2021/10/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 美術館」にロイスさんが現れました。
■ロイス > 冒険者、というのは勿論冒険をするものである。
しかしながら、必ずしも冒険をするための秘境や遺跡が見つかる訳もなく、よってときに冒険者は便利屋の真似事をして生活することになる。
そして、ベテラン冒険者であるロイスも、それは例外ではない。
そんな訳で、今日の仕事は美術館のとある展示会の警備なのだが……
「(目のやりどころに……困る!)」
ロイスが担当する場所は、よりにもよって裸婦画が展示してあるエリアだったのだ。
それも、少女から大人の女性まで、幅広い年齢層の女性が、芸術的に――しかし何処か扇情的に描かれた、芸術性とある種の実用性を兼ね備えたもの。
なまじ、芸術として美しい分、露骨に目を反らすのも不自然であり、そもそも警備員の仕事としては全体に目を行き届かせねばならない故に、どうしてもその絵が視界に入ってきてしまうのである。
「(これなら、いっそ娼館の方が気が楽じゃないか……!)」
などと思うが、しかし仕事の内容にケチをつける訳にもいかない。
男は、ともかく早く終われと思いながら、時間が経つのを待っている
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 美術館」からロイスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエリカさんが現れました。
■エリカ > 「いーいーの! いいから、ねえやは先に帰ってて!」
ぷんすか、という擬音が背後に躍りそうなふくれっ面で、
家紋入りの黒塗りの馬車から行儀悪く飛び降り、おろおろした顔の侍女を睨んで、
ぴっと立てた人差し指で命令を下し、少女はドレスの裾を翻して歩き始めた。
背後から声が追い縋ってくるのを振り切るよう、あちらの角、こちらの角とめちゃくちゃに曲がり、
閑静な住宅街の片隅で、ほとんど自発的な迷子同然になっていても、
少女自身はまだ、そのことに気づいていなかった。
「なによ、なによぉ……どうせねえやだって、今夜は殿方とお約束なんだわ。
心配するふりなんかしちゃって、しらじらしいったら……」
ほんの数歳しか違わないけれど、侍女はもう、大人の女性としての交友関係を持っている。
そのことが悔しくて、いつまで経っても夜会のたぐいには呼ばれない、
自分自身の境遇が切なくて―――――意地を張って、夜の一人歩きを敢行したのだった。
富裕層が暮らす界隈とはいえ、まったく安全、とはいいきれない。
むしろ何かあった場合、闇から闇へ葬られる確率は、もっとも高そうな気もするけれど、
そんなこと、この頭の残念な少女が知るはずもなかった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にトーラスさんが現れました。
■トーラス > パトロン的な付き合いのある貴族からの指名依頼にて、
決して表には出せない真っ当ではない仕事を果たした帰り道。
冒険者歴の長い男にも、多少なりとも、良心の呵責めいたものを感じる事があるのか、
腹の底に陰鬱などす黒い感情を澱ませて、俯きながらに富裕地区を独り歩く。
碌に前方を確認しない儘の歩行は、近付いてくる人影に気付く事もなく、
行き交う少女とのすれ違いざまに肩と肩がぶつかり合う羽目となり、
「ッ、――――痛ってぇな。おい、何処に目を付けてやがるっ?」
前方不注意は寧ろ、少女よりも、彼の方に責任があるにも関わらず、
巻き込まれた相手に対して双眸を吊り上げると怒声を浴びせ掛ける。
そもそも、肩が触れた程度で痛みなど存在する筈もなく、完全に八つ当たりの上の言い掛かり。
声を上げてから、相手を振り返れば、漸く喰って掛かった相手の容貌をまじまじと眺め。
■エリカ > 「きゃ―――――…!」
ぷんぷん怒りながらのひとり歩き、前方不注意はこちらも大差ない。
けれど互いの体格の差から、ぶつかったのは男の肩と、少女の頭、というより帽子。
ぐらりと傾いで、ついでに体まで大きくバランスを崩しかけながら、
ずり落ちそうになる帽子を、慌てて両手で押さえ。
「そ……そちらこそ、ちゃんと、前を見て歩くべきですの…!」
大柄な男性の恫喝に、一瞬、ひるみはしたものの。
苛立ちならばこちらも負けてはいないとばかり、真っ赤な顔で言い返し、
こちらをじっと見つめる眼差しに気づくと、眉間に似合わぬ縦皺を寄せて。
「な、なんですの、……レディを、じろじろ見るのは、マナー違反ですの、よ?」
すこし遅れて、相手を怖い、と思い始めた。
ぎゅ、と、両手が顔の横あたりで、帽子のつばを握り締める。
■トーラス > 「なんだと、この……、」
貧民地区や平民地区では見掛ける事の少ない仕立ての良い衣服は、
彼女がこの富裕地区に住まう貴人の娘である証拠であろう。
だが、周囲に目配らせをしてみても、本来ならば連れ立っている筈の、
お付きやら護衛の姿は何処にも見当たらず、彼女一人である事が窺い知れる。
そうでもなければ、彼のような者が突っ掛かってきた際に、
止めに入るような者が即座に駆け付けてきても可笑しくはない。
「レディ、…レディ、ねぇ。確かに身体はレディのようだ。
――――こっちに来い。お前に本当のマナーってもんを教えてやるよ」
顔を真っ赤にさせて言い返してくる彼女の貌はあどけなさが残る童顔。
だが、その貌に似合わぬ身体の肉付きに口端を吊り上げ、頬肉を緩めると、
片手を伸ばして、彼女の腕を掴んでしまおうとして。
相手が咄嗟に逃げ出さずに、捕まえられてしまうならば、
其の侭、人気の少ない路地の奥へと二人の姿は消えていき――――。
■エリカ > 暗い夜道、帽子のかげから見あげる角度。
相手の顔のあたりは黒々と影が濃くなっていて、
それが、我に返ってみればいっそう、相手を恐ろしいものと感じさせるよう。
ほんのすこし、ざり、と、少女の靴が後ずさりをした。
「な、なん、――――――…や、っ、なに、なにしますの、っ…!」
けれど、男の動きの方が、残念ながらずっと素早かった。
腕を掴まれただけで、小柄な少女の体はあっさり引き寄せられ、
勢いあまってぼすりと、男の懐へ頭を埋めてしまうほど。
もちろん、少女は抵抗する、声を上げてひとを呼ぼうとする。
しかし、どれだけ抗っても男の力に敵うものではないだろうし、
救いとなるべき家人は先刻、少女自身が撒いてしまった後だった。
きっと必死に探してくれているだろうけれど、間に合うはずもなく――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からエリカさんが去りました。