2022/06/20 のログ
ラファル > 「うん、できるよ。」

 真顔になる師匠に、少女はうん、と、もう一度頷いて見せた。
 魔術、と言う物は人にできない事さえも出来るようになるのである。
 できないことは、出来るようになるのが、魔術と言う物なのだと。

 人間の姿になるからこそ、人に紛れる事が出来るという物だ。
 逆に言えば、猫になり、まぎれる事が出来るなら、猫になる、それは、忍びの考え方に通じるものがあるはずだ。

「大丈夫だよ、此処は、ちゃんと、マグメール、だから。
 師匠が、それを飲みたいなら、一寸取ってくるし?」

 茶の湯、と言うのが一瞬判らなかった。
 幼女にとって、ドラゴンにとって、風の竜にとって―――ここから、師匠の故郷は、遠い場所ではない。
 一寸お買い物行ってくる、と言う程度で買ってこれるような場所なのである。
 それは、大人の竜であれば、なおさらなので、ドラゴン急便を使えば、飲みに戻ってくるとかもできるのである。
 本当に、人々の苦労があり、時間をかけて運んでの値段を考えると。
 ラファル達、ドラゴン急便の速度や安全性などで、良いものを新鮮なまま安く。
 それで、値段を崩さないように、他と同じ値段とすれば、自然と溜まるものなのだ。
 だから、実は資産以上にと言う所も、有る。

 茶の湯―――抹茶までは、知らなかった。
 が、知らなければ、学べばいい、取ってくると言うのも、すこし物騒な意味になりそうだ。

「わ……ぁ」

 布の解説をしながら開いていく師匠。
 それを聞きながら、開かれる包から出てくるのは、刀と同じような、もの。
 同じようなと言っても意匠は違う。
 同じ形、兄弟刀、姉妹刀どういえばいいのだろうか、同じ系列で、長さの違う刀と言う意味を伝えたい。
 それがあったから、差し出された短刀の柄を、確り、と握る。
 そして、刀身を、全体を、矯めつ眇めつ眺めまわす。

影時 > 「さよか。気にならンわけじゃないが、今のままがいいな」

変幻の術はないとは言えないが、自由度はやはり、人ならざるものには劣る気がする。
変化よりも変装の方が慣れている。術に頼りだすのは、師にとっては“余程”のケースといってもいい。
猫になりきった姿を一度見てみたくはあるが、愛でやすいかと言うと、やはり見慣れた姿に軍配が上がろう。

「そりゃァわかっている。
 だが、旅先で知ったものがひょいひょい――と云うには、語弊があるが、気軽に出てくるのはな。
 脅威と驚異に満ちた感覚になるのさ」

世界とは翼あるもの、音よりも早く飛べるものには、存外狭いのかもしれない。
故郷を捨てて、海を渡り、大地を歩き、進んできた旅人の端くれとしては、驚愕と共に感慨に耽るものがある。
例えば、呑みなれた酒と同じものを呑みたいとなれば、舶来品に頼ることになる。
しかも、船旅という保存状態に危うさのある運搬方法にかかると、味が変わっている可能性だってありうる。
それを飛ぶことで、一気に運べる数に限りがあっても、変質の可能性を避けられる。結果、付随する価値は如何ほどのものか。
チャノユ、という音の響きに対する反応に、あとで改めて教えようと心に決めて。

「説明書きがあるそうだが、……これか。命名:コンゴウジン、金、剛、刃か。成程。あれがこうなるか」

弟子に渡した短刀は、引き抜くとそれだけで異様さが良く分かる。
刃が分厚いのだ。似たような寸法の短剣の類はいくらでもあるが、並べてみるとその厚さが嫌でも目立つ。
それを磨き上げられた金剛石の如く、冷たく輝く半透明の材質が形作っている。
鎧の継ぎ目を貫き、抉るという強い意志さえ見える「鎧通し」なる造りの短刀だ。それが二つ。
もう片方の短刀の包みを解き、ゆっくりと刃を引き抜く。陽光に翳せば、折り返し鍛錬が作り上げた刃金の模様が透けて見える。
この手の得物は鍔をつけた例が少ないそうだが、深く刺した際のストッパーをかねて、敢えて小さいが鍔も要求通りに付いている。

実用は兎も角、その出来栄えを確かめた後、刃を戻して鞘ごと腰帯に差す。
そして、箱の底に残った封筒を取り出し、中身の数枚の便箋に目を通す。いろいろ書かれているな、と思わず零しながら。

ラファル > 「あーい。必要な時以外は、変わらないよっ。」

 一応、ラファルは人竜だ、本来の姿と言うのであれば、竜の翼も、尻尾も、鱗もある姿だ。
 今の人の姿と言うのは、人の姿に変身をしている姿に過ぎないのだ。
 だから、師匠の様に、術で身を変えると言う事に抵抗とか、余程と言う事ではなく、日常と言える。
 その、変身の上から、変装さえするのが、ラファルだ。
 視てみたいと言うならば、猫の姿になるのも、厭う事はないが、必要に応じて、と言う事になる。

「ふふ、それが、人の望みのうち一つ、だろうしね?
 此処では無い物を食べたり、此処では無い所に、直ぐに行きたい、とかねー。」

 海で、馬車で移動するに比べて、飛行するという事は早く、直線で動けるから、直ぐに到着する。
 そう言う意味で言うなら、旅行と言う物に関しては―――感慨が薄くなってしまうのかも知れない。
 若しくは、遥か長い距離を移動して初めて旅行と言う認識になるのやもしれぬ。
 旅行に関してはこんな違いがあって。
 料理などに関しては、食材に関しては、その通りに、新鮮なままと言う事に、とても、とても、価値が出てくるだろう。
 新鮮な食材を、腕のいい料理人が作る、其れのおいしさを考えれば。
 価値はとても、とても、高くなるのだ。

「説明書き。
 これ、爪の代わりに、とても良いね。」

 ラファルにとっての武器は、己の爪や牙の代わりだ。
 竜の姿を取って戦う事が出来れば良いが、場所が限られる。
 しかし、こう言う武器があれば、それこそ、竜の姿でなくても、爪や牙の様に切り裂ける。
 半透明の刃を、すけるそれを眺めて、柄を握り、何度か自分の手似合うかどうかを調べるように握って。
 ひゅ、ひゅ、と素振りして。
 元のさやに戻して、腰に挿し直して。

「金剛刃。
 封護と違って、お伺いしなくても使えて、使いやすいね!」

 にっこり笑って言った瞬間、ぴきーんと震える。
 封護が、文句を言ったかのようで、ラファルん冷や汗。

影時 > 「ああ、そうしてくれると有難ぇ。
 着替えるようにひょいひょいと姿を変える手合いに覚えがないワケじゃぁないが、見破るも大変だったな……」

同じ里ではないが同業者、あるいは敵にそうした変化術の達人が居た。
氣を読み、見切る術を会得している己であっても、いざ遭遇した時の対処が非常に大変だった。
一番困るのは“居るかもしれない”という、疑心暗鬼を催す場面だ。
俗にいうライバルではなかったが、色々と思い出深い使い手というのは、歴戦の忍者もまた遠い目をせざるを得ない。

「世が便利になれば、一層強くなりそうな欲求、望みだな。
 ……もう少し世が平らなら、旅もいいな。敢えて飛ばず、ヒトのように歩く旅だ」

空を飛ぶ鳥に、地を這い歩く獣の心地を伝えるのは、きっと難しい。
海を飛び渡れる竜に、旅という感覚を教えるには、もしかすると空の果ての果て、月まで飛ぶような旅が必要なのか。
同一ではなくとも、近しい感覚を覚えさせる、体験させるにはどのようなことが必要か。
ヒトのように旅するには、人のように歩いて旅をするのが、体験の早道だろう。
先日より通わせている学院でそういった体験、旅行の催しがあれば、なお良いが。

「この手の短刀は鎧通し、と言う。貫くことを主眼に置いた得物だな。
 物が切れない訳じゃないが、一番の得手は刺し貫くことにある。

 鎧を貫くために敢えて分厚く、そして細く仕立てた仕立ては頑丈でな。
 あのインゴットを使ったなら、効能も相まってもしかすると過剰なくらいかもしれんが……ン?」

刺し貫くことをメインに置いた武器とは、この辺りでは錐のような刀身をしたスティレットの類とコンセプトは似る。
刃はついていても、剃刀のように裂くというよりは押し切る用法になるだろうか。
その頑丈さは、城の石垣の隙間に突き立てて、石垣を上るという力業にも使える。荒く使える点では、忍者が使う武器にも適する。
説明書きに記された特殊な力、効能に眉をひそめていれば、弟子の反応に思わず首を傾げる。

どうした?と聞きながら、続く包みと箱を開けよう。
今度の包みと箱は己のものと弟子のもの、それぞれ。
一方の大きい包みは解くと、白銀色の胴鎧と手甲、そして箱は空けると――黒い帯状のチョーカーが出てくる。
一見するだけではいずれも素材も何も違うように思えるが、同じものだ。
触れると、嫌でもわかる。何の考えもなく氣を注ぐと、吸い上げてゆく特有の感覚が。

ラファル > 「うん、でも、その技術だけは、ちゃんと覚えておかないといけないね?」

 師匠が見破るのが大変だった、と言う回想を聴けば、それは技術としては有効だと言う事を、理解する。
 其れで自分を無くすのは問題外だが、精神も変わらずに変えて隠れるのは、忍ぶに良いのだろう、と。

 氣に関して、性質を変えて、精神を変えてしまえば、波長も変えられるようになるのだろう。
 分身を作り上げて動かすことを応用すれば、出来そうだ、と思うのである。
 訓練し置こう、とこっそり思う弟子だったのだ。

「安全に、それでもスリルを覚えたい、とか言いそうだね。
 走っても良いなら、行きたいなー?」

 足を使って、歩いての旅と言う物自体は嫌いではない。
 ただ、走り回ったり転げまわったりとか、色々と、遊びたいのである。
 空を飛ぶ事に関してもそうだけれど、風を受けるのが好きなのだと思う。
 歩いているのも良いけれど、と、少女は笑ってみる。
 師匠と一緒に冒険とか旅とか、好きだな、と。

「でも、この頑丈さなら……うん。鎧通し、突くなら、牙としての使用の方がいいかな。

 あ、うん、封護が文句言ったみたいなの。
 背筋が寒くなったの。」

 使用用途を考えれば、かみ砕くような、牙のような使い方が良いんだね、と頷いて見せる。
 問いかけには、もう一つ、脇差の方の異変に、幼女は説明した。
 そして、もう一つの袋を開く師匠。
 その中にある様々な防具、手甲に胴鎧。
 更には、銀色の首輪。

「あ、これ、ボクの首輪!」

 家だからいいが、外だと色々と大変な一言を。
 わーい、と嬉しそうに手にすれば、嬉々として首に嵌めていく。
 ちゃんと、幼女の弱点―――逆鱗を守り、防いでくれる防具としての、首輪。

影時 > 「今は、そーゆー使い手が居たと覚えとくだけでいい。
 嘘か真かは知らンが、自分の顔がわからなくなった――と言っていた。術頼みは、こういう面倒がある」

風貌はおろか、氣質もわざと変え、誤魔化して敵地に潜入し、諜報活動や暗殺に従事する。
幾度も戦場で遭遇した何者知れぬモノがその実、全く同一人物であったことを思い知るのは、初回の邂逅からかなり経過してからだった。
常ならざる、定まらぬものは、戻るべき姿を見失うのかどうかは、今更真偽を確かめられない。
だが、弁えて使えるなら有用性は皆無ではない技だろう。

「言いたげな奴らは居るだろうな……。
 走るなら、俺も追従はできるが……まァ、まずは歩く、だ。歩く。
 もっとも俺たちの場合、並の人間よりも速足になるコトは疑いねえが、歩いて旅をしてみろ。

 そのうえで、この国で食べられるものと同じものが旅先で在るかどうかを確かめて、在れば噛みしめてみると良い。
 きっと、食べなれたはずの味が違って感じられるだろう」

走る一点であれば、己も弟子には負けない。馬の早駆けにも追いついてみせよう。
しかし、旅はそうやって急ぐものではない筈だ。
何者にも急かされず、強要されず、噛みしめるような歩みという体験は、まだ幼い竜には難しいか。
この土地までに至る旅とは、最初は追っ手が居ても、最終的にはそのような歩みを重ねた旅であった。

「逆の手に持って、守りに使うのもいけるな。その際、前に借りたナイフを右手で持つといいだろう。
 って、片割れの方がか。……屠龍の方も何か嘯いてそうだなァ」

その把握で間違いない。
形状が違う短剣、短刀の併用というのは独特な使い方になるが、役割分担の意味でも形状違いはデメリットにはなるまい。
そう説きつつ、弟子の説明に思わず唸る。同時刻、封印の箱に納められている筈の太刀の方も何か震えていそうだ。
そんな予感を抱きつつ、品を改める。

魔骸鋼石なる材質を打ち延ばした帯状のものをチョーカー風に仕立てた首輪と白銀色の鎧手甲。
色ばかりは材質的にどうしようもなかったのか。
そう思いつつ、試しに手甲を付けて改めて気を流せば――、白銀色がみるみるうちに、鈍色に変わる。まるで使い手の氣質に染まったとばかりに。
弟子が手にする首輪もまた、同様に色が変わるだろう。銀色から黒色へと。

ラファル > 「あーいー。」

 顔を忘れてしまうというのは怖いねー。と、他人事。
 そう言う風になる事はないと思うのだけれども、師匠の言葉に、気を付けないといけないよね、と。
 余りそう言う事をするわけではないが、変身を繰り返して顔を忘れるのは良くないと思った。

「歩いていくのは、うん……爽快感が足りないのだけど。
 じゃあ、歩いて旅をするのは、やってみる。

 ふむふむ、うん、楽しんでみるんだ。
 歩いて、別の国で食べるんだね?」

 幼女としては、速度の爽快感よりも、食事に興味が引かれた模様。
 美味しくなるかも、な希望を胸に、同意をしてみせるのだ。
 お腹を空かせての食事は、とても、とてもおいしいと、思ったのだ、食い意地を張る幼女は、ジュルリ、と唾液を。

「うーん……それがいいかなぁ。
 切り裂き用のナイフを探すのもいいかもなぁ。
 封護を、思いっきり使っても良いなら兎も角なぁ。」

 と、考えながらも、封印されている紅い鞘の刀を触れる。
 本当に必要な時、必要な状況でなければ引き受けない刀だ。
 使えないのは、仕方がないのだ、これは、対竜/龍の刀なのだ、邪竜倒す為の刀故に。
 竜の属性を持つラファルは自由には引き抜けない、邪竜になってないかと判定されるからだ。
 なので、それで、使えないことを文句言って、色々と、不満を刀にぶつけられるのは心外だ。

 首に触れるチョーカー、装備をしたら黒くなっていた。
 魔力を、気を吸って、変わったのが判るし、馴染むのだった。
 確かめるように、何度も、チョーカーを撫でて、触れて、撫でて。確認して。

影時 > 【中断→次回継続】
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からラファルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から影時さんが去りました。