2023/04/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にファラさんが現れました。
■ファラ > 「大丈夫、……大丈夫、しっかり、しなくては」
お仕事ですもの――――。
もう何度目か知れない独白とともに洩らす吐息は、不自然に熱く、甘い香りを纏う。
お仕着せのメイド服に押し込めた躰が、ともすればぐずぐずと崩れ落ちそうだった。
今宵、主の屋敷では夜会が催されているけれど、女の仕事は別にあった。
賑やかな宴の場を離れ、丸い蓋をした銀盆をワゴンに乗せて、
主一家の居室、そして客間の並ぶ一角へ足を踏み入れ、
そのうちの一室の前で、押してきたワゴンと足を止める。
ともすれば潤んで翳みそうになる視界を、忙しない瞬きで誤魔化し。
目の前の扉を、緩く握り込んだこぶしでそっと叩き―――――
「お待たせ致しました、御酒を、お持ち致しました。
……開けても、よろしいでしょうか?」
今宵、女の仕事はこの扉の向こうに居る誰かを接待すること。
ナイトキャップとして酒を運んで来た、というのは表向き―――――
銀盆の上、何が用意されているかさえ、女は知らない。
これを運ぶだけで、役目が終わるものかさえ、今は。
不調の原因は恐らく、厨房で手渡され、急かされるように口にしたグラスの中身。
それが何であるのかも、女には、知る由も無いのだった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にルヴィエラさんが現れました。
■ルヴィエラ > (接待、特に夜会が開かれて居ると言うのに
其れとはまた個別に持て成したい客人が居る、と言うのなら
つまるところ、其れが館の主にとって、より有益な相手と言う事に他ならない
叩かれた扉の向こう、僅かな間を置いて、声は響く
何処か中性的な、されど娘にとっては少々、脳裏へと這入り込む様に甘く響くだろう声で。)
「―――――開いて居るよ、入って来ておくれ。」
(館の主の意図や目的が、果たして目論見通りに働く保証はない
だが、何れにしても。 事は既に始まり、女は部屋へと訪れた
扉を開き、其の中へと足を踏み入れたなら、其の後は
きっと、其の先を知る者は、二人以外には居らぬだろう
ぱたりと、扉が閉ざされた後には――無機質で、異様な程の静寂が、包む筈だ)。
■ファラ > その声は、女の鼓膜を甘く揺らすだけに留まらず。
緩く結い上げ、僅かにほつれた髪筋の合間から、無防備に覗く白い耳朶にも、
更に不可思議なことには、女のもっと深いところ、熱に浮かされつつある頭の芯を、
あるいは躰の最も深い部分を―――――ぞろりと擽り、ざわつかせた。
「かしこまり、ました……… 失礼、致しま、…… す」
嗚呼、もう、声の調子までがおかしい。
取り繕う術も見出せず、掠れ上擦った声を返しながら、
女は扉を押し開き、その向こうへとワゴンを押して行った。
か細い靴音が、絨毯に吸われたせいではなく、不自然に掻き消される。
お仕着せ姿の女と、その白い手が押す銀色のワゴンを呑んで、扉が閉ざされ―――――
静寂。
あまりにも深く、濃密な静けさが、辺りを満たす。
閉じた扉の奥の何もかもが、その静寂の中に呑まれて―――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からルヴィエラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からファラさんが去りました。