2022/04/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にヴァイオレットさんが現れました。
■ヴァイオレット > 「お黙りなさい! 良いから、もうついてこないで!」
一人で帰れます、と甲高い声で言い放ち、娘は長いドレスの裾を摘まんで、
華奢な靴の踵を鋭く鳴らして歩き始めた。
漆黒のドレス、ボンネット帽から下がる黒いレースのヴェール、
手袋も靴も黒で揃えた今日の装いは、母の墓参りのためのもの。
いつも通り馬車に乗って、母の墓前に花を供え――――
帰る段になって、従者と口論になった。
年長者であること、少しばかり父の覚えがめでたいことを鼻にかけたような、
その男の振る舞いは常々、娘の不興を招いていたから、
口論そのものは珍しくもなく。
娘が癇癪を起こしてこんな振る舞いをするのも、もう何度目か。
ついてくるな、と喚いたから、娘から一定の距離は保つだろうが、
きっと幾らか離れてついてくる、と、娘にも分かっている。
だから暗かろうと、人通りも絶えてうら寂しい界隈であろうと、
娘は靴を、自らの足を酷使して、気の済むまで怒りのままに、
カツカツと高い靴音を刻み続けるのだった。
■ヴァイオレット > ――――――数分、では未だ。
――――――――――――
しかし、十数分ほども経過した頃には、娘の脆弱な足が音を上げる。
裾を摘まんで持ちあげていた腕がだらりと垂れた、そのときに。
タイミング良く背後からかかる声に、娘はほっと息を吐く。
振り返った顔は未だ、怒っています、と主張していたが、
馬車へと促されるのを、今度は断らなかったという――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からヴァイオレットさんが去りました。