2022/11/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にファラさんが現れました。
■ファラ > 「きゃあああ、っ……!!」
とある邸宅の一階、広々とした応接間に響く、鋭い破砕音。
それに被さるようにして、高く震えた悲鳴が轟いた。
明らかに金のかかっている調度品が並ぶキャビネットの上、
不自然に空いた空間の、ちょうど真正面に立ち竦む、メイド姿の女。
茫然と見下ろすその足許には、無惨に砕け散った陶器の欠片たち。
そして女の右手には、乾拭き用の布が一枚、所在無げに握られていた。
「あ、あぁ、どう、しまょう……困ったわ、
これ、きっと、お高い、のでしょうに………」
左手を頬に宛がい、途方に暮れたように呟く女は、この邸宅の臨時雇いである。
どうしましょう、と眉を寄せているわりに、表情はどこか呑気そうで、
動作もゆるゆると、いささか鈍そうに。
ぼんやりと虚空を泳ぐ右手など、そのままもうひとつふたつ、
キャビネットの上のものを薙ぎ落としてしまいそうだった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に紫苑さんが現れました。
■紫苑 >
色々と自分に都合が良いので調査という事にして遊びに来るこの王都。そんな王都に自身の住居等無い。しかし家がないというのも困るのでこうして気に入った家の主人に自身が知り合いであるという錯覚を植え付けて勝手に家を拝借する事はよくある。
つまり今回この家にいたのは完全な偶然である。
「……ふむ」
そんな屋敷。向こうから聞こえた金切り声。普通の人ならば聞き漏らしていたかもしれないが、生憎として魔王としての1角でもある自分はその程度は簡単に聞き取ってしまう。
面白い事になるかもしれない。そう思いそっちに足を運ぶ。
結果としてそれは大正解であった。からかいがいのある状況が目の前には広がっていた。
「随分と派手にやったな」
先ずそういって声をかける。声をかけるのは様子を見てこの方が面白そうだったから。急に声をかければ今にも落ちそうないくつかの陶器を落とすのではないかと。
そんな彼の表情はパッと見の様子としては人当たりのよさそうにも見えるが、薄い狐っぽい目だけは少しだけ表情を読めなくさせているかもしれない。
■ファラ > 屋敷の主人の顔と名前、その程度はさすがに認識している。
けれど、修道院から都度派遣される身である女は、
家人の全てを把握している訳でもなく、客人であればなおのこと、
――――――ともあれ、背後から不意に声を掛けられれば。
女はまんまと男の目論見通り、弾かれたように振り返るついで、
横薙ぎにした右手で、キャビネットの上のものを払い落としてしまう。
「ぇ、――――――――― あ、あああ、っ!!」
黄金細工の置時計、女神を模したという華奢な彫像、色鮮やかな紋様の描かれた異国風の器。
それら全てがきれいに薙ぎ払われ、けたたましい音を立てて転がり落ち、
絨毯敷きの床の上は、瞬く間に地獄絵図と化す。
その中心に佇む女の顔は、それでもやはり、どこかのんびりと、戸惑うように。
足許の惨状と、声の主たる男の顔とを、交互に見比べて、
「まぁ、まぁ、どうしましょう……
わたくし、ああ、とんだことを………」
艶やかな唇を微かに窄め、悩ましげに溜め息を吐く。
左手は頬に宛がった侭、右手は布ごと、すっかり綺麗になったキャビネットの上に乗せられて。
■紫苑 >
「ふぅ、まったく……怪我はないか?」
いきなり迫っても警戒をさせるだけ、まずは身を案じる言葉を吐きながらそちらにゆっくりと迫る。
後ろ手にとりあえず扉を閉める。
「とりあえずこれを始末するとしよう。大きな破片は私が拾う。その布で細かな破片を拭きとってしまえ」
そういえばしゃがみこみ、大きな破片を手に掴んでいく。
破片を拾いながらそちらに背中越しに声をかけた。
「ここのメイドか? 前にここに来た時にはいなかったが」
実際始めてみる顔なのは間違いない。相手の立場等を聞く為にまずはそう質問する。
そうしながらもテキパキと破片だけは拾い上げていく。
■ファラ > 「怪我、…―――――― あ、いえ、どこも、わたくしは」
そう問われると、反射めいた動きで己が手許を見遣り、
微笑んで頭を振ってみせる、その仕草もそこはかとなくおっとり気味で。
本来であれば、客人に掃除の手伝いなどさせてはならない筈だが、
女はぱっと表情を綻ばせ、しゃがみこむ男を見下ろしながらに、
「まぁ、ご親切に、ありがとうございます……、
――――― えぇ、はい、そう、ですの、わたくし、こちらのお屋敷には、
つい、一週間ほど前からお世話になっておりますの」
やや遅れて屈み込み、乾拭きの布を使おうとするけれども。
話しかけられれば答える方に意識が向いて、手許は完全に御留守になる。
「……と、申しましても、わたくし、こちらには派遣された身ですの。
わたくし、本当は修道院にご奉仕している者で、
……メイドのお仕事も、ご奉仕活動の一環です、の、――――― ぁ!」
―――――不器用もここに極まれり。
床に残っていた小さな破片で、右手の人差し指に切り傷を作る始末だ。
■紫苑 >
「……今怪我が増えたようだな」
何をやぅていると肩をすくめて見せる。
とりあえず大きな破片を取り終え、小さな破片もある程度は始末を始める。
「それにしても雇われのメイドか。こんなことをしてしまっては大変だろう。ここの仕事だけではなく他の所にも回してもらえるかわからなくなるぞ……これでよし。手を見せろ」
と相手を動揺させるための言葉を告げる、そして細かい破片の始末をある程度終えて立ち上がる。
そして手を見せてみろと言ってそっちに手を差し出した。
「破片などが刺さっていては事だろう。自分で見ろといいたいが……貴女の場合少し心配だ」
色々と抜けている所があるとは口には出して言わないが、そんなニュアンスでそういう。
だが実際は近くに寄せる為の甘言でもあるわけで。
■ファラ > 「――――――… はい、たった、今」
白く細い指先を伝う、鮮やかな紅のひと筋。
それをじっと見つめて、また、そっと溜め息を洩らす。
もう、自らの手で片づけをする事は完全に諦めたようで、
ふわりとお仕着せの裾を広げて座り込んだ体勢の侭、
男の作業をぼんやりと見守るばかりに。
「お恥ずかしい話ですけれど、わたくし、初日から失敗続きですの。
でも、こちらの御主人様はとてもお優しくて……、
いつも、怪我はしなかったか、とわたくしのことを、真っ先にご心配下さいますの。
一昨日も、おやすみの前にわざわざ、わたくしの部屋までお越し下さって……
――――― あら、ありがとうございます」
――――――一昨日、その先の記憶が、実は曖昧である。
しかし、記憶が時折途絶えていることなど、この女には珍しくもなかった。
特段、そこに疑問を抱く風も無く―――――差し伸べられた手を疑いもせず、
す、と右手を預けながら立ち上がる。
■紫苑 >
主人の優しさを語ればわかるともと力強くうなずく。
「ああ、よく知っているとも。ここの主人とは友人と言える関係でな」
と、主人に植え付けた設定を語る。
実際はそんな関係等はないし、ここの主人が持っているであろう記憶は全て本来は存在しない記憶。
そして手を見れば傷口をしっかりと見て。
「ふむ、幸い深い傷ではないみたいだな」
と懐から布を取り出してそれをクルッと簡単に巻き付ける。
「これで良しと……さて、だがこれは少し不味いぞ。奴はここの品を大事にしていてな……あれなどまさにそうだ。前に私が送ったシェンヤンの皿でな、皇帝も使うという一品だ」
先ほど集めた大きな破片。その中のひとつを指指す。実際にシェンヤン地方の由来の品ではあるがプレゼントした品ではない。ただ単にそういう事にした品物というだけだ。
しかしさも残念そうにやれやれと肩をすくめて見せて。
「その優しい主人……嫌われたくはないだろう。私ならば問題ないように取り持ってやるが、どうする?」
と真正面から目を見つめ、問いかける。
洗脳を仕掛ける事もおもったが、流れる血からどこか奇妙な点を感じ取りそれを止める。もし効きが悪い等が起こった時、折角見つけた活動拠点を失う事につながるから。
それに、するまでも無く落とす手段はある。
「無論タダでとは言わん。相応に誠意を見せてもらう事になる。金は無理だろうからその分別の形で払ってもらう事になるが……」
■ファラ > 右手を預けて立ち上がり、そこでようやく、男の風体が異国風であると気づく。
例えていうなら、王都でもちらほら見かける、帝国の者に近いような。
主の友人、大切な客人である筈の人物に、傷の検分と手当てなど、
きっと本当なら、させるべきではないところだが。
「お友達、ですの、………本当にどうも、ご親切に。
―――――――あら、まぁ……まぁ、それは、困りましたわ……」
帝国由来の品だなどと言われても、もう、どんな形状の品だったか、
女はそれすら覚えていない有り様。
ただ、集め片付けられた色とりどりの破片を見つめ、困りました、と溜め息を吐くばかり。
指先に布を巻き付けられた右手を、未だ、男に預けた侭、
眉尻を下げた呑気な困り顔で、形ばかりは物思わしげに俯き。
「………嫌われる、だなんて、……御主人様は、そんな、狭量な方ではございませんわ。
でも、あの方の悲しむ顔は、わたくし、見たくありません」
ちら、と顔を上げて、正面から視線が絡む。
心なしか、潤みを増したような双眸を、鈍く瞬かせながら、
「でも………わたくし、お金の代わりになるようなもの、
何ひとつ、持っておりませんわ。
身寄りも御座いませんし、……家名も、喪われて久しい、ですし」
惚けているのかと疑われそうであるが、修道院育ちの女は大まじめだった。
■紫苑 >
「狭量ではないか、ふふどうだろうな。まだ一週間だろう? 全てを知ったつもりになるには早すぎると思うが。まぁ悲しむのは確実だろうな」
あいつはここの品を大事にしていたからなと言いながらと手を離す。
「金の代わりになる物ならば持っているだろう、私は君に興味がある……どうだ、今夜にでも1晩を共にしてくれるというのなら今回の事は上手く流してやろうまずは手付金代わりとして……」
薄い狐のような目が僅かだが先ほどまでよりも開く。
眼の奥の灰色の瞳は怪しく瞬く。ある意味で綺麗な濁り切った瞳。
「手か口で、1度遊んでもらおうか。その程度ならばここでも時間はかからんだろう?」
するりと帯を緩める。少し開けばすぐにでも自信の陰部は曝け出せるそのような状態にして。
選ぶのはどちらでも好きにすればいいというように。
断るのならばそのまま締め直すだけだし。受け入れるのならばそのまま彼女に任せる。そういわんと待つ。
■ファラ > 「――――――――……」
曖昧な微笑を浮かべることの多い女の顔が、憂いに沈む。
女の記憶にある限りは、とても優しい主なのだ。
悲しむ顔を見たくはない、―――――だが、しかし。
ひと晩を共に、と告げられて、その意味に思い至らないほど子供ではない、ので。
女は分かり易く頬を染め、汚らわしいものを見るような目で、男を見据えて。
「―――――――― わ、たくし、そんな……そんな、こと、」
心根の持ちようは、未だ、敬虔な修道女なのだ。
己の不始末を誤魔化す為に、娼婦の真似事をするなど――――、
とても、とても、正気の沙汰とは思えない。
女は一歩、キャビネットに背中をぶつけながら、もう一歩。
ぎこちなく後退って、男から距離を取り、
「………御主人様には、わたくし、自分でお詫び致しますわ。
どうぞ、わたくしのことは……もう、お捨て置き下さいまし」
硬い表情、強張った声音。
女は儀礼的に頭を下げ、閉ざされた扉の許へ小走りに向かう。
正気を保った侭の女には、到底、男の提案を受け容れられず。
辞去の挨拶もそこそこに、部屋を後にし――――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からファラさんが去りました。
■紫苑 >
「そうか、それは残念だ」
断るのではあればしかたがないというように帯を締め直す。
無理やる襲うような真似は今はしない、それもまた一興だ。
「許してもらえると良いな。一応そうなる事を願っておこう」
そのまま彼女を見送る。
その後許しが出たか出ないか。それはわからない。ただこの家には時折この男は厄介になりに来る事だろう。
ここの主にはそういう認識を仕込んであるのだから。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から紫苑さんが去りました。