2022/02/04 のログ
サロメ >  
当時、王城の貴族達の間ではまったく評判の悪い…と言ってよいであろう第七師団に副将に抜擢され
真っ先に前師団長に連れて来られたのがこの店である
前師団長はそれはもう荒くれと見紛うほどの酒飲みだった
となれば、その頃まったく酒など知らなかった自分がそこでその後どうなったかは
──うむ。その時の記憶が確かなだけ、自分にも酒飲みの素質があったことがわかる

『随分経ったな』とマスターが笑う
どこか陰りのある笑みだったのは、今自分が独りで此処に来ているからだろう

「何もしなくても、何も起こらなくとも時間は過ぎるさ」

そして、何かをしようとすると…途端に足りなくなるもの
グラスを煽る。安酒だけあって後味が強烈に残るが、これもまた見方を変えればクセになる

「マスター」
「随分経った、その間。王都は平和だったか」

唐突な問いかけにマスターは怪訝な顔を浮かべるも『一応な』と答える
「そうか」と返事を受け取り、グラスを煽り飲み干す

「なら、何よりだ」

安酒は酔いが回るのも早い
少しくらい妙な話をしてみせたところで、酒のせいにできるだろう

サロメ >  
王都に魔族が侵攻したことは、ない
無論できない理由があることは知っている
しかしその理由があった上でも…人を害為す魔族の侵入は驚異足り得る
見かけ上の平和が守られているということは、想像以上に重要なこと
自分にとって大事な場所であるこの店と王都の平和が守られているなら、それだけでも僥倖と思える
自らの行いの結果が間違いでないことの証明など、安酒の味と同等でも十分なもの…

『もう一杯飲るかい』と尋ねるマスターを手で制する

「安酒ばかりじゃ儲けにならないだろう?」

堅苦しい鎧を脱ぎ去れば、身体だけなく口も少々軽くなる
この店にとっておきがあるのは承知していた
前団長が執務室の机にこっそり隠していたものと同じ一品…

「マスターも飲るといい」

「その一瓶で、私はその酒は最後にするよ」

献杯などというつもりもない
しかし心の踏ん切りはいずれつけなければならない
人は往々にしてそれを躊躇するもの、それは自分も例外でない
そんな時に酒の力を借りれるのが、大人の強みであり、弱さだ

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・酒場」にセリアスさんが現れました。
セリアス > 富裕地区にある酒場に、男女入り混じった5、6人の集団が賑やかに来店してくる。
とはいえ、酒場の客としては周囲に気を使っているほうで。
身なりも、それぞれ個性的ながら、仕立ての良いものを着けている。
その最後尾、黒尽くめの男が店内に入っては、店を見渡し、店主と、店主が珍しく丁寧に相手をしている女性を見つけて。

「一寸、ご挨拶してきますから、先に奥で始めておいてください」

一緒に来店した者にそう告げる。「またナンパですか」と揶揄う言葉を軽い手ぶりで追いやりながら、
団体用の個室へ向かう彼らとは違う、カウンターのほうへ歩き、マスターに会釈を。

そしていくらか距離を保った所で止まり、胸に手を当て、灰色の髪をたたえる女性へと、一礼を贈る。

「シュトラウス卿とお見受けいたします。
 第七師団のご躍進、御目出度く」

慇懃にも見える挨拶は、手向ける相手にのみよく聞こえるよう声量が絞られていて。

サロメ >  
マスターと歓談を交わしていると、賑々しい一団が来店する
繁盛もしているようで何よりだ、と思っている一人の男がやってくる

どうやら自分の姿と名を知るらしい男の一礼を受け、苦笑を浮かべながら

「今はオフだ。堅苦しい挨拶は不要で構わない。
 …で、どちら様かな。面識があったかどうか、覚えていないな」

グラスを置き、身体ごと視線をそちらに向けてそう答える
その姿を視界に捉え、直感的に何かを感じるも…今は酒が入っている
場所も場所、あえて口にするまいと相手の言葉を待っていた

セリアス > 挨拶に言葉を返されれば、ゆっくりと背を起こして。
彼女の探るような言葉に笑みを深めれば、いえいえ、と。
彼女が思い出さなければいけないような間柄ではないことを、首を振って伝え

「セリアス・ストリングスと申します。此方よりも少々騒がしい場所で、店を構えさせていただいておりまして。
 卿のことは遠巻きに。そぅ、遠巻きにだけ、お見掛けしたことがある程度です。
 部下の皆さまのほぅでしたら、いくらかお付き合いのある方もいらっしゃいますが」

名を伝えながら、彼女の立場に、直接関わるような所にいたことはないと。
含めるような物言いで告げて。

ちらりと、連れ合い達の進んだ方向へ視線を向けるも、直ぐに眼前の女性へ戻す。
ちらりと、カウンター席の隣へ視線を流すも、相手の反応を待ってか、距離を保ったままで。

サロメ >  
王都に店を構えているとあれば、なるほど
師団の者と付き合いがあるというのもそういった了見だろうと察しがつく

「そうか。では覚えておくよ、セリアス殿。
 ん…ストリングスというと…ストリングス商会の?」

確か、王都で幅広く商いを行っている商会の名がそうだった
名が示すとおりならこの男が元締めなのだろうか
先に抱いた小さな懸念もあるが、そこまで悪い噂などは聞いたことのない商会だった
今は置いておこうと思案していると、隣の席に視線が泳いでいることに気づく

「…ああ、席は構わず。今日は私は唯の飲み客だ。…しかし連れがいるのでは?」

少しだけ怪訝に、そう問い返す

セリアス > どうやら、此方の商会の名を聞き及んでいるらしい反応に、何処か嬉しそうに笑みを深める。
男の胡散臭さはともかく、ストリングス商会自体は、少なくとも表面上、そう阿漕な商いはしていない。
もし聞こえてくるならば店主に変わった趣味があるといういかがわしい噂くらいか。

社交辞令かもしれないが、隣の席も連れ待ちでないらしい言葉に、遠慮もなく其処へと腰掛けて

「ご存じ頂けていたならば、望外のことですねぇ。
 私のような木っ端商人では、なかなか立場のある方とご縁もないもので。
 連れも解ってくれますとも。……それに、御礼もやはり、申し上げたいものでしょう?
 日々を安らかに過ごせるのも、卿をはじめ、獣を追い返してくださる皆様の御蔭ですから」

その立場のある方は、お前とは違って簡単に時間は取れないのだとばかり、
先ほどまで彼女と歓談を交えていたマスターは乱暴にセリアスの眼前に彼がよく飲むエールを置いた。

文句を言いたげにも馴染みの酒を出す、こういうところがこの店の良いところ。
機嫌よさげに礼を言えば、赤い瞳を細めて、隣を見やり、エールを掲げる。
小さく、「王国の剣に」と、杯を乾す前の口上を呟いた。

サロメ >  
仰々しい乾杯の向上に苦笑しつつも、グラスを小さく掲げる
どこまで行っても、自分そういった立場の人間なのだと思い知るばかりではあった、が

「礼など。我々もそれで給料をもらっているんだからな。
 国を守る一人ひとりに礼を言っていてはキリがない」

小さくグラスを煽り、一息を吐いて

「こうやって王都の住人達が壮健に暮らしている姿が何よりの褒美だ」

幸いなのか、はたまた。商会主の変わった趣味の噂などは耳に入っていなかった
働いた直感の、一抹の疑念
男に対して魔族に近い何かを感じたことも、話を聞く上で街の住人として無害であるならばと
そのまま酒に流し忘れることにしたようだった

「何より、木っ端などと。物流は王都ならずとも街の生命線
 一翼を担う商会主ともなれば私などよりもずっと住民にとっては貢献してくれているさ」

グラスを置き、黄金色の視線を男へと向ける

セリアス > 彼女の言葉はどれもこれも、少年少女の読む物語に出てくる騎士の言葉そのもので。
黄昏の色を称えた瞳が向けられれば、男もグラスを置き、幾らか背筋を伸ばすようにしながら。

「貢献などと。私は売って儲かる、お客様は良いものを手にして嬉しい。
 双方好しは商売の根幹ですとも。
 しかし、第七師団は随分と様変わりしたようお見受けしますねぇ。
 随分と、まぁ、その。……清廉に、ええ。」

言葉尻を濁していたわりに、結局語彙から碌な表現が拾えなかったのだろう。
しぶしぶといった様子で、清廉と、彼女の師団を表する。
以前の師団はそれこそ、遠巻きに見るほうがというような集まりで。
だからこその第七師団であったとも、だからこその顛末であるとも聞き及んでいる。

其処に立ち続ける女将軍の姿は、聞くよりも、嘗て遠巻きに見ていた印象よりも
ずっとありふれた、人間の姿に見えて。

「……お疲れに、なりませんか?」

気遣うというより、探るような声色で。ついつい、男の悪い虫が出てしまう。
眼前の、同族が恐れる灰獅子の、心の内は、如何様かと。

サロメ >  
「ははは、清廉か」

それはどうだろうな、と再びグラスを煽る
しかし、王都の住人やその端々からそう見られているのならば、目論見としては成功といえるのだろう
何しろ以前の第七師団は……

「荒くれ、ゴロツキでも使えれば使う。
 義がなくば王族にも噛みつきかねない狂犬じみた飼い犬」

「そんなかつての第七師団の印象を払拭するには時間も掛かるし、当然疲れるものは疲れるが──」

王族を敵に回さないその報酬はでかい、と打算抜きの言葉は流石に飲み込んで

「何、爪牙を見せてばかりでは論が全うでも警戒されるのが世の常だ。
 先代の時と姿形こそ変わったが、中身から獰猛さを奪ったつもりもない。要は緩急さ、こうやって酒も楽しめているしな」

飲み終えたグラスを置いて、深く息を吐く

「随分口も軽くなった。街の住人には第七師団は清廉な師団に生まれ変わったと是非吹聴しておいてくれ」

くすりと小さな笑みを浮かべ、そう宣う様子は
決して生半には喰えない新生第七師団長としてのそれだったが
おっと今日はオフだったとすぐに小さく肩を竦め、瞑目した澄まし顔へと戻るのだった

セリアス > 想像よりも、饒舌に。
語られた言葉には、全てを乗せたわけではなくても、ことさらに偽りを乗せたようには聞こえなかった。
男は彼女の言葉を聞きながら、数度それを腹入りさせるよう、頷いて。

「成る程、なるほど。好いですね。緩急。緩急、ですか」

かみ砕くように彼女の言葉を繰り返して。にっこりと、わざとらしいほどに深く笑んで見せれば、
音もなく立ち上がり、最初にそうしたように胸元に手を添えてから、彼女の澄ました顔を見詰める。

「お言葉通り、第七師団のことはしっかりと、周囲には伝えておくことにいたしますよ。
 清廉で、気高く……その立ち振る舞いが与しやすいモノと思っていると、痛い目に遭いますよ、とね」

笑みを湛えたまま、ゆっくりと告げる。それは自身に言い聞かせているようでもあって。
そして緩やかに会釈を送れば「ご用命あればいつでもどうぞ」と、
商人の常套句を告げて、連れの待つ席へと向かって行った。

後は個室のほうから、陽気な声がわずかに聞こえてくるだろう。

今宵の得難い縁に笑みを絶やさないまま、男は夜を過ごしていった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・酒場」からセリアスさんが去りました。
サロメ >  
「ご用命あれば、か」

カウンターに頬杖をつき、男の背中を見送った
商人らしい、どこか喰えない最後の言葉…

「さすがに酔いが周りすぎたか」

今日は口も軽くなりすぎた
このへんにしておくよとマスターに告げ、ゴルドの詰まった袋をカウンターに置いて立ち上がる

随分多いなと苦笑するマスターに、過去の師団の団員達のツケ分だと笑って返せば、
小気味良いドアベルの音を背中に、心地よい夜風の舞う夜の王都へと歩み去っていった

ご案内:「王都マグメール 富裕地区・酒場」からサロメさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にイズナさんが現れました。
イズナ > 主人がさる貴族男性からプレゼントで送られた猫がいる
自分にはよく判らないし、然程、興味もないのだが希少な種の猫らしく
今夜、その猫が見当たらなくなり充てがわれた主人の屋敷はちょっとした騒ぎになった
…ちなみに、主人はどうやら猫アレルギーであるらしい
家人というのは大変なもので、主が探してきてちょうだい、と言えば探しに行かねばならず、
他の家人たちにもそれぞれ仕事があるものだから、一番、暇そうな下っ端が、
こうして街中探し回らねばならないのである

放っておけば餌欲しさに帰ってきますよ、主人に進言したが心配で眠れないの、お願いと科を作って
悲しげな顔で言うものだから、チッと態とらしく舌打ちをしてやり、渋々といった様子で屋敷を出たのである

さてさて、広い街区を1人探すのは困難であったから、夜目の利く妖鳥であったりとか、
鼻の利く毛むくじゃらの小さな妖であったりを呼び出し、そこいら探しまわり、
すっかり身体が冷え切る頃にようやくその姿を見つけたのである
どこぞの貴族の家の前の陰、夜風の当たらぬ所でコロコロと寝転がっていた、
件の猫をひょい、と抱き上げて膝に乗せれば、背中を撫でながらその場に腰を下ろす
主人はアレルギーで近づこうともしないし、他の家人たちも忙しくしているから、
いつの間にかこの猫の世話係を担っているのである

「…どうします?帰りますか…?
 帰りたくないなら、主人には適当に言っておきますけれど…」

たっぷりと肥えた猫が膝の上でぽけ―っとするばかり、話しかけても一鳴きする位
如何に元はイタチであっても猫との意思疎通は難しいものであった
自分の師であったれば、それも可能なのかもしれないけれどその術を伝授されることはなかった

「帰れば食べるに困らず、寒さに凍えることはないですけどねえ…
 しかし、屋敷から出ることは叶わず友達と遊ぶこともできませんから…痛し痒しですねえ…」

なでなで、と背中の長い毛を撫でてやれば返事でもするように猫は一鳴きする
暖かな膝の上は満更でもないらしい

イズナ > 冷たい風にすん、と鼻を鳴らすと膝の上の猫を抱き直して立ち上がる

「一先ず、今晩は帰りましょうか…
 本気で出て行きたくなったら教えて下さいよ…騒ぎにならないよう、手を打ちますから」

身体も冷えて来たことだし、主人は至極、どうだって良いが家人たちに心配をかけたくない
遥々シェンヤンから王都まで同道してきた仕事仲間たちである、家族とまでは言わないけれどそれなりの愛着もある
立ち上がって屋敷に向かって歩き始めると、腕の中の猫が前足でぺちぺちぺちと顔に触れてくる

「何を言っても今更遅いです…今日の所は聞き分けてください
 帰れば温かい寝床があるんですから良いじゃないですか…
 怖いですよ、野良の連中は。眼がギラギラしてますし、貴方なんかイチコロ、
 囲まれてすぐにいじめられちゃいますよ、きっと」

歩きながら猫のよく良い含めていく。効果があるとは思わないし、返事をしてくれるとは思わないけれど
こうして逃げ出した猫を捕まえて屋敷に帰っていくのである

屋敷に帰り着けば、主人に報告に言ったが、既に寝室で横になっており、
部屋の中から聞こえる『もう眠いから明日にして頂戴』という声に深く、深く溜息をつくのであった――――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からイズナさんが去りました。