に人の気配は無かった。

管理人だとかいう爺さんが居たと思うが、こっそり歩き回ってみた限り、
本当に誰の気配も感じられず、逃げ出すのなら今だ、と、全ての条件が告げていた。
ここに連れて来られる前、着ていたもの、持っていたものは何も見当たらず、
そもそもあの服は多分着られない。
仕方なく、ここで着せられたドレス姿のまま、踵の高い靴は足が痛むばかりなので、
仕方なく素足で、そろりそろりと屋敷を抜け出して。

数分後、がさがさと草叢を掻き分け、見つけたのは塀の裂け目。
野良猫でも出入りしているのだろうか、かなり細い裂け目だけれど、
今の躰ならば、あるいは、と地面に這い―――――

「っ、―――――… く、っ、んん、ん………!」

更に数分後、見事に裂け目に嵌まり込み、進退窮まる小娘の姿がそこに在った。
細く縊れた腰のところでがっちりと、裂け目に躰を食まれたまま。
外へ進み出ようにも、内へ戻ろうにも、もう、ビクともしない。

いっそドレスなど脱いでしまうべきだったか、そんなことを考えても後の祭り。
とにかく、家人が戻ってくる前に、街路へ抜け出してしまえれば、
こちらのものなのだ、と、顔を顰め、塀に手をつき、身を乗り出し、
んんん、と伸び上がっては脱力する、その繰り返しだった。

ラディエル > 「ん、ぐ、――――――――― っ、ぅ、く、んっ……!!」

ぞりっ―――――ざり、ざりざりざりっ。

上等な繊維が引き千切られる音が聞こえたが、構ってはいられない。
何としてでも這い出てやる、という気合いでもって、
嵌まり込んでいた場所から抜け出した時、既に辺りは日暮れ間近。
しかもどす黒い雲が空を覆い、夕立でも来るのではないかという有り様。
取り敢えず這い出してはみたものの、ここがどの辺りなのだか、
何処へ向かうのが正解なのだか、何ひとつ解らなかった。

しかし、兎に角、これで自由の身である。
それが一番重要であろう、と一人頷き、埃塗れ、かぎ裂きだらけのドレスを纏った小娘は、
素足で石畳を歩き始めた―――――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からラディエルさんが去りました。