2022/05/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 伯爵邸」にアンヌさんが現れました。
■アンヌ > 「 ――――― 行ってらっしゃいまし、ジェラール… 」
様、と付けかけて、義弟の顰め面を認め、そっと微笑んで語尾を澱ませた。
気をつけて、と添えることで辛うじて誤魔化し、彼の乗る馬車が通りへ出て行くのを見送ると、
己は黒衣の裾を捌き、俯いて細い溜息を洩らす。
御茶でも、等と気遣いを示す老執事に軽く首を振り、昼なお薄暗いホールを横切って、
己が向かう先は二階の西端―――――かつての、夫婦の居室。
今は己一人が寝起きしている、寝台の広さが寒々しいばかりの部屋。
整えられたばかりの寝台への端へ浅く腰掛け、レースのカーテン越しに差し込む、
柔らかな陽光を疎むように双眸を細めて。
シーツの上に滑らせた左手、指先をたどたどしく滑らせて、
冷たくなめらかな感触の中に、なにかを、探り当てようとしていた。
主たる伯爵の居ない屋敷を、客人の訪う予定も無い。
このまま此処で己が寝入ってしまっても、誰も、咎める筈の無い午後だった。
■アンヌ > 陽光が差し込んでいる今も、何処か仄暗い部屋。
ノックの音がやけに、くぐもったものに聞こえる。
「 ……… 、なぁ、に 」
夢から覚めたような惚けた面持ち、顔を上げて瞬きを二度。
たっぷり間を空けて応えれば、躊躇いがちに。
来客を伝える侍女の声、告げられた名前に、少しばかり思案したのち。
「 わかりました、 ……今の時間なら、サンルームが良いわ。
青磁の茶器は使っては駄目よ、あれは、旦那様のお気に入りだから。
旦那様が御戻りになるまで、あれは、取っておいて頂戴 」
立ち上がり告げる言葉は、夫の留守を守る女主人然として。
しかし根底に大きな歪みを孕み、雇い入れて日の浅い侍女の背筋を悪寒が伝うだろう。
扉を開いたとき、彼女が表情を取り繕い切れていれば、
己がその悪寒に気づく筈も無く。
不意の来客を持て成す為、女主人は階下へ向かい――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 伯爵邸」からアンヌさんが去りました。